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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線⑪
加工・業務用レタスの生産の現状と試験研究の取り組み(2)


独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
暖地施設野菜花き研究チーム 上席研究員 大和 陽一
香川県農業試験場 野菜・花き部門 主任研究員 藤村 耕一
長野県野菜花き試験場 野菜部   主任研究員 小澤 智美
長野県野菜花き試験場 佐久支場    研究員 小松 和彦


1.産地における加工・業務用レタスの生産の現状

 市場出荷用レタスを中心に生産している産地の中には、一部、加工・業務用レタスの生産も行っている産地もありますが、ほとんどの場合は一般の小売り用と同じ品種を用いて、ほぼ同様に栽培しているのが現状です。実需者からは、加工・業務用レタスとして、大玉のものが求められることから、一部の産地では、市場出荷用よりも収穫を遅らせることで、加工・業務用としての出荷に対応している例もあります。図1は結球重と結球緊度の推移の一例を示しています。


図1 レタスの結球重と結球緊度の推移
2007年10月15日に「Vレタス」を九州沖縄農業研究センター久留米研究拠点(福岡県久留米市)内のビニ-ルハウスに定植。15個体ずつ調査。縦の線は標準偏差。

 収穫を遅らせると結球重は重くなりますが、結球緊度も高くなります。図1の例では、定植50日後に結球重は600グラム弱になります。しかし、結球緊度は、立方センチメートル当たり0.4グラム前後と結球葉が堅く締まりすぎてしまい、カット野菜への加工時の作業性や歩留まりが低下することから、加工・業務用として不向きなものとなります。また、収穫を遅くすると、病害虫の発生が多くなるほか、中肋部突出球やチップバーンの発生程度も高くなることが指摘されています。これらのことから、従来の品種を用いた栽培で収穫を遅らせて結球重を重くすることにより、加工・業務用としての出荷に対応するのは難しいと考えられます。

2.レタスの卸売価格の推移と産地の動向

 平成14~18年の冬レタス(11月~翌年3月に出荷)の卸売価格と出荷量の推移を図2に示します。


図2 冬レタス(11月~翌年3月に出荷)の卸売価格と出荷量の推移
農林水産省統計より抜粋。

 出荷量に大きな変化は見られないものの、卸売価格は低下傾向にあり、平成14年には、キログラム当たり247円でしたが、平成18年には同162円まで下がっています。春レタス(4~5月)、夏秋レタス(6~11月)でも同様の傾向にあります。春レタスの卸売価格は同じ期間に、キログラム当たり178円から158円に、夏秋レタスでも同159円から139円になっています。全体的に、レタスの卸売価格は低下する傾向にあり、農家経営を安定させるためには生産の規模拡大と低コスト化が必要と考えられます。

 図3は九州地方の各県の冬レタスの作付面積の推移を示しています。


図3 九州地方での冬レタス(11月~翌年3月に出荷)の作付面積の推移
農林水産省統計より抜粋。

 九州地方で冬レタスの作付面積が最も多いのは福岡県ですが、やや減少傾向にあります。一方、長崎、熊本、鹿児島県では増加傾向にあります。

3.熊本県での加工・業務用レタス生産への取り組み

 平成20年12月に、熊本県八代市における、レタスの生産状況の調査を行いました。この地方はい草の産地でしたが、近年、い草の栽培面積は大きく減少しています。い草の栽培農家は比較的大きな経営基盤を持っていたことから、土地利用型の露地野菜への品目転換が行われてきました。レタスの栽培面積は、平成16年ごろより増加し、平成18年には80ヘクタール弱までになっています。

 八代地方でのレタスの収穫は、基本的には11月下旬から3月中旬まで行われます。レタス農家の経営規模は、平均で1戸当たり1ヘクタール弱、大きいところで3ヘクタール前後です。レタスの栽培は、大半がべたがけ被覆(写真1)により、約30%が単棟ハウス(写真2、3)で行われています。ハウス栽培では生育の揃いがよく、安定的な生産ができるとのことでした。調査させて頂いた生産者の例では、単棟ハウス1ヘクタールで2.3作、そのほか露地30アールでレタスを栽培し、出荷時の省力化と経営の安定化を図るために加工・業務用の契約栽培を主体としています。80%が契約栽培で、そのほとんどがファミリーレストランチェーン店などのカット野菜工場に出荷されます。


写真1 べたがけ被覆による冬どりレタスの栽培(熊本県八代市)

写真2 冬どりレタスの栽培に用いられる単棟ハウス(熊本県八代市)

写真3 単棟ハウスでの冬どりレタスの栽培(熊本県八代市)

 また、熊本県玉名市横島地区と天草で、ハウスと露地、それぞれ20ヘクタールを超える規模で加工・業務用キャベツ、レタスなどの生産を行っている生産法人があります。レタスでは、天候に左右されない安定供給を目的としてハウス栽培が導入されています。出荷先は、ほとんどがカット野菜工場やファミリーレストランチェーン店です。レタスの1日の出荷量は約3000ケース、年間では40万ケースとなり、熊本県の出荷量の約30%に相当します。

4.加工・業務用レタスの安定供給のための加工プロでの試験研究の取り組み

 加工・業務用レタスの安定供給を図るために、農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発(加工プロ)」1系(野菜)では、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター、香川県農業試験場、長野県野菜花き試験場と長野県農業総合試験場において以下のような取り組みを行っていますので紹介します。

(1) 九州沖縄農業研究センターでの取り組み

 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターでは「加工歩留まりの高い結球レタス生産のためのチップバーンの発生要因の解明と抑制技術の開発」について取り組んでいます。

 チップバーンはCa(カルシウム)欠乏による生理障害です。通常、結球の内部に発生するため、出荷時には判別できないことが多く、カット野菜への加工時に初めて確認され、加工歩留まりや作業性を大きく低下させます。チップバーンは生育が促進されるような条件下では発生が多く、収穫が遅れた場合にも発生しやすいとされます。そのため、大玉のものが求められる加工・業務用レタスにおいては、チップバーンの発生は安定生産の妨げになると考えられます。チップバーンの発生には環境条件が影響し、比較的高温下で発生が多いことから、特に高温期の栽培では問題となります。

 また、高温期には、抽台(花芽が形成され、花茎が伸長すること)に伴う茎伸長も問題になります。加工歩留まりの高い加工・業務用レタスとしては、大玉であること、チップバーンが発生していないこと、抽台に伴って茎が伸長していないことなどが求められます。そこで、九州沖縄農業研究センターでは、大玉生産と両立させながらチップバーンの発生と抽台に伴う茎伸長を抑制する栽培技術の開発に取り組んでいます。

 レタスのチップバーンの発生や抽台の抑制には低温条件が、抽台では短日処理も有効と考えられますが、実際の栽培では育苗期以外に温度や日長条件を制御することは困難です。

 一方、8~9月のリーフレタスの栽培において、低温・短日条件で育苗すると抽台が抑制され、結球レタスでも育苗中の夜温を10~20度とすると抽台が抑制されたと報告されています。これらのことから、育苗中の温度制御により抽台が抑制できると予想されます。同様に、育苗中の温度条件がチップバーンの発生にも関係するのではないかと考え、育苗中の温度制御によるチップバーンの発生と抽台に伴う茎伸長の抑制についての試験研究を行っています。

 高温期のレタス栽培で、多肥条件で降水量が多いと生育が旺盛になりすぎることから結球が甘い過大球となり、逆に降水量が少ないと草勢が弱くなり、結球が小さい小球となることが知られています。このことから、土壌水分により草勢を管理することで結球重と結球緊度を制御できると予想されます。また、一般的にレタス栽培では結球期以降はかん水を行いませんが、チップバーンの発生は乾燥条件により助長されると考えられます。そこで、チップバーンの発生を抑制し、結球緊度の過度の上昇を抑えながら結球重の大きいレタスを生産するために、結球重、結球緊度、ならびにチップバーンの発生に及ぼす栽培後期のかん水の影響について検討しています。

(2) 香川県農業試験場での取り組み

 香川県農業試験場では「実需者ニーズに対応した暖地レタスの省力低コスト生産方式の開発」について取り組んでいます。

 香川県では昭和35年ごろからレタス栽培が導入され、産地化が進んできました。現在、レタスは香川県で栽培される野菜の中で重要な品目の一つです。香川県のレタスは、冬どり中心の栽培が行われています。低温期を経過する冬どり栽培では、外葉の形成が十分でなかったり、結球肥大期に気温が低下すると、小玉になることが問題です。従来の市場出荷用のレタス栽培でも、収量・品質を安定させるために低温条件下でも球肥大性のよい品種を選定したり、保温のためのトンネル被覆を行うことで対応してきました。

 加工・業務用レタスでは、さらに大玉のものが求められることから、外葉形成と球肥大を促すための適切な温度管理がより重要になります。しかし、トンネル被覆の設置作業や天候に応じて温度管理を行うための換気作業には多くの労力を要します。また、12月~翌年3月にレタスを収穫する作型では、10~11月に定植作業が行われますが、香川県では水稲後作としてレタスを栽培することが多く、ほ場の準備作業が集中したり、降雨などの天候条件により作業が遅れ、定植や出荷が遅れることもあります。

 そこで、香川県農業試験場では、加工・業務用出荷を前提としたレタスの冬どり栽培において、大玉生産に適した品種の選定、ならびにほ場準備作業の効率化やトンネル栽培での温度管理の省力化などの生産規模拡大の制限要因を解消するための技術開発に向けた試験研究を行っています。

 通常、レタスの定植準備作業として3回程度の耕耘と施肥、畝立て、マルチ張りなどの工程が必要です。畝表層の砕土性と夾雑物の埋没性に優れる逆転ロータリを用いて耕起同時畝立てを行うことにより、事前の耕耘1回を含む2回の耕耘で畝が成形でき、畝表層の砕土率が高く、水稲後作でも稲刈り後の株が露出しない高精度の畝立てが可能となります(写真4)。さらに、施肥、マルチ張りのユニットを組み合わせることにより作業工程を削減できます。


写真4 逆転ロータリを用いた耕起同時畝立て(香川県農業試験場)

 香川県の冬どり作型で、従来の市場出荷用品種を用いて700グラム前後の結球重となるまで栽培すると、前述したように、結球が締まりすぎてしまい、カット野菜への加工時にほぐれない部分ができ、作業性や歩留まりが低下することになります。

 そこで、球が締まりすぎずに球重700グラム程度の大玉レタスの生産ができるように、品種特性と栽植密度が結球重や結球緊度に及ぼす影響についての検討を行っています。また、低温下での球肥大性が優れる品種を用いることによって、従来よりも簡易な保温方法で大玉レタスの生産ができると考えられます。

 そこで、球肥大性の優れる品種選定とともに、保温資材を簡単に設置できるべたがけや換気作業が不要な穴あきフィルムを用いたトンネル被覆による省力的な保温方法についても検討しています(写真5、6)。


写真5 べたがけ被覆による省力的な保温方法の検討(香川県農業試験場)

写真6 穴あきフィルムを用いた省力的な保温方法の検討(香川県農業試験場)

(3) 長野県野菜花き試験場、長野県農業総合試験場での取り組み

 長野県野菜花き試験場と長野県農業総合試験場では「業務用レタスの低コスト安定生産技術の開発」について取り組んでいます。

 長野県のレタス栽培は、戦後、昭和20年代からの米軍駐留による需要増加に伴って作付面積が拡大してきました。農林水産省の平成19年の統計によると、長野県では夏秋どりを中心に5750ヘクタールの面積にレタスが栽培され、出荷量は、全国の夏秋レタスの生産量の65%(第1位)を占めており、年間を通じても30%以上を占めています。現在、生産量の60%近くが加工・業務用に向けられ、加工・業務用に特化した栽培体系の確立や規模拡大、省力化による低コストで安定的な生産が望まれています。

 通常、長野県の夏秋レタスでは畝幅45センチメートル、株間25~27センチメートルの1条植えによる全面マルチ栽培が行われています。これまでに、市場出荷用のレタスで株間を広げると結球重が重くなることが報告されています。長野県野菜花き試験場では、加工用の歩留まりを向上させるため通常の小売り用よりも大玉の結球重700~800グラム程度のレタスを生産することを目標として、長野県の関係機関やJA全農長野、長野県内のJA(JA佐久浅間、JA長野八ヶ岳、JA洗馬など)と共同で、長野県における夏秋レタスでの加工・業務用需要に対応した品種の選定を進めています。品種選定とともに、株間を広げることによる加工・業務用需要に適した大玉のレタス生産のための試験研究を行っています。その結果から、長野県の寒地・寒冷地の夏秋どりレタスで、加工・業務用適性の高い品種はエンパイヤ系やサリナス系、サリナス・エンパイヤ系、エンパイヤ・マック系の品種群に多く、慣行栽培よりも株間を広げることで大玉生産ができることなどが明らかになっています。

 また、大規模化、省力化を図るためには機械化一貫体系の構築が望まれています。しかし、従来のセル成型苗を用いた移植機による栽培では、苗の植え付け姿勢によって球底部の形状が乱れることが多く、問題とされていました。一方、あらかじめ培地を固化成型した「固化培地」が開発され、市販されています。

 固化培地を用いて育苗(写真7)すると根鉢が形成される前に定植できることから、育苗期間が短縮されるとともに定植後の根域が拡がるなどの利点が考えられます。また、固化培地を用いると、若苗では定植後の順応性が高いことから、これまで利用されにくかった全自動移植機でも植え付け姿勢による球底部の形状の乱れが軽減されると期待しています。


写真7 従来のセル成型苗(左)と固化培地によるセル成型苗(右)
(長野県野菜花き試験場、長野県農業総合試験場)

 そこで、長野県野菜花き試験場と長野県農業総合試験場では、レタスにおける固化培地セル成型苗を用いた全自動移植機の利用技術の改善についての検討を行っています。

参考文献

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  • 藤村・松崎、2007.園学研6別2、230.
  • 林田ら、2000.九農研62、209.
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  • 星野ら、2008.園学研7別1、167.
  • 岩波・荒木、1998.園学雑67別2、296.
  • 小泉ら、2002.群馬園試報7、41-46.
  • 小松ら、2007.園学研6別2、211.
  • 小澤ら、2008.園学研7別1、169.
  • 小澤ら、2009.関東東海北陸野菜成果情報、印刷中.
  • 大和ら、2006.園学雑75別2、255.
  • 大和ら、2008a.園学研7別1、120.
  • 大和ら、2008b.園学研7別2、216.


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