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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線(22)

キャベツの寒害防止技術

群馬県農業技術センター 園芸部 野菜第二係
主任研究員 金井 幸男


はじめに
 平成21年のキャベツの全国の作付面積は33,300ヘクタール、収穫量は139万トンであり、葉茎菜類の中で最も生産量が多い野菜です。
 キャベツは、秋から春にかけては主に愛知県や千葉県、神奈川県などの温暖地で、また、夏から秋にかけては比較的冷涼な群馬県、長野県などの高冷地で、というように一年を通して全国各地で生産され、一年中出荷が可能となっています。
また、キャベツは、家庭で消費される以外に、加工・業務用として広く利用されており、その生産量の約半量が加工・業務用に使用されています。加工業者などの実需者が望むキャベツは寒玉系品種であり、家庭消費用より大玉で結球内に葉が詰まったものが栽培されています。

1. キャベツの寒害とは

キャベツは一年中出荷されていますが、北関東地域で冬期に栽培されている冬どりキャベツは、栽培年次によっては、厳寒期に低温による凍害の発生で生産量の減少や品質の低下をまねくことがあります。凍害は外葉が壊死するタイプ「外葉壊死症状」(写真1)と、外観上は異常が認められませんが、外葉を2~3枚はぐと内部に黒い斑点が発生している「内部黒変症状」(写真2)があります。特に、後者は外葉に黒変症状が無いことから出荷時に被害キャベツの除去が難しく、産地では大きな問題となっています。そこで、群馬県農業技術センターでは、平成20年度から、新たな農林水産施策を推進する実用技術開発事業「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」の中で、「1~3月どりキャベツの寒害防止技術の開発」に取り組んでいます。


写真1 外葉壊死症状


写真2 内部黒変症状

2. 発生原因

 凍害は、産地にとっては厄介な問題ですが、発生原因が明らかになっていないため、効果的な対策がとられていない状況にあります。そこで、内部黒変症状発生個体を観察し、発生条件を解析し、その形成過程を実証しました。

(1)内部黒変症状発生個体の観察

 平成21年2月3日午前9時(気温マイナス1.3度)、農業技術センター内ほ場でキャベツ品種「あさしお」の外葉をはぎ、内部の様子を観察しました。葉片をはぐと内部は表面に多数の結氷が認められました。気温の上昇とともに氷塊は水滴に変化しましたが、葉表面には変色した跡が残りました(写真3)。別の個体では内部黒変症状が発生しており、氷塊の跡と類似していました(写真4)。キャベツ結球葉の内部には、多くの水滴が認められ、低温により水滴が結氷し、結氷直下の細胞で障害が起きていることが予想されました。

  
写真3 キャベツ結球内部の結氷     写真4 結球内部の内部黒変症状
注:写真中記号の「W」は水滴、「I」は氷塊、「T」は変色跡

(2)植氷によるキャベツ葉面の変化

 植氷(植氷は葉面にスプレーで水滴を散布し低温下で結氷させる方法)によるキャベツ葉面の観察は、ポット植えのキャベツ2品種(「あさしお」「彩風」)を用いました。ポリポットに移植して2カ月程度生育させたキャベツ株を、7日間5度、12時間日長の人工気象室で低温順化処理をしました。その後、葉面にスプレーで水滴を散布し、マイナス5度の低温室に入室し植氷処理を行いました。入室後、15分ごとに取り出して、20度で12時間日長の人工気象室に3日間置いたものと、同日長で0度で6時間、その後5度で18時間、次に20度に48時間置いたものの葉の変化を観察しました。
 植氷後に20度の室内で急速解凍したキャベツ株は、「あさしお」がマイナス5度、15分入室で葉に斑点が形成され、「彩風」は60分入室で斑点が形成されましたが、植氷無しではいずれの品種もマイナス5度、1時間の低温処理でも凍害は認められませんでした。また、植氷後に、0度(6時間)~5度(18時間)~20度(48時間)と緩やかに解凍したキャベツ株は葉に異常が認められませんでした(表1)。
 植氷後、急速解凍したキャベツ苗に形成された斑点は噴霧された水滴が凍った位置と類似しており、植氷によって過冷却中の葉に氷片が接触したため、過冷却が破壊され、キャベツ葉が凍結したものと考えられました。また、凍結した株を緩やかに解凍した株に症状が発生せず、20度で解凍した株に斑点が現れたのは、急速な解凍で細胞組織が損傷したためと思われました。

表1 低温(凍結)遭遇時間とその後の融解温度が植氷したキャベツ葉に及ぼす影響

 ほ場に植わっているキャベツ結球内の日温度変化を見てみると、外葉から3~4枚目の凍害(内部黒変症状)が発生している葉の部分の日変化が最も大きく(図1)、キャベツ結球内の結氷、その後の急激な温度上昇による解凍が、内部黒変症状の発生原因と推察されました。

図1 キャベツ結球内部の層位別の温度変化

3. 寒害発生の品種間差

冬どり用品種を用いて、は種時期(作型)を7月下旬から8月下旬まで変えて栽培し、1月から3月に収穫して寒害の程度を調査しました。平成20年度は32品種、平成21年度は18品種を供試しました。
その結果、寒害の発生に品種間差があることがわかりました。平成20年度の内部黒変症状の発生は、1月収穫では「彩風」、「彩音」が少なく(図2、3)、2月収穫では「彩音」が少ない結果でした。3月調査では収穫適期を過ぎたものが多く、裂球や抽だいするものが多い状況でしたが、「彩音」が低い結果でした。

図2 キャベツ品種の1 月収穫時における内部黒変症状の発生度(平成20年度)

図3 キャベツ品種(抜粋)の1月収穫時における平成20年度内部黒変症状の発生度

図4 キャベツ品種(抜粋)の1月収穫時における平成21年度内部黒変症状の発生度

 平成21年度の内部黒変症状の発生は、平成20年度に比べると、全体的に少ない状況でした。1月収穫では「冬くぐり」、「金宝」、「彩風」、「晩抽理想」、「夢ごろも」、「七草」、「冬のぼり」が少なく、2月収穫では「冬くぐり」、「冬のぼり」が少なく、3月調査では「冬のぼり」が少ない結果でした。また、は種時期によって内部黒変症状の発生に差がある品種もあり、前年に内部黒変症状の発生が少なかった「彩音」は、7月下旬の早いは種時期の作型では、内部黒変症状の発生が高い結果でした(図3、4)。この原因としては、平成21年の気象経過は、平成20年に比べると、11月上旬から12月中旬にかけての平均気温が高く、特に早いは種時期の作型で、生育(結球)が進み過ぎたためと考えられました。生育が進み大玉になったキャベツは、葉位により葉内の糖度(Brix%)が異なり、8~11枚程度の葉の糖度が低下していることが認められました。加工・業務用キャベツは、大玉で結球内に葉が詰まったものが望まれていますが、平年よりも気温が高く、生育が進み過ぎるような場合は、内部黒変症状が発生しやすいと思われるため注意が必要と思われました。

4. 耕種的な防止技術

寒害の耕種的な防止法として、畝の高さと方向、窒素量やカルシウム資材の施用、べたがけ資材の使用やかん水量などについて試験を実施しました。いずれの試験も、供試品種は、平成20年度の試験結果より、内部黒変症状の発生が少ない「彩音」、中程度の「冬くぐり」、発生が多い「深みどり」の3品種を供試し、栽植密度は60×40センチ(畝幅×株間)としました。

(1)畝の高さ、方向がキャベツの内部黒変症状発生に及ぼす影響

東西方向と南北方向の畝をもうけ、それぞれに畝の高さが高畝(20センチ)、中畝(10センチ)、平畝(0センチ)、低畝(マイナス10センチ)の区を設置しました。平成21年年8月3日には種し、9月3日に定植して、翌年の1月13日に生育状況と内部黒変症状の発生程度について調査しました。その結果、内部黒変症状の発生は畝の方向では差が見られず、畝の高さでは「彩音」、「冬くぐり」の高畝区(20センチ)の発生がやや少なくなりました(図5)。
 結球重は「彩音」では東西平畝、東西低畝でやや重くなる傾向が見られましたが、「冬くぐり」、「深みどり」では差が見られませんでした。

図5 畝の高さ、方向がキャベツ内部黒変症状発生に及ぼす影響


(2)窒素量およびカルシウム施用がキャベツ内部黒変症状の発生に及ぼす影響

窒素施肥量を10アール当たり10キログラムから40キログラムに変えて試験区を設けました。平成21年8月5日には種し、9月3日に定植して、翌年の1月25日~2月2日に生育状況と内部黒変症状の発生程度について調査しました。その結果、内部黒変症状の発生度は、「冬くぐり」、「深みどり」で窒素量が多いほど少なくなる傾向が見られました。また、カルシウム施用区(10アール当たりのカルシウム剤100キログラム)は慣行よりも発生が多くなりました(図6)。
 結球重は、「彩音」、「冬くぐり」で窒素量が多いほど、わずかに大きくなる傾向が見られましたが、カルシウム施用による結球重への影響は見られませんでした。

図6 窒素量およびカルシウム施用がキャベツ内部黒変症状発生に及ぼす影響
*図中の縦線は標準誤差を示す(n=3反復)

(3)べたがけおよびかん水がキャベツ内部黒変症状の発生に及ぼす影響

 べたがけ資材(商品名:パオパオ90)のキャベツへの被覆は、収穫前の1カ月間(12月14日から収穫まで)および2カ月間(11月13日から収穫まで)実施しました。また、かん水(1回約5ミリ)は、一週間に1回および2回 、11月24日~1月21日まで実施しました。平成21年8月3日には種し、9月3日に定植して、翌年の1月25日~2月2日に生育状況と内部黒変症状の発生程度について調査しました。その結果、内部黒変症状の発生は、べたがけ、かん水による影響は見られませんでした(図7)。
 結球重は、べたがけ、かん水による影響は見られませんでした。
 また、べたがけ内の気温は、日中は無被覆より高くなりましたが、夜間の保温効果は見られませんでした。

図7 べたがけおよびかん水がキャベツ内部黒変症状発生に及ぼす影響
*図中の縦線は標準誤差を示す(n=3反復)

おわりに

 以上、「1~3月どりキャベツの寒害防止技術の開発」の途中経過を紹介しました。これまでの経過から、内部黒変症状の発生要因を検証し、品種間差があること、耕種的な防止策により発生の軽減効果が期待できることが明らかになりました。今後は、引き続き発生要因を検証するとともに、耕種的な防止策について検討し、冬期の加工・業務用の寒玉系キャベツが安定的に出荷できる栽培技術を確立したいと思います。


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