近年、野菜消費の低迷は、需要の拡大を喚起するさまざまな取り組みにもかかわらず進行している。野菜消費の変化を検討するに当たり、食料消費は消費者の年齢に大きく左右されることに注目する必要があると考える。実際、野菜消費量の減少は若齢層において顕著であると言われている。
年齢による野菜消費量の変化を見るため、統計的手法を用いて年齢階層別に消費量を推計した。データとして、総務省の「家計調査」個票を使用した。「家計調査」では、全国から約8,000世帯を選定し、6カ月間継続して調査を行い6カ月後には他の世帯と交替する。その際、調査結果に断層が生じないように、毎月6分の1ずつ順次調査世帯を更新しながら、年間で延べ約96,000世帯(8,000世帯×12カ月)のデータが得られる。なお、「家計調査」であることから分析対象は、生鮮野菜の家庭内消費であり、近年増加している中食や外食は含まれていない。ちなみに、中食や外食に使用された個々の野菜品目の数量はわからないが、購入金額は「家計調査」から得られるので、それらの支出については分析可能である。
年齢階層ごとの世帯員数を独立変数X、世帯の購入数量を従属変数Qとする重回帰分析により、各年齢階層の1人当たり消費量の推計を行う。ここでは、年齢階層を5歳刻みで行た。また、購入数量を消費量とみなしている。
Qj = a1X1j + a2X2j + …… + anXnj
Qj :世帯jにおける、ある品目の1カ月間の購入数量
Xij :世帯jでのi年齢階層に属する世帯構成員の人数
ai :i年齢階層に属する世帯構成員の1人当たり1カ月間の購入数量(未知数)
なお、「家計調査」個票は、総務省へ数年おきに使用の申請を行ったが、データを入手しなかった調査年もある。単身世帯は、購入金額のみの調査であるため、購入数量としての分析結果には単身世帯は含まれていない。
「家計調査」データの分析から得られた結果を、特徴ごとに見ていくこととする。
1982~2006年のほぼ5年おきの調査年について、それぞれ同じ年齢層を結んで経年的な変化を見ると、次のようなことが分かる。
単身世帯かどうか、また男性か女性かで野菜の消費は大きく異なることが分かった。なお、単身世帯は2人以上の世帯のように世帯全体で購入したものを世帯員の年齢別に推計する必要はないので、同じ年齢階層の単純な平均値である。ただし、10歳代の単身世帯の調査数は多くない。図では、2006年の結果を示している。
高齢の単身女性は、家族と生活している女性よりも消費の多い品目が多くみられた。もともと女性は健康志向から野菜を好むが、単身女性は1人住まいということで気兼ねなく好きなものを食べられるので、野菜の購入が多いのではないだろうか。
家庭での野菜消費量の減少を、中食(弁当や総菜などの調理食品)や外食の増加との関連で見た。なお、単身世帯の詳細な調査は2002年に開始されたので、図29~31には含まれていない。
コウホートというのは、出生年を同じくする人達の集まりのような意味を持っている。このような集団が年齢を重ねるとともに、例えば食料消費がどのように変化するのかを分析することを「コウホート分析」という。なお「家計調査」では、対象世帯を更新しながら調査しているので、同じ世帯を追跡調査しておらず、厳密な意味でのコウホート変化を見ているわけではない。また、ここでは時代による消費変化を内包したコウホート変化を見ている。
1982年・1987年・1991年・1996年・2001年・2006年の、ほぼ5年ごとの調査年について年齢階層別消費量の推計を行い、コウホート変化の視点から検討した。例えば、1957~61年生まれの者は、1981年に20~24歳、1986年に25~29歳、1991年に30~34歳、…2006年に45~49歳となる。このような加齢とともに野菜の消費がどのように変わるのか明らかにするため、年齢階層別消費量を5年後の5歳高齢の階層と結ぶことにより、ひとつのコウホートの消費量変化とみなして表示した(1981年と1986年のデータはないので、1982年と1987年で代用している)。
だいこん(図32)は、出生年が遅いほど、つまり新しいコウホートほど消費量は少なく、コウホートによる差は明白である。新しいコウホートは加齢とともに消費量が増加する傾向を示すものの、古いコウホートの消費量までは増加していない。古いコウホートの60歳代後半から80歳代への加齢による消費量の減少は、年を取ればあまり食べられなくなるという自然な減少傾向を示すものと考えられる。2つの古いコウホートが重なっており、同様の消費傾向を示すことが、それを意味していると思われる。
きゅうり(図33)は近年消費量の減少が顕著であるが、コウホート変化でみると新しいコウホートと古いコウホートの消費量の差は歴然としている。また、新しいコウホートは20歳代から40歳代へという加齢によって消費量の増加はほとんど見られず、一方、古いコウホートの消費量は、40歳代から60歳代へ、あるいは50歳代から70歳代へという加齢とともに大きく減少している。このことから、新旧双方のコウホートがきゅうりの消費量減少に関与していることがわかる。きゅうりと同様の変化を示す品目として、ほうれんそう、はくさいなどが挙げられる。
かぼちゃ(図34)は健康志向から消費量は増加したが、最近年には増加傾向は停滞している。コウホートが違っても消費傾向は似ており、年齢とともに増加し、70歳を過ぎると高齢による消費減を示している。ただし、40~50歳代で新しいコウホートが古いコウホートほど消費しないという傾向も見える。かぼちゃと同様の変化を示す品目として、ねぎが挙げられる。ねぎは健康志向というより、年齢とともに食べられるようになるという特徴を持つ品目であると考える。
近年唯一消費量の増加しているのはブロッコリー(図35)であり、健康志向が考えられる。ブロッコリーは1990年に調査項目に加えられたため、1991年・1996年・2001年・2006年の結果を示している。70歳以上を除いて新しいコウホート、古いコウホートの双方とも加齢とともに消費量は増加している。また、同一年齢で比較して、新しいコウホートの方が古いコウホートより消費量が多いという、上述の3品目では見られなかった現象も観察される。
参考として、果物も含めた加齢(厳密には時代変化を含んでいる)に伴う消費変化を類型化して示した。
【加齢とともに大きく増加する】ブロッコリー、バナナ
【加齢とともに増加するが、高齢で減少する】ねぎ、にんじん、かぼちゃ
【古いコウホートでは、加齢により増加する】レタス、トマト、ピーマン
【加齢によっても、(古いコウホートまで)増加しない】
キャベツ、さつまいも、さといも、だいこん、ごぼう、りんご、なし、ぶどう、かき、メロン
【新しいコウホートは加齢による増加がみられず、他のコウホートは加齢とともに減少する】
ほうれんそう、はくさい、さやまめ、きゅうり、なす、みかん、すいか
生鮮野菜の家庭内消費変化について見てきたが、野菜消費量の減少は健康面だけでなく、生産者にとっても憂慮されることである。これまでも、農林水産省や独立行政法人農畜産業振興機構をはじめ各方面でなされていることであるが、野菜の健康面からみた重要性を丁寧に説明しながら、消費を取り戻すための取り組みを根気よく継続することが重要と考えている。野菜の消費実態を知ることで、消費者の関心を呼び起こし、また食生活の改善にまで結びつけることができればと願っている。
[参考文献]
石橋喜美子「家計における食料消費構造の解明」農林統計協会、2006.
森 宏・三枝義清・石橋喜美子・華山宣胤「コウホート分析:食料消費(再訪)」専修経済学論集、第43巻、第2号、2008.