1.千葉県における加工・業務用野菜に関する取組状況
近年、業務用野菜の需要は増加しているが、国内生産の野菜類は加工・業務用向けでの栽培を意図して作付けられている物は少なく、需要を満たしていない。このため、多くの野菜が輸入され業務用需要を賄っている現状である。
しかし、実需者は安全・安心を求め、生産履歴の明らかな国内産野菜の供給を欲している。本県の野菜生産・販売は、大都市近郊園芸の特徴を活かし、市場出荷主体とした体系を整えてきた。行政・試験研究・指導の各機関も青果市場に支援してきた。
これは、生産者をはじめ集荷販売関係者の意識や野菜の生産体系が、業務用野菜に対応した年間を通じた定量・定価格での供給に合っていないこと、また、商契約に不慣れであったことが原因と考えられる。
一方、業務用野菜の生産・販売に経営的に有利な面があることに気づいた先進的生産者や農業生産法人等が、自主的に業務用野菜の生産・販売に取り組み始めてきた。
そこで、本県でも業務用野菜の実態を把握するとともに、業務用野菜での経営的得失、加工・業務用向けの品種の選定に向け取り組みを開始したところである。
2.千葉県における加工・業務用野菜の開発
本県では、平成19年より、加工・業務用野菜の産地への導入を支援するため用途別特性の解明、品種の選抜などの試験研究を開始した。
特に、本県の主産野菜と加工・業務需要の多い、だいこん・キャベツ・レタス・きゅうり・かんしょ・ほうれんそうの6品目を重点品目と位置づけ、用途別特性調査から取り組みを開始した(表)。
加工・業務用野菜の開発では、だいこん・キャベツ・レタスでは、全農千葉県本部の保有する青果加工センターや実需者との品種選定検討会等が実施されている。また、周年供給を目指す各作型の試験が試験研究機関において取り組まれている。
きゅうり・ほうれんそうでは、コンビニ業者と生産者団体との間で加工向けの好適品種が検討されている。また、かんしょでは、生産者および試験研究機関が千葉県菓子工業組合と連携し、試作菓子づくりやペースト、甘露煮原料の提供等が実施されているところである。
3.千葉県での冷凍加工事業の取組事例
ここでは、国庫補助事業を活用し、冷凍加工場「さあや’’Sキッチン」を稼動させ、旬の時期に栽培した地場野菜を冷凍加工して販売することより、新たな農業経営の確立向けた取り組みを行っている、農事組合法人「和郷園」の冷凍加工事業の事例を紹介する。
(1) 農事組合法人「和郷園」の概要
香取市にある農事組合法人「和郷園」は、平成3年に代表である木内氏を中心に、農家の後継者5名で野菜の産直を取り組んだことに始まる。その後、販売先を拡大し、平成8年に農産物の販売を行うための有限会社「和郷」、平成10年には農業施設の共同利用を行うための農事組合法人「和郷園」を設立し、現在に至っている。
平成18年度の「和郷園」は千葉県の成田市から銚子市、茨城県神栖市にまたがる6市3町の正会員41名、準会員51名の生産者で構成されており、販売高は約17億円に達している。販売品目は、野菜を中心に花き、果樹があり、生協やスーパーマーケット、外食産業など約50社と取引を行っている。
(2) 加工事業への取り組み
「和郷園」の冷凍加工事業は、(1)生産者の安定した収入を確保したい、(2)自分達の作った野菜を最後まで責任を持ち販売したい、(3)消費者に旬の美味しさを一年中楽しんで欲しいという思いから、国庫補助事業「経営体育成緊急支援事業」を活用して冷凍加工場を建設し、平成15年3月から稼動している。冷凍加工場と冷凍野菜の商品の名称に使用している「さあや」は、自分の子供達にも安心して食べさせることができる食品作りをという思いを込めて、代表のお子さんの名前から命名されている。
(ア)冷凍加工場「さあや’Sキッチン」の概要
冷凍加工場「さあや’Sキッチン」は、地域特産のかんしょ等の畑が広がる香取市にある。10,000m2の敷地に、1,000m2の冷凍加工場と各200m2の冷蔵庫、検査研修棟を備えており、生産能力は、原料ベースで年間1,000tである。
原料である野菜は、「和郷園」に出荷する生産者や近隣JAの出荷組織が生産したものを利用しており、主な加工品目は、ほうれんそうを主体に、こまつな、えだまめ、やまといも(とろろ)、ブロッコリーで、周年で工場を稼働させている。
主な販売先は生協等で、販売開始時は、中国産の冷凍ほうれんそうの残留農薬問題が取りざたされていた時期とも重なったことで、売上高は順調に伸び、平成15年は、約1億6千万円だったが、平成18年度実績では約3億6千万円である。
(イ)原料野菜の生産から製品製造までの工程
冷凍野菜は、生産者から提出された栽培計画書から入荷量を想定し、加工計画をたて製造が行われるが、入荷量が工場の処理量を上回る場合、生産者に栽培計画の変更を求める。栽培計画書をもとに、冷凍加工場から、は種計画書が示され、生産者は、このは種計画書により生産を行う。
また、冷凍製品の品質管理は徹底されなければならないため、原料野菜の生産には、事前に、ほ場管理表やほ場確認書といった、ほ場別の生産履歴の提出などが義務づけされている。
冷凍ほうれんそうの原料生産の流れ
冷凍ほうれんそうの製造工程
異物除去
電解水
投入
25℃以下まで
90℃ 25~40秒
水道水
水分約35%除去
-35℃ 3~5分
目視選別
スケール
自動計量
毎分20パック
微生物検査
-25℃
(ウ)今後の取り組み
「和郷園」は、今後も品質管理の向上に努め、HACCP認証取得(危害分析及び重要管理点)に向けた取り組みを行い、また、原料野菜の栽培技術向上による高付加価値商品(栄養価や糖度管理等)の開発や冷凍野菜の利便性に旬のおいしさを取り入れたこだわり商品の追求を行っていくとのことである。