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春野菜の効能について

女子栄養大学栄養クリニック
准教授 蒲池 桂子


要約】

 春の野菜に多く含まれるビタミン類は代謝の促進、疲労回復などに効果があり、苦味成分は肝臓の働きを助け、解毒作用がある。「たまねぎ」には疲労回復や風邪の予防、血管の老化を防ぐ効果があり、「さやえんどう」は調理によるビタミンCの損失が少ないことから、果物以外からビタミンCを摂取するのに効果的である。また、「グリーンピース」に含まれているグルタミン酸は、料理の旨味を引き出すのに効果があり、数少ない日本原産野菜の「ふき」の茎は繊維質が多いことから便秘に効果的である。

はじめに

 春の野菜は、ビタミンA(カロテン)、ビタミンB群、ビタミンC、苦み成分などを含むものが多いのが特徴です。体内の代謝を高めるために使われる補酵素をたくさん含んでいます。また、春の強風でほこりが舞う中でアレルギー、花粉症、眼の炎症を起こしやすい季節ですが、こういった体を覆う粘膜を強化するためにも、これらビタミン「A」「B」「C」トリオが活躍してくれます。また苦み成分は、サポニン、タンニン、アルカロイドなどで、少量であれば、体にとっては肝臓の働きを活発にして解毒作用につながります。

◇たまねぎ

 原産地は、中央アジアのアフガニスタンやイランまたは西アジアと言われています。エジプトやヨーロッパでは、紀元前から栽培されており、日本における栽培は明治4年以降といわれています。白たまねぎ、赤たまねぎ、小型種に分かれるなど、品種は多岐にわたります。たまねぎを刻むと涙が出るのは、たまねぎに含まれている刺激成分のアリシンと言われる硫化アリルが原因です。ビタミンB1の吸収を助け、疲労回復に効果を発揮します。また、強い殺菌作用があるために風邪の予防、サルモネラ菌、ヘリコバクターピロリ菌の抑制にも効果が認められています。その他にもコレステロールの増加抑制、発汗作用などに役立ちます。さらに、硫化アリルは加熱するとプロピルメカルカプタンという甘み成分に変化します。このプロピルメカルカプタンは、血糖値のコントロールや抗酸化作用による血管内脂質の酸化防止に役立ち、さらには抗がん作用があるとされています。また、たまねぎの皮に含まれる黄色の色素には、ケルセチンといわれる抗酸化作用の物質が含まれていて、この成分も血管を弾力性のあるものに保つ働きがあり、動脈硬化を抑制します。この他にも肝臓の解毒を助けるグルタチオンなども含まれています。古くから、風邪薬、下痢止め、血流改善剤、鎮静剤、せきやたんを抑える効果があるといわれてきました。
 たまねぎは品種が多く、食べ方もさまざまです。早生たまねぎとして出回る春のたまねぎは、生で食べても辛味が少なく、サラダなどにも利用できます。野菜の中でもたまねぎは、特にグルタミン酸を多く含み、料理の旨味を引き出すのに役立ちます。たまねぎのサラダに肉や魚などを入れると旨味が増しておいしくなります。カツオのたたきにスライスした新たまねぎをのせて召し上がってみてください。旨味はひとしおです。また、サーモンにスライスした新たまねぎとしらすを一緒に加え、レモン汁とはちみつ、焼きしいたけもしくは生マッシュルーム、少量の酒か白ワインを加えたマリネ風サラダなども旨味が増しておいしい一品です。
 赤いたまねぎは、生食用としてあまり辛くない品種が出回っています。こちらは、スライスして薄めの甘酢(砂糖または、はちみつ1、酢2から3、水1の割合に塩を少々加える)に漬け、作り置きをしておくと鮮やかな赤色になります。これはブルーベリーなどと同じアントシアニンの色素によるもので、視力をよくする効果が期待できます。付け合わせやカレーなどの箸休めにも利用でき大変便利です。
 たまねぎは、炒めてよし、みそ汁などの具材として煮ても効果は持続し、むしろ甘みが増しておいしくなります。毎日食べて代謝を良くし、血管の老化防止などに役立てたいものです。
 また、たくさん食べるとその後に残る口臭や腸で発生するガスが気になるという方は、ヨーグルトやパセリ、乳酸菌飲料、レモン、リンゴなどと一緒に食べると、胃の粘膜に反応して口臭を和らげ、ガスの臭いも抑えることができますので、サラダやカレーなどの煮込み料理には、こういった食材を取り入れておくと良いです。

◇さやえんどう

 中央アジアや中近東が原産地で、日本では江戸時代から栽培されるようになりました。えんどう豆の早採り品です。資料1に示したように同じえんどう豆とはいえ、生育途中のどの時期に収穫して食べるかによって、名前や味、形、色まで異なるのがえんどう豆のおもしろいところです。豆苗は、えんどう豆の若い茎葉に当たり、また、スナップえんどうは、グリーンピースをさやごと食べられるように改良されたものです。さやえんどうは、グリーンピースのように実がしっかりしたものと比べると、エネルギーが低い分糖質などの甘みのある成分はあまり含まれていませんが、その分ビタミンCが100グラム中に60ミリグラム含まれています。これは、みかん100グラム中35ミリグラムの2倍ほどで、ほぼいちごの62ミリグラムと同じ程度含まれています。料理によるビタミンCの損失も少ないため、果物以外からビタミンCを摂取することができる食材として有効です。花粉症や風邪などで粘膜を痛めることの多い時期に、粘膜の炎症を予防します。その他、ビタミンCは、体内でのコラーゲンの生成にも使われ、シミやそばかすを防ぎます。発がん性物質のニトロソアミンの生成を抑える効果もあり、ハムやソーセージなどと合わせて調理することで発がん性物質の生成を抑えます。もちろん、緑色であることからカロテンも多く含まれており、緑黄色野菜に分類されます。豆の部分には、ビタミンB1、B2が含まれていることから、代謝の促進、疲労回復に効果があります。特に、にんにくと一緒に炒めると、にんにくに含まれるアリシンと結合することによりビタミンB1の効果が持続します。また、必須アミノ酸のリジンが多く含まれるために代謝を促進する効果もあります。時間がないときに副菜や付け合わせとしてすぐに利用できることから、春から初夏にかけていつも冷蔵庫の中には入れておきたい野菜の一つです。

◇グリーンピース

 グリーンピースは、さやえんどうの豆の完熟する前の状態(未熟果)です。資料1に示したように、さやの部分も一緒に食べる「さやえんどう」と、豆として成熟した「えんどう豆」の中間に位置しますが、ビタミンB1、B2、C、亜鉛の含有量は、さやえんどうやえんどう豆よりも多くなっています。ビタミンB1は、イライラを解消し、肩こりや疲れを取り除くのに効果があり、亜鉛は、発育、二次成長、味覚などに関係し、不足すると前立腺の異常、生理不順、脱毛、爪の変形、味覚異常などの症状が出てきます。カキ、エビ、カニ、ブタやウシの肝臓(レバー)、チーズ、小麦胚芽などにも亜鉛が含まれているので、グリーンピースをゆでたものとチーズを食パンの上にのせて、そのままトーストしたものを朝食にするだけでも、グリーンピースに含まれるさまざまな栄養素が体調を整えてくれます。また、グリーンピースは、グルタミン酸を多く含むことから、料理に加えることで、料理自体の旨味を引き出し、だしがおいしくなります。鮮やかな緑色も、加熱してしばらくは変色しないことから、料理をおいしく演出します。また、春の味覚として、ぜひ召し上がっていただきたいのがグリーンピースご飯です。材料と分量は、米2合に対してグリーンピース200グラム、塩小さじ1杯、酒大さじ1杯、5センチ程度に切った昆布です。炊飯器が途中で開けられないものであれば、はじめからグリーンピースを入れても構いませんが、色が変色することから、できれば全体が沸騰したところで加え、その後20分ほどグリーンピースに火が通るように炊きあげ、蒸らしておくと色が冴えたままの状態が保てます。また、あらかじめゆでたグリーンピースを炊きあがったごはんに加えるのもよいでしょう。グリーンピースに含まれるビタミンCは、加熱しても壊れにくいため、ビタミンCの補給ができます。
 また、漢方では、むくみ、食欲不振、嘔吐、下痢止めなどに効果があるといわれ、食物繊維も多く含まれており、解毒作用もあることからお肌の吹き出物にも効果が期待できます。

◇ふき

 わが国に自生する日本古来の野菜として最も古いものです。キク科の多年生宿根植物で全国に自生しています。野菜として市場に出回っているふきの中では、尾張ふき(愛知早生ふき)が日本全体で約60パーセントを占めています。また、関西では、水ふき(京ふき)などが栽培されています。その他秋田ふきは、丈が1.5から2メートルにもなり、茎の中に山菜などを入れた鉄砲漬けや砂糖漬けなどの加工品として利用されることが多いようです。
 一方、春3月から4月にかけて出荷されるふきのとうは、ふきの花のつぼみです。ふきのとうには、ケルセチン、アルカロイドなどの薬効成分が含まれ、解毒作用の効能があるとされています。また、資料2に示した通り、ふきに比べて亜鉛などが多く含まれています。亜鉛は成長に必要なさまざまな酵素の原料となり、若芽の方に多く含まれているようです。また、カロテンも多く、天ぷらなどの油料理で食べるとカロテンの吸収を助けます。さらに体内のタンパク質や脂肪代謝を正常にする働きもあり、せきを和らげる薬効があるともいわれ、古来より季節の変わり目で体が変調をきたした時やたんきりや胃もたれ、せき、風邪などの予防、緩和に食べられてきました。
 ふきの茎と葉は、繊維質が多いので便秘にも効果があります。また生の葉を火であぶり、湿布すると打ち身やねんざによいとされます。ふきにもふきのとうと同様に独特のほろ苦さや香りがありますが、これが胃のもたれ、食欲不振を解消し、便秘を予防するといわています。また、ふきのとうと同様にたんやせきを鎮め、ぜんそくや気管支炎に効果があるともいわれています。
 ふき料理の下ごしらえの方法を紹介します。ふきをゆでる前にまな板の上に葉の部分を取り除いたもの用意し、20センチ程度に切りそろえて並べ、そこにたっぷり塩をまぶして手でごろごろ転がし板ずりをします。鍋に水を入れて沸騰させたところに板ずりしたふきを入れて再沸騰させた後4分程度で固さを見て取り出し、水にとり、根元の方から一気に周りの筋をはがします。その後しばらく水に浸けておくと灰汁が抜けます。こうして下処理をしたふきは、含め煮のほかにも酢みそでおひたしとして食べてもおいしいです。
 ふきはハウス栽培も行われているので、ほぼ年間を通じて手に入りますが、春から初夏にかけては、体の不調を改善するのに大変有効な旬の野菜です。ぜひ春の食卓にお弁当にご利用いただくとよいと思います。
 一方、ふきのとうは、てんぷらやふきみそなどにするとおいしく召し上がれます。ふきみそは、ふきのとう4つを油で素揚げにした後、それをみじん切りにして、みそ大さじ6杯、砂糖大さじ3杯、酒大さじ3杯を鍋に入れて弱火でよく練ります。最後にみりんを大さじ3杯入れて、さらに練り、固さを見て火を止めます。ご飯や焼きおにぎりに添えたり、おやきや小麦粉まんじゅうなどのあんにしてもおいしく召し上がれます。

資料2 ふきとふきのとうに含まれる亜鉛の比較

◇おわりに

 以上、4つの春の野菜を取り上げてみました。春は新年度に切り替わる時期でもあり、新しい職場や人間関係に慣れないと必要以上に気を使い、緊張することも多いと思います。そんなストレスもこれら旬の野菜をはじめ春においしいお料理をみんなで食卓を囲んで楽しいお話をしながら食べると気分も整い、ストレス解消、消化吸収や代謝もよくなり、この春を乗り越えられると思います。健康づくりに春野菜をどうぞお試しください。


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