今、主な野菜は、栽培技術や輸送技術の進歩により、年間を通じて食べることが可能となりました。しかし、栄養価については、時期により差があり、栄養価が高いのは、出回り量が多い時期、いわゆる「旬」の時期と重なっているので、本稿では、野菜の旬と栄養価について紹介します。
野菜の旬は3カ月 栄養価に着目
1985年7月、無水鍋を用いた調理前後の栄養成分の変化について分析を行いました。
ほうれんそうのビタミンCの値を測ったところ、既存データでは100g中70~80mg含まれているはずのところが、わずか10mgくらいしかありませんでした。データとあまりに大きく違ったので、分析を間違えたのかと別のマーケットの品でも2度3度やってみましたが、結果は同じでした。
これをきっかけに、「野菜の栄養と季節」の関係に関心を持ち、五訂成分表が公表された2000年をはさんで20年間実験をしました。1年間毎月、同じ野菜を購入して栄養分の含有量を分析しました。
試料の野菜は、東京都と東京近郊の5地域の店頭から購入した、主に出盛り期の長い野菜や果物で、ばれいしょ、かぼちゃ、キャベツ、さやいんげん、セルリー、トマト、にんじん、ピーマン、ブロッコリー、ほうれんそう、キウイフルーツなどを中心に40種ほど行いました。
1年を通じて分析して分かったことは、ほとんどの野菜の栄養価は多い少ないはあっても必ず山があり、栄養価の高い時期が3カ月くらいあって、その山はちょうど昔からいわれる旬の時季と重なっていました。逆に旬をはずれると野菜の栄養価はぐんと低くなります。
旬と旬はずれの野菜は見た目は同じでも栄養価は全く違って、中身は別の野菜でした。
旬とは
野菜や魚には、昔から、出盛り期の時期、食べ頃の時期があり、これを「旬」と呼んでいます。つまり、旬とは「大量に収穫できる時期」であり、「最も味の良い時期」であるということになります。そして、自然の摂理として、野菜は旬の時期に充実した栄養価を持っていました。
野菜の通年流通
昔は、野菜は旬の時期にしか生産できなかったのですが、1980年頃から徐々に栽培技術が向上して、今日では露地栽培、ハウス栽培、水耕栽培と、野菜は年間を通して生産・供給が可能になり、また、輸送手段も発達して、通年流通の野菜が年々増えてきました。(図1・2)
こうした背景には、生産者や消費者、販売者、外食産業のそれぞれのニーズや思惑があるようです。
かつて、消費者には、季節の野菜を「みんなよりも先に食したい」いっぱしの通を気取る「はしり」、旬の終わりに「来年まで味わうことができない」と惜しみつついただく「名残」などを大切にしていました。そこには食文化があったのですが、今日の通年流通はこの楽しみをなくしてしまったようです。病院や学校給食では栄養素のバランスが求められますから、特に緑黄色野菜などは年間を通してニーズがあり、生活習慣病の予防の観点からは、家庭でも今は同様でしょう。
生産者側も、旬の野菜は一時に大量に出回ることで価格が暴落するリスクがあり、自然に反した多少無理な作り方をしてでも、旬を外して生産する方が収入の安定につながるということがあります。原油高騰の今日、難しい選択です。
旬の野菜の栄養価は昔も今も変わらない
食品の成分値は一般的に『日本食品標準成分表』が使われています。昭和25(1950)年に初めて公表されて以来改訂を重ね、現在は平成12(2000)年12月に改訂された『五訂食品成分表』になりました。
最新の五訂成分表と18年前に公表された四訂成分表(1982年)と比べてみますと、確かにビタミンやミネラルなどが多少減っています(表1)。
その大きな理由は、四訂版がでた当時は、まだ野菜が旬中心の生産であり、出盛り時期の分析結果が記載されていたわけです。ところが今では、ほとんどの野菜が一年中出回るようになり、今回の五訂版の成分値では“年間を通じて普通に摂取する場合の全国的な平均値を表わす”標準値が記載されています。そのため、昔の野菜に比べて今の野菜は栄養価が減っているように見えるのです。
しかし、トマトだけは変わりました。今日、店頭の主流である桃太郎種の持つ甘みが、ビタミンCを少なくしました。昔の酸味あるトマトのビタミンCは40mg、甘みトマトのビタミンCは15mgほどに減少しています。これは消費者が、店頭で甘い品種を選択したためです。酸味トマトは今日、ほぼ店頭から姿を消しました。数十年後はどの品種が消費者から受け入れられているのでしょうか。
昔から「旬の野菜には栄養がある」といわれていましたが、わたしたちの研究でも、旬の野菜の栄養価は昔も今も変わらず、野菜は旬の時期に充実した栄養価を持ち、それ以外の季節は旬に比べて数分の一の栄養価しかないことが明らかになりました。
季節変動の大きいカロテン・ビタミンC
野菜の主要な栄養素はビタミン類とミネラルですが、測定したビタミン類では体内でビタミンAに変わるβカロテン、ビタミンB群の一つであるナイアシン(ビタミンB3)、ビタミンCの3種類。ミネラルはカルシウム、リン、鉄、ナトリウム、カリウムの5種類。それと水です。
ビタミン類のうち、特に季節変動が大きかったのはカロテンとビタミンCでした(図3)。
カロテンでは、トマトが最大月の7月では最小月の11月の約2倍、にんじんが最大月の6月では最小月の1月の約2.5倍、ブロッコリーでは最大月の3月は最小月の8月の約4倍も多く含まれていました。
ビタミンCでは、さらに変動が大きく、ほうれんそうは最大月の12月は最小月の9月の約4倍、ブロッコリーも2倍程度の開きがあります。
なお、根菜類や芋類は葉菜類に比べて比較的変動が小さいのですが、ばれいしょは最大月の7月は最小月の4月の約5倍と大きく変動していました。
全体的には、ほうれんそうが特異的に変化が大きく、あとは大体2~3倍程度の間で変動し、季節変動が小さい野菜はセルリー、ピーマンの2種類しかありませんでした。
食品成分表は1食品1標準成分値で対応していますが、ほうれんそうの場合はビタミンCのみ、夏どり20mgと冬どり60mgの値が備考欄に記載されています。わたしとしては、ほうれんそうの他にも、にんじんやブロッコリーなど、変動の大きな野菜には、季節ごとの成分値記載があって良いかと思います。
土壌の影響が大きいミネラル
ミネラルは、全体の傾向としてカロテンやビタミンCと比べて、年間の含有量の変動は少ない結果となりました。
これは土壌成分の影響を受けるミネラル類と、光合成の影響を受けるビタミン類との違いからくるものと思います(図4)。
また、水分量は冬が旬の野菜は、夏に水分量が多い傾向にありました。夏が旬の野菜の栄養が冬が旬の野菜に比べて低い理由は、水分量にもあるようです。
βカロテンはビタミンAに変わる 季節と栄養
結局、自然の現象として、野菜は旬の時期に充実した栄養価を持ち、それ以外の季節に収穫した野菜というのは、栄養価が低いということになります。夏場のほうれんそうと本来旬の冬場のほうれんそうの栄養価(ビタミンC)が4倍も違うというのは驚きです。
ハウス栽培でも旬の方が栄養価は高いという結果がでました。ハウス栽培も栽培法は露地栽培に準じているわけですから、やはり自然の摂理ということでしょう。
野菜の成分の含有量は、種子だとか、紫外線量だとか、地温だとかの影響がいわれますが、ほうれんそうのように、地温がかなり低くても旬の時期を迎えるものもあれば、きゅうりのように暑い時期に旬を迎えるものもあり、よく分かっていません。やはり、自然に組み込まれているのだと思います。
有機栽培野菜と慣行栽培野菜について、その栄養成分、味覚(官能)試験を実施したところ、ビタミン類などの含有量は、3年ほど実施した研究の結果、ほとんど差はありませんでした。ミネラルについては、旬よりも土壌や肥料の影響が強く出ました。
野菜の摂取量は足りない
カロテンやビタミンCなどの抗酸化作用などから野菜の健康効果が改めてクローズアップされていますが、野菜の摂取量は日本人の場合、まだまだ不足しているといわれています。
外食の機会も多くなっていますが、外食は見た目や満腹感が優先されているので、どうしてもたんぱく質や糖質、脂肪が中心となり、野菜はあまり使われません。野菜は洗いからカットまで調理に手間がかかるので避けるという事情もあります。これは、共働きの家庭が増えたことで家庭でも似たような状況だと思われます。
外食が多くて野菜を食べる機会が少ない人や、食が細くてあまり量が食べられない人はなお一層、旬の栄養の知識を持ち、旬のものを選んで食べることが大事になります。
病人食や給食、市販の弁当などでは、ほうれんそうやトマト、かぼちゃといった野菜を「一年中ある便利なもの」として重宝しています。しかし、かたちだけ栄養バランスを整えても、旬の野菜の持つ栄養分を最大限に引き出したことにはなりません。
旬でない時期の野菜は、かなりの量を食べなければいけませんが、逆にいうと、健康な方は水分が多く、アクの少ない、夏場のほうれんそうをサラダのようにして大量にとるというのも悪くないでしょう。ただ野菜を多くとるには生野菜よりも、温野菜をおすすめします。
旬を知る見分け方
野菜には自然の理にかなった適地、適作、そして適した季節があり、野菜の旬とは大量に収穫できる時期でもあります。
ですから、旬の野菜は値段が安く、「安い」というのは、旬を知るための一つの目安になると思います。
冷凍野菜の利用
市販の冷凍野菜の多くは旬の安い時期に大量購入して冷凍しています。
野菜を冷凍して(約20秒熱湯処理した後、瞬間冷凍)、栄養分析した論文*がありますが、ミネラルは元素ですから壊れませんが、ビタミンも1年間くらいはほとんど減少しませんでした。ですから、時期はずれの野菜よりも冷凍野菜の方が栄養価が高く、冷凍野菜を賢く利用するのも一つの手です。
特に子供や老人、病人など、栄養は確保したいのに量を多く食べられない人には、効率よく野菜の栄養を摂取することができます。通年での栄養変化の激しいほうれんそうやブロッコリーなどは、旬に買ったものをサッと茹でて冷凍保存するのが賢いと思います。
ただ、ビタミンCは、解凍過程で溶け出すので、包丁が入る程度に解凍したらすぐに切り分けて、凍ったまま加熱調理するといいでしょう。
ビタミンCと調理
キャベツのせん切りを水にさらすとシャキッとして美味しくなりますが、水溶性のビタミンCが水に溶け出すことが心配されています。ところが15分ぐらい水に浸してビタミンCの量を測定したところ、水に浸す前とほとんど差がありませんでした(図5)。また、そこから流れ出す栄養分もわずかでした。
ところで、だいこんとにんじんを一緒にすりおろして、もみじおろしにすると、にんじんのビタミンC破壊酵素がだいこんのビタミンCを壊すといわれましたが、これも実験してみました。ビタミンCは酸化されるだけで破壊には至らず、酸味のないビタミンCとして残っていました(図6)。もともとビタミンCには還元型と酸化型があり、その効力は同等だと考えられています。ヒトの場合、酸化されたビタミンCも体内に吸収された時点で還元型に戻りますから、どちらの形でとっても食品成分表的には同じなのです。
現在、ビタミンC研究委員会**によりビタミンCの還元型(酸味あり)と酸化型(酸味なし)のC効力を再検討中ですが、ヒトではこれまでどおり等価という報告が主です。ヒトのビタミンC吸収・排泄は、ある酵素遺伝子の影響を強く受けるという面白い結果もあります。普通の吸収・排泄をする人は70%、この働きがやや劣る人が30%いるようです。あなたはどちらのタイプでしょう。今後、食事摂取基準(現行はビタミンC 100mg)はどう扱われるのでしょうか。興味ある研究テーマです。
産地によって異なる旬
日本の風土は小さいようでいて南北に長く、旬が移動していきます。つまり、地域によって旬は異なるので、野菜の旬は一つではないということです。
最近は、店頭でも野菜の産地が表示されるようになりましたが、産地の表示は旬を見分けるにも有効です。産地別に旬の野菜を選択すれば、食卓もかなりバラエティに富むと思います。
現代的な旬の定義というのが発表されています(表2)。
旬の野菜は、栄養価も高く、価格も安く、味もよく、また、作るのにも最も適している時期ですから農薬、エネルギーも少なくて済みます。栄養価、価格、味覚、また安全性の面からも、旬を知って、旬の野菜をもっと活用したいものですね。
今はほとんどの野菜が年間を通して出回っていますが、1年を通して食べるのと、旬の時期だけを待って食べるのとでは、野菜への思いは変わります。今、多くの人が感じている昔の野菜への郷愁は、今日の状況を反映した“旬の野菜への郷愁”とも言い換えられるでしょう。
旬の野菜を楽しもう
秋から冬にかけては、はくさい、にんじん、かぼちゃ、ほうれんそう、しゅんぎく、みつばなどの野菜が旬です。ビタミンCもカロテンも充実しています。
さて、子供たちは、トマトやきゅうりのサラダは一年中食べ、クリスマスにいちごのケーキを食べるのが当たり前と思っていませんでしょうか。家族で食卓を囲んで、食材を旬について語るのも楽しいことです。栄養価最大月を示しました(表3)。旬を知り、豊かな食卓をつくりあげて下さい。栄養豊富な野菜の美味しさを味わってほしいと思います。
※図表は『野菜のビタミンとミネラル』編著:辻村 卓、女子栄養大学出版部(2003)より
*<論文>
辻村卓、荒井京子、小松原晴美、笠井孝正:冷凍あるいは凍結乾燥処理した野菜・果実中のビタミン含有量に及ぼす通年貯蔵の影響。日本食品低温保蔵学会誌。Vol.23、No.1(1997)
**<ビタミンC研究委員会>
ビタミンCの研究を発展させることを目的として、各分野の研究者等が集まって組織された任意団体。