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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線⑩
加工・業務用レタスの生産の現状と試験研究の取り組み(1)


独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
暖地施設野菜花き研究チーム 上席研究員 大和 陽一
香川県農業試験場 野菜・花き部門 主任研究員 藤村 耕一
長野県野菜花き試験場 野菜部   主任研究員 小澤 智美
長野県野菜花き試験場 佐久支場    研究員 小松 和彦


1.はじめに ~レタスの仲間と品種~

 一般的に、「レタス」というとクリスプヘッドタイプと呼ばれる結球レタスを指します。一方、半結球のバターヘッドタイプと呼ばれるサラダナや非結球のリーフレタス、茎を利用する茎レタスも同じ種(学名はLactuca sativa L.)に属します。最近では、コスレタス、あるいはロメインレタスと呼ばれる立ちレタスも栽培されています。ここでは、加工・業務用として一般的に用いられている結球レタスを中心に説明します。

 結球レタスの基本的な品種として、「カルマー」、「サリナス」、「グレイトレイクス」、「フルトン」、「エンパイヤ」などがあります。現在、数多くの品種が栽培されていますが、品種によって温度などに対する生育特性や生理生態反応、耐病性などが異なります。このため、栽培する地域ごとに作期・作型に応じて適した品種を選ぶ必要があります。

2.レタスの栽培

 レタスは比較的冷涼で降水量の少ない気候条件に適応しています。生育適温は18~23度とされています。高温・長日条件下では花芽分化し、抽台します。このため、栽培は主に温度によって制限されます。

 レタスは生野菜のサラダ用食材として欠くことのできない野菜であり、年間を通じて需要があります。レタスはほとんどが露地で栽培されていますが、産地の立地条件を活かすために、時期に応じて産地を変えながらリレー栽培が行われ、周年的に供給されています。例えば、高温期の栽培は高標高地、高緯度地帯が中心で、逆に低温期には関東以西の温暖な地域が栽培適地となります。平均気温が5度以下になるとほとんど生育しなくなるので、厳寒期には沖縄県(糸満市を中心に本島南部で冬レタスが栽培されています。写真2を参照)を除いてトンネル栽培など、被覆資材を用いて栽培する必要があります。一般的に、高温期の栽培では全面マルチによる1条植え(写真1、2)、低温期の栽培ではトンネルがけの効率性から3~4条植えの多条栽培(写真3、4)が行われています。



写真1 長野県での夏秋レタスの栽培
写真2 沖縄県での冬レタスの栽培
全面マルチの1条植えにより栽培される。
冬レタスではあるが、
全面マルチの1条植えで栽培される。



写真3 香川県での冬レタスの栽培
写真4 香川県での冬レタスの栽培
3~4条植えで栽培される。
厳寒期にはトンネル栽培が行われる。

 農林水産省の統計によると、平成19年産のレタスの出荷量は509,900トンでした。このうち、春レタスの出荷量は105,200トンで、茨城、長野、兵庫県で約60%を占めています。夏秋レタスの出荷量は226,500トンで、長野、群馬県で約80%、冬レタスの出荷量は178,300トンで、茨城、兵庫、香川、静岡の4県で約50%を占め、そのほかに九州地方の長崎、福岡、熊本県でそれぞれ9~6%を占めています。

3.栽培上の問題 ~抽台、生理障害、結球異常~

 レタスは高温・長日条件で花芽分化しやすいことから、高温期の栽培では抽台(写真5)が問題となります。また、高温期には生理障害であるチップバーン(写真6)も発生しやすくなります。チップバーンの発生にはCa欠乏が関係しますが、環境条件の影響も大きいと考えられています。その発生には品種間差が認められており、「エンパイヤ」系の品種では発生が多いとされています。一方、梅雨期後半から梅雨明け頃を中心に、結球葉の葉脈に沿って葉肉部分が褐変する症状(葉柄褐変、乳管破裂、写真7)が発生し、商品性を低下させることがあります。結球葉の乳管が何らかの原因で破裂し、乳管内部の乳液が酸化・褐変することによると推察されています。


写真5 レタスの抽台
この後、開花する。


写真6 レタスのチップバーン
写真7 レタスの葉柄褐変(乳管破裂)
ふつう、結球葉の葉縁に発生する。ひどい場合は連続して数枚の葉に発生する。
結球葉の葉柄に沿って葉肉部分が褐変する。
 さらに、高温期の栽培では過大球、小球、タケノコ球(写真8)、中肋部突出球(タコ足球、写真9)などの結球異常も発生しやすくなります。多肥条件で降水量が多いと、生育が過剰になり、結球葉の巻きが緩い過大球となります。逆に、高温期に降水量が少ないと、草勢が弱くなり、小球となります。結球葉が渦巻き状に巻き込んで先端の尖った縦長の球となるタケノコ球は外葉が形成された後の高温が原因とされ、日照不足や多肥条件で発生が助長されます。中肋部突出球は外葉の生育不良が原因であり、高温・過湿条件で発生が多くなります。

写真8 レタスのタケノコ球
写真9 レタスの中肋部突出球(タコ足球)
結球葉が渦巻き状に巻き込み、縦長の球になる。
ひどい場合にはゆでタコの足のように見えることからタコ足球とも呼ばれる。

 低温期の栽培でも多肥条件でトンネル内が高温になると、タケノコ球や中肋突出球などの結球異常が発生するほか、低温によって生育が抑制されて小玉になったり、不結球となることがあります。

4.加工・業務用レタスの需要

 加工・業務用のレタスは、中食・外食産業で用いられます。中食とは、家庭外で調理された食材を家庭内で食べる食事形態で、持ち帰りの惣菜などがこれに相当します。家庭内で調理した食材を家庭内で食べる「内食」とレストランなどの家庭外で調理されたものを家庭外で食べる「外食」との中間的な食事形態であることから、「中食」と呼ばれています。中食産業ではカット野菜、外食産業ではサラダ、ハンバーガーおよびサンドイッチ用として、主に結球レタスが用いられます。結球レタスのほかに、カット野菜やサラダ用にはロメインレタスなど、サンドイッチ用には緑色のリーフレタスも使用されます。

 平成2年に加工・業務用レタスの需要はレタス全体の需要量の半分を超えました。平成12年ではレタスの需要全体に占める加工・業務用需要の割合は57%であり、そのうち加工用が27%、業務用が30%でした。加工用はカット野菜業者などを、業務用は原体(ホール)で仕入れる中食・外食産業の業者を対象としたものです。平成17年では、加工・業務用需要が57%で、平成12年の値と変わりませんが、加工用が36%、業務用が21%と、加工用の需要が増加しています。

 加工・業務用のレタスもすべて「生」で食べられます。このため、製品として求められる特性は、スーパーなどの小売店で販売される一般の家計消費用のものと変わりません。葉が肉厚で、シャキシャキ感があり、苦味のないものがおいしいレタスとされます。

 加工・業務用にはほとんど国内産のレタスが使用されています。消費者からは安全・安心の観点から国内産を求める声が大きく、輸入品では鮮度を保つのが難しく、植物検疫の際の消毒により傷む恐れがあるからです。しかし、冬場など国内のレタス生産が不安定な時期には輸入品が利用されることもあります。

5.カットレタスの製造工程

 以下に、カット野菜工場でのカットレタスの製造工程の一例を示します。

①  
カット野菜工場に受け入れられた原料のレタスは、加工されるまで冷蔵庫で保管されます。

カットレタスに加工する前に、外葉を取り、球を2~4等分します。その後に、芯の部分を取り、カットしやすいように結球葉をほぐします。このときにできるだけ異物も取り除きます。この一連の作業は手作業で行われます。

機械により製品としての所定の大きさ(約40ミリメートル幅)にカットします。カットした後に、目視により異物を取り除きます。

次亜塩素酸滅菌水を用いて2回滅菌・洗浄します。

滅菌水を除去するために洗浄し、冷水につけて冷却します。

遠心分離器を用いて脱水します。

製品として所定の重量となるように計量します。計量には自動計量器を使用します。

ビニール袋などに入れ、脱気・包装します。

包装した製品の金属異物の混入を金属探知器で検査すると同時に、所定の重量になっていることをチェックします。

包装した製品をダンボール箱などに箱詰めし、出荷するまで冷蔵庫で保管します。

製品を出荷する際には冷蔵輸送します。

  これらの一連の工程で原料のレタス、製品としてのカットレタスの鮮度を保つために、工場内は低温に保たれています。

6.加工・業務用レタスに求められる特性

 加工・業務用のレタスでは、製品としてのカット野菜の生産の効率性を向上させるために、加工歩留まりを高めることが重視されます。加工歩留まりとは、カット野菜工場などに仕入れた原料野菜に対して製品になった割合を指します。カットレタスで加工歩留まりを低下させる要因として、最初に取り除く外葉、芯、傷んだ葉、締まりすぎてほぐれない葉、カットされた後に必要な大きさよりもはるかに小さくなった葉の破片などが挙げられます。現状での加工歩留まり率は50~60%であるとされています。外葉や芯の部分は仕入れた原料のレタスの玉数に比例して多くなるので、仕入れた原料のレタスの重量が同じであれば、玉数が少ない方が加工歩留まりは高くなります。このため、カット野菜業者などの実需者は大玉のレタスを望んでいます。

 一般的に、家計消費用のレタスは10キログラムケースと呼ばれるダンボール箱に詰めて出過されます。10キログラムケースと呼ばれていますが、実際にレタスを箱詰めしたときの重量はダンボール箱を含めて8キログラム前後です。家計消費用のレタスでは、箱詰めしたときの玉数で階級分けされます。例えば、階級がLの場合は、一般的には1ケース当たり14~16玉(結球重500グラム前後)が基本とされていますが、長野県のJA佐久浅間では、Lの場合1ケース当たりの球数は、16~18玉であるなど、産地によって若干の違いはあります。香川県農業試験場と長野県野菜花き試験場が行った実需者の意向調査によると、加工・業務用のレタスでは結球重700~800グラムのものが求められています。これはLL以上の大きさに相当します。

 一方、品質としては、家計消費用と同じく、葉肉が厚く、シャキシャキした食感があるものが求められます。「サリナス」系の品種は葉肉が厚いことから、加工・業務用に適するとされています。また、褐変しにくいことやカットレタスの製造工程での洗浄により傷みにくいことも重要です。害虫はもちろんのこと、チップバーンが発生したものでは作業効率や加工歩留まりが低下します。あまりにもひどいものは結球ごと廃棄されます。抽台に伴って茎が伸長しているもの(写真10)も加工歩留まりを低下させることになります。

 結球の締まりぐあいは食味・食感や加工歩留まりに大きく影響します。結球葉の巻きの緩いものでは加工歩留まりが低下します。逆に、過熟となり、堅く巻きすぎたものではシャキシャキした食感がなく、苦味が出るなど食味が劣ります。また、堅く巻きすぎると、カットレタスとして加工する前の段階の結球葉を手でほぐすときの作業効率が悪く、ひどい場合には、ほぐれない部分は廃棄されるため、加工歩留まりを低下させる原因となります。結球の締まりぐあいは結球重を結球の容積で割った値、結球緊度(g/cm3)で評価できます。実際の計算では、結球緊度(g/cm3)=(結球重(g)/(π×球高(cm)×球径(cm)×球径(cm)/6)で計算します。結球緊度の値が低いと結球の締まりが緩く、高いと巻きすぎになります。前述の実需者意向調査によると、この数値が0.3程度のもの(写真11)が求められています。



写真10 レタスの抽台に伴う茎伸長
写真11 結球緊度が0.3程度のレタス
抽台にいたらないでも球の内部で茎が伸長していることがある。
結球緊度の値が低いと巻きが弱く、高いと巻きすぎになる。

 また、カット野菜業者などの実需者は、カット野菜の製造作業を計画的かつ効率的に行うために、受け入れられたケース当たりの重量が一定であることを重視します。これに対して、家計消費用のレタスではケースあたりの個数が一定であることが重視されます。加工・業務用レタスでは鮮度を保つために、ある程度の外葉をつけて出荷しますが、外葉が多すぎると加工歩留まりが低くなります。このため、出荷の際には外葉の数も含めて所定の重量であることに注意する必要があります。

 さらに、カット野菜業者などの実需者は、製品としてのカットレタスを一定の価格で安定的に供給するために、原料としてのレタスを年間を通じて一定の価格(低価格であることにこしたことはありません)で一定量を安定的に仕入れる必要があります。加工・業務用レタスでは、中・長期的に安定した価格で、定時・定量といった安定的な出荷が要求されることから、生産者と実需者の契約栽培が多くなっています。出荷の際には、家計消費用ではダンボール箱が用いられますが、加工・業務用では経費削減の点からもフレキシブル・コンテナなどの通い容器が用いられるようになり、今後拡大していく傾向にあります。

 このように、家計消費用のレタスと加工・業務用のレタスでは求められる基本的な特性が異なっています。加工・業務用レタスを安定的に生産・供給するためには、これまでの家計消費用レタスの生産の延長では不十分と考えられます。加工・業務用レタスの生産に対応するための産地体制の整備や新しい栽培方法などが必要になってきます。

 以下、次月号で加工・業務用レタスの試験・研究の取り組み状況などについて紹介します。



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