1.はじめに
ねぎは一年を通じて安定した需要のある野菜で、東日本を中心に栽培される根深ねぎ(白ねぎ)と西日本を中心に栽培される葉ねぎ(青ねぎ)に大別され、地域や用途に応じて多様な品種が存在します。ここで紹介する短葉性ねぎは、根深ねぎの代表的品種の千住群を中心にして、これに加賀群や葉ねぎの代表的品種の九条群を交配し、循環選抜解説1)などの育種手法を用いて開発した新しいタイプのねぎです。従来の根深ねぎと比較すると外見上は葉が短く、やや太めで、品質的には葉がやわらかく辛みが少ない特徴があります(写真1)。
近年、消費者の食の安全に対する関心の高まりから、国産農産物の需要が伸びてきています。加工・業務用ねぎは、生食用と比べると安価な外国産の占める割合が高くなっていましたが、安全な食品を安定して供給するためにも、国産ものの供給が望まれています。
富山県では、早く太り、コンパクトに仕上がる短葉性ねぎの特徴を栽培面に生かし、オリジナルブランド「ねぎたん♪♪」として生産・出荷を開始しました。「ねぎたん♪♪」は、全体的にコンパクトなサイズで、土寄せ作業の省力化が可能なことから生産コストが削減できる上、根深ねぎのように溝底解説2)に定植しないので土壌水分過多による生育不良が発生しにくいという栽培上のメリットがあります。また、葉がやわらかく食べた時の食感が良いことから、かたいと定評のある外国産と比べると品質面で格段に優れています。このような特徴のある新しいタイプのねぎが生食用だけでなく、加工・業務用にも利用されれば、生産者だけでなく実需者、さらには消費者の多様なニーズに応えることができます。そこで富山県では、平成18年度から農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」(加工・業務用農産物プロジェクト)1系(野菜)に参画し、加工・業務用に適する短葉性ねぎの周年安定出荷技術の開発に取り組み、新たに育成された短葉性ねぎの用途の開発を進めてきました。
2.加工・業務用ねぎとは
加工・業務用ねぎは、皮剥き後そのまま刻んだ「刻みねぎ」や軟白部を細くカットした「白髪ねぎ」として麺類などの薬味に利用したり、鍋物、焼き物など加熱調理に利用されます。また、供給形態は、古葉を除いただけのものや皮剥きしたもの、カット後パックしてそのまま利用できる状態のものなどがあります。そこで、加工・業務用としての利用形態と重要視する項目についてねぎの取り扱いのある4社に聞き取り調査を行いました。
調査の結果、加工形態によって求められる規格や重要視される項目が異なることが分かりました(表1)。
表1のうち、J社の量販店向けには鮮度保持や病虫害被害防除の取り組み、M社・A社の飲食店向けには仕入れ価格の安さや規格、M社の給食用には食味、鮮度や安全性、Y社の量販店用には廃棄部分が少なく歩留まりが良いことや価格が重要視されました。このように、用途によって様々な要望があることから、今回の研究では短葉性品種の特性を明らかにするとともに、特に要望の高かった「刻みねぎ」用細ねぎ規格(長さ60~80センチメートル、太さ10~12ミリメートル程度)における生産技術の開発を目的としました。
3.短葉性ねぎの生育と品質の特徴
通常の根深ねぎの栽培方法に準じて、短葉性品種の「砺波No.5」、「砺波No.9」を土寄せして軟白栽培する方法(写真2)と根深ねぎ品種の「なべちゃん」、「長宝」について品種別に比較しました。8月どりでは長さを表す草丈が短葉性の2品種ともに根深ねぎ2品種より約10センチメートル短くなりました。また、太さを表す葉鞘径は「砺波No.9」ではあまり違いは見られなかったものの、「砺波No.5」ではやや太くなりました。12月どりでは8月どりと比較して全体的に長太くなりましたが、特に「砺波No.9」は草丈が短く、葉鞘径が太くなりました(図1)。
次に、ねぎ特有の辛みを示す指標となるピルビン酸生成量と葉のやわらかさや食べた時の歯ざわりの指標となる葉鞘の破断強度について同様に比較しました。その結果、ピルビン酸生成量は全体的に8月どりよりも12月どりで少なく、破断強度は8月どりよりも12月どりで高くなりました。また、ピルビン酸生成量が少なく、破断強度が低い品種は、8月どりでは「砺波No.5」、12月どりでは「砺波No.9」のいずれも短葉性品種でした(図2)。
これらのことから短葉性品種は根深ねぎ品種に比較して、いずれの作型においても葉が短く、やや太い傾向を示し、品質的には比較的辛みが少なく、やわらかい特徴を示しました。また、このように土寄せする栽培方法では葉鞘径解説3)が太くなることから、細ねぎ規格には適合しませんでした。
4.加工・業務用に適する短葉性ねぎの生産技術の開発
9月どりで、葉ねぎ栽培に準じて土寄せしない栽培法(写真3)で、短葉性品種の「砺波No.9」を葉ねぎ品種の「鴨頭」、根深ねぎ品種の「なべちゃん」、「長宝」と比較しました。「砺波No.9」の草丈は「鴨頭」、「長宝」に比較して約10センチメートル短いものの「なべちゃん」と同程度の70センチメートル程度となりました。葉鞘径は「長宝」と同程度で「鴨頭」より太く、「なべちゃん」より細い12~13ミリメートル程度でした(図3)。
また、「砺波No.9」のピルビン酸生成量は「鴨頭」と同程度に少なく、破断強度は「長宝」と同程度に低くなりました(図4)。
これらのことから、短葉性品種「砺波No.9」は葉ねぎ品種「鴨頭」に比較してやや太く短くなる傾向を示しました。これらのサンプルを実需者のJ社に持ち込み、「刻みねぎ」としての特性を評価してもらったところ、「砺波No.9」、「鴨頭」、「長宝」の3品種については、目標とした「刻みねぎ」用の細ねぎ規格に適合し利用可能との評価を得ました。
さらに、薬味用としての規格に適合する最適な栽植密度について、「砺波No.9」、「鴨頭」の2品種を用いて比較しました。その結果、長さが60センチメートル以上、太さが10ミリメートル程度の規格となるのは、「砺波No.9」では1平方メートル当り栽植株数315株となる株間1.2センチメートル、条間10センチメートルだったのに対し、「鴨頭」では栽植株数225株となる株間1.2センチメートル、条間15センチメートルとなりました(表2)。
これらのことから、短葉性品種「砺波No.9」を用いた薬味用細ねぎ栽培(写真4、写真5)では、条間を10センチメートル程度に狭め栽植密度を高めて栽培することが可能で、これは葉ねぎ品種「鴨頭」に比較して1.4倍の密植が可能で収量性が高まりました。また、ピルビン酸生成量、破断強度ともに他品種より低いことから、細ねぎ規格においても品質は安定して高くなりました。
5.おわりに
短葉性ねぎの加工・業務需要に対する生産上のメリットは、生育が早く、太りやすいことから密植栽培により収量性が高まることや葉が短いことから倒れたり曲がったりしにくいことが挙げられます。これに加えて、品質的には葉全体がやわらかいので歯触りが良く、辛みが少なく食べやすい特徴があります。今回の研究では、短葉性ねぎの代表として「砺波No.5」、「砺波No.9」を用いて紹介しましたが、現在、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所が中心となって新たな品種開発にも取り組んでいます。なお、「砺波No.5」、「砺波No.9」は、富山県が野菜茶業研究所との共同研究の結果育成した品種で、それぞれ「越中なつ小町」、「越中ふゆ小町」の名称で品種登録出願中です。
短くておいしい短葉性ねぎの特徴を活かし、プロジェクト研究の目標である「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」を目指して、富山県では高岡農林振興センター管内を中心に現地での生産を開始したところです。
今後は品質の違いをさらにアピールできる栽培面の工夫や技術開発を行い、安全で安心な国産野菜の安定供給に結びつけることが重要です。