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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線⑮
3~4月どりの加工・業務用だいこんの抽台抑制技術の開発


鹿児島県農業開発総合センター大隅支場
園芸作物研究室長 福元 伸一


1.はじめに

 だいこんは、おでんなどの煮物、漬物、刺身のつまなど、さまざまな形態で加工・業務用として利用されています。国内で生産されるだいこん162万トンのうち、60%近くは加工・業務用として利用されています。また、海外からは生鮮換算で年間約11万トンのだいこんが輸入されていますが、そのほとんどは、加工・業務用に供されます。

2.だいこんの3~4月どり栽培の特徴

 だいこんを3~4月に収穫する場合、一番の問題は抽台(とう立ち)です。抽台しないようにするには、抽台しにくい品種の利用や、ポリフィルムなどでトンネル被覆をして栽培する必要があります。この時期に収穫する作型では、ほかの時期に収穫する場合よりも、生産コストが高く、収穫量が少ないため、価格が高く、主に青果用として利用されています。その結果、この時期の加工・業務用には、安価な輸入品が利用されることとなります。

3.研究内容

 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場では、平成20年度から、新たな農林水産施策を推進する実用技術開発事業「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」の中で、「3~4月どりだいこんの抽台抑制技術の開発」に取り組んでいます。

 研究内容は、大きく2つに分かれ、被覆栽培に対応した効率的栽培技術の開発として、「晩抽性品種の選定」「1粒播きによる間引き省力化」などに取り組んでいます。また、省力機械化技術の開発として、「効率的なは種前後作業体系の確立」「トンネル敷設・回収作業の省力化技術の開発」に取り組んでいます。

4.試験結果

(1)トンネル被覆栽培に対応した効率的栽培技術の開発

①晩抽性品種の選定

 だいこんの3~4月どりとしては、「抽台が遅いこと」「加工・業務用としては根色が白いこと」「肉質が緻密で硬いこと」「尻詰まりが良く円筒形であること」などが望まれます。そこで、これらの品質を満たす品種について検討しました。

 12月10日播きでは‘梅風’を、1月14日まきでは‘つや風’を対照品種として、合計10品種・系統について比較しました。その結果、12月10日まきでは内部の緑色が薄く、尻詰まりが良く、根形の揃いが良い、‘貴誉’が有望でした。1月14日まきでは抽台が遅く、尻詰まりが良い、‘春みのり’と‘YR三川’が有望でした。

②1粒まきによる間引きの省力化

 通常、だいこんでは、種子を2~3粒ま種し、本葉5、6枚の頃に1本に間引きしますが、3~4月どりでは、種まき後にトンネル被覆を行うため、間引きに時間がかかることが想定されることから、間引きの省力化を目指して1粒まきについて検討しました。

 1粒まきでは、発芽率を高め、欠株を減らす必要があることから、種子を粒径で選別し発芽率の向上を図ることにしました。2デシリットル缶に入っている‘つや風’の全種子の粒径を測定したところ、小さいものは1.6ミリ未満、大きいものは2.5ミリ以上で、2.1ミリ以上の種子が70%を占めました。また、粒径別に発芽率を比較したところ、粒径2.1ミリ未満の種子では発芽率は93%以下でしたが、粒径2.1ミリ以上の種子では発芽率は97%以上と、粒径の大きい種子を使うことで発芽率が高まることが明らかになりました(図)。

図 種子の粒径と発芽率の関係

 この結果をもとに、粒径が大きい種子を1粒まきしたところ、2粒まきした場合と同程度の収量を得ることができました(第1表)。

第1表 1粒は種が生育・収量に及ぼす影響

注1)
粒 径:大 2.2mm以上2.5mm未満
2)
耕種概要:品種 つや風、は種 2001年1月16日、2条植、間引き 同2月13日、被覆資材除去
同3月23日、収穫 同4月13日
3)
葉 長:最大葉長 根径:上部 青首部分の境、下部:先端より10cm
4)
( ):標準偏差

③多条栽培技術の開発

 現在、トンネル被覆栽培では、2条植えが多いため、作業姿勢が悪く、作条数やトンネル敷設数が多いという課題を抱えています。また、作業用通路を確保する必要があり、効率的とは言えません。そこで、効率的な栽培体系として、3~4条の多条栽培技術について検討しました。

 ‘つや風’を用いて、2条植え、3条植え、4条植えについて比較しました(第2表)。1月19日に種をまき、トンネルは種まき後に被覆し、3月23日に除去しました。なお、この試験では、2粒まき後、間引きし、畦の向きは南北としました。

第2表 多条栽培試験の試験区

 3条植えと4条植えでは、中側の根重が小さく、総収量は2条植えより劣りました(第3表、写真1)。中側では受光条件が悪かったことが要因の一つと考えられます。また、3条植えの条間25センチと30センチを比較すると、中側のだいこんの曲根発生率は条間の広い30センチの方が高くなりました。同様に4条植えでも条間30センチでは25センチよりも、中側の曲根発生率が高くなりました。加工・業務用だいこんでは曲がりがない円筒形のものが好まれるので、条数や条間については再検討することにしています。

第3表 曲根発生率と収量

注1)
収穫:2009年4月22日
2)
曲根:湾曲部分が1cm以上


写真1 多条栽培の立ち毛状態と収穫物(上下段とも左列が東側)

(2)省力機械化技術の開発

①効率的な種まき前後作業体系の確立

 だいこんの3~4月どりでは、種まき前後に耕うん、施肥、薬剤散布、畦立、マルチなど多くの作業を行う必要があります。そこで、これらの作業を一度に行うことができる一工程作業機の開発にも取り組んでいます。

 試作機は、トラクタロータリ装着型で、施肥機と薬剤散布機との組み合わせにより、施肥、耕うん、畦立、種まき、薬剤散布、マルチが同時に行える機械です(写真2、写真3、写真4)。種まき機部分は、シードテープ播きとポリフィルムの種子部分の穴あけ後マルチ敷設の同時作業が可能です。また、種子の封入間隔を変更することで株間を調節できます。これにより、ポリフィルムに穴をあける加工が不要なことからマルチ加工代の削減が見込まれます。


写真2 一工程作業機

写真3 畦内混和施肥

写真4 薬剤播種溝土壌混和

 シードテープ種子封入間隔と同時穴あけシーダーマルチャによる種まき間隔は、ほぼ同等で精密な種まき作業が可能でした。また、シードテープに1粒封入しても、種まきは可能でした。試作機の10アール当たりの作業能率は、3条作式で1.1時間(延べ2.2時間)、4条作式で0.9時間(延べ1.9時間)で、慣行の作業時間(13.5時間)より大幅な省力化が可能となります。

②トンネル敷設・回収作業の省力化技術の開発

 種まき後のトンネル敷設は、だいこんの抽台抑制に欠かせない作業です。トンネル敷設を手作業で行うと10アール当たり15時間かかり、3~4月どりの場合、季節風が強い時期とも重なり、重労働となります。そこで、トンネル支柱の打ち込みとトンネル資材被覆の機械化技術の開発について、数種のトンネルの形状を検討しました(第4表、写真5)。

第4表 トンネル支柱敷設機の概要とトンネルの形状
単位:cm


写真5 トンネルの形状

 10アール当たりのトンネル支柱の打ち込みにかかる時間は、支柱の曲げ作業と打ち込みの両方を機械化した場合には、1.6時間と最も早く、打ち込みのみを機械化した場合には2.1時間を要しました(第5表)。整形管を支柱とした場合には、1畦分の整形管を機体に搭載することが不可能なことから整形管を運搬する補助者との組作業が必要となり、作業時間は延べ3.8時間かかりました。作業能率を考慮すると直線支柱の利用が適しています。

第5表 トンネル支柱打ち込みからトンネル除去までの労働時間
単位:h/10a

 10アール当たりのトンネル被覆にかかる時間は慣行の10.8時間に対して、支柱の曲げ作業と打ち込みを機械化した場合には、1.8時間と作業能率は6倍に向上しました。当初、打ち込みのみを機械化した場合にも自走式トンネル敷設・回収機を利用してトンネル資材被覆作業を行う計画でしたが、資材幅が270センチと広く機体が隣接する被覆済みの支柱に接触し、機械による被覆作業が不可能でした。幅が270センチの資材を利用する場合は、畦幅を30センチ程度広げる必要があります。

 トンネル支柱打ち込みからトンネル除去までの10アール当たりの作業時間は、慣行の30.4時間に対し、支柱の曲げ作業と打ち込みを機械化した場合には19.2時間、打ち込みのみを機械化した場合には28.7時間、整形管を支柱とした場合には28.8時間でした。

5.おわりに

 「3~4月どりだいこんの抽台抑制技術の開発」の一年目の試験成績を紹介しました。1粒播き技術と一工程作業機の開発については実用化の目処がつき、特に1粒まき技術はすでに鹿児島県内の農業法人で導入され、一工程作業機については製品化に向けた動きもあります。多条栽培技術については、3条栽培を中心に検討を進め、条内外の生育差や曲根発生率を改善する栽培技術の確立を目指すことにしています。


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