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大分県における企業の農業参入の特徴と効果

~企業参入が農業に活力を呼びこむ~

大分県農林水産部 農山漁村・担い手支援課


1 はじめに

~大分県の地勢・農業~

 大分県は瀬戸内海に面した九州北東部にあり、温暖な気候と九州本土一高い久住の山々と緑豊かな森林に育まれた豊富な水資源、温泉源泉数や湯量が日本一の別府温泉に代表されるようなさまざまな天然自然に恵まれています。この豊かな自然環境のもと、海岸部から標高1,000メートルの高地にまでなだらかに農地が広がっており、排水条件にも恵まれ、起伏に富んだ地形と適度の寒暖の差もあることから、農業生産に適した自然条件のもとで多様な農業が営まれています。
 このように産地として恵まれた条件にある大分県農業ですが、1戸当たりの耕地面積および生産農業所得ともに全国平均を下回っている状況にあり、農業従事者の高齢化と後継者不足が大きな課題となっています。
 こうした中で本県農業の振興を図るため、「流通構造の変化に対応した商品づくり」の推進とともに、新規就農者や後継者の確保・育成、集落営農の組織化・法人化を中心に「力強い経営体の確保・育成」に努めているところです。

2 企業の農業参入の推進と現状

 しかし、これら取り組みだけでは農業の担い手が十分に確保できないという状況を踏まえ、平成19年度から本県の製造業などの企業誘致の手法を農業にも導入して、経営力や資金力に優れた企業の農業参入を積極的に推進しています。
 企業の農業参入には、農地や農業従事者の確保のほか、農業参入プランの作成、農業技術の習得などの課題があり、これらを一つ一つクリアしていくには多くの時間や労力を必要とし、検討段階で農業参入を断念する企業も多くみられます。
 このため、本県では、初期の参入相談から営農開始後の技術指導、販路の確保まで一貫したサポートをスピーディーに行うため農業参入専任の職員を配置し、ワンストップでの対応を図るとともに、県、市町レベルでそれぞれプロジェクトチームを組織し、関係機関や関係部局が連携し企業の農業参入を支援する体制を整備しています。
 企業から相談があればすぐに対応できるよう、あらかじめ全県的に耕作放棄地や遊休農地の状況を調査しておくといった事前準備も行っています。また、農業従事者の確保など人的なサポートに止まらず、地域の遊休施設を農業に再利用する際の改修費やトラクター・運搬器具の整備など、初期投資を抑えるためのきめ細かな助成制度も用意しています。
 これらの取り組みや支援措置によって、平成19年4月から22年9月までの間に81社が農業参入し、経営計画に基づき農業に取り組んでいます。

3 多様な企業の参入

 これまでに農業参入した企業の4割が県内の土木建設業となっています。次いで食品関係、農業関係と続いています。建設業の参入が最も多いのは、公共事業の減少や本業の閑散期の人材活用の面からの理由が多いという業界の事情を反映しています。
 一方、県外からは自社の有する販売ノウハウや販路の活用、九州地域での生産拠点の確保、安全・安心な原材料の調達、地域社会への貢献などを理由とするものが多く、ワタミ株式会社(有機野菜)や九州旅客鉄道株式会社〔JR九州〕(にら)などの大手企業も本県で農業参入をしています。
 このほかに、大分県で企業参入が進んでいる事情としては、農業生産に適した自然条件も挙げられます。温暖な気候と森林資源が豊かで豊富な水資源に恵まれていることや、標高1,000メートルの農地など、標高差を生かして年間を通じた栽培が可能であること、また、福岡市、北九州市などの大消費地にも高速道路で1~2時間の近距離にあることなどです。
 栽培品目としては、白ねぎ、トマト、にらなどを中心とする野菜が43パーセントと一番多く、次に大分特産のしいたけ、ゆずなどの果樹となっています。
 以下、いくつかの代表的な参入事例を紹介します。

参入企業が経営する22ヘクタールのカボス園

■参入事例① 『住友化学株式会社』 ~耕作放棄地を活用して1ヘクタールのトマト栽培~

 改正農地法の施行を踏まえ、住友化学株式会社は、1.8ヘクタールを賃借し(本案県は大分県内における改正農地法の第一号案件です。)、高糖度トマトの低段密植栽培およびフルーツトマトの隔離土耕栽培を行っています。農地の6割以上が耕作放棄地であった場所に1ヘクタールのハウスを建設しており、今後、従業員10名程度を地元で雇用する計画です。
 農業資材や農産物の販売を行っているグループ企業2社と共同で農業法人を設立し、自社の農業資材を活用した最適な営農方法を確立することも目的としています。
 トマトはグループ企業を通じて九州を中心に関西・関東のスーパーに出荷する計画で、1億円の売上を見込んでいます。 
 県では、トマトを戦略品目の一つに位置づけ、低段密植栽培の試験研究なども進めています。同社が参入した豊後大野市には、県農林水産研究指導センターと県立農業大学校があり、双方の協力による今後の成果が期待されています。

耕作放棄地に設置された施設(住友化学)

低段密植方式によるトマト栽培(住友化学)

建設中のハウス(2棟2.6ヘクタール)(リッチフィールド)

関西以西では最大規模の生産拠点(リッチフィールド)

■参入事例② 『農業生産法人リッチフィールド有限会社』 ~冬期のパプリカ生産拠点を展開~

 宮城県でパプリカを生産している農業生産法人リッチフィールド有限会社は、関西以西では最大規模のパプリカの生産拠点を大分県に設置しています。消費量のほとんどを輸入物が占めているパプリカは、国内では主に東北で夏場を中心に栽培されています。
 冬の収量不足が課題となっている中、同社では、冬季の日照時間が長い、湯布院温泉で有名な大分県由布市での生産を展開し、今後、夏秋は宮城、冬春は大分と生産拠点を棲み分けて年間を通じた安定出荷体制の実現を目指しています。
 大分県内の設備工事業者と共同で農業生産法人を設立し、大分市に隣接する由布市の耕作放棄地2.6ヘクタールをリースしており、ハウス(2棟1.6ヘクタール)や貯蔵施設を建設する計画で、間もなく生産が開始される予定です。
 同社では、大分への展開を契機に、ジュースなど加工品や他品目の生産も視野に入れています。この生産拡大は、大分県内の農業関係者にもさまざまな刺激となるものと考えています。

■参入事例③ 『有限会社ファゼンダ・グランデ』 ~豊後牛ブランドの一翼を担う存在に~

 隣県の福岡県から肉用牛の肥育に参入した有限会社ファゼンダ・グランデの母体は、業務請負業を営む株式会社アイ・エヌ・シーです。代表取締役の実家が畜産業を営んでいたこともあり、農業を指向し、大分県から複数の適地を紹介したことで参入いただいたのが、大分県産の黒毛和牛「豊後牛」の生産が盛んな玖珠町でした。
 畜産業は素人でしたが、学ぼうとする意欲は旺盛で、同社の出荷する枝肉はA-4、A-5の比率が高く、市場の評価も高まっています。
 ファゼンダ・グランデは、現在、710頭の黒毛和牛の導入と出荷を行っており、これとは別に新たに800頭の肥育を目指して肥育牛の導入を進めています。これによって玖珠町としても出荷頭数の確保により定時・定量出荷が可能になり、同社は早くも豊後牛ブランドの一翼を担う存在として期待されています。

4 参入企業の特徴と効果

 このように企業の農業参入は、参入企業の経営発展はもとより、地域農業、地域経済にも大きな効果を与えています。
 これまでの81社の参入の特徴と効果については、それぞれの事業計画によれば、計画実現の暁には全体で農業産出額89億円の増加と402ヘクタール(耕作放棄地118ヘクタールを含む)の農地の活用、800人を超える新たな雇用創出などの効果が見込まれています。
 具体的には、

(1)大規模生産

 企業的センスに基づく大規模で先進的な営農が、県内の農家、特に若い農業者に刺激を与え、県農業全体の意識改革と底上げにつながっていくことです。実際に刺激を受けた農家が規模拡大に取り組み始める例も出てきています。

(2)新たな販路拡大

 企業がこれまでに築き上げた販路や得意先、加工・流通のネットワークを持って参入してくることにより、県内に新たな生産・流通・販売の仕組みが形成されるとともに、生産に意欲的な農家には、参入企業と提携して販路の拡大が期待できます。食品製造業や外食産業からの参入企業は、自社農場だけでなく、地元農家との提携による原料調達(サプライチェーン)なども計画しており、そういった地域農業の活性化や、既存農家にとっては生産拡大した農産物を新たな販路に乗せていくことが可能となります。

(3)産地形成の推進

 本県では、園芸の産地形成に取り組んでいますが、そのための栽培面積や生産量の拡大は、県内の農家とともに参入企業も担っています。例えば、白ねぎは、大分県は西日本一の産地ですが、福岡の卸売市場など九州市場をはじめ、京阪神市場への展開を進めています。この原動力として参入企業による白ねぎ生産の大規模な拡大があり、白ねぎの栽培面積と生産数量は年々拡大しています。

(4)全国的な広域周年農業の展開

 先に紹介した農業生産法人リッチフィールド有限会社のような北海道、東北、関東地方などの農業法人や県外からの参入企業の取り組みによる大分県での農業生産は、県域を越えた全国規模の周年供給体制の構築に寄与するものと思われます。

(5)新規就農者の確保

 昭和ひと桁世代の大量のリタイアが迫っており、新規就農者の確保・育成が課題ですが、最近、農業法人に雇用されて就農する農業青年が多くみられます。本県の21年度の新規就農者は138名で、20年度の101名から増加しました。特に、参入企業や県内農業法人への就農が16名から59名と大幅に伸びています。このように、参入企業は雇用を通して新規就農者の確保にも大きな役割を果たしています。

(6)地域社会との協調

 大分県の場合、企業参入を推進するに当たっては、地域農業や地域社会との協調や調和を図り、地域農業や地域経済の担い手として発展していただくことを期待しています。
 参入企業は、参入した地域に対して、耕作放棄地の解消への貢献、農地の有効活用、新規就農者の確保や雇用機会の提供、JAの共販などの活用や産地形成への貢献、既存農家への販路の提供、地域住民との交流など、それぞれの企業には可能な範囲で地域社会との協調や協力に取り組んでいただいています。
 こうした参入企業の取り組みにより地域農業には徐々に活力が出てきており、企業参入は農業再生の推進力になり得るものと考えています。参入後も、地域との協調や、規模拡大、農業の受託などにより、さらに経営発展を図っていただくことを期待しています。

5 おわりに

 自然を相手とする農業は、計画どおりの利益を簡単に実現できるとは限りません。大分県としては、参入企業が営農年次計画に従い、着実かつ早期に経営の安定を実現することが重要だと考え、昨年度から、営農技術の専門家である普及職員とフォローアップチームを企業ごとにマンツーマンで配置し、参入から栽培技術指導、販路開拓、経営確立まで、企業の実情やニーズに即して一体的に支援しています。本県は工業分野の誘致企業の満足度日本一の評価をいただいていることから、そのノウハウも活かしながら農業分野でも参入企業の満足度日本一を目指しています。
 県内の農家や農業法人の経営支援を引き続き行うとともに、今後とも企業参入を推進し、その経営発展を支援していきたいと考えています。従来からの地域農業に対して参入企業による経営センスやノウハウの導入を図り、相互の競争や協調を推進することによって、新たな観点から消費地の需要と結びついた、元気で力強い大分県農業を実現したいと考えています。

初収穫祭の風景


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