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情報コーナー



加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線⑭
業務用需要に対応した露地野菜の低コスト
・安定生産技術の開発の概要について


独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
野菜茶業研究所
業務用野菜研究チーム長 東尾 久雄


 本誌情報コーナーでは、平成19年11月~20年4月、平成20年11月~21年4月に引き続き、本年10月号から再び「加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線」と題して、農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」の各試験・研究機関における取り組み状況について連載してきましたが、今月号から22年2月号にかけて、同じく農林水産省の委託研究開発事業である「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」の課題の一つである「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」における各試験研究機関の取り組み状況などについて紹介します。

 今月号では、はじめに、本課題の中核機関で研究総括者である、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 業務用野菜研究チームの東尾チーム長から、本課題の目的と全体の概要および各試験研究機関が取り組んでいるテーマを紹介していただき、併せて、本課題に取り組んでいる鹿児島県農業開発総合センター大隅支場園芸作物研究室の福元室長から「3~4月どり加工・業務用だいこんの抽台抑制技術の開発」の取り組み状況について詳しく紹介していただきます。

はじめに

 家庭で調理して食事をする習慣が少なくなるとともに、外食・中食産業が成長し、これらの業種に加工・業務用として供給される野菜の需要が伸びています。このため、最近では多くの露地野菜の消費においても加工・業務用需要が50%以上を占めるようになりました。一方、農産物流通のグローバル化が進み、平成17年には、野菜の輸入割合は32%にも及びました。これまでも、国内野菜産地の維持・発展のために生産コストの削減への取り組みが進められてきましたが、今後とも増加基調にある加工・業務用野菜の需要に対応するためには、実需者の要望に応えるとともに、一層の低コスト化と周年安定供給に向けた取り組みが、露地野菜生産においても重要な課題となっています。

 しかし、生産費のコストダウンへの取り組みにおいては、規模拡大を目指した作業技術の機械化が有効な手段の一つとなりますが、これまで採用されてきた慣行の生産体系では、一層のコストダウン化は難しい状況となっています。

 このような状況の中、農林水産省では、平成20年度から農林水産業・食品産業の発展や地域の活性化などの農林水産政策の推進および現場における課題の解決を図るため、「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」をスタートさせました。

 この事業は、「研究領域設定型研究」「現場提案型研究」「緊急対応型調査研究」の3つの研究タイプからなり、そのうち「研究領域設定型研究」「現場提案型研究」については、産学官の共同研究グループから研究課題を公募し、採択されたものについて委託事業として実施するというものです。

 そこで、当機構野菜茶業研究所では、露地野菜の低コスト・安定供給に寄与する技術を開発し、業務用野菜需要に対応する新たな露地野菜生産体系の確立を目標に、同事業の「研究領域設定型研究」の領域の一つである「競争力強化のための生産システムの改善」において、「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」を提案し、実施課題として農林水産省から採択され、11の農業試験研究機関による共同研究により、それぞれの研究計画に基づき各テーマに取り組んでいるところです。

 本稿では、「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」に取り組む事例の中から、「栽植方式の見直しによる省力生産技術の開発」「新たな技術などの導入による多収穫生産技術の開発」「安定供給確保のための新作型の開発」「安定供給確保のための簡易生育環境改善技術の開発」の各テーマについて、どのような研究に取り組んでいるのかを紹介します。

図 新たな農林水産政策を推進する実用開発事業
「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」の概要


1.栽植方式の見直しによる省力生産技術の開発

 生産コストの一層のコストダウン化を進めるため、これまで青果向けとして採用されてきている栽植方式を見直し、業務用実需者からの要望が強い野菜の低価格化を可能にする技術開発に取り組んでいます。

 具体的には、収穫・調製作業が重労働である「ごぼう」では、加工・業務用においては、歩留まり重視であることから、極太・短根系ごぼうが有望と考えられます。そこで、従来のトレンチャーなどの大型機械を利用した機械化体系に代わる、極太・短根系ごぼうに適し、かつ省力化した栽植方式を提案したいと考えており、この件の詳しい内容については、本誌1月号に記事の掲載を予定しています。また、「にんじん」では、加工・業務用として歩留まりの高い大型規格のにんじんを低コストで出荷できる体系を確立する必要があります。このため、品種、局所施肥機を利用した「施肥播種一貫体系」「無間引き栽培を可能にする栽植密度」「ほ場貯蔵性」について検討しています。一方、「ほうれんそう」の生産においては、大型規格で単収が増加し、調製作業が軽減され、時間当たりの農業所得の増加・規模拡大の可能性が期待されています。そこで、「大型規格栽培に適した品種選定」「連続安定出荷のための栽培可能時期の把握」「省力のための機械化に対応する栽培技術」「雑草対策技術」などの開発を進めています。

2.新たな技術等の導入による多収穫生産技術の開発

 生産費の低コスト化に当たっては、省力化だけでなく、単位面積当たりの収量を高める多収穫技術と、それに関連する技術も重要です。このため、品種、栽植密度、肥培管理、栽培法について多収性を検証し、搬送技術の見直しに取り組んでいます。

 「さといも」では、埼玉県で選抜された丸系八つ頭は1個の大きな丸い親芋を形成し、調理加工適性に優れるだけでなく、多収性を備えていることから、本系統を使った多収栽培技術の開発を進めており、この件の詳しい内容については、本誌2月号に記事の掲載を予定しています。また、「たまねぎ」では、固形分含量の高いたまねぎに対する業務用途からの要望に応えるとともに、葉茎・根菜類の多収性に大きな影響を持つ根域環境への養水分供給と群落としての生産力との関係を解析し、高品質・多収生産に最適な栽植方式を明らかにしたいと考えています。さらに、業務用需要が増加している鍋用2L規格に特化した「ねぎ」の生産体制を確立するため、埼玉県が開発した根深ねぎの「平床植え栽培法」を活用した大型規格の根深ねぎ多収穫生産技術の開発に取り組んでいます。

 一方、生産物の出荷時における大型コンテナの利用は、資材費のコスト削減、収穫作業の軽労化の観点から注目されています。そこで、ほ場内での収穫から出荷施設まで同一の大型コンテナを利用する「キャベツ」の搬出作業体系を開発し、省力化、軽労化効果および収穫物に及ぼす影響を明らかにします。

3.安定供給確保のための新作型開発

 業務用野菜の実需者からは、生産物である野菜の定量出荷に対する強い要請もあります。これに応えるためには、長期出荷を可能にする新作型の開発が必要となります。



(たまねぎの根域量と生育に関する試験)
(ねぎの栽植密度試験)


(たまねぎの栽植密度試験)
(キャベツの大型コンテナの利用)

 業務用として利用されることの多い輸入たまねぎに対抗するには、業務用に適した大玉比率が高く、かつ玉揃いの良い「たまねぎ」を安定供給することが急務となっています。また、府県産たまねぎの収穫は、5~6月に集中しています。そこで、労力分散を図り、業務用適性の高いたまねぎを安定生産するため、品種、は種・定植時期、栽培管理方法の検討により、たまねぎの7月どり作型を新たに開発します。また、12~3月にかけての国産「レタス」の生産は、西南暖地が主体となりますが、輸送コストの関係から首都圏への供給が不足がちです。一方、パイプハウスは、トンネル栽培と比べて一般に保温効率が高いとされています。このため、夏秋どりトマト栽培などで利用されたパイプハウス跡地を使って、この時期にレタスを安定供給できる生産技術を開発します。

4.安定供給確保のための簡易生育環境改善技術の開発

 生育温度が低下する冬季においては、気象災害による悪影響を緩和するためにトンネル被覆を行う必要があります。このため、安定供給を確保する上で克服すべき課題が多くあり、これら諸課題の克服に向けて技術開発を進めます。

 「キャベツ」の1月~3月どり作型は、厳寒期の栽培となることから、栽培年次によっては寒害による品質低下を受け、一斉収穫が難しい場合もあります。そこで、適性品種の選定、育苗・施肥技術などの改善による収穫斉一性の向上、低コストで簡易に寒害を回避する技術を開発します。また、3~4月どりの「だいこん」は、鹿児島にあっても低温による抽台の危険性が高く、トンネルやハウス栽培が行われています。しかし、トンネルの敷設・回収に多くの労力を要し、トンネル敷設は間引作業の妨げにもなっています。そこで、被覆栽培に対応した施肥、防除、畝立・は種・マルチ一工程化技術を開発し、鹿児島県が開発したトンネル敷設・回収機の利用技術について検討しており、この件の詳しい内容については、今月号に別途紹介しています。さらに、「ねぎ」については、4~5月の時期は、生理的特性から抽台発生や高温期の生育不良などにより出荷の端境期が出来てしまいます。このため、規格の大きい品種を選定し、品種の抽台特性を明らかにし、抽台回避を目的とした地温およびトンネル内温度との関係を踏まえた保温管理技術の開発にも取り組んでいます。

今後について

 私たちの研究計画には、最近の技術進展が著しいIT(情報技術)やRT(ロボットテクノロジー)などの先端技術を活用する研究は含まれていません。また、開発する技術の革新性は乏しいことも否めません。しかし、地域条件に応じた農林水産物の大幅な低コスト化や周年安定生産を可能にする生産技術の開発および技術体系の確立に応えるべく研究課題を設定し、精力的に取り組んでいます。

 本稿では、「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」について各試験・研究機関が現在取り組んでいるテーマとして「省力生産技術の開発」「多収穫生産技術の開発」「安定供給のための作型の開発」「安定供給のための簡易生育環境改善技術の開発」の概要について紹介しましたが、今月号から2月号にかけて、この中から「3~4月どりの加工・業務用だいこんの抽台抑制技術の開発」をはじめ、「業務用ごぼうの省力生産技術(仮題)」「業務用に適するさといも新系統『丸系八つ頭』の多収穫生産技術(仮題)」について、各試験・研究機関の取り組み内容を詳しく紹介する予定としています。


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