消費地から遠隔に位置する野菜の産地では、青果物の流通段階における鮮度低下が問題となるため、高知県農業技術センターでは、小袋包装用として鮮度保持効果の高いパーシャルシール包装法(青果物をフィルム包装する際に、袋に微細な隙間を設けてガス透過性を調整し、鮮度を保持する方法)を開発しました。この包装法は、現在、ねぎやにらの出荷に活用されていますが、加工・業務用の野菜は大袋で出荷されるため、パーシャルシール包装が適用できません。そこで、高知県では、平成18年度から農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」に参画し、加工・業務用のねぎやにらを対象とした大袋包装による出荷箱単位での鮮度保持技術の開発に取り組んできました。
高知県では、露地で周年栽培される葉長が45~70センチ(以下、「?」と表記)の葉ねぎを「青ねぎ」として販売しています。しかし、収穫時には健全な葉でも流通の段階で葉が黄変しやすいことから、出荷調製作業時に外側の葉が取り除かれ、収穫量の3分の1程度が廃棄されます。また、本作業には全労働時間の約80パーセント(以下、「%」と表記)が費やされています。
そこで、開発した新規包装法の利用によって鮮度保持を図り、これまで廃棄されていた葉の活用による出荷量の増量ならびに出荷調製作業の省力化を目指しました。
本稿では、青ねぎの新規包装法による鮮度保持技術について紹介します。
ガス環境制御による鮮度保持包装技術の開発を図るために、任意のガス濃度を設定できるCA装置を用い、ガス環境が青ねぎの鮮度に及ぼす影響を調査しました。O2(酸素)濃度とCO2(二酸化炭素)濃度からなるガス濃度の組み合わせにより、「低O2処理(5-0%)区」、「高CO2処理(20-10%)区」、「低O2・高CO2併用処理(5-10%)区」ならびに「Air(大気)(21-0%)区」を設け、室温20度の暗所下で4日間貯蔵を行いました。葉の黄化については、黄化していない状態を「0」とし、黄化している部分の長さにより、0.1~2.0cmを「1」、2.1~5.0cmを「2」、5.1~10.0cmを「3」、10.1cm以上を「4」に分類し、貯蔵4日後に葉位別に調査して、「発生度={Σ(指数×葉数)÷(4×調査葉数)}×100」で示しました。
その結果、「Air区」および「低O2処理区」では黄化が目立ち鮮度低下が顕著にみられましたが、「高CO2処理区」および「低O2・高CO2併用処理区」では黄化の発生が抑えられ、中でも「低O2・高CO2併用処理区」では高い鮮度保持効果が認められました(図1)。したがって、青ねぎの鮮度を保持するには、低O2と高CO2を併用する条件が適すると考えられます。
厚さ0.015ミリメートル(以下、「?」と表記)、大きさ73?×78?の高密度ポリエチレン袋を用い、5キログラムの青ねぎを包装するときの開孔法を検討しました。孔の大きさは、工場で開けてもらうことができる最小の直径2?としました。開孔数を袋あたり0、2、4、8個とし、対照として現行の折り込み包装も設け、7月の大阪市場への輸送シミュレーション条件下で検討しました。
その結果、開孔数が少ないほど袋内のガス濃度は低O2・高CO2状態となり、折り込み包装では大気に近い状態となりました。葉の黄化は開孔数が少ないほど少なく、折り込み包装に比べて著しく抑制されました(表1)。しかし、0個(無孔)ではO2濃度が1%となり、低O2障害の発生が危惧されました。したがって、5キログラムの業務用青ねぎの大袋包装には、直径2?の孔を2個開ける方法が適すると考えられます。
現在、高温期における業務用青ねぎは、鮮度を保持する目的で蓄冷剤を入れ、折り込み包装によって出荷されています。そこで、この現行法を対照として、蓄冷剤を使わずに図2のようなガス透過調節用大袋包装による改良出荷法について、大阪市場への輸送試験を7月に実施しました。その結果、輸送中の段ボール箱内の温度は、蓄冷剤を使わない改良出荷法では現行法に比べて5度程度高くなりました。
一方、セリ時の袋内ガス濃度は、改良出荷法ではO2が約5%、CO2が約10%となり、目標に近い低O2・高CO2状態となりましたが、現行法では大気に近い状態となりました(図3)。黄化の発生は、現行法に比べて改良出荷法では少なく、鮮度保持効果が認められました。また、葉位別にみると、3葉株では、現行法で第1葉が黄化したのに対して、改良出荷法では3枚の葉とも黄化がみられず、4葉株では、現行法で第1、2葉の2枚が黄化したのに対して、改良出荷法では第1葉のみが黄化し、3枚の葉は黄化がみられませんでした(図4)。
青ねぎの産地では、品質低下を回避するために、出荷調製作業時に葉を取り除き、2枚の葉を残して出荷しています。輸送試験の結果から、ガス透過調節用大袋包装を利用した改良出荷法では3葉株、4葉株ともに従来よりも1枚多い3枚の葉を出荷できると考えられ、出荷量の増大が期待されます。
出荷資材費について、改良出荷法と現行法で比較してみました。改良出荷法では、蓄冷剤を使用しなくてもガス透過調節用大袋包装による鮮度保持効果が高く、蓄冷剤を省略できるために、現行出荷法に比べて出荷資材費が15%低減されます(表2)。
次に、改良出荷法の導入による調製作業性への影響を検討してみました。青ねぎの営農の中で最も比重を占めるのは出荷調製作業で、全労働時間の約80%が費やされています。これは、市場で葉が黄変しないように、葉を取り除く作業で、例えば収穫時に健全な葉が5枚ある場合には3枚を取り除き2枚にしています。輸送試験の結果から、改良出荷法では鮮度保持効果が高く、3枚の葉を出荷できると考えられます。そこで、生産者の方に、現行の2枚残す方法と3枚残す方法で出荷調製作業をしてもらいました。その結果、3枚残す方法は、取り除く葉の数が少なくなるので、現行の2枚残す方法に比べて作業時間を37%低減することができました(表3)。
以上のことから、ガス透過調節用大袋包装を用いた改良出荷法の導入によって、業務用青ねぎの出荷経費の低減と出荷調製作業の大幅な省力化が図られると考えられます。
これまでのガス環境制御による青ねぎの鮮度保持包装技術は、小袋包装用の機械包装によるパーシャルシール包装だけでしたが、今回、加工・業務用に対応するガス透過調節用大袋包装技術を開発しました。包装機械を使用しないことから設備投資が不要で、蓄冷剤も省略できるために低コストな出荷法です。さらに、本包装法の高い鮮度保持効果によって、従来出荷調製時に取り除いていた葉を1枚多く残して出荷することができ、出荷量の増大と出荷統制作業の大幅な省力化が図られると考えられます。