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産直事業における契約栽培と需給調整機能

~パルシステムが進めている環境保全型農業と流通について~

パルシステム生活協同組合連合会 食料農業政策室
室長 高橋 宏通


 パルシステム生活協同組合連合会(以下、「パルシステム」)は、9都県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・群馬・福島・山梨・静岡)にまたがる10の地域生協を会員とする事業連合です。「組合員の暮らしの課題解決」や「組合員の暮らしを生涯サポートする」を事業コンセプトに組織拡大を続け、会員・組合員世帯総数は100万世帯にのぼり、農産物の事業高は青果が200億円、米は100億円です。パルシステムは、店舗事業展開を行わず、個人対応型無店舗事業に特化しています。全国の生協に先駆けて「ライフステージ別暮らしの提案」を行い、事業の柱に「産直と環境」を据えて、組合員参加と産地・生産者との連携で「環境保全型農業」を積極的に推進しています。またパルシステムでは、国の「食料・農業・農村基本法」の制定を契機に「パルシステムの食料と農業政策」を策定し、環境保全型農業の推進や食の安全確保、食料の安定確保(食料自給率の向上)、トータルなフードシステムの確立を目指しています。

産直を通じ生産者と消費者のコラボレーションによる 地域社会づくりに取り組んでいます

 パルシステムでは「産直政策」として産直の目的や定義を定め、進め方や課題を明確にして取り組んでいます。産直の目的を『健康で安心なくらしに貢献し、生産者と消費者がともに生活者として農業の持つ多様な価値を見直し、環境保全・資源循環型の食と農をつなげた豊かな地域社会をつくること』としています。産直を単なる食料の調達手段とは考えずに、生産者と消費者のコラボレーションによる地域社会づくりを目指していることが特徴です。
 青果物の場合、取扱高170億円のうち約90パーセントが全国のJA、農業法人、農業団体と直接契約を行っています。すべての産地、JAとの間で「産直契約書」を取り交わし、産直の定義を双方で確認し合い、産直理念について合意をもって事業に取り組んでいます。

急増する輸入農産物への対応策を協同して進めていきます

 パルシステムでは「日本の農業を守る」との立場から国産にこだわり、野菜についてはすべて国内の産直の生産者から、果実についても基本的に国産品をお届けしています。これは、前述したように産直を単なる商品調達の手段とは考えず、農業の多面的な機能(環境、交流、文化、教育)を重視し、国内農業の保護、育成に取り組んできた経緯によるものですが、食のグローバル化が進む現在、増加する輸入農産物に、どのように対抗していくのかが大きな課題となっています。安さと量の安定のみを追求するのであれば、輸入品には到底かないません。国産農産物を消費していただくことの意味を消費者に理解していただき、価格以外の価値を打ち出していくことが重要であると考えています。農産物の消費量の伸びが鈍化するとともに、年々価格も低下する厳しい状況の中で、国内の農業をきちんと育成し消費者に食べていただくことを協同して進めていきたいと考えています。
 なお、国内で生産ができない品目で、組合員の要望の高いものについては、フェアトレード(途上国との間の公正貿易)を前提とした輸入品を取り扱っています。

無店舗事業における産直 -利用者へ着実な情報伝達が可能-

 無店舗事業における産直は、「消費者が組織されている」ということが一番の強みです。
一般の店舗販売の場合、利用者が厳密には定まっておらず、また一度利用した方が必ずそのお店で買い続けるという保証はありません。そのため、いわゆる顧客に情報を発信しようとしても、新聞に折り込みチラシを入れたり、街頭でビラを配るなどといった不特定多数へのアプローチになりがちで、届けたい相手に着実に情報を届けることが困難です。
 その点、無店舗事業の場合、組合員の数がきちんと定まっており、また、その組合員にカタログ(=媒体)を通じて商品情報をお伝えするのが基本であるため、必要であればいつでも伝えたい情報を発信したり、あるいは交流などを呼びかけることが可能になります。
生産者にとっても、消費者が組織されているのは大きなメリットです。まず、どういう人たちに食べていただくのか、食べていただいているのかということを意識することは、生産意欲の向上に大きく結びつきます。さらに組合員数が定まっていることで、どのくらいの利用があるか予想を立てられ、作付けの計画も策定できます。
 特に、パルシステムが推進している環境保全型農業によって栽培された農産物は、一般市場用の慣行栽培物とは外見などの出荷基準も異なってくるため、一定の引き取り数量が事前に明らかになる「契約栽培」が必要です。そうした契約栽培には、利用の数にある程度見通しを立てられる「無店舗事業」のほうが向いています。むしろ、数がまとまれば、生産者はよりこだわった栽培を進めたり、周囲に拡大を呼びかけたりできるようになります。

生協組合員と産直産地の生産者が交流を続けている。
貴重な情報交換、意見交換の場になっている。
(2009年9月26日(土)~27日(日)ささかみ稲刈りツアー)

在庫リスクが低く、流通の不安も解消

 裏返して言うと、一般量販店のバイイング形式で「売れるかどうかわからないけれどとりあえず環境保全型農業をやってみましょう」とチャレンジすることは、生産側にリスクが高く、なかなか積極的に進めるということができない状況にあるのではないでしょうか。 
 「仕入れて店頭に並べても、それが売れるかどうかわからない」あるいは「栽培しても引き取ってもらえるかわからない」という店舗流通の中では、店側が在庫リスクを抱えることになるため、野菜やお肉を長期間保存する必要が生じ、場合によってはロス(廃棄処分)が日常的に発生してしまいます。
 しかし、無店舗事業なら受注したものを産地生産者に発注するという仕組みであるため、基本的には在庫をほとんど置くことなく流通させることができます。今までの、一般の量販店の流通に替わり、新たな青果物や畜産物を流通させる仕組みを提起できる可能性があります。

市場外流通の発展形として

 安全・安心を求める消費者が、市場を通すことによって見えなくなった生産者との距離を縮めることで、トレース可能な農畜産物を得ることが市場外流通の大きな目的です。そして、価格についてもあらかじめ契約段階で事前に値決めをしてしまいます。これは生協にとっては、お届けの3カ月前に注文書の作成が必要という条件をクリアしますし、生産者は、作付け前や飼育段階であらかじめ収入を知ることが出来、双方にメリットをもたらしました。
 そもそも市場外流通は、本来市場ではなかなか手に入らないものを調達する仕組みとして生まれてきました。例えばパルシステムの場合、消費者が求める顔の見える農畜産物は、市場を通じた入手が困難であったため、消費者から直接生産者にお願いして作ってもらうという「市場外流通」の道を選んだのです。
 市場外流通によって消費者と生産者が直接結びつくことで、本来市場に委ねられていた「価格決定」の機能に代わって、「作る人」と「食べる人」が直接話し合い、互いに納得できる価格を決めるという、両者がともに担い、参加する仕組みが生まれました。さらに消費者(組合員)は、「集荷分配機能」にまで立ち入り、栽培・飼育内容はもちろんお届け品の品質についても生産者と話し合うことができます。
 また、さまざまな卸や問屋を通さずに流通させることで、中間経費が省略でき、コスト面でもメリットが生まれました。取引金額の8.5パーセントとも言われる市場手数料も支払うことなく、その分を産地と消費者の双方に還元することができます。産地から直接生協の配送センターへと入荷することで、時間や運送距離を短縮できたことは言うまでもありません。

「市場外」だからできること

 そのほかにも、市場外流通が持っているメリットは多々あります。例えば、流通の都合に合わせた商品開発ではなく、個性を追及した商品開発が可能となるのです。
 市場が産地に対して行う評価や要望と、消費者が本当に求めている要求が食い違うことは、しばしば見られます。市場流通においては、大量に、また画一的に、なおかつ規格・選別度が高い商品を産地特産品としてブランド化する傾向が高く、また店舗販売用を中心とした市場では、見栄えのよさ、棚もちなどが評価の大きな機軸となりがちです。
 しかし、パルシステムの産直では、個々の産地のこだわりを重視してきました。なぜなら、パルシステムは出荷日・配達日が決まっているため、棚もちなどを気にする必要がないからです。さらにこだわりが違えば、同じ野菜でもパルシステム独自の名前や表示を付けて紹介することができます。

「全員参加で需給調整 産地への苦情も年々減る」産地と消費者の提携

 「生産者と消費者が直接結びついて青果物が流通する」といっても、現実は簡単ではありません。生産者がいくら農薬を減らして農産物を作っても、消費者にきちんと届けて食べてもらわなければ意味を成しません。そのためには、システムの革新が不可欠となります。
 その大きな柱は、①需給調整機能の拡大②品質管理の向上③生産者と消費者の多元的な交流にあると言えます。
 天候に左右される農産物を供給すれば、必ず欠品と過剰が発生します。消費者は価格に非常に敏感で、市況が高騰すれば、受注ははね上がります。そういった際には、産地では不作の場合が多く、注文された農産物を届けられない「欠品」となり、「せっかく注文したのに届かない。当てにならない」ということになってしまいがちです。昨今、買い手市場で「欠品は絶対に許さない」と、その責任を産地に押し付けるケースもありますが、その風土は「食品偽装」を招く要因となり、産地側もこうした要求は断固としてはね返すことが必要です。
 逆に、豊作のときは注文が減ってしまいます。パルシステムでは、産直品を安定的に供給するために、作付け精度の強化、生産予測、市況の読みと価格調整など、きめ細かい作業を手順書としてマニュアル化して実行しています。また、複数の産地で作付けすることで、リスクを分散しています。台風などの自然災害により、欠品率がやや上昇するときもありますが、ここ数年、代替率3パーセント以内、欠品率2パーセント以内の数値目標を持ち、ほぼ達成しています。
 パルシステムでは組合員に産直品の安定的な利用を求める一方、仮に作付け量を上回る注文をいただいた場合には、ルールに基づいて代替、規格変更、欠品などの処置をとっています。商品の代替に当たり、不足した場合のリスクは生協側(またはパルシステムの農産部門担当会社、株式会社ジーピーエス)が負う仕組みで、産地に対してペナルティや調達義務を課してはいません。予想に反して注文が少なかった場合、いわゆる余剰農産物のリスクは、これまでほとんどを産地側が負っていました。そのため産地では、安くほかの市場などに転売したり、場合によっては畑にすき込んでしまうことなどもしばしばありました。しかし2007年より「生産対策奨励基金」の制度を設け、契約数量に満たない受注の場合には余ったリスクに対し直接お金を支払う制度を用意しました。
 このようなシステムの革新の一方で、消費者側は「市況にとらわれることなく安定して購入してもらう」「農薬を減らすリスクへの理解」「外見にとらわれずに本質を見抜くこと」が必要です。
 パルシステムでは産直を単なる食料の調達手段とは考えず、農業の多面的な機能を重視し、新しい事業モデルの創出や、交流の事業化に真正面から取り組み、消費者が参加するシステムの設計を行っています。

毎月発行している「産直通信」。
産直産地の話題や、今の農業の課題点を組合員に投げかけ、
組合員活動につなげている。

栽培実験や資材導入をサポート

 パルシステムの産地では、数々の栽培実験を行っています。土壌消毒や除草剤の削減の実験では、太陽熱などを利用し多くの成果を上げて実用化され、地域にこの農法が普及しています。また天敵などの導入については、メーカーや大学、地域の普及所など、専門家の協力を得ながら生産者に成功事例を示し拡大普及に取り組んでいます。
 農薬や化学肥料に頼らない技術や資材は、ともすると非常にコストがかかり、高価なものになってしまいますが、パルシステムの農産部門担当会社である株式会社ジーピーエスでそうした資材を共同開発・共同購入し、生産者に提供することで、できるだけ低コストで使用できるよう援助をしています。
 組合員の代表が直接産地を確認する「公開確認会」は、農薬削減への取り組みをより実効性のあるものにし、またその達成状況を組合員自身が評価・確認するという役割を担っています。

公開確認会で生・消ともにレベルアップ

 パルシステムが行ってきた公開確認会やそのための監査人講習会は、消費者が監査人として産直を確認する意義以外にも、消費者全体がレベルアップするという大きな意義をもっています。
 公開確認会に多くの組合員が参加することは困難ですが、産直や農業をきちんと理解してその情報をつなぐ核をつくることは非常に意味があります。なぜなら、公開確認会に出席すれば今までに見えなかったことがたくさん見えるようになり、さらに勉強してみようと講習会にも参加されます。そして、公開確認会に出席できなかった人にも、組合員の実感として情報が伝えられていくようになるのです。そのような取り組みの積み重ねが、産直を支える大きな原動力となります。生産者がレベルアップするためには、消費者もレベルアップしていくことが必要です。そして消費者がレベルアップすれば、また生産者もさらに向上します。公開確認会はこうした循環を作り出すもので、それが一番大事なことだと私たちは考えています。

「公開確認会」では生協組合員の代表が産地を訪れ、
栽培内容や取り組みを直接確認する。
(2009年6月30日~7月1日開催、秋田南部圏協議会公開確認会)


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