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過剰野菜などの畜産飼料化に向けた取り組み状況について

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
畜産草地研究所 飼料調製給与研究チーム
チーム長 野中 和久


1 はじめに

 過剰に生産された野菜や、加工調製時に出る切れ端などの野菜残さの多くはほ場還元やたい肥化として処理されている現状にあります。このような野菜の中には家畜の飼料として有効に利用できるものが多いのですが、収穫時期(季節)や産地(地理)の面で量的・質的な変動が大きく、常温では腐敗しやすいといった問題があります。我々は、この問題を克服し、過剰野菜や野菜残さを低コストで安定供給可能な飼料にするため、野菜のサイレージ(乳酸発酵させて作る飼料)化技術の開発に取り組んできました。ここでは、反すう家畜(牛やめん羊など)飼料として調製・貯蔵法がほぼ確立し普及に向けた取り組みが始まっている「にんじんサイレージ」と、調製試験が終了した「ながいもサイレージ」についてご紹介します。

2 規格外にんじんの飼料化

 にんじんはビタミンAの前駆物質であるβ-カロテンが豊富であり、この面から最近では機能性食品としての評価が高まっています。しかしながら、にんじんは裂根や曲根、岐根など規格外品の発生が多く、一部の畜産農家では、これらを生で家畜に給与しているものの、高水分のため保存が難しいことや、収穫期が限定されるため家畜飼料としての通年給与が難しいという問題があります。そこで我々は、これら規格外にんじんを通年給与できるサイレージ調製法を検討しました。

(1) にんじんサイレージの調製~無切断の方が有利~

 にんじんを収穫後、トラックの荷台上で洗浄しバッグサイロ(防水処理を施したバッグ)に詰め込み、脱気、密封しました。一般にサイレージを調製する場合、発酵品質の改善や消化率への影響を考えると原料の細切が必要とされています。本試験では「にんじんの根」および「にんじん全体(茎葉と根)」を、それぞれ3センチメートルに切断したサイレージと無切断で調製したサイレージの品質を比べてみました。その結果、根、全体の両方とも無切断サイレージは有機物、NDF(セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの繊維成分)およびWSC(水溶性糖類などで乳酸菌のエサとなる部分)含量が高く、発酵が良く進んだpH(ペーハー:溶液中の水素イオンの濃度)の低い良質サイレージとなりました。

 一方、切断したものは若干品質が低下しました。これは、にんじんが高水分であるため、切断すると詰め込み時に切断面から水分や糖類などが多量に流出し、それが品質の低下を招いたものと考えられます。また、切断したサイレージは給与時の作業効率が悪いことや、調製時の切断労力が大きいなどの不利な面が多く、無切断でのサイレージ調製が有利であることがわかりました。調製時の留意点として、収穫直後のにんじんはサイレージ調製の際、土砂を洗い流す必要があることや、サイロ開封後は発カビ抑制のため、可能な限り短期間に給与を終えることが望ましいこと、さらに同様の理由で頭数(取り出し量)に見合った大きさのサイロに埋蔵するのが望ましいことが挙げられます。ちなみに今回は2.6立方メートルのバッグサイロを用いましたが、ビニール製内袋を2枚入れたフレキシブルコンテナバッグやドラム缶サイロでの調製も有効です。こうして調製したにんじんは埋蔵後、牧草サイレージの場合とほぼ同期間(約1カ月以上)貯蔵することで、サイレージ化することができます。


写真1 バッグサイロに詰め込んだにんじんサイレージ

(2) にんじんサイレージの品質~β-カロテンの7割が残存~

 生にんじんおよびにんじんサイレージの成分組成を表1に示しました。生にんじんの根は乾物含量が7%と低く、WSCが乾物の約30%を占めていました。これをサイレージ化するとWSC含量は8%に低下しました。茎葉を切り落とさずにサイレージ調製しても成分的な変化は同様の傾向にありました。根のβ-カロテン含量は生にんじんの910ミリグラム(乾物1キログラム中)から599ミリグラムに減少しました。

表1 生にんじんおよびにんじんサイレージの成分組成

 β-カロテンは不安定な物質で、紫外線による破壊や長期貯蔵による酸化的破壊を受けます。牧草ではサイレージや乾草の調製中にも急激に低下し、原料の2割程度までに減少することが報告されていますが、本試験ではサイレージ化による減少が予想以上に少なく、半年間の貯蔵でも原料の約66%が破壊されずに残りました。

 にんじんサイレージのpHは良質とされる4.1前後の値でしたが、貯蔵中にタンパク質分解が起こったため全窒素中のアンモニア態窒素は10%前後と若干高い値を示しました。また、不良発酵の指標とされる酪酸含量も新鮮物中に0.2~0.4%程度ありました。これは、にんじんがWSCを乾物中に多量に含むものの、水分が90%以上と高いため、通常の牧草サイレージなどに見られる埋蔵初期の急激な乳酸菌増殖が抑制され、pHの低下が緩慢となり、その結果、酪酸菌による蛋白質の分解や酪酸生成が引き起こされたものと考えられます。

 めん羊を用いて行った消化試験の結果では、生にんじんの根は乾物消化率が85%と非常に高く、その結果TDN含量(家畜が消化できる養分含有率)も81%と高い値でした。これをサイレージにしても、TDN含量は78%と高い値を保持していました。

(3) にんじんサイレージ中のβ-カロテンの利用~生乳中の含量は1.5倍に~

 続いて、にんじんサイレージを家畜に給与すると、それが血漿中・牛乳中のβ-カロテン含量にどう反映されるかを乳牛で調査しました。ここではにんじんの根をサイレージにして、「にんじんサイレージを大量に給与する区(給与区)」と「給与しない区(対照区)」を設け、泌乳牛各区3頭ずつに給与しました。「給与区」には1日当たり原物(生重)で、にんじんサイレージを平均41キログラム、とうもろこしサイレージを20キログラム、配合飼料を6キログラム給与し、「対照区」には同様にとうもろこしサイレージを30キログラム、配合飼料を5キログラム給与しました。

 その結果、にんじんサイレージの採食性は良好で、原物摂取量は1日当たり最大で55キログラムに達した牛もいました。また糞の性状は「給与区」で若干赤みを増していましたが、「対照区」に比較して顕著な変化は見られませんでした。給与1時間後の牛の第一胃の胃液を調べると、アンモニア態窒素は正常値の範囲、pHは両区とも6.8前後で、VFA(揮発性脂肪酸)組成には区間差が見られませんでした。

 β-カロテンが生体内で変化してできるビタミンAは、欠乏すると感染症や眼の障害、繁殖障害を誘発することが知られています。また、β-カロテンはそれ自体で主に繁殖に関係する生理的効果を持つと考えられています。表2にβ-カロテンの摂取量と血漿中、牛乳中濃度を示しました。β-カロテンの摂取量は「給与区」が1日平均2783ミリグラム、「対照区」が491ミリグラムです。血漿中濃度は「給与区」がデシリットル当たり1125マイクログラム、「対照区」が同674マイクログラムで、にんじんサイレージ給与によって1.7倍に増加しています。また、牛乳中の含量も1.5倍に増加しました。

表2 乳牛のβ-カロテン摂取量と血漿・牛乳中のβ-カロテン濃度

 「給与区」の給与量は「対照区」の5.7倍でしたので、この差の大部分は肝臓や脂肪に蓄積されたものと考えられます。β-カロテンは給与量が多いと肝臓や脂肪組織で蓄積され、必要に応じて末梢組織に転送されるので、乳牛の生理機能には有効に利用されうるものと考えられます。ところで、乳牛1頭に1日どれだけ給与するかですが、北海道立畜産試験場で行った採食試験結果(原物で30キログラムが採食限界だった)や、日本飼養標準・乳牛(2006)で推奨しているビタミンA要求量から勘案すると、ニンジンサイレージをβ-カロテン源とする場合には原物で10キログラム(乾物で1キログラム)程度給与すれば十分であると考えられます。

(4) にんじんと他作物の混合サイレージ~発酵促進など~

 にんじんは水分含量が極めて高く、単品でのサイレージ調製は排汁(サイレージから出る汁)の処理が問題となりますが、反面その水分は他作物と混合調製することにより水分調節剤として有効に利用できる可能性があります。そこで、過熟期に刈取ったとうもろこしと混合しサイレージ化してみました。

 とうもろこしは子実と茎葉を一緒に収穫し、細切してホールクロップサイレージ(栄養価の高い子実部分と繊維質の多い茎葉部分を一緒に収穫してサイレージに調製したもの)にしますが、刈り遅れると水分が低下するため乳酸発酵が抑制され、pHが高く乳酸が少ないサイレージとなり、開封後もカビや酵母が発生しやすくなります。

 そこで、天候やほ場状態が劣悪で適期に収穫できず、この時期に収穫せざるをえない場合を想定し、原料への水分補給と、にんじんが持つ豊富な糖分による発酵促進をねらいとして混合しました。

 その結果、にんじんを混合したものは混合しないものと比較して、成分値には差が認められませんでしたが、サイレージ発酵が進み、pHが低下し品質が明らかに改善されました。このような混合利用法は北海道立畜産試験場でも検討されており、乾燥ビートパルプ(てん菜から砂糖を抽出した残さ)や小麦を混合してにんじんサイレージの水分を調整し、ロールベール梱包(牧草をロール状にして、発酵を促せるようラップフィルムで被覆したもの)することで品質と流通性を向上させる取り組みが報告されています。

3 規格外ながいもの飼料化

 ながいもは、ここ数年約20万トンの生産量で推移しており、その約1割が規格外品として取り扱われているようですが、乾物中に炭水化物を約80%含むことから家畜のエネルギー飼料として有効に利用できる可能性があります。そこで当研究所機能性飼料研究チームでは弘前大学と共同で、流通規格から外されたながいものサイレージ化に取り組みました。


写真2 ながいも加工屑(蔡ら 2007)

(1) ながいもサイレージの調製~4種類で比較~

 ながいもを洗浄後、カッターで約2センチメートルに切断し、100リットルのドラム缶に詰め込み密封貯蔵しました。その際、4種類の処理を行い、できあがったサイレージの品質比較を行います。処理法ですが、切ったながいもをそのまま詰め込む「対照区」、ながいもサイレージの乳酸発酵を促進する目的で乳酸菌(畜草1号:Lactobacillus plantarum)を添加しながら詰め込む「乳酸菌区」、ながいもと乾燥ビートパルプを4:1の割合で混合し詰め込む「ビーパル区」、ビーパル区にさらに乳酸菌を添加する「ビーパル・乳酸菌区」です。これらを150日間ドラム缶で貯蔵し、開封後に品質を調査しました。


写真3 ながいもサイレージ(蔡ら2007)

(2) ながいもサイレージの品質~糖分添加で改善~

 表3にサイレージ成分を示しました。ながいものみで調製したサイレージは乳酸菌添加の有無による差は認められませんでしたが、ドラム缶内には排汁が貯まっていました。

表3 ながいもサイレージの成分組成

 一方、ビートパルプを混合した区は乾物含量が32%に高まったため排汁は出ず、ADF(セルロースとリグニン)やNDFといった繊維含量が増加しました。サイレージ発酵の程度について表4に示しましたが、そのまま詰め込んだ「対照区」は乳酸発酵が弱く、酪酸やアンモニア態窒素が多く生成され劣質サイレージになりました。一方、「乳酸菌区」、「ビーパル区」、「ビーパル・乳酸菌区」はpHが4以下に低下し、乳酸が多く生成され、酪酸のない良質サイレージになりました。

表4 ながいもサイレージの発酵品質


写真4 乾燥ビートパルプと混合して調製したながいもサイレージ (蔡ら2007)

 サイレージ調製の基本は酪酸菌の増殖による不良発酵を防ぐことにあります。そのためには、乳酸菌が生成する乳酸によりpHを急激に低下させるか、酪酸菌が増殖できない水分域まで水分を下げることが必要です。にんじんのように大量の糖分を含む野菜をサイレージにすると乳酸菌が活発に働くため無添加でも良質サイレージができます。しかしながら、ながいもの場合には、糖分よりもデンプンが多く(乳酸菌はデンプンをあまり利用できません)水分も高いため、そのままサイロに詰め込むよりも、乳酸菌を添加するか、乾燥ビートパルプのような糖分の多い乾いた材料を加えて水分を下げることにより良質なサイレージになることがわかりました。

 ながいもサイレージの消化性についてめん羊を用いた消化試験を行った結果、乾物、有機物、粗タンパク質およびエネルギーの消化率は、どの処理でも差は認められず、TDN含量は79%、可消化エネルギー含量は、キログラム当たり14.3メガジュールと高い値を示しました。以上、ながいもサイレージは反すう家畜の飼料として用いる場合、良好なエネルギー源になることがわかりました。今後は、一度に大量に調製・貯蔵するための梱包方法や輸送方法の検討、安価な混合材料の調達などを検討し、普及に向けた取り組みを加速する必要があります。

4 現在取り組んでいる野菜サイレージの研究   ~葉菜類は硝酸態窒素対策が課題~

 これまで飼料化にあまり取り組まれてこなかった野菜に葉菜類があります。その理由として、葉菜類は水分含量が高くサイレージ調製が難しいことに加え、硝酸態窒素含量が高いことが挙げられます。人間や豚のような単胃動物ではあまり問題になりませんが、反すう動物では硝酸態窒素の高い飼料を長期間給与すると硝酸塩中毒を引き起こすおそれがあります。

 そこで現在、畜産草地研究所を中心に、農林水産省の「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」の一環として「廃棄野菜等の安全で高品質な飼料への再生・利用技術の開発」が実施されています。この中では、キャベツの加工残さやほ場還元分を飼料化するため、硝酸態窒素を分解する微生物製剤の開発や、低コストで水分を下げて良質サイレージを調製する技術、これらを効率的に乳牛や肉用牛に給与する飼料の混合調製給与法の開発などが行われています。これらの取り組みにより、野菜の豊作時の資源の有効利用や、外食産業などにおける野菜残さの飼料化仕向け率の向上が図られ、ひいては家畜飼料の自給率が高まっていく一助になれば幸いと考えています。



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