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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線(21)

加工・業務用向け根深ねぎの多収生産技術

埼玉県農林総合研究センター 園芸研究所 露地野菜担当
主任 岩崎 泰史


 ここでは、2010年5月号に続き「加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線」とし、今月号から3回の予定で農林水産省の委託研究開発事業である「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」の課題の一つ「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」および同じく委託プロジェクト研究の「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」(加工・業務用農産物プロジェクト1系(野菜))における、各研究機関の取り組み状況についてご紹介します。

1 はじめに

 ねぎは、薬味用、鍋物用や各種料理の食材用など、その用途の広さから年間を通じて利用されている野菜です。近年では消費量のうち、加工・業務用に占める割合が6割以上と家計消費用を上回っており、その中には安価な外国産のねぎも多く含まれているのが現状です。しかし、安全・安心な食品に対する関心の高まりから国産品への要望は高く、国産ねぎの安定供給や低価格化が求められています。
 根深ねぎは、野菜の中でもは種から収穫・調製までの一連の生産技術の機械化・省力化が比較的進んでいる品目であり、低価格化を実現するには規模拡大によるコスト低減も一つの方策としてあげられます。一方で、新たな技術開発により単位面積当たりの収量をあげることができれば、低価格化が可能になると考えられます。
 根深ねぎは、家計消費用としてL規格(白身の太さ16~20ミリ)が高値で取引きされるため、一般にこの規格を多くする栽培が行われています。しかし、根深ねぎはより太らせることが可能であり、栽培方法を工夫することで単位面積当たりの収量を高められると考えられます。そこで、2L規格(白身の太さ21~25ミリ)を基本とする根深ねぎの多収生産技術について検討しました。

2 研究内容

 多収生産技術の開発研究を行うに際し、栽培は埼玉県で開発した「平床機械植え栽培技術」を基本に行うことにしました。この栽培技術は、従来から行われている溝底植えとは異なり、地床育苗した苗を平床に機械で移植する新しい根深ねぎの栽培方式です(写真)。平床植え栽培は、溝底植え栽培に比較して?株の生育が早い?収穫物の曲がりが少なく上物率に優れる?生育の揃いが良い?多雨などの気象条件に影響されにくく生産が安定する、といった多くの優れた特徴を備えています。研究は、加工・業務用秋冬どり根深ねぎの多収生産に適した「品種の選定」「栽植方法(株間、畝間など)」「施肥方法」を明らかにし、それらを組み合わせて多収生産技術を開発するのが目的です。本研究は、平成20年度からの3年間で実施されている「新たな農林水産施策を推進する実用技術開発事業(業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発)」の中で、「平床栽培技術を活用したネギの多収技術の開発」という課題名で取り組んでいます。

3 試験結果

(1)多収生産に適した品種の選定

 これまでのL規格生産よりも太い2L規格生産を行うには、肥大性に優れた品種を選定する必要があります。そこで、市販8品種を同一条件下で栽培した結果、「龍翔」、「夏扇4号」が肥大性に優れ2L規格生産に適した品種として選定できました(図1)。

図1 品種と規格別収量

注)は種:平成20年4月22日、定植:8月7日、収穫:12月19日
  平床2条千鳥機械植え、条間 3.0センチ×株間 6.0センチ

(2)多収生産が可能な株間の検討

 多収生産を行うには、株間を狭めて単位面積当たりの栽植本数を増やす方法が考えられます。そこで、肥大性に優れる「龍翔」を用い、2L規格以上の収量を多く得られる株間について検討しました。試験は火山灰土壌、沖積土壌の別に行い、収穫時期についても併せて検討しました。
 12月~1月に収量を調査した結果、土壌によらず、株間5.0センチ(2条千鳥植えの株間。1条植え換算では株間2.5センチに相当)と機械で設定可能な最小の株間にすることで、10アール当たりの総収量6~7トン、2L規格以上収量が同5~6トンと高くなることがわかりました。また、収穫時期を遅らせて2月どりをした場合、火山灰土壌では寒さと乾燥により株重が減少し収量減となりますが、沖積土壌では冬でも生育を続け、総収量で1割程度増収する結果が得られました(図2,図3)。

図2 株間、収穫時期と規格別収量(火山灰土壌)

注)供試品種:「龍翔」、は種:平成21年3月25日、定植:6月26日
平床2条千鳥機械植え、条間 3.0センチ、畝間90センチ 

図3 株間、収穫時期と規格別収量(沖積土壌)

注)供試品種:「龍翔」、は種:平成21年3月25日、定植:7月9日
平床2条千鳥機械植え、条間 3.0センチ、畝間90センチ 

(3)多収生産が可能な畝間の検討

 秋冬どり栽培で青果用に平床植え栽培を行う場合、標準的な畝間は90センチです。これは、白身の長さ33センチ以上を確保するためで、加工・業務用として最低限求められる白身の長さ30センチを確保するには畝間をもう少し狭めることが可能と考えられます。そこで、単位面積当たりの栽植本数を増やす方法として、畝間について火山灰土壌、沖積土壌の別に検討しました。品種は「龍翔」を用い、株間6.0センチの平床2条千鳥植えとしました。
 その結果、土壌によらず、畝間80センチの場合に10アール当たりの総収量7トン程度、2L規格以上収量が同6~7トンと最も多くなり、白身の長さ30センチも確保できることが確認できました(図4)。

図4 畝間、土壌の違いと規格別収量

注)供試品種:「龍翔」、は種:平成21年3月25日、
定植:6月26日(火山灰)、7月9日(沖積)
 平床2条千鳥機械植え、条間3.0センチ×株間6.0センチ、
収穫:12月21日(火山灰)、1月26日(沖積)

(4)多収生産に適した施肥量の検討

 「龍翔」を火山灰土壌に株間5.0センチで平床2条千鳥植えし、施肥量を増やすことによる増収効果について検討しました。その結果、10アール当たり窒素成分で37キログラム程度と慣行より多めに施用することで、10アール当たりの総収量7.2トン、2L規格以上収量が同6.0トンと増収することがわかりました(図5)。

図5 施肥量と規格別収量

注)供試品種:「龍翔」、は種:平成21年3月25日、定植:6月26日、収穫:12月24日
平床2条千鳥機械植え、条間3.0センチ×株間5.0センチ、畝間90センチ  

4 おわりに

 平成20年度から取り組んできた「平床栽培法を活用したネギ多収技術の開発」の研究は今年で3年目を迎えました。最終年度の今年は、多収生産に適すると判断された個別技術を組み合わせた実証栽培試験(具体的には、品種「龍翔」を平床移植機で2条千鳥に株間5.0センチ、畝間80センチとなるよう定植し、施肥量を慣行よりも多めに施用。土壌は火山灰土壌、沖積土壌の別に検討)を、試験場内のほ場、および埼玉県深谷市のねぎ生産者のほ場で行っています。今後、収量調査を行い、多収生産技術の経済性について評価することで、産地への技術普及が図れることを期待しています。

写真:平床移植機による移植作業の様子


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