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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線⑬
加工・業務用キャベツの客観的な食感評価方法の開発(その2)
~二方向引っ張り試験によるカットキャベツの力学特性評価~


独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
食品総合研究所食品機能研究領域
食品物性ユニット長 神山 かおる


1.はじめに

 近年、ライフスタイルの変化、食の外部化の進展などの影響により、一次加工された業務用野菜の流通は増加傾向にあり、そのニーズは一年を通してある。その一方で、消費者からは「食の安全・安心」の観点から国産野菜を原料としたものが求められているが、加工・業務用の原料として加工適性の高い国産野菜は、端境期に供給量が不足するという課題がある。例えば、外食、弁当・総菜、ホテルなどで需要が多い千切りや角切りのカット用のキャベツは、4~5月に不足している。

 農林水産省の委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」では、加工・業務用に適した国産野菜の供給に関わる試験研究が続けられているが、当ユニットもこのプロジェクト研究に参画することにより、これまで多数の食品の食感に関する研究を行ってきた知見を生かし、客観的に野菜の食感を評価する技術開発に取り組んでいるところである。

 具体的には、加工・業務用キャベツの力学特性について、より加工適性に優れたキャベツの選定を可能とするために、機器による客観的な評価方法を開発するというものである。

 本稿では、前回の大阪府環境農林水産総合研究所に引き続き、4~5月におけるキャベツを例として取り上げ、品種、栽培条件、貯蔵条件などの影響を検討したカットキャベツの力学特性評価を紹介する。

2.キャベツ試料

 一般に、業務用の機械を用いてキャベツを千切りカット加工するのに向いている品種は「寒玉系」といわれるキャベツである。「寒玉系」は、扁平型の形状を有し、葉の枚数は50枚程度と多く、結球部の密度(結球緊度)の高いキャベツであるが、春期の南関東では「春系」品種の‘金系201号’が多く栽培されている。「春系」キャベツは、縦に長いか、球状の形状をし、薄い葉が球当たり30枚程度と「寒玉系」と比べると緩く結球し、機械によるカット加工を行うには歩留まりが悪いという性質がある。

 試料のキャベツは、神奈川県三浦市の神奈川県農業技術センター三浦半島地区事務所で栽培したものを収穫後直ぐに茨城県つくば市の当研究所に輸送し、収穫後1日後から3日以内に室温20度により試験を行った。

 貯蔵試験に際しては、段ボール箱に入れたキャベツを室温20度と5度に保管し、試験前の数時間は20度の部屋に戻してから行った。品種は、①典型的な「春系」キャベツ②秋まき初夏どり条件で栽培した4~5月に収穫可能な品種(「寒玉系」および「中間系」を含む)③「寒玉系」キャベツのうち夏まき春どり条件で栽培し、4月に抽台(とう立ち)が起こらず出荷可能な品種を選んだ。

3.二方向引っ張り試験の方法

 簡単に試験手順を説明する。詳しくは原報(文献3~5)を参照していただきたい。
(1) キャベツの外側から数えて第五葉を用い、第二葉脈に対し平行と直交方向に短冊状(10ミリ×60ミリ)にカットした試料片をできるだけ広い部位を含むようにそれぞれ10片程度調製した(図1)。

図1 キャベツ第五葉から試料片調整の模式図

  このように一つの試料片を千切りカットキャベツのモデルと位置づけたが、キャベツは一個体内のみならず一枚の葉の中でも部位差が大きいため、実際にカットして利用する時のように芯を除く全ての部位の荷重値を測定して、それを平均化したものを全体の性質として考えた方が、試験する部位を固定するよりも、カットキャベツの性質を示すには適している。

(2) 試料片の上下25ミリ部分を「万能力学測定装置」(等速で稼働し、連続的に荷重を測定することができる装置)の引張用チャックで挟み、毎分250ミリの等速で引っ張り、破壊するまでの荷重値を測定する(図2)。

図2 試験片と引張方向の関係(左)破壊した後の試料(右)
上下25ミリ部分をチャックで挟み引っ張り破壊する

(3) 第二葉脈に直交方向に引っ張ると、薄い葉肉部分が破壊される。この破壊力は、従来行われていた葉の貫入破壊試験(穴をあけるのに必要な力を測定する方法)結果とよく相関することがわかった(図3)。したがって、繊維に沿って破壊される葉肉の力学的性質を見ていることになる。

図3 葉脈に直交方向の引張試験と貫入試験における破壊荷重の関係
同じ記号は同一個体からの試料を示し、各点は5センチ以内の近い部位の異なる破壊試験結果の比較。

(4) 一方、図4に示すように、第二葉脈に平行方向に引っ張る時に得られる力学特性は、直交方向の試験で得られた結果よりも強度が高かった。平行方向に引っ張ると、噛みごたえや筋っぽさなどと関係すると考えられる葉脈を含む部位の破壊、すなわち繊維を切るときの力学特性が評価できる。

図4 二方向の引張曲線の例
葉肉部が切れる直交方向よりも、葉脈を切る平行方向へ引っ張るときの破壊荷重が大きい。

(5) 直交と平行方向の試験結果は、互いに相関しなかった。したがって、両方向の試験結果を用いることにより、さまざまな方向に切れたものが混ざっているカットキャベツの力学特性をより詳しく表現することができる。

(6) キャベツでは一個体、一枚の葉内における部位差が、品種差、収穫条件差や同一部位を調べた個体差よりも大きいことが少なくない。例えば、図3に見られるように、一枚の葉上の異なる部位間の力学特性は2倍以上違うことがある。このように、大きな部位差があるため、各方向について多数(できれば10試料片以上が望ましい)の測定を行う必要がある。また、キャベツの個体差もあるので、できれば同条件のキャベツ試料が5個体以上あると望ましい。

(7) 試料片破壊後の結果分析に際しては、平行と直交の二方向の、破壊断面の厚さ、破壊歪、破壊荷重、破壊応力、弾性率という計10変数の同一個体における平均値を用いて主成分分析を行う。

(8) 多くの場合、上記の10変数から合成した3~4個の主要な変数が抽出でき、単独変数では説明できなかった試料の力学的な特徴を明らかにできる。図5に示すように、第1、第2主成分を軸として、試料ごとの平均値をグラフに描くと試料の特徴が理解しやすくなる。

4.二方向引っ張り試験の実施例

(品種の比較)

 一例として、カット加工用に適した「寒玉系」キャベツが不足する4~5月に、神奈川県三浦市で収穫された品種の比較を示す。この主成分分析では、意味のある主成分が4個抽出されたが、表1に示すように、第1主成分が「葉の厚さと破壊荷重」、第2主成分が「破壊歪と繊維に直交方向に引っ張ったときの破壊応力」、第3主成分が「平行方向に引っ張ったときの破壊応力と弾性率」、第4主成分が「直交方向に引っ張ったときの弾性率」に関係する性質であると考えられる。

 図5に示した12品種においては、5月に収穫した「寒玉系」キャベツは、4月に収穫したものよりも「中間系・春系」により近い特徴を示した。5月に収穫した遺伝的に「中間系」の品種は、図5の点線のように「春系」に近い品種と「寒玉系」に近い品種に二分される。このうち、「寒玉系」に近い品種はまずまずの加工適性であるが、「春系」と同等の力学特性を示す品種は加工には向かないと言えよう。

(低温貯蔵の影響の検討)

 2~3月ごろ収穫した「寒玉系」キャベツを低温倉庫で貯蔵して、4~5月に供給することも行われている。本方法を用いて図5にも示した‘T-520’と‘冬のぼり’を調べたところ、3月に収穫後常温あるいは低温貯蔵したキャベツは、破壊荷重は有意には変わらないものの、破壊に至るまでの変形量が大きくなり、弾性率が低くなる傾向が認められた。この力学特性は、噛み切りにくく好ましくない食感と考えられる。おそらく、機械によるカット加工も難しいと考えられ、著しく加工適性が低いことが示唆される。

図5 12品種の春期収穫キャベツの主成分分析結果
各プロット点は一個体の第五葉から8回以上測定した平均値の主成分得点を示す。

(在圃期間の異なるものの比較)

 図5に示した品種のうち、平成20年2月から5月上旬まで異なる収穫日の‘T-520’と‘冬のぼり’のカット後の力学特性を調べた。3月から4月にかけて両品種とも球が肥大したが、葉の引っ張り破壊試験結果は収穫直後のものを比較すると、いずれの力学特性値にも有意な差がほとんど認められなかった。収穫可能なキャベツの在圃期間を伸ばしても、肥料や農薬のコスト増は、低温貯蔵のコストよりも少ないと考えられる。在圃期間中に球内抽台や裂球、腐敗が起こり、品質が落ちて使えなくなるため一般には普及していないが、在圃性の高い品種を選んで品質劣化が起きない範囲で収穫時期を遅らせれば、4月に業務用キャベツの供給ができると考えられる。球重や結球緊度が大きくなっても、同条件で栽培・収穫した同品種の標準的な球と比較して、葉の力学特性は有意な差が認められなかった。

 以上の結果から、春期に加工・業務用キャベツを提供するには、球内抽台しにくい「寒玉系」の品種を選び、品質劣化が起こらない限り過熟させて大玉とし、収穫後貯蔵せずに加工するのが好ましいと示唆される。大玉が得られ、かつ、貯蔵した場合の冷蔵コストや力学特性の変化として明確に現れた鮮度低下の影響を避けることができるであろう。

表1 各物性値に対する因子負荷量

5.おわりに

 カットキャベツの加工適性評価法として、キャベツの葉の葉脈に対し平行および垂直方向への引っ張り破壊試験結果を主成分分析することにより、カットキャベツの力学的特徴を示すことができた。これにより、野菜試験研究者あるいは加工業者などが品種、栽培方法、貯蔵条件、収穫時期などが異なるキャベツの加工適性評価に使えると考えている。もちろん同じ手法でレタスなどの他の葉菜類も分析は可能である。

 本研究では加工業者の好む高い歩留まりを示す力学特性を指標として、加工適性を測定し、同時に試料間の比較も行った。しかし、消費者の好みを指標とする場合、本方法で高く評価された試料が、必ずしも高い評価を得るとは限らない。消費者の観点からの評価も必要であろう。

 主成分分析は、力学特性のみならず、化学成分値や官能評価点を加えた解析にも容易に応用できるという特徴がある。今後、消費者に好まれるキャベツの評価にも応用できるであろう。

文献

1)太田和宏:4、5月どり寒玉系キャベツの品種選定について.野菜情報,48(3),54-57(2008)

2)高井雄一郎:加工・業務用キャベツの客観的な食感評価法の開発.野菜情報,49(10),18-23(2009).

3)Kohyama, K., Takada, A., Sakurai, N., Hayakawa, F. and Yoshiaki, H.: Tensile test of cabbage leaves for quality evaluation of shredded cabbage. Food Science and Technology Research, 14(4), 337-344 (2008).

4)Kohyama, K., Takezawa, Y., and Takada, A.: Effects of head size on the mechanical properties of shredded cabbage. Food Science and Technology Research, 14(6), 541-546(2008).

5)Kohyama, K., Saito, T., Takezawa, Y., Matsumoto, I., and Yoshiaki, H.: Effects of head density of cabbages(Brassica oleracea var. Capitata)on mechanical properties. Food Science and Technology Research, 15(1), 11-18(2009).

6)神山かおる,高田敦之,永田雅靖:二方向引っ張り試験による4月の業務用カットキャベツ原料の力学特性.日本食品科学工学会第56回大会講演集,p.94(2009).

7)神山かおる,田中敏江,高田敦之:二方向引っ張り試験による収穫時期の異なる寒玉キャベツの加工適性評価.園芸学研究,8(別2),347(2009).


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