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「小金稼ぎが地域の元気をつくる」
~持続可能な集落を目指して~


社団法人高知県自治研究センター
コミュニティビジネス研究チーム



■はじめに

 中山間地域では、住民の高齢化の進展やコミュニティの希薄化、あるいは地元商店の廃業などにより、農作物を育てる元気はあるのに物流との接点を失い、出荷することができず、出荷をあきらめ、近所に配り、さらに残ったら捨てたり、耕作をやめたりする高齢者の姿がある。このことは、高齢者の生産性が生かされなくなっているという大きな問題である。

 本研究チームは、この問題を解決する仕組みを生み出し、政策として提言することを目標に設定し、コミュニティビジネス(地域の生活を支援する事業)という視点で実証実験を交えた研究に取り組んでいる。

■研究テーマの設定

 コミュニティビジネスの枠で考えたとき、農産物の出荷先として考えられるのは、農協・青果市場・直売所・良心市(道沿い設置された無人の直売所)・地元商店などである。本研究では、町内で利用者も多く、売上げの業績を上げている直売所を研究の対象とすることとした。

 また、直売所へ出荷することで高齢者が儲け、その営みを続けることができれば元気を維持(健康寿命を長く)できることにつながると考えられる。そして、高齢者が元気を維持できるということは、医療や介護などの社会的コストの削減にもつながるのではないかという発想をもとに、次の仮説を立てることとなった。


 この仮説は本研究の根幹的な思考である。なお、本研究のキーワードは 「福祉」「産業」「つなぐ」である。

■福祉産業から産業福祉へ(“保護”からの脱却)

 既存の高齢者に対する福祉サービスは、高齢者は弱きものという前提であり、心身が虚弱化してから受給することができるサービスが大勢である。サービス利用の要件が要介護度や生活困窮などいわゆる「消極的」なものであり、お金の回る仕組み(産業)ではあるが、儲けているのは高齢者自身ではない。これは福祉が産業となるカタチ(=福祉産業と呼ぶ)といえる。

 これに対し、本研究で提供するサービスは、高齢者は本来弱いものではなく、知識や技能を持っている重要な人材・人財であると捉え、農作業ができる元気があるからサービスを利用できるという「積極的」な側面を要件としている。産業活動=「小金稼ぎ」が、福祉的効果=「元気・生きがい」をもたらすというカタチ(=産業福祉と呼ぶ)である。

 高齢者がサービスの仕組みの一部となり、高齢者自身が「儲け」「楽しみ」「元気となる」営み、「サービス受給者が主役の仕組み」を目指している。

■仮説をもとにした実証実験の内容

 本研究のサービス内容と実験期間などは以下のとおりである。

  • 農作物などの集荷作業(売れ残りの返却含む)を無償で行う
  • 直売所の販売手数料などは出荷者本人が負担
  • 集荷は週に2日行う(2系統で実施しているので、一週間当たり合計4日稼動)
  • 出荷先は町内(旧大方町)の3直売所
  • 必要に応じ直売所への登録の手伝いも可能
  • 実験期間は2007年10月から開始し、2010年3月末までの期間延長が決定

 サービス稼動までの主な行動は次のとおり。

  • 本研究の事前説明会および事前アンケート
  • ビジネスサポーターとの契約
  • 集荷日程の調整や集荷場所の選定
  • 集荷カレンダーの作成と配布

 このように準備を重ね、視察に行った「いろどり(徳島県上勝町)」や「赤岡青果市場(高知県香南市)」を参考とし、オリジナルのシステムを構築した。サービスの形態から「庭先集荷サービス」と呼ぶこととし、現在2系統で実施している。

A:湊川系統(湊川・小川地区、サービス稼動後に鞭地区を追加)
B:馬荷系統(馬荷・御坊畑地区、サービス稼動後に北郷地区、橘川地区を追加)


 また、説明会などの参加者を「登録者」とし、サービス利用の有無を問わず、広報誌の配布やアンケート調査の対象者として取り扱っている。登録者は約50人いるのだが、常時出荷している方は、両系統を合わせて20人程度という状況である。

■ビジネスサポーターの業務

 本サービスの鍵を握るのは、実際に各農家から農産物の「集荷」を行うビジネスサポーターである。現在、業務を委託しているのはTさんという方で、ご本人も出荷をしているという適任者である。

 Tさんには、実験活動を具体化する前段のワークショップに参加してくれたことをきっかけに、業務を委託することとなったのであるが、この出会いが、本研究を「机上」から「現場」に導いたといっても過言ではない。

 具体的な制度設計で参考としたのが、特区制度などで議論が進んでいる「移送サービス」関係で検討された内容(扶助と違法性のバランスなど)である。

 本サービスは、扶助的な意味合いと福祉的効果に期待してはいるものの、自治研究センターから賃金をもらって品物を運ぶことから「営業行為」として位置づけることとした。このため、貨物軽自動車運送事業の手続き(規制緩和の影響で届出のみ)をとり、「黒ナンバー」を取得、移送に使う軽トラックに装着し、Tさんの屋号から「こじゃんと号」と命名し、下図のイメージでサービスを開始した。


■サービス稼動開始直後の様子

 Tさんに聞き取った初日の状況(湊川系統)は、「初日の出荷者は6人。農作物が少ない時期なので、こんなものかなといった感じあるが、やっぱり少ないというのが実感。出荷自体が初めてで、バーコードを貼るのを手伝ったりという予定外の作業もあったが、ほぼ予定どおりに進んだ」との感想であり、順調な滑り出しであった。自身も出荷者でもあるTさんの経験を生かした対応に期待し、ある程度シミュレーションができていたことが良い結果につながった。

■サービス利用者へのアンケート調査

 サービス開始後2回(各地域で行った事前説明会でのアンケートを除く)にわたり「登録者」を訪問し、アンケート調査を実施した。

第1回:2007年12月1日(土)~2(日)
湊川系統20人、馬荷系統21人、計41人

第2回:2008年3月8日(土)~9(日)
湊川系統21人、馬荷系統25人、計46人

 アンケートの内容は以下のとおり。

 なお、第1回目より数が多かった第2回目のアンケート時の利用者の世帯状況は次のとおりであった。

  • 女性42人、男性4人、女性が9割で平均年齢は74.2歳
  • 一人暮らし28%、高齢者のみ20%、2世代30%、3世代以上22%

 アンケート結果からは、「サービス利用者は、出荷して売れることを『楽しみ』とし、畑仕事に積極的・意欲的になっている=元気づくり・生きがい・未来への希望につながっている」ことがうかがえた。

 さらに「近所で出荷について相談したり、ビジネスサポーターとの交流を楽しみにしているなど、地域コミュニティの再生や、新たなコミュニティの形成=地域の活性化に深く関連している」ということが「利用者の声」として確認された。これは、当初の想定を上回る効果であった。



■成果の確認と発見

 成果としては以下のような内容が挙げられる。

  • 生きがいづくりにつながっている(アンケート結果からある程度実証済み)
  • 地域の活性化につながっている(近所で相談・出荷者とビジネスサポーターの交流)
  • 参加者が楽しんでいる・小金を稼げている。楽しくて儲かる=活動継続の原則
  • 福祉産業サービスを、産業福祉サービスに転換することの有益性を実証できつつある

 これら能動的な効果の中で特筆すべきは、「日々の営みの中で」「自分の家で生活しながら」という点である。特別な場所に行くわけでなく、特殊なことをするわけでもなく、生活の中で喜びが得られるということは、生活の質の向上にほかならない。

 さらに、サービス実施以降の利用者の増加やサービス提供エリア拡大のほか、ほかの地域から本サービスの利用を望む声がある。これは、住民ニーズにあったサービスであることの証であるし、ビジネスサポーターが地域を巡回することで、これまで声に出せなかった地域の声が、届き始めたのだと捉えるべきであろう。

■庭先集荷サービスの課題

 一方で、実際に現場でサービスを実施して、いくつかの課題も見えてきた。

  • 不安定な出荷量(そもそも趣味の延長線の商売なので、品目や品数の変動がある)
  • 年中継続して出荷するにはそれなりの経験が必要となる
  • 期間限定のサービスであるので、年間の作付け計画が立てられない
  • 直売所との連携がとれれば、注文の取りまとめも可能となる(時期によっては直売所からの注文も入る)
  • 売れ残った商品の回収と返却(直売所の都合により引き取りに行く必要がある)
  • 運営資金(研究費で運営、長期の見通しがない・集荷単体では赤字である)
  • リスク管理ができていない(事故があった際の代替がない・休暇を確保できない)
  • サポーターの発掘(リスク管理ができること。また、各集落が分散しているため、集落内で運営できる体制が効率的)

■庭先集荷の可能性

 庭先集荷は、公共・行政サービス(情報・救急・文教・イベント・交通など)を受けづらい山間部にとって、必要な公共・行政サービスではないかと考えられる。

 また、近所の出荷者同志の交流、少しでも売れるのならと耕作を継続したり、作付けを増やした事例、出荷を休んだ高齢者に何かあったのではないかと心配したサポーターの確認行為の事例などから、

  • ビジネスが新たなコミュニティを生む(共生社会の創造と復活)
  • 耕作放棄地の抑制(国土や環境保全)
  • 見守り活動(高齢者の孤立防止)

 などの効果を生んでいることが分かる。さらに、車両を一台にし、効率的な農産物の移送を行うことによるCO2の削減にもつながるという効果も有するなど、さまざまな地域の課題や取り組まれている対策と結びつけることができる。

 このように、目に見えた集出荷の営みだけでなく、ほかの要素と関連付ければ、経費的にも制度化の検討が進みやすいと考えられる。社会の仕組みとして継続できる運用のあり方を探り、既存サービスとつなぐことが鍵となる。


■転ばぬ先に「新たな杖」

 加速度的な高齢化は今後も避けて通れない。しかし、地域の存続をも脅かすこの危機的状況は、従来のサービスを根底から見直すことができるいい機会と捉えるべきであるし、そうしなくては、かつて経験のない超高齢社会を乗り切ることは不可能である。

 こうした視点で考えると、庭先集荷サービスの利用者は「ありがたい」うえに「楽しい」と語る方が非常に多いことにヒントを見出すことができる。

 高齢者たちが楽しんでいるという事実(ニーズ)を目の前にしたとき、高齢社会・高齢地域のマネジメントを可能とする仕組みが生まれたのだと思えてならない。これは「新たな杖」の創造である。

■新たなセーフティーネットとして

 今後の研究で、庭先集荷の仕組みの精度を上げ、汎用性のある「制度」に育て、全国に提供していくことが、研究に携わる私たちの使命であろう。

 庭先集荷は、能動的なサービスであることから、高齢者に自己肯定感を与えていると推測される(数値化は難しい)など、高齢地域を元気にするチカラを持っている。

 この仕組みを、一定の費用と共に地域に投じることが、今、求められていると思えてならない。今ならまだ間に合う。高齢者が土と戯れるチカラのあるうちに。これ以上、里山が枯れてしまわぬうちに。



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