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夏野菜の効能について
~夏場の体調管理に夏野菜を!~


女子栄養大学 栄養クリニック
准教授 蒲池 桂子


 旬の野菜は、生活の中に古くから取り入れられてきたものですが、その時期に起りやすい体調の変化を防ぐための栄養素が多く含まれています。夏に収穫できる代表的な野菜は、「きゅうり」「トマト」「なす」「ピーマン」そして「にがうり」など表面の色が鮮やかな物が多く、紫外線による酸化作用をはねのけるポリフェノール類やカロチノイド、ビタミンCやEなどが多く含まれています。まるで夏の暑さによる脱水や紫外線によるダメージを軽減するために、植物自身が行っている自主防衛策のようです。そんな野菜の働きを利用させてもらいましょう。

 夏は、気温の上昇とともに体温が上がり、新陳代謝は一年中で一番盛んとなります。暑さに対応するためには、上昇する体温を調節することが大切です。日本の気候では、湿度が高いために食欲が落ち、体からは何となくじわっとした嫌な汗が湧き出て、体がむくんだようなだるさを感じることもあるでしょう。このような場合は、カリウムを補い、余分なナトリウムを排泄し、便秘を解消して代謝を助けることが大切です。

 また、職場や自宅など、冷房が効いた場所で長時間過ごした場合や、一日のうちに冷房の効いた場所と屋外を頻繁に出入りする場合などに体温調節がうまく行かないことがあります。このような場合は、一日の最後にお風呂で湯船に浸かって軽く汗を流すことが回復には効果的ですが、適度な酸味のある食材やアミノ酸のうまみ成分を含んだ夏野菜を食べることで、より効率よく解消できます。さらに、紫外線の量が一年のうちで一番多いとされる7月から8月の午前9時から午後2時の間には、紫外線対策が必要になります。紫外線対策には、カロチノイドやビタミンCおよび抗酸化作用の多い食材を利用しましょう。

100グラム中のカリウムの含有量

出典:女子栄養大学出版部 五訂増補食品成分表〈2010〉

100グラム中のビタミンCの含有量

出典:女子栄養大学出版部 五訂増補食品成分表〈2010〉

 それでは、具体的に夏の代表的な野菜を利用した体調管理方法について触れてみましょう。

◆ きゅうり

 きゅうりは、江戸時代から露地栽培されてきた野菜です。現在は100グラム程度の大きさのものが一般に出回っています。栄養的には、水分が多く含まれ、中にはカリウムが含まれていることが特徴ですが、カルシウムやナトリウムも少量含みます。きゅうりの表面の鮮やかな色には少量のカロチンが含まれ、また頭部の苦みには植物性のアルカロイドであるククルビタシンという苦み成分が含まれており、老化やがんを予防する働きもあります。

 夏のハイキングや山登りなどにきゅうりを持っていくと、程よい水分の補給になります。また、屋外での作業で汗をかいた後、熱中症気味で食欲がわかないとき、大量の汗をかいた後に足がけいれんを起こすなど、カリウム不足による症状が出た場合にもそれらを和らげてくれます。さらに、きゅうりに味噌を少量付けながら食べると味噌の効用で、汗によって塩分が急激に失われたことによる体のだるさを緩和します。味噌には疲れを取るアミノ酸やビタミンB1が含まれているので、体力の回復につながります。もう一工夫して、味噌にねぎを細かく切って混ぜた物などをきゅうりに少量つけて食べると今度はねぎのうまみや辛みが増して、唾液が出やすくなり、食欲が戻ってきます。

 また、きゅうりを小口切りにし、塩を少々加えてボールの中で軽くもんでおくとしんなりします。しんなりしたきゅうりとみょうがやシソの葉を刻んだ物、さらに、しょうがの千切りを少々まぜて軽く汁を搾り、これにごまを包丁で切り刻んだものを混ぜると、これまたおすすめの夏の一品となります。冷やしたみそ汁に入れてもよし、そうめんなどのメニューに副菜としてつけ合わせてもおいしいです。シソの葉やしょうがには殺菌作用があるので、弱った胃腸を雑菌から守ります。こういった薬味になる野菜と組み合わせると、さらにきゅうりのうまみが引き立ちます。

 そのほか、きゅうりには日焼け後の皮膚の火照りを鎮める効果があります。日焼けをしたその日のうちにきゅうりを縦に薄くそぎ切りにして、そのまま日焼けの部分に張っておきます。きゅうりが乾燥したら新しい切片と替えて、火照りが治まるまで何回か繰り返します。すると次の日には火照りが治まり、ムラ焼け、シミのないきれいな肌に戻ります。きゅうりのおろし汁とはちみつを混ぜて顔に塗り、そのまま数分放置して洗い流すことで肌に張りが出る効果もあります。

◆ トマト

 トマトは南米ペルー原産で、昔は鑑賞用植物でした。食卓に上るようになったのは明治以降で別名赤なすともいいます。今では、うまみやコク、堅さや色、大きさなど、さまざまなトマトが市場に出回っています。そして生食だけでなく、煮たり焼いたり、スープやソース、さらには、お菓子への利用など、さまざまな料理に適応できる食材となりました。

 トマトにはリコピンという赤い色素が含まれており、これはカロチノイドの一種で、体内では活性酸素の発生を抑え、がんを抑制し、シミやくすみを抑制し、さらに動脈硬化を予防する働きがあります。また、トマトには血圧を安定させる働きを持つルチンも含まれています。そのほか、ビタミン類ではビタミンCが含まれ、鉄やカルシウムの吸収を良くします。さらに、カロチンも含まれており、網膜を補強し肝臓の細胞を再生するのに役立ちます。夏の強い日差しの対策としても、暑さからくる体力の消耗に対しても対抗できる栄養素を含んでいます。ミネラルとしては、カリウムが多く、水分量も豊富に含んでいます。また、アミノ酸の一つであるグルタミン酸が多く含まれています。スープに加えたり、煮込んで水分を飛ばし濃厚なソースとして使うことによってほかの食材のうまみを引き立てます。トマトの酸味にはクエン酸やリンゴ酸などが含まれていますが、これらは疲労回復にも有効です。朝食や疲れた後にトマトジュースを飲むとすっきりするといわれるのもトマトに含まれるアミノ酸や酸味の効果でしょう。

 このように大変便利なトマトですが、最近は特にミニトマトや煮物用のトマトなどが出回っています。また、黄色や緑色のものもあります。

 ミニトマトは、朝食で簡単に補給でき、食物繊維もあるので、血糖値のコントロールやコレステロール値を抑えるためにも毎朝召し上がっていただきたい野菜の一つです。ビタミンCも含まれているので、お肌に張りや潤いを与え、紫外線の害を和らげるのにも役立ちます。また、普通のトマト1個、140グラム程度に対して、たまねぎ2分の1個、100グラム程度をそれぞれみじん切りにして、オリーブ油少々、塩こしょう少々を加えてよく混ぜたトマトとたまねぎのソースは3日ほど冷蔵庫で持ちます。豚ロースのしゃぶしゃぶに添えたり、アジのムニエルやフライに添えたり、お刺身に添えてカルパッチョ風にしてもおいしいです。そのまま朝食のフランスパンと一緒に食べたりと、簡単にたくさんのトマトとたまねぎをとることができます。

◆ なす

 なすはインド原産で奈良時代には日本に伝わり、現在日本各地で地方色豊かな品種があります。なすの紫色は、アントシアニンという水溶性の色素の一種でナスニンと呼ばれています。なすの渋みは、クロロゲンというポリフェノールです。これらは、抗酸化作用があり、動脈硬化の予防やがんの抑制効果が認められます。漢方では、なすには熱を下げ、出血を止めて腫れを抑える効果があるといわれています。

 品種は丸、卵形、長型などがあり、加熱調理全般に合う米なすや賀茂なす、漬物に合う小なす、焼きなすや炒め物などに向く長なす、渋みがほとんどなく生でそのまま食べられる水なす(泉州なす)などがあります。特に、大阪特産の水なすは最近全国的に流通量が増えており、値段は一般的ななすよりも高価ですが、そのまま食べられるためサラダや浅漬け、肉料理の付け合わせとしてもおいしく食べることができます。

 一般的になすは、油との相性がよく、油によって渋みの元であるクロロゲンが覆い隠されうまみが増します。ただ、なすは重量の約20パーセントに相当する油の量を吸収するので、ダイエットをしている場合は、油で表面を焼き付ける程度か、蒸す、焼きなすにするなどの調理法をおすすめします。

 また漬物などの下ごしらえで塩揉みをすることで余分な水分が出てうまみが増します。塩水に漬けておくと、茄子紺といわれる表面の色が抜けず、その後に蒸すなどの調理をしても鮮やかに仕上がります。漬物には、釘など鉄分の多い物と一緒にすることで色つやがよくなります。

 また、なすは、体の熱を取るといわれています。夏の暑さに対してもなすを食べて体に何となくこもっている熱を取ることが有効です。しかし、胃腸を冷やす効果もあるので食べ過ぎには注意が必要です。そのほか、民間で昔から行われている生活の知恵は、歯が痛いときになすの漬物を噛むと痛みが和らぐ、なすのへたを黒く焼いた物を塩と混ぜて歯茎に塗ると歯槽膿漏の予防になる、また口内炎には、はちみつを混ぜて患部に塗るなどが知られています。

◆ ピーマン

 ピーマンは中南米原産の野菜で、パプリカやししとうがらしなどと同様に唐辛子の仲間です。

 日本では明治の頃から食べ始め、一般に広がったのは戦後になってからです。ピーマンは、唐辛子の辛み成分が抑えられた品種で、緑色の物が主流ですが、これは未完熟で、完熟させた物が赤ピーマンです。ピーマンの色はカプサンチンというカロチノイドの一種によるものです。ピーマンにはカロチンも含まれていますが、これらには強い抗酸化作用があり、体内の炎症や動脈硬化、紫外線から受ける害を防いでくれます。唐辛子に比べて少量ではありますが、カプサイシンという辛みのもとも含まれており、発汗を促して代謝を促進させ、さらに血圧を下げる効果もあります。また青臭さはピラジンという物質によるもので、体内で血栓を作るのを予防します。また、緑のピーマンに比べて赤い完熟ピーマンは、すべての栄養素がより多く含まれています。ピーマンの仲間のパプリカにはピーマンの苦みがなく、色も黄色やオレンジなどカラフルな物が多いですが、やはり緑や赤の物に比べると栄養価は低くなっています。

 ピーマンには、体の中で重要な働きをしているビタミンCが大変多く含まれています。ビタミンCは体の中で細胞と細胞をつなぐ重要なタンパク質であるコラーゲンの合成に必要です。また鉄やカルシウムの吸収にも重要な役割をしており、また、ストレスから身を守るホルモンの合成にも関与しています。緑色のピーマン1個(中)50グラムでは38ミリグラム、赤い完熟ピーマンは90ミリグラムと、2個食べれば1日の必要量100ミリグラムを満たすほどの多さです。その上、ピーマンに含まれるビタミンCは熱に強く、炒めても壊れにくいといわれています。

 料理法としては、油炒め、味噌炒めなど油を使うと脂溶性のビタミンであるカロチンが効率よく取れます。また、うまみのもとであるグルタミン酸が比較的多く含まれているために味噌や雑魚、ほかの野菜と炒めるとさらにそれらのうまみが引き出されておいしくなります。グルタミン酸と並んで多く含まれるアスパラギン酸には疲れを取る作用もあるので、夏の夕食にピーマンの炒め物は、簡単で元気になる副菜となります。

◆ にがうり

 にがうりは、ゴーヤ、ツルレイシなどとも呼ばれています。熱帯アジア原産で主に九州と沖縄で栽培されていましたが、近年になってどこでも栽培されるようになりました。独特の苦み成分が特徴的な野菜です。熟す前の青い実を食べますが、熟すとオレンジ色になり、周りの皮が下の部分から割れて開きます。中からは種子が真っ赤な果肉に包まれて現れます。種子は食べられませんが果肉は甘くておいしいです。

 野菜として食べる瓜の部分には、ビタミンCが多く含まれています。ミネラルではカリウムが多く含まれます。さらにビタミンEやカロチンなどを含んでおり、これらも体の中の炎症を抑える抗酸化作用があります。また苦み成分は、きゅうりの苦みと同じククルビタシンの仲間でモモルデシンという成分によるもので、抗酸化作用、鎮痛効果などがあり、消化不良やストレスによる胃の痛みにも効果があるようです。また、漢方では、利尿、解毒、暑気あたりなどに効果があるとされています。

 にがうりの苦さが気になる場合は、薄くきって塩揉みをする、さっとゆでるなどで苦み成分を取るとよいでしょう。また炒めるときには、ゴーヤチャンプルーのように、鰹節や昆布だし、卵を合わせると、うまみ成分と一緒になって苦みをあまり感じなくなります。また、にがうりに含まれるビタミンCは、熱に強くほとんど失われません。

 そのほか、最近よく見るレシピでは、にがうりのジュースがあります。胃腸の鎮静、食欲の増進、ビタミンCの補給、などに効果があるようです。豆乳とバナナ、またはリンゴとはちみつなどと組み合わせるとうまみや甘み、酸味などのバランスがとれるようです。


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