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農山村資源を活用した農業の産業化システムの提案

八尋産業株式会社
代表取締役 大矢 正昭


要約】

 農産物を年間を通じて供給したい、廃棄処分される農産物を有効活用したいとの思いにより開発したのが「減圧平衡発熱乾燥法」である。
 この方法により野菜などの農産物の長期保存、規格外品などの有効活用が可能となったほか、産地では生産者の所得向上や生産意欲の向上につながった。
 この「減圧平衡発熱乾燥法」を利用した「農商工連携」による取り組みを全国に広め、食料自給率の向上、地域の雇用対策、安全・安心な食品の提供などに役立てるとともに、世界から食の無駄をなくしたい。

1.年間を通じた農産物供給の仕組み作り

 昭和54年5月27日、愛知県で開催された第30回全国植樹祭において筆者は、出席された昭和天皇にしいたけを献上するという栄誉を受けた。
 当時のしいたけ栽培は、原木による自然栽培が主流であったが、端境期をなくし、年間を通じて安定したしいたけの供給を実現するために「施設栽培」や「冬眠保存法」の研究を行っていた筆者に白羽の矢が立ったというわけである。

(年間を通じた栽培システムの確立)

 農林産物は基本的に年に一度の収穫であり、その出来は気象条件に左右されやすく、収穫量は不安定である。当時筆者は、しいたけなどのキノコ類の栽培において、気象条件の影響をあまり受けない栽培方法の研究に没頭し、試行錯誤を繰り返した結果、産業廃棄物として豆腐工場から大量に排出される「おから」と「もみ殻」を組み合わせた「キノコ栽培システム」を完成させた。

キノコの栽培

(減圧平衡発熱乾燥法の開発)

 一方、その頃水田では、国の減反政策により、米からほかの作物への転換が奨励されていた。減反の対象となった水田に、キノコ収穫後の廃培地を残存したキノコ菌により発酵させて作った有機堆肥を施用し、転換作物としてモロヘイヤの栽培普及に努めた。モロヘイヤは、「王様の野菜」ともいわれ、栄養価が極めて高い野菜であるが、収穫は夏季のみである。そこで、夏季の市場出荷に加え、保存して年間を通じて安定供給することを目的に開発したのが「減圧平衡発熱乾燥法」である。

モロヘイヤのほ場

モロヘイヤの葉

(減圧平衡発熱乾燥法とは)

 「減圧平衡発熱乾燥法」は、減圧ファンによって庫内の気圧を下げ、30~40度の低温で野菜に含まれている水分を蒸発させるシステムである。気圧が低い高山では水が早く沸騰するように、気圧が下がれば水分が蒸発しやすくなる原理を利用している。この原理を応用して装置庫内の気圧、温度、湿度を平衡状態に最適化し、野菜を乾燥させているのである。この方法によれば、色調は変わらず、栄養価は濃縮され、低温のため乾燥にかかるコストが安価で済むことから、一次原料の保存に最適である。これによりモロヘイヤを乾燥させ、粉末加工した「乾燥野菜粉末」を商品化することができた。
 これまでにキノコをはじめ、幾多の野菜を商品化してきたが、開発当初は「乾燥野菜」や「乾燥野菜粉末」の市場規模は小さく、マーケットの開拓および構築に20数年を要し今日に至った。

(乾燥野菜粉末の有効性)

 日本人はもともと農耕民族であり、米と野菜を中心とした食文化を形成してきたが、戦後、パンや動物性食品の摂取量が増加した。特にファーストフードに慣れ親しんだ子供達の野菜嫌いは顕著で、にんじん、しいたけ、ピーマンは「3嫌の野菜」ともいわれてきた。
 健康な体を維持するためには、植物性食品と動物性食品をバランスよくとることはいうまでもないが、このように野菜嫌いな消費者が無理なく野菜を摂取するひとつの手段として、「乾燥野菜粉末」を食材の主原料に2~3パーセント加えることによって、無添加加工食品としておいしく栄養補給ができる。最近では、このような「乾燥野菜粉末」の利用価値が認知されているところである。

乾燥野菜粉末

2.「農産物生産協議会」による原料生産

 扶桑の国日本は、四方を海に囲まれ、豊かな森林資源は良質な水を生み、四季を通じて豊かな農林水産物が育まれている。しかし、農林水産物には流通段階で厳しい出荷規格がある。生産者が丹精込めて栽培したものでも市場に出荷できない規格外の農産物が、物によっては収穫量の40~60パーセントもあるともいわれ、廃棄されるものも年間に250~300万トンにもおよぶのではとの話も聞かれる。もったいない話である。

(農家との連携)

 一方、わが国の産業は、企業の99パーセントは中小企業が占めており、農家の70パーセント以上は兼業農家が占めている。特に中山間地では、農業所得だけでは生活が成り立たない3反程度の兼業農家が多く、自家消費分の農産物生産中心の農業が営まれており、生産者の高齢化と相まって、耕作放棄地や休耕田は増加傾向にある。
 弊社では、平成20年7月21日に施行された「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」による国から事業者の認定を受け、美濃加茂市を中心とする1市3町村に「農産物生産協議会」を設立し、兼業農家を中心に「乾燥野菜」などの加工品の原料となる農産物の栽培普及活動を展開している。
 農家1戸当たりの栽培面積は小さいものの、会員数を増やし、耕作放棄地を活用するなどして栽培面積を拡大すれば、量産は可能である。
 この取り組みの成果として、生産者の栽培意欲は向上し、会員数は増え、耕作放棄地を有効活用するようになるなど、「農産物生産協議会」を核として地域の活性化が芽生えてきた。これら取り組みを行っている生産者は60歳以上の方が多いが、今後は就職難に直面している若者の参加にも期待している。

(農業の衰退とビジネスチャンス)

 わが国の農業が衰退する要因の中には、①零細な兼業農家では、規格品の農協出荷に見合う量の確保は困難であり、売り場もないこと②自家用消費が中心となり、耕作放棄地は増加傾向にあること③鳥獣被害により農家の生産意欲が減退していること、などがあると考えられる。すなわち儲からないということである。それでは、儲かる農業にするにはどうしたらよいかを考える。
 筆者は26年前にある雑誌で「農山村資源を活用した農業の工業化(産業化)システム(リサイクル農法)」を提唱している。つまり、現在の「農商工連携」および「農業の6次産業化」のことである。農産物の生産から消費までを川の流れに例えると、川の流れは川下に行くほど川幅は増していき、ここには計りしれないビジネスチャンスがあると考えている。これが20数年の歳月をかけてマーケットを構築してきた結論である。

3.「農商工連携」の取り組み

 弊社を中心とするこの「農商工連携」の取り組みは、「農」の部分を農産物生産協議会が担い、「商」の部分を学校給食や生協、加工業者などが担い、「工」の部分を加工者である弊社が担っている。つまり、「工」は産地と食卓を結ぶ架け橋として存在している。

(原料の全量買い上げと受け入れ態勢の整備)

 野菜の流通では、通常、規格品は農協に出荷され、規格外品は廃棄されるか食品加工業者などの「工」に出荷するのが一般的であるが、栽培面積が小さい兼業農家においては、規格品よりも規格外品の発生が多い場合などは、農協への出荷量はわずかとなり、残りは廃棄処分となる。そこで弊社では、規格品、規格外品にかかわらず、収穫したものはすべて弊社が買い取ることとしている。収穫された農産物は、協議会ごとに工場まで運んでいただく。その際に産地の作柄情報を入手するとともに、生産者とコミュニケーションを図っている。
 野菜の「冷凍」と「乾燥」加工は、全量買上げに必要な加工手段である。新工場は農林水産省の補助事業で対応し、ソフト事業は中部中小企業基盤整備機構、岐阜県産業経済センターの支援によるものである。
 現在4市町村に生産協議会を組織しているが、さらに近隣の町村に協議会を設立し、原料となる農産物の生産規模の拡大を図るとともに、連合会の組織形成を推進しているところである。

(原料となる品目)

 また、中山間地では、鳥獣被害が大きく、農家の生産意欲を減退させている。そのため鳥獣被害を受けにくい栽培品目として「モロヘイヤ」「大麦若葉」「さといも」を選定し、栽培を普及している。
 モロヘイヤは5月には種し、7~8月に収穫した後「冷凍」と「乾燥」という2つの異なった方法により商品化している。モロヘイヤは、栽培普及を図る上で基幹作物と位置付けている。
 モロヘイヤ収穫後のほ場には、後作として大麦若葉をは種し、12月から3月にかけて4~5回の収穫が行われる。これによりモロヘイヤの栽培と合わせて二毛作が成立し、農家の所得向上につながった。大麦若葉は国民的サプリメントの「青汁」の原料となるが、冬季栽培のため農薬は不要となり、安全性も確保されている。
 さといもはこの地方の伝統野菜であるが、近年では生産量が激減している。和食に欠かせない食材であるが、中国から冷凍物の輸入が多い。しかし、マーケットは巨大であり、国産志向の代表的食材でもある。これを復活させ産地形成を図るのである。
 また、さといもは、その部位により「親いも」「子いも」「孫いも」に分かれ、子孫繁栄の縁起物としても人気がある。さといもの品種にもよるが、子いも用品種では、子いもが規格品であっても孫いもの多くは規格外品となり、親いもは捨てられる運命にある。親いもは重量比でさといも全体の35パーセントを占め、栄養価の面でも子いも、孫いもと比較してビタミン、ミネラルともに2~3倍も含んでいる。これももったいない話である。このように廃棄処分されていた親いもでも、減圧乾燥して粉末にすることにより価値ある食材となり、用途も多彩となる。

さといもの「子いも」と「親いも」の比較

4.未利用部位および未成熟果実の活用

 野菜類の水分値は概ね90パーセントである。それを乾燥して水分値を6~8パーセントにすることによって長期保存が可能となる。
 乾燥方法には各種あるが、野菜本来の色調と栄養価、機能性を保持するためには「減圧平衡発熱乾燥法」が有効である。30~40度の温度領域はアミノ酸が増す温度帯であり、旨み成分を引き出すのに効果がある。ちなみにビタミンCならば、40数度で破壊されてしまう。
 野菜や果実においては、未利用部位や未成熟果実が多く廃棄処分されているが、これらには機能性成分が多く含まれている場合があり、未開発資源として計り知れない魅力がある。これらの「乾燥野菜粉末」は、あらゆる加工食品や地域の特産品、健康食品、機能性食品、サプリメント、地域ブランドとして広く活用されている。

乾燥方法の特徴と比較

30度から40度という低温で短時間に乾燥可能

5.生産農家の笑顔

 農林水産省の2010年世界農林業センサスによると、日本の農業就業人口の平均年齢は65.8歳(暫定値)である。つまり、年金生活者が中心となり日本の農業を担っていることになる。しかし、当地では、現役を退いた60歳以上の方々が元気である。この農商工連携の取り組みを通じて「仕事ができた」「仲間が増えた」「みんなでやれば楽しい」「耕作放棄地の復元」というわけである。
 生産者からは、収穫したものが全量買い上げられるので安心して生産に専念できるとの声が聞かれる。
 また、生産活動ばかりでなく、規格外品野菜を乾燥粉末にしたものを農家に提供し、それぞれの農家で工夫を凝らした加工食品を作っていただき、それを持ち寄ってコンテストを開催するなど、町民参加のイベント企画として大盛況であった。この時の生産者一人一人の笑顔が自分の喜びとなり、このようなシステムを全国に広めたいと思っている。

6.今後について

 世界人口は増加しており、69億人に達したとのことである。このうち約70パーセントの人が食糧難の状況にあり、12~13パーセントの人が飢餓に直面しているといわれている。
 そのような世界の食糧事情の中で、日本のスーパーマーケットに足を運ぶと、中国産などの輸入品を多く見かける。一方で、中国はもはや輸出国ではなく、消費国に変貌している。GDP(国内総生産)の上昇は、日本の昭和40年代の勢いである。日本の加工業者は、中国産の農産物に代えて国産の規格外品を原料として使用すれば、価格差は縮まるのではないか。
 日本の農林水産物は安全・安心および品質の面で海外でも高い評価を受けている。規格品はどんどん輸出すべきである。そこで、お金に貢献しない規格外品が250~300万トンもあり、さらに機能性は有しているが、通常は廃棄されている農産物の未利用部位、未成熟資源を加算すれば推定400~500万トンの資源があることに着目し、これらを「減圧平衡発熱乾燥法」により、高品質を保持した商品に仕立て上げたらどうか。食品原料に換算すると1兆円規模の産業となる。これらは食料自給率にカウントされていないため、自給率向上や雇用促進にも貢献できると考えられる。
 野菜類のほかでは、果実も同様に規格外品が多い。ジュースなどは古くから加工品として商品化されているが、重量物を買っていく人は少ない。そこで乾燥果実の提案である。近年、果実の消費量が減退している。原因はファーストフード慣れした若者を中心とした「面倒くさい」思考である。目の前に良質なリンゴがあっても手を出そうとしない。なぜか、「皮をむくのが面倒」「手が汚れる」「ごみが出る」などが理由である。対策として「乾燥果実」の商品化である。利便性、旨みを濃縮、無添加など健康志向と合わせて、スナック風に消費するのである。
 野菜や果実以外にも薬草、魚類、海草類、肉類の乾燥はもとより、これらの資源を活用したニュービジネス構築には夢がある。産業構造が変わった今日、衰退した伝統産業の匠な技術を活用し、糸偏、土偏、木偏さらには金偏から食偏産業への転換である。「農と食」の架け橋として農業の産業化を構築し、消費拡大や食料難に対して、国際援助の一部としても貢献出来ないだろうか。

みかんと乾燥みかん

乾燥野菜粉末を混ぜたケーキ

乾燥野菜粉末を混ぜたパン

(社会貢献企業として)

 日本の国土は資源の宝庫である。全国どこの地域を訪問しても資源は豊富だ。1次産業で終わらず、地域の資源を生かして地域社会が地産地消はもちろんのこと、地産外商に視野を広め地域を元気にする。手段はまず、資源の乾燥保存である。全国47都道府県の産地に乾燥加工センターを構築し、地域の活性化と食料自給率の向上、地域の雇用対策、添加物不使用の安全・安心な食品の商品化、廃棄物の減少による環境貢献、70パーセントの食料難、10数パーセントの飢餓など、農業と産業、ハードとソフトの両輪を駆使して社会貢献企業として存続したいものである。
 筆者の目標は、「2020年までに世界の食の無駄をなくす」ことである。

農商工連携農林水産加工開発プロセスと地域振興

地域ブランド食品・一般食品・健康食品・栄養機能性食品・特別保健食品
代表者会議開発委員会試作品発表会イベント商品化


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