当社の創業は、今から205年前の1804年(文化元年)にさかのぼります。創業家である初代 中野又左衛門(その後4代目当主が中埜性に改名)が、酒粕を利用した食酢の製造に成功し、その食酢が、往事の江戸でブームとなっていた“すし”に合うと評価され、広まったことが原点となっています。それから後に、当社が食酢製造業から食品メーカーへと展開していくきっかけとなった商品が、1960年に発売した「ぽん酢」です。以来、約半世紀にわたり、日本のご家庭に調味料とともに、鍋料理そのものを普及していくことに尽力し続けてきました。
当社は、農林水産省が主催する「暖房ほどほど お鍋でほかほかプロジェクト」(通称:鍋ほかプロジェクト)に参加しています。このプロジェクトの主旨は、秋冬野菜の需要拡大ですが、それだけにとどまらず、さまざまなメリットがある鍋料理の良さを、多様な関連業界や団体で統一的なプロジェクトの下、消費者へのさらなる鍋料理の普及を目指しています。
同省ホームページに掲載されている鍋料理の効用を抜粋すると、下記の項目があります。
このように、さまざまな効果がある鍋料理を推奨していくことに加えて、各企業・団体の横断的プロジェクトで推奨していくことは、鍋料理の良さを日本の食文化として長く残していく事につながると感じ、当社も「鍋ほかプロジェクト」に賛同し参加させて頂きました。
また、普段は、競合関係にある企業さんも同じプロジェクトメンバーとして、一緒に活動することを通じて、自己流になりすぎない鍋料理のプロモーションの「気づき」にもつながっていくものと考えています。
2009年1月に当社が行った調査(回答者数260人)によると、消費者の72パーセントが土鍋をご家庭で所有しており、ほかの種類の調理器具も含めると、ほとんどのご家庭で鍋料理ができる環境にあると思われます。
さらに、同年10月に行った、鍋料理にまつわる消費者の意向調査(回答者数416人)によれば、今秋冬の鍋料理の回数が「増えそう」もしくは「やや増えそう」と回答した消費者の割合は、全体の57.9パーセントを占め、「減りそう」もしくは「やや減りそう」と回答した人の割合の3.8パーセントを大きく上回りました。この結果を年代別にみると、若い世代ほど、鍋料理への意欲が高くなっている傾向にあることがわかります(図1)。
これらのことから、暖冬と予想されている今シーズンではありますが、「鍋料理」に対する消費者の意識は強く、特に、若い世代の関心が高いことから、将来的にも有望なメニューであると思われます。
次に、鍋料理の回数を増加させたい理由を聞くと、「食事の準備や片付けを簡単にしたいので」「食費を節約したいので」「健康や美容に良いものを食べたいので」といった意見が上位を占めています(図2)。この結果からは、昨今の消費者の食に関する「簡単」「節約」「健康」といった意向とも合致し、今後の鍋メニューの可能性を裏付ける結果となりました。
また、鍋料理をする回数を増やしたいと回答した中で、どのような鍋メニューの回数を増やしたいかについてみると、「寄せ鍋」あるいは「水炊き」と回答した方が多く(図3)、さらに、その理由についてみると、「野菜をたくさん食べられるので」と回答した人が一番多かったことが特筆されます(図4)。
そして、昨今のブームである「味付け鍋」(寄せ鍋などスープ自体に味がある)に加えて、「水炊き鍋」(スープ自体には味がほとんど無く、好みのタレで味付けをする)も大きな人気を有していることがわかります。「水炊き」メニューにおいては、素材そのものの美味しさを味わえることに加えて、以下の2点に消費者が支持する理由があるものと考えます。
① 味ぽん、ごましゃぶなど、好みのつけダレで変化を楽しめる
② 一緒に食べる方の好みに応じて食べることができる。(例えば、お子様はごまだれで、大人はぽん酢で味わえるなど)
以上のような消費者の鍋料理に関する意識から、当社では、今シーズンに新たな水炊き系鍋を提案しています(図5)。このメニューは従来から馴染みのある鍋野菜のきのこ、にら、にんじんに加え、ヘルシーでリーズナブルな野菜である「もやし」を加えていることで、ちょっとした新しさや食費の節約にもつながるメニュー設計としており、水炊き系鍋全般の調理喚起や価値再認識につながるものと考えています。
これまで当社は、鍋メニューの開発と鍋料理普及に向けた活動を実施してきました。これをさらに進めていくためには、消費者においしく食べて頂く鍋メニューの開発・普及を今後とも続けていく必要があると考えていますが、新たなメニューの開発・普及に際しては、以下のような課題もあると思われます。
その課題とは、生鮮素材を生産する立場からのメニュー提案などが必要ではないかということです。
これだけ、メニューが多様化し、食に関する情報量も多い昨今では、一企業・組織を超えたメニュー提案が、ますます必要になってくると思われます。また、野菜の1日の摂取目標量である350グラム以上の目標値については、2004年に実施した農林水産省関東農政局の調査では、約4割の方が、1日の野菜の消費量は、350グラムに満たないと回答しています。当社としては、このように野菜の摂取量が少ない消費者に、もっと野菜を食べていただくためにも、今以上に野菜のメニューや素材情報を伝えていくべきであると考えています。例えば、素材のパッケージにこれらの情報を記載したり、あるいは、我々のような調味料の会社と別の分野の会社、組織が共同で情報を発信するなど、野菜の消費拡大に向けて検討の余地はあるのではないかと考えています。
最後になりますが、今後の当社における野菜を活用したメニュー企画の方向性を紹介させていただきます。
そのメニューの中心として力を入れていきたいものが、「蒸ししゃぶ」です。2008年12月頃より、テレビ番組などの各種メディアで「蒸し料理」がブームとなってきていることが報道されています。当社が2009年の3月に調査した結果では、主婦層の約6割の方が、「蒸し料理」はテレビなどで取り上げられている流行のメニューとして認知しており、さらに、その約8割という非常に高い割合で、「蒸し料理」を調理したいと回答しています。
「蒸し料理」が評価されている要因は、「野菜をたっぷり食べられる」、「油を使わずヘルシー」、「家族や仲間とのだんらんによい」と続いています。これこそ、まさに鍋メニューと近い価値であり、新たな潜在的な可能性を秘めたメニューではないかと思っています。また、「蒸し料理」に合う季節としては、冬本番の前のまだ暖かい秋口や、少し肌寒い春先などにふさわしく、そのような季節的な観点からも鍋料理を発展させ、補完していくメニューになるのではないかと思います。現在も、このメニューのブームは継続していて、蒸し機能のついたホットプレートが家電売場で売られており、タジン鍋などの蒸し専用調理器も人気が出ている模様です。
今後は、この「蒸し料理」の家庭における早期定番メニュー化を目指して、さまざまな場面でのメニュー提案をますます積極的に行っていき、野菜をたっぷり食べるメニューを提案していきたいと考えています。