の三つの視点を組み合わせて分野間の連携を図りながら53の研究課題に取り組んでいます。
本誌では、この取り組み状況について「加工・業務用野菜の品種および技術研究最前線」として2007年12月号から11回にわたり紹介してきたところです。
また、今月号から引き続き「加工・業務用野菜の品種および技術研究最前線」として、途中、実用技術開発事業「業務用需要に対応した露地野菜の低コスト・安定生産技術の開発」(平成20~22年度)の取り組み状況も交えながら紹介します。(加工・業務用に適したキャベツの品種と供給の課題)
キャベツは、お好み焼きやサラダ、野菜炒めといったさまざまな料理の食材として、日本の食卓に欠かせない野菜の一つです。また、需要の約半分はカットキャベツを中心とした加工・業務用であり、食品加工を行う実需者からは、一年を通して安定した品質であることが求められています。業務用で求められるキャベツの品種は、硬く結球して、歩留まりがよく、加工適性の高い「寒玉系キャベツ」と呼ばれるものですが、「寒玉系キャベツ」は、春の気温の上昇に伴い、芯を伸長させ、抽台(とう立ち)するという生理的特性があることから、4月、5月には供給不足となります。元来この時期には「春系キャベツ」の生産が行われていますが、「春系キャベツ」は、「寒玉系キャベツ」に比べ肉質が柔らかく、みずみずしい反面、結球の締まり具合が柔らかく、加工には不向きであるとされています(図1)。このようなことから、実需者の4月、5月における「寒玉系キャベツ」の手当は、冷蔵物や輸入物で対応する場合もあります。
(食感の評価方法への要望)
また、加工・業務用キャベツは、主に歩留まりや作業性について評価されていますが、食味も重要な要素です。その食味と並んで重要な品質項目である「食感」は、評価する者が直に触れるか食べるかして、経験や勘によって評価しています。この方法では、評価する者によって、また、試食する部位などによって評価が変わることとなり、年間を通して安定した品質管理を行うことが困難であることなどから、実需者からは、機械測定による客観的なキャベツの食感の評価方法が求められています。
こうした中、大阪府では、平成18年度から農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」(加工・業務用農産物プロジェクト1系(野菜))に参画し、客観的にキャベツの「食感」を評価する技術の開発に取り組んできました。
(研究の取り組み内容)
今回のプロジェクトの目的は、品種や収穫期が物性に与える影響を機械により数値化し、4月、5月における「寒玉系キャベツ」の生産に適した品種の選定、品質の管理、食感の管理などに役立て、この時期の「寒玉系キャベツ」の生産の振興につなげるというものです。
はじめに、キャベツの食感を表す基準としてキャベツの「硬さ」を用いることとし、既存の機械に当研究所が改良を加えた「物性測定装置」により、「春系キャベツ」と「寒玉系キャベツ」の収穫時期ごとの荷重(硬さ)を求め、「春系キャベツ」と「寒玉系キャベツ」の硬さの違いを数値化して明らかにしました。
次に「寒玉系キャベツ」の品種ごと、収穫時期ごとに荷重の値を求め、その値の変化の推移から4月、5月における「寒玉系キャベツ」の生産の可能性について調べました。
さらに、荷重の値に影響を与える要因の一つと考えられる水分含量についても種別ごと、収穫時期ごとに含量を調べ、その値の変化の度合いから4月、5月に収穫したものが「寒玉系キャベツ」として特性を有しているかを調べました。
キャベツの硬さ(荷重)を数値化する装置として、大阪府で使用している「物性測定装置」は、キャベツを噛み切るときの力を想定して設計されています。直線に並んだ10本の歯で、カットキャベツ(千切りキャベツ)を押し切り、そのときにかかる荷重を測定する装置です(図2左)。
これまでに、キャベツの上部、中央部、下部、それぞれの部位の切片について荷重を測定しました。そして、5センチメートル角の四角い切片では、キャベツの部位によって荷重がばらつくことがわかりました。そこで、1ミリメートル厚にスライスしたキャベツをランダムに配置することで、このばらつきを小さくすることができました(図2右)。
平成18年度からこの装置を用いてカットキャベツの噛み切りやすさの目安となる荷重が収穫時期や品種でどのように変化するかを調査しました。
まず、「春系キャベツ」の品種として‘金系201号’、「寒玉系キャベツ」の品種として‘冬のぼり’‘T-520’を神奈川県農業技術センターから取り寄せ荷重を測定しました。
測定の結果、3月に収穫する作型の荷重の値は、春系の‘金系201号’の116.3N(単位はニュートン。以下同じ)に対して、寒玉系の数値は高く、特に‘冬のぼり’の値は152.6Nと高い値を示しました。また、同様に4月に収穫する作型においても若干値は下がったものの、‘冬のぼり’は136.4Nと依然として高い数値を示し、「寒玉系キャベツ」の特徴が十分に出ていたことが明らかになりました(図3)。この調査により加工・業務用キャベツにおける一つの重要なポイントである「硬さ」について、「春系キャベツ」と「寒玉系キャベツ」の違いを数値化して客観的に表すことができました。
次に、寒玉系の‘冬のぼり’と‘T-520’について、収穫時期ごとの荷重を調べました。どちらの品種も2月から4月にかけて、数値が小さくなる(冬のぼりで164.1N→136.4N)ものの、図3の春系の‘金系201’(109.7N)ほどではありませんでした(図4)。しかし、5月に収穫した‘T-520’は、比較的「春系キャベツ」に近い数値(114.0N)でした。‘T-520’は、裂球や抽台(とう立ち)しにくく、非常に晩成で4月収穫に適していますが、収穫時期を5月まで伸ばすと、水分含量の影響を受けるため荷重が変化するものと思われます。この結果、寒玉系の‘冬のぼり’と‘T-520’については、4月までの収穫であれば、硬さに関しては「寒玉系キャベツ」の特徴を発揮していることが明らかになりました。
一方、5月に収穫する作型に有望な品種として、寒玉系の‘さつき王’と‘N0553’を追加して選定し、先ほどの‘T-520’を加えて5月に収穫してそれぞれの荷重の値を比較してみたところ、荷重の値は‘T-520’が114.0N、‘さつき王’が119.7N、‘N0553’が123.1Nとなり、‘N0553’は‘T-520’に比べて9.1Nほど高い数値となり、5月に収穫する「寒玉系キャベツ」の品種の中では、‘N0553’が有望であることが改めて明らかになりました(図5)。
また、キャベツを加工するときに、品質や荷重の値に影響を与える要因の一つに水分が挙げられます。最終的に口にする消費者の視点では、みずみずしいものが望まれますが、カット時に水分が出すぎる(ドリップが多いと表現されることもあります)ものは、加工適性が低く、衛生の観点からも望ましくないという実需者の声もあります。
今回のプロジェクトでは、キャベツの品種と収穫時期の違いで、水分がどのように変化するかについても調査し、先ほどの荷重の値の変化の推移との関係について調査しました。
まず、「春系キャベツ」の‘金系201号’と「寒玉系キャベツ」の‘冬のぼり’‘T-520’‘さつき王’‘N0553’を比較してみたところ、‘冬のぼり’が92.1%と最も水分含量が低く、‘金系201号’が94.3%と最も水分含量が高くなりました(図6)。水分量としては、ほんの2~3%の違いですが、春系キャベツのみずみずしさは、この違いにあるものと思われます。
次に、‘冬のぼり’と‘T-520’について、収穫時期ごとの水分含量の変化を調査しました。その結果、どちらの品種も3月から4月にかけて、水分含量が高くなる傾向にありました(図7)。さらに、5月に収穫した‘T-520’の水分含量は94.8%を示し、どちらかというと、「春系キャベツ」の平均的な水分含量の94.3%に近い水分含量でした。これらのことから、先ほどの荷重値の変化は、水分含量の変化が影響しているものと思われます。
「寒玉系キャベツ」について、4月、5月と収穫時期を変えながら食感を表す荷重値を「物性測定装置」を用いて数値化し、加えて、食感に影響を与える水分含量を測定しました。これらのデータを元に、客観的に4月、5月収穫の「寒玉系キャベツ」が、2月、3月収穫の「寒玉系キャベツ」と同様の特徴を有しているかについて「春系キャベツ」と比較しながら評価しました。その結果、「寒玉系キャベツ」の品種のうち、研究に使用した‘冬のぼり’と‘T-520’‘さつき王’‘N0553’などについては、4月までの収穫であれば、硬さに関しては「寒玉系キャベツ」として評価できるとみられ、5月に収穫が可能な品種としては‘N0553’が「寒玉系キャベツ」としての特徴を有していることが分かりました。
今後は、4月収穫、5月収穫の「寒玉系キャベツ」のさらなる品質の向上を目標に、暖地と寒冷地の違いや施肥による影響を調査するとともに、より食感を表現できる手法の開発に取り組みたいと考えています。併せて「物性測定装置」のより簡便で小型のものの生産、加工現場への導入を簡単にする技術の開発に取り組んでおり、4月、5月期における「寒玉系キャベツ」の生産振興に寄与したいと考えています。