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施設野菜栽培における省エネルギーの
考え方と対策技術について


独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
野菜茶業研究所 高収益施設野菜研究チーム長 高市 益行


1.はじめに
  施設栽培において暖房エネルギーのコストは、作目や地域によって異なるが、年間の経営費に占める割合は大きく、暖地のトマトやなすでは10%前後で、高温管理が必要な温室メロンでは30%以上になることもある。最近、原油価格の高騰が急速に進んで、各種化学製品、農業資材の価格上昇や肥料価格の値上げとも相まって、経営を大きく圧迫するようになっている。そのため、とくに燃油の使用量を削減することは、深刻で緊急な課題である。

 本稿では、施設栽培における省エネルギーを検討する際の基本となる暖房燃料消費量が決まる成り立ちと、栽培管理における省エネルギー対策のポイントについて紹介する。紙面の関係上、個別の省エネ技術については簡単に触れただけなので、詳しくは参考文献を参照されたい。

2.施設生産における省エネルギーとコスト削減と生産物の収量・品質
  省エネルギーを考えるときには、栽培面積当たりのエネルギー消費量を見る場合と、生産物1kg当たりの投入エネルギーを見る場合の2つの見方ができる。暖房設定温度を大幅に下げると消費エネルギーを大きく節減できるが、生育遅延や商品収量・品質の低下、さらには病害の多発などの多くの問題が生じて、場合によっては生産物1kg当たりで見た投入エネルギーやコストがかえって増加することもある。

 また、低温管理によって出荷時期が変動して、産地として必要な生産物が確保できなくなると、産地全体の評価や信用が低下することもある。そうしたことから、品質が重視されるわが国の施設生産では、基本的な考え方として、品質の低下を招くような対策や管理はできる限り避けたいところである。

3.温室における暖房消費エネルギーの特徴
  温室内気温を目標温度に維持するために必要な熱エネルギーを暖房負荷と呼ぶ。年間の暖房燃料コストは、暖房期間全体の暖房負荷に対して、温室の保温特性を含めた暖房システム全体の暖房効率によって決まる。

 図1は、暖房運転時の温室気温の推移の例(トマト栽培の高軒高ハウス注1)で、暖房設定13℃にした場合)である。夕方になって、室内気温が13℃以下になると暖房機が稼働を開始し、暖房時間中の高さ3.5mの気温は高さ0.9mの気温より1.5℃程度高く推移している。屋外気温が最低気温になった時は、ハウス内との温度差の約12℃を暖房により維持している。この日の暖房必要熱量(暖房負荷)は、図中の色塗りの部分の面積(温室内外の気温差の積算値)にほぼ比例するが、この面積値を暖房デグリーアワーと呼ぶ(単位は℃・時間)。もしハウスの保温性をさらに高めると、室内気温の推移は点線のようになり、暖房開始時刻が遅くなる。

注1)従来のハウスよりも軒が高い(軒高が3.5m以上)のハウス。高軒高ハウスではハイワイヤー誘引を行い、トマトの枝を垂直に高く伸ばして栽培する方法が行われている。

図1 暖房したトマト栽培ハウスの温度変化の例(2004/1/1~2)
(愛知県大府市、軒高4.0m、硬質フィルム被覆鉄骨ハウス)(高市、2005)



 温室を設定温度に維持するための熱は、暖房機からだけではなく、地中からの伝導熱量と日射量によってもまかなわれている。図2は暖地における温室からの1月から3月のハウスから放熱される量の例で、その内、地中から温室に供給される熱の割合はの約2割~3割である。



図2 暖地におけるハウスの暖房負荷、地中伝熱、吸収日射の模式図(林、1985)


 しかし、地中熱の貢献割合は条件によって大きく異なるので、暖房設定温度が地中の地温に比べてかなり高い場合(例えば18℃くらい以上)には逆に、地中方向に熱が奪われて、余計な暖房熱が必要になることもある。

 また、日射量が暖房に貢献する量は図中の黒い部分で表される。暖地では日射量の効果は放熱量全体の1割程度であるが、外気温が低い寒冷地では、暖地よりも日の出後あるいは夕方に日射のある条件で暖房運転が長時間続くので、日射が貢献するエネルギー量は多くなる。

 各日の燃料消費量と暖房デグリーアワーとの間には直線的な関係があるので、その模式図を図3で示した。保温性の高い温室では、直線の傾きが小さくなる。ここで重要なことは、地中熱の貢献が大きい温室では、その直線を暖房デグリーアワーがゼロのところまで伸ばしたときに、原点(0,0)を通らない形になる(直線関係ではあるが比例関係ではない)ことである。このため、たとえば保温性が2倍(放熱係数が1/2)になったとすると、低温の程度が弱い場合には、燃料使用量は1/2よりもっと大きく節減される現象が起こる。




図3 暖房デグリーアワー(温室内外の気温差(Tset-Tout)の積算値)と
燃料消費量の関係(模式図)

(各点は各日々の状態を示す)



 すなわち、暖地で省エネ対策の効果を調べる場合には、低温の程度が弱いときには低温が厳しいときよりも効果が過大に現れることを意味しており、低温が弱い時の燃料節減率のデータには注意が必要である。また、東北や北海道では、この直線はほぼ原点を通ると予想され、保温性の変化と燃料節減率の変化との関係は、低温程度と関係なくほぼ比例するものと考えられる。

4.いろいろな省エネルギー対策
  省エネルギーの方策には、①暖房温度を下げるなどの暖房必要熱量(暖房デグリーアワー)を低減する方法と、②温室の保温性を改善(放熱を抑制)する方法と、③暖房システムのエネルギー効率の向上という3つの手法がある。

(1) 温度管理における省エネルギーのポイント

 主要な作物では、時期別の暖房設定温度の指針がJAや普及センター、試験場などで定められている。しかしながら、暖房機の温度設定ダイヤルで運転しているだけでは実際の作物付近の温度はわからないので、実際に目標温度になっているかを確かめる。とくに作物付近や温室内の温度ムラの確認は、暖房開始直後には必ず行い、冬季中にも定期的に行うと良い。

 夜間の温度を一定に維持しないで、夜の早い時刻では転流を促進するために温度を高めにして、夜の後半は障害が出ない程度に低温にする方法が行われており、変温管理と呼ばれる(図4)。暖房機に付属装置(4段サーモ注2))を設置して、時刻をいくつかの時間帯に区分して温度管理をする方法が広く利用されている。一般的な変温管理の指針に従うと、エネルギー節減率は10%程度となる例が多い。なお、生育促進のための早朝加温は、最も燃料を消費する時間帯に高温にするので、長時間昇温させると、後夜半に低温管理で節減した部分が相殺されることもあり得るので、省エネの観点からは推奨できない。

注2)夜間を4つの時間帯に分割して、それぞれで異なる温度に設定できる装置。

図4 変温管理の模式図(高橋)


 たいていの作物の生育段階は、積算温度に密接に関係しているので、1日あるいは一定期間について、平均気温を下げないようにすると生育遅延を少なくできる。夜間を低温にする場合、昼間を高温に管理し平均温度を確保する。これは寒冷地の厳冬期で日照が少ない時には難しいが、暖地や日射が強くなった3月では、昼間の窓の開度調節で容易に昇温させられる。

 作物の根域(培地)を高温に管理して、地上部気温を低く設定するような培地加温も一部で行われている。この方法ではランニングコストは削減できるが、装置によっては減価償却費が高くなる場合があるので、導入に当たっては、十分な検討が必要である。

 また、低温でも生育・収量が確保しやすい品種を導入すると、管理温度を下げることができる。しかし、品種や作目の変更、厳冬期を避ける作型ヘの移行などは、商品価値や産地競争力が低下する場合があるので、長期的な観点から十分に検討する必要がある。

(2) 温室の放熱抑制

 夜間の温室からの放熱は可能な限り抑制したい。抑制する方法としては、保温性の高い外面被覆資材やカーテン資材の利用、二重空気膜の導入などが考えられる。 また、設置例は少ないが、外面被覆を断熱性の高い資材で巻き上げ式にして、夜間に被覆して朝に巻き上げる方法も効果が高いと考えられる。

 温室における隙間は、個々の温室によって大きく異なる。隙間換気による熱損失は、一般的には全放熱量の1割前後であるが、カーテンの肩の隙間、ドアの変形による隙間、夜間にカーテンの裾が踊って開いているような状態では、さらに1割近く放熱量が大きくなるようである。

 また、側面が巻き上げ換気方式の温室では、強風時に隙間が大きく開いて、大きな熱損失が起こっている場合があるので、強風時に巻き上げ部分がどのようになっているかを確認する必要がある。スプリングで固定する対策により、大きな効果が得られることがある。

 なお、隙間換気による熱損失が大きい温室では、風速が大きくなると放熱量が大きく増加するので、季節風などが一定方向から強く吹く場所では、防風ネットの設置により1割程度の消費量削減が期待できる。しかし、放熱対策を十分に行っている温室では、防風による燃料消費節減効果は小さい。

(3) 温室内土壌への自然蓄熱の促進

  昼間にハウス内土壌に蓄熱される量は、栽培状況(うね方向、作物繁茂度など)によって大きく異なる。ハウスの南北棟は、東西棟に比べて畝間に太陽光が多く当たることから、土壌への蓄熱の面では有利である。黒色マルチにすれば、地温が上昇するとともに土壌面蒸発が抑制されるので、蓄熱量は多くなる。地中熱の効果は、関東地方で暖房温度を10~12℃に設定する場合(図2)では、1~2月で2割程度、3月で3割程度をまかなえるという測定例があり、また、暖地では条件によっては4割以上を地中伝熱が貢献しているとの報告がある。

 汚れた被覆資材を交換する、可動カーテンを小さくたたむようにして、資材の陰をできるだけ少なくするなど、ハウス内ヘの日射の透過を良くして、午後からの窓の開度を小さくして高温に管理すると、地中への蓄熱量は増加する。

(4) 装置・資材による省エネルギー対策

①ヒートポンプ
  現在、A重油や石油が高騰しているが、電気料金の上昇はそれほどでもないことから、ヒートポンプ注3)の導入が広まっている。ヒートポンプは、動作に必要な電気エネルギーに比べて3倍~4倍の熱を放出することができる(成績係数C.O.P.が3~4)。

注3)電気・熱などの駆動エネルギーを与えて、冷媒を圧縮・膨張させ、冷媒の蒸発・凝結過程を利用して、効率よく熱を移動させる装置。

 現在導入が進んでいるヒートポンプは、空気熱源式でメンテナンスがほとんど不要なタイプで、地下水等を利用する水熱源式に比べて維持管理が楽である。しかし、空気熱源式ヒートポンプは、寒冷地では室外機の結霜を取り除くための除霜運転のためにエネルギーが必要で効率が落ちること、厳寒地では多量の結霜により運転不能となる場合があることに注意を要する。

 また、ヒートポンプは、運転のエネルギー経費が温風暖房機より低くなるが、設備導入時の初期投資経費が大きくなるのが欠点である。大きな能力のヒートポンプを導入すると、本体経費以外にも受電設備の電気容量アップに伴う設備工事費が必要となる。このため、冬季の最低気温時の暖房エネルギーのすべてをヒートポンプのみで供給するのではなく、最低温時の必要暖房熱量の半分程度の能力をヒートポンプで供給し、不足分を温風暖房機で補う、いわゆるハイブリッド方式が合理的である。年間でみると、最大暖房負荷の半分程度の能力のヒートポンプでも、ヒートポンプのみで暖房できる期間は長く、年間の暖房エネルギーの約4分の3を分担することができる。

②木質系燃料の暖房機
  全国各地で木質系燃料を利用した暖房機の利用が検討されている。木質系燃料としては、木質チップ(小片)と木質ペレット(おがくずにして成形したもの)が利用されている。材料の取扱は木質ペレットの方が優れているが、価格が高いことが問題である。

 木質ペレットは植物由来の材料で、材料作成のための二酸化炭素使用量が少なく、温暖化対策のための代替燃料として優れている。わが国では間伐材も利用でき、木質資源には恵まれた条件にあると思われる。

 しかし、木質ペレットを使うためには、専用の木質ペレット焚き暖房機が必要で、現在、木質ペレット焚き暖房機の価格はまだ高価であり、木質ペレットの供給体制もまだ十分には整備されていないが、今後、施設園芸で大量に利用できる体制が整備され、燃油の代替エネルギーとして普及することが大きく期待される。

③ウォーターカーテン
  北関東のいちご栽培でよく普及している技術で、ハウスの内部にさらにフィルムを張り、その上に地下水を散水する方法である。地下水は掛け流しを行う。地下水の温度そのものの効果と赤外放射の透過抑制による保温効果により、いちごを無加温で栽培している。

 鉄やマンガンなどの汚れの付着しやすい成分が少ない地下水が大量に確保できることが条件で、小型ハウスでの利用に適している。

(5) その他
  エネルギー効率の高い暖房装置として、多くのメーカーから宣伝・市販されている製品があるが、効果の原理や実証データの説明に十分な科学的根拠がないものも多く出回っているので、注意が必要である。

 また、施設内の湿度管理が、省エネルギーに及ぼす影響については研究が不十分であるが、湿度は暖房エネルギー消費量に大きく影響する。被覆屋根面で空気中の水分の結露が続いて起こる場合には、放熱量が増加する。温室内の土壌面が湿っていて蒸発が大きい場合には、屋根面での結露が増加し、燃料消費量は増大する。

(6) 暖房燃料消費量の試算ツール

 省エネルギー化するため、施設・装備や管理温度について検討する場合、気象条件や温室の形状・被覆資材、暖房設定温度などの組み合わせは多様であるので、各種条件を与えると暖房燃料消費量が試算できるツールがあると非常に有益である。そこで筆者らは、全国の気象官署50カ所について、平年の気象データから、温室の暖房燃料消費量を試算して、簡単にグラフ表示できる簡易なツールを作成した。これを試用版として、野菜茶業研究所のホームページ(http://vegetea.naro.affrc.go.jp/joho/index.html)で公開している。

 このツールはパソコンの汎用表計算ソフトMicrosoft Excelとそのマクロ言語(VBA)で動作する簡便なものである。本ツールの利用により、温室の暖房燃料消費量に影響する要因についての理解を深め、省エネルギー管理手法を検討することができる。これを利用して各種対策について燃料消費量を検討した試算例が、参考文献4)に記載されている。ただし、このツールの試算結果はあくまでも推定値として傾向を把握するものであり、厳密に数値として利用する場合は補正をする必要がある。



図5 暖房燃料試算ツールの条件入力画面


5 まとめ
  農林水産省やいくつかの県(栃木県、愛知県、静岡県、岡山県、長崎県など)では、ホームページで省エネルギーのための管理指針を公開している。

 栽培管理の合理化と、効果的な省エネルギー装置・資材の利用により、従来よりも生産物1kgあたりの暖房エネルギー使用量を大幅に削減しているところを示して、施設園芸における暖房エネルギー消費およびCO排出が、社会的に批判を浴びないように、努力を積み重ねていくことが重要と考える。

【参考文献】
1)
JAグループハウス適温管理運動、2005、全国農業協同組合連合会
2)
施設と園芸、138、2007夏号
3)
農村エネルギー連携・効率的利用推進事業報告書、1995、日本施設園芸協会
4)
施設園芸省エネルギー対策の手引き、2008、全国農業協同組合連合会(JA全農)
5)
省エネ便利手帳(農耕と園芸2008年7月号付録、2008、農耕と園芸編集部編、誠文堂新光社
6)
林 真紀夫、1985、温室暖房の熱負荷に関する実証的研究、千葉大学園芸学部学術報告35、117-219
7)
高橋和彦、1980、施設園芸の省エネルギー新技術、農林水産技術会議事務局監修、(社)農林水産情報協会、166-182.
8)
高市益行、2007、施設園芸における省エネ対策の栽培管理技術、技術と普及、11月号


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