○背景
キャベツ(平成17年度)は国内の作付面積が3万3500ha、収穫量が1364万tと、主要野菜(ばれいしょを除く指定野菜13品目)の中でだいこんに次いで2位の生産量があり、重量的には加工・業務用として最も利用されている食材の一つです。すでに紹介されているように、現在、国内の主要野菜の消費のうち55%(平成17年)が、キャベツにおいてはその48%が加工原料や業務用として利用されています。キャベツの用途別の形態は、加工用は主に工場でカット野菜として処理され、業務用は千切り、角切り、みじん切りなどに加工され、利用されています。例えば、トンカツの付け合わせには、細く長く、均一にカットされた千切りキャベツが必要で、皿に盛られた姿にボリューム感がなければいけません。また、お好み焼きや焼きそば、餃子の具材として使われる場合は、角切りやみじん切りされたキャベツを使います。鉄板でジュージューと焼くことで肉とよくマッチして、おいしさのアクセントとなるからです。他にも、定番のロールキャベツなどキャベツは料理の基本的な食材として広く利用されています。
○実需者の要望と生産上の問題点
キャベツの加工・業務用としての用途は多岐にわたっていますが、キャベツを扱っている実需者はどのようなキャベツを求めているのでしょうか。実際にキャベツの実需者に話を伺うと「硬く結球していて、水持ちがよく、加工歩留まりの高い寒玉系のキャベツが欲しい。」というのをよく耳にします。キャベツの品種は一般的に「春系キャベツ」と「寒玉系キャベツ」の二つに大別することができます(図1)。「春系キャベツ」は肉質が柔らかくて、みずみずしく、食味は良いのですが、球の締まりがやや緩く、水分がしみだしやすいため、カットや加熱したときにボリューム感がなくなります。一方、「寒玉系キャベツ」は葉色が濃く、重量感があり、水分がしみだしにくいため、カットしても色やボリューム感が維持されます。また、球の締まりや歩留まりがよく、加熱しても形が崩れません。このような特徴を持つため、加工・業務用には寒玉系キャベツを利用したいと実需者も強く望んでいるのです。
キャベツは秋から春にかけては主に愛知や千葉、神奈川などの温暖地で、また、夏から秋にかけては比較的冷涼な群馬などの高冷地で、というように1年を通して日本全国各地で生産されています。しかしながら、加工・業務用に適した球の締まりの良い寒玉系キャベツは、4月から5月にかけて生産量がどうしても不足するため、実需者は冷蔵物や輸入物で対応しているのが現状です。
なぜ4、5月に寒玉系キャベツの生産が不足するのでしょうか。それはキャベツ自身が持つ生理的特性に由来します。野菜としてのキャベツは葉が結球した状態を指しますが、キャベツも子孫を残すため、花を咲かせ、受粉して種子を作ります。キャベツはある程度の大きさになると低温に感応して花芽を分化します。夏から秋にかけて定植したキャベツは、冬の厳寒期に十分な低温を感じて花芽を分化し、春の気温が上昇してきた時期に芯を伸長させ、結球を破って抽台し、花を咲かせます。その時期がちょうど4、5月に当たるため、この時期の生産が困難となり、結果として4、5月に寒玉系キャベツが不足してしまうのです。とはいっても加工・業務用に適した寒玉系キャベツは周年需要があるわけですから、寒玉系キャベツが不足する4、5月に安定して生産できる技術を早期に確立することが強く望まれているのです。
○加工プロでの取り組み
この問題を解決すべく神奈川県では、2007年11月号の中で紹介された農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」1系を構成しているキャベツ等ユニットの中で、「業務用春キャベツ品種の選定とその定質・定規格超多収生産技術の開発」という課題に取り組んでいます。そこで、これまでに得られた研究成果を中心に紹介したいと思います。
まず、いつ播いて、いつ定植し、どのような寒玉系キャベツ品種を用いて栽培すれば4、5月に収穫できるか、という基本的な条件を押さえるための試験を行いました。図2に4、5月に収穫する基本作型を示しました。ここで注意していただきたいのは、一口で4、5月に収穫するといいますが、実は4月に収穫することと5月に収穫することは全く違うものだということです。
○4月収穫および5月収穫と有望品種
4月に収穫する作型で最も注意しなければいけないのは、上記で述べた裂球や抽台です。これらを回避するには、春先に芯が伸び始めるまでに十分な葉枚数を確保しておくことがポイントになります。そのためには、8月中旬から、遅くても9月上旬までに播種を済ませ、できるだけ結球を進めて越冬させる必要があります。また、この作型では4月に収穫するまでに、定植後約7ヶ月もかかるので、収穫時期は冬の気候条件に大きく左右されてしまいます。したがって、この作型に求められる品種特性は、芯の伸長が遅く、裂球や抽台しにくい、晩生で在圃性が高いことです。
一方、5月に収穫する作型では、裂球や抽台を回避するため、低温に感応しないギリギリの大きさで越冬させます。そのためには10月中旬播種し、もしくは12月から1月にかけて播種して加温育苗することが必要になります。この作型に適した品種特性としては、気温が上昇してくる時期にできるだけ早く、大きく結球する早生品種が求められます。
これらの作型に最も適する寒玉系キャベツの品種について検討したところ、4月に収穫できるものについては3品種(‘T-520’(タキイ種苗)、‘冬のぼり’(野崎採種場)、‘冬くぐり’(カネコ種苗))、5月に収穫できるものについても3品種(‘さつき王’、‘さつき女王’(ともに日本農林社)、‘N0553’(カネコ種苗))がそれぞれ有望品種として選定されました(図3)。
4月どりの有望品種として選定された‘T-520’は低温伸長性が高く、球形や葉色がよい、‘冬くぐり’は芯の伸長が遅い、‘冬のぼり’は葉脈の盛り上がりが顕著で、やや葉が硬いものの、最も収穫期が遅い、などの特徴を持っていました。一方、5月どりに供試した品種では、寒玉系キャベツの特徴的な扁平型の球形がタケノコ型や球型になってしまい、品種の特性が十分発揮されていないケースが多く認められた中で、有望品種として選定された3品種は、扁平で寒玉系キャベツに求められる特性を十分発揮していました。このうち‘さつき王’が最も早く収穫でき、‘さつき女王’と‘N0553’はやや収穫期が遅れるものの、葉色が濃いなどの特徴を持っていました。実際に、これら4、5月どりの有望品種について、実需者に加工適性を評価してもらったところ、いずれの品種とも高い加工適性を有していることが明らかになりました。
○今後の方向性
食生活の形態が変化し、野菜の加工・業務需要が増加している中、これまでの家庭での消費を前提とした市場出荷中心の野菜生産から、加工・業務用に適した規格で生産する必要性が生じています。これまでの研究によって、キャベツでは近年育成された寒玉系キャベツの新品種を用い、各作型に適した栽培体系にしたがって栽培することにより、4、5月においても加工・業務適性の高い寒玉系キャベツを生産できることが明らかになってきました。今後、4、5月どりに適した寒玉系キャベツの有望品種の検索をさらに進めるとともに、緩効性肥料を用いた省力施肥技術や超多収栽培に向けた栽植密度の最適化試験などを行い、最終的にはこれらの技術を体系化することによって、4、5月に寒玉系キャベツを定量、定質、定規格で安定生産するための技術開発に取り組んでいく予定です。
※次号では「大玉キャベツの大玉生産について」を掲載する予定です。