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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線⑦
加工・業務用に適したかぼちゃの安定供
給のための栽培技術・貯蔵技術の開発


鹿児島県農業開発総合センター
園芸作物部  野菜研究室 別府 誠二
農産物加工研究指導センター 加工開発研究室 鮫島 陽人


背景

 食生活における消費者ニーズの中・外食化への移行や農産物の国産志向の高まりの中で、実需者からは加工・業務用に適した国産かぼちゃの安定供給が望まれています。これまで加工・業務用には、青果用として栽培されたものの一部が仕向けられてきました。しかし、今後は加工・業務用需要の増大から、加工・業務用に適した品質のかぼちゃを安定して供給する必要があります。そこで、鹿児島県では、これらの動向に対応するため、平成18年度から農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」(加工・業務用農産物プロジェクト)1系(野菜)に参画し、国産加工・業務用かぼちゃの安定供給・拡大のために、かぼちゃの大規模栽培を目指した省力生産技術の開発と一斉収穫体系における熟度判定及び貯蔵による熟度制御技術の開発に取り組んできました。本稿ではこれまで得られた研究成果と今後の課題について紹介します。

省力生産技術の開発

 かぼちゃの栽培管理は、育苗、定植、温度、整枝・誘引、収穫・調整などの多岐にわたり、加えてトンネル栽培では、トンネルの設置、開閉などの手間を要します。

 そこで、本プロジェクトでは、従来の青果用向けかぼちゃ栽培に要する労働時間の概ね6割削減を目標に試験研究に取り組むこととしました。

●直まき栽培による育苗管理の省力化

 かぼちゃ栽培は一般に、1カ月程度の時間をかけ育苗した苗をほ場に移植します。そこで、育苗管理時間の削減のため、直まき栽培を試みました。その結果、直まき栽培の生育は移植栽培と比較しても差はなく、収量や果実の品質も移植栽培と比較して遜色なく、育苗時間の削減につながりました。(図1:移植栽培はセル苗)


図1 直まき栽培と移植栽培の生育状況

●整枝・誘引作業の省力化

 摘心節位(主枝35節程度)までの側枝をすべて除去する慣行整枝と、主枝15節付近まで除去した後は、側枝を放任する省力整枝で比較検討した結果、慣行整枝と省力整枝の生育に差はなく、収量は同程度で、省力整枝の整枝作業時間は3割削減につながりました(図2、図3)。


図2 整枝回数と作業時間・収量

図3 整枝の違いと側枝の発生状況
左ココにキャプション

●一斉収穫による収穫作業の省力化

 着果後から一定日数(55日程度)経過した果実を3回~4回に分けて収穫する慣行収穫と、平均着果日から一定日数経過後に全果を一斉に収穫する一斉収穫で比較検討した結果、慣行収穫に対し6割程度の作業時間の削減につながりました。

●自然受粉(訪花昆虫による受粉)による受粉作業の省力化

 慣行栽培では、着果安定のために人工受粉を実施していますが、早熟作型の場合、目標着果節位(主枝15節以降)の開花期が訪花昆虫の活動が活発になる5月以降になるように栽培することで、自然受粉でも人工受粉並みの収量が得られ、果実形状・品質も人工受粉と遜色ありませんでした(図4)。


図4 人工受粉と自然受粉の果実の形状

●超省力栽培へ向けた省力技術の総合組み立て

 今後は、これらの省力技術や有孔ポリフィルムを利用したトンネル換気の省力化、フルーツシートを使用しない栽培、トンネル支柱打ち込みや被覆資材展張の機械利用等を総合的に組み立てることで、作業時間が大幅に短縮され、超省力栽培が可能になるとともに、かぼちゃの大規模経営体の育成につながると期待されます(表1)。

熟度判別法の開発

 一斉収穫は、収穫時間の短縮にはつながりますが、着果から収穫後までの日数の幅が慣行収穫に比べ大きく、果実の内容成分のばらつきが認められました(抑制作型は早熟作型よりばらつきが大きい)。このことは、果実品質の異なる果実が混在することとなり、これらを判別する方法が必要となります。そこで、近赤外線による非破壊評価法を用いて、果実の乾物率を推定した結果、実測値と推定値間には高い正の相関(r=0.760)がみられました。このことから、近赤外線による非破壊評価法の利用は可能と考えられましたが、実測値に対して推定値が高くなる傾向がみられましたので、精度の向上を図るため継続して検討しています。

貯蔵による熟度制御技術の開発

 かぼちゃは長期間貯蔵すると、果肉の硬さが低下し、ほくほく感が失われてしまいます。加工に際しては、原料の品質が変化していくと、その都度加工条件を変更する必要があるため問題となります。そこで、かぼちゃの長期貯蔵を可能にするために、貯蔵中の内容成分の変化が少ない最適な貯蔵温度の検討を実施しました。その結果、貯蔵温度が低いほどでん粉含量が保持され、硬さについても低温ほど低下が少なく、特に5℃では収穫直後とほとんど変わらない果肉の硬さを保持していました(図5)。これにより、かぼちゃの内容成分を保持しながら1カ月貯蔵することが可能になります。

 鹿児島県においては、12月の冬至の頃にはほぼ出荷が終了していたものを、1月上~中旬まで供給できるようになります。今後はさらなる出荷期間の延長を図るために、より長期間の貯蔵に耐えうる貯蔵条件の検討を行いたいと考えています。

表1 管理作業の比較(早熟作型での試算)


図5 かぼちゃの貯蔵によるでん粉含量と硬さの変化

〔参考 本稿における用語の解説〕

整枝(せいし)

 養分を集中させるために、かぼちゃのつるが伸長するときに出るわき芽を摘むこと。

誘引(ゆういん)

 かぼちゃの場合は、横に伸びようとするつる(主枝)が隣のつる(株)と絡まないように真っ直ぐに導くこと。

摘心節位(てきしんせつい)

 養分を集中させ、果実の結実を促すためにある程度成長した段階で、芽を摘む位置。

着果節位(ちゃっかせつい)

 果実を着果させる位置。

フルーツシート

 果実がほ場に接する面積を少なくするために果実の下に敷くシート。これにより、光が当たる面積が増え、色のムラが少なくなる。



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