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情報コーナー


野菜と文化のフォーラム主催
食べて学ぶ「野菜の学校」の取り組み


企画調整部
調査役 村野 恵子


 NPO法人 野菜と文化のフォーラム(以下「野菜と文化のフォーラム」)では、食べておいしさを知る「野菜の学校」を開催している。毎月、一つの野菜をテーマに、生産や流通、栄養や調理法などの講義と、いくつかの特徴的な品種や異なる栽培法での食べ比べを行い、野菜本来の味や品種による味の違いを知る取り組みを行っている。本稿では、その取り組みの概要を紹介する。

1 講義のねらい 
<野菜を「生き物(植物)」「商品」「食べもの」の視点から学ぶこと>

 野菜の学校は、野菜と文化のフォーラム主催のもと、毎月1回(原則的に毎月第一土曜日の13時から16時)講座を開催し、毎年4月から1ヵ年の期間で講義を行っている。

 講義のねらいは、野菜を「生き物(植物)」「商品」「食べもの」、それぞれの視点から学ぼうとするものである。2005年に始めたが一旦中断し、2007年から本格的に再開し、今年(2009年)は、3年目となる。

 講座は、毎回一つの野菜を取り上げ、「野菜の特徴や産地、市場動向、味や栄養・機能性、保存法、扱い方・食べ方などの講義」「特徴的な品種など数種を、基本的な調理による食べ比べ」「試食後の話し合い」で構成している。講義は、各テーマに応じた専門家が担当しており、講義で使用する資料は、その都度講師が用意することとしているが、資料の中には、当機構発行の「野菜ブック」をはじめ、当機構のホームページに掲載している「ベジ探」「野菜マップ」などの情報やデータが活用されることもある。また、年度の終わりには、受講修了者に修了証書を授与している。

 1回の募集人数は約50名。基本的には、4月開校に合わせ、2月から3月にかけて募集を行っているが、後期(9月)からの希望者も会場に余裕があれば受け入れている。会場は、東京都青果物商業協同組合ビル内にある。

2 講義の概要 <2009年の第1回目のテーマ野菜は、トマト>

 4月4日の第1回目では、最初に約1時間、トマトに詳しい千葉県農林総合センターの鈴木秀章氏からトマトの来歴、育種などの講義があった。トマトが本格的に栽培されるようになったのは、約80年前にポンテローザという品種が米国から導入され、果実が大きく、酸味と香気が少なく、果肉が多いことなどが、当時の日本人の嗜好にあったことがきっかけとのこと。また、世界からいろいろなトマトの導入・試作を図ったが、わが国では大果・桃色・多肉系が好まれ、ポンテローザなどはその代表品種で、現在も桃色系の品種が好まれているという。

 また、鈴木氏は、千葉県が育成した、オレンジ色でβカロテンが多く、糖度(Brix)が7度以上のミニトマト新品種「ちばさんさん」の新品種育成の経緯を説明した。「β-カロテン」の含有量が多いトマトの育種の開発を始め、一定の成果が出たころには、トマトのもうひとつの機能性成分である、「リコピン」の抗酸化作用の方が世間では脚光を浴びるようになったなどの話もあった。

 次に、大田市場の東京青果株式会社の澤田勇治氏が市場動向を紹介。トマトは、多くの野菜のなかでも、品種名で選ばれるほど品種が消費者に浸透し、また同じ品種でも灌水量を少なくするなどの栽培法が異なれば高糖度トマトになり、味や食感が違うものになる。調理用トマトなども店頭に並び、多くの品種が店頭に並んでいる現状を反映して、試食・展示として18種類用意し、品種、産地、栽培の特徴などについて紹介をした。

 その後、管理栄養士の松村眞由子氏からトマトの栄養、保存法、調理方法について説明があった。トマトは、β-カロテン、リコピンを多く含み、それらは体に有害な活性酸素を除去する働きが強く、ガンや生活習慣病を予防するなどの話があった。


トマトの市場動向の講義の様子

◇ 食べ比べ

 その後、食べ比べを行う。この日は用意された18種類を実際に食べ比べた。グループ討議は、大玉トマト6種類の中から桃太郎2種類とファーストトマト1種類の3種類をそれぞれ生と加熱(オーブンで焼いたもの)で行った。

 皆、食べ比べになると興味津々、皿にとりわけ食べはじめる。最初は、各自がそれぞれ食べ比べを行い、外観、味、香り、食感、総合を5段階評価により様式に書き込む。また、味、食感などの特徴を自分で忘れないようにメモしていく。ときには、隣の人と味の確認などをしながら、各自で食べ比べをする。その後、司会者の指示で5、6人のグループに分かれ、グループ内で討議を行う。グループごとに味の特徴をまとめ、代表者が発表を行うことになっている。

 今回の発表で多く出た意見は、トマトのおいしさは甘みと酸味のバランスのよいもの、だが、酸味が多いものを好む人と少ないものを好む人の両者がいた。受講生からは、こんなにたくさんのトマトの食べ比べができて感動したなどの感想があった。

◇第2回目のテーマ野菜は、キャベツ <寒玉と春玉を食べ比べ>

 5月9日の第2回目では、キャベツに関する講義と、冬系(寒玉)と春系(春玉)の代表的な品種の食べ比べが行われた。講義では、品種と基本的な作型(春まき、夏まき、冬まき)、産地リレーで一年中キャベツが供給されている実態についての話があった。食べ比べでは、寒玉と春玉の生、煮たもの、塩もみの食べ比べを行った。特に同じ量を塩もみにした場合の春玉と寒玉の量感では、寒玉の方が圧倒的であり、春玉はやわらかいのでサラダに向き、寒玉は量感があり、歯ごたえがあるので、とんかつのつけ合わせに向いているという感想があった。

 市場担当者からは、今年は暖冬の影響で寒玉の生育が思ったより早く進み、この春の一時期、業務用の業者が寒玉を手に入れるのに苦労していたこと、またこの日のキャベツも本来の寒玉を入手するのに苦労したことなどの話があった。

 めずらしい品種として、サボイキャベツや芽キャベツ、カーボロネロ(黒キャベツ)が提供されたが、受講生からはとくにカーボロネロが食べられてよかったという感想があった。


キャベツの試食の様子

3 スタッフの顔ぶれと、当日の講義を準備するまで
<運営は野菜が好きでたまらないスタッフに支えられている>

 野菜の学校は、先述したとおり野菜と文化のフォーラムの主催で行われているが、野菜と文化のフォーラム自体が、特定非営利活動法人で、市場関係者、研究機関に属する研究者、種苗関係者、栄養・調理関係者、行政関係者、メディア関係者などが会員となり、その会費収入を主な収入源としている会である。そのフォーラムの会員の一部が野菜の学校の運営を担っているが、特に専属スタッフがいるわけではない。

 スタッフは他にメインの仕事をもち、野菜の学校の日を中心に集まる。現在、校長に元農林水産省で野菜行政に長くかかわった大澤敬之氏、他調理スタッフ5名、事務局5名が関わっている。

 野菜の学校の受講料は年間45,000円(会員は40,000円)となっているが、それらは材料費、会場借料、講師謝礼などに充てられていて、スタッフはほとんどがボランティア的な位置づけである。

 毎回、当日の講義の終了後 次回の講義で食べ比べを行う野菜の選択(主な品種)、食味の方法、旬の食材の料理法などの打ち合わせを行い、それにより当日入手する品種、量などを決めている。スタッフは、うまく食べ比べを行うにはどのような方法で食材を提供したらよいかを綿密に打ち合わせ、当日の調理のタイムスケジュールなどを作成している。

 スタッフには野菜の仕入れにたけた小売業を営んでいる者もおり、澤田氏といっしょに野菜を発注し、当日大田市場などからの野菜の仕入れを担当している。また、講義当日は、朝から全スタッフが会場に行き、野菜の会場への搬入、会場準備、調理、当日の会の運営などを行っている。ほかに当日の資料の準備、まとめ、会計などを担当しているスタッフもおり、野菜の学校は野菜が好きでたまらないスタッフによって支えられているといってもよい。

4 受講生の顔ぶれ
<料理関係者と市場流通関係者が多い>

 さて、このような野菜の学校の受講生は、どのような業種の人たちなのだろうか。最近は、募集を開始した途端、定員が埋まる。最近の特徴として、前年から引き続き受講生となる人や、受講生の紹介で来る人が多い。今年度の受講生の顔ぶれは以下のとおりである。

表1 受講生の職業(2009年)

 職業は料理・食育関係、市場・流通関係がそれぞれ11人と多く、次いで会社員7人、編集・ライターなどが6人と続き、生産者、小売業となっている。構成としては、料理や食育、編集・ライターなど、消費に関わる人が多いことがわかる。次いで、市場・流通・小売などの流通関係者や生産者、県普及所・研究機関に関わる人など、野菜に多岐に関わる人が多く参加していることが分かる。男女比でみると、女性が35人で約7割を占めている。受講費用は、職場の新人研修の一環として会社負担の者、個人負担の者などさまざまである。遠くから参加している受講生もおり、秋田市の市場から2名が新入社員の研修として参加している。

 受講のきっかけは、表2のとおりで、ホームページを見てという人が7人いるが、知人や友人のすすめなどが17人、勤務先のすすめ7人などとなっており、人を介した受講が多いことがうかがえる。

表2 受講のきっかけ(アンケート回答者38人)

 受講理由でいちばん多かったのは(複数回答)、①野菜についてもっと知りたいから、②野菜が好きだから、③新しい品種・珍しい品種が味わえるから、④食べ比べに興味があるからなどの順番になっていて、野菜について知りたいという人と食べ比べに興味があることがうかがえる。

 受講生の立場から、講師、スタッフになる人もいる。現在食べ比べの司会とアドバイザーの立場の山本謙治氏(農産物流通・ITコンサルタント)、今年から栄養・調理の講義を担当している村松氏、筆者も受講生の1人であった。

5 受講生の感想など
<一度に数種類の品種を食べ比べできることが受講生の支持を得ている>

 受講生に野菜の学校の感想を聞くと、①生産から流通、栄養、料理までそれぞれの専門家の話を聞くことができる②同じ品目で数種類の品種の食べ比べができる③めずらしい野菜を食べられる④食べ比べで自分の好みがわかる⑤食べ比べをして自分の言葉で表現するのはむずかしいが、他の人の味覚や表現方法が参考になり、自分の味覚表現が鍛えられる⑦調理のレシピが簡単なので、料理を作る際のヒントになる⑧レシピを書くのに参考になる、などの感想があった。一方では、講師の説明が難しかった、会場が狭い、食べ比べの野菜が皿の上で混ざってしまってうまく食べ比べができなかったなどの意見もある。

 生産から流通、消費に至るまで、野菜に関わる人々は多岐にわたるが、それらの人達が一堂に会して、一つの品目について生産から消費までを通して学び、かつ他の立場の意見を聞くことは貴重であり、野菜を幅広く理解することに役立つといえる。

 また、野菜の学校の1回の講座の受講生は、会場の広さの都合で50人程度のわずかな人数ではあるが、ここに参加した人々がそれぞれの分野でオピニオンリーダーとなり、野菜のおいしさ、品種ごとの味や食感などの特徴、めずらしい野菜の味、調理のヒントなどをまわりの人に伝えていくことができれば、野菜の消費拡大に寄与すると考える。

<参考> 2009年の野菜の学校のスケジュール



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