独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
野菜茶業研究所
野菜育種研究チーム長 坂田 好輝
◆「加工・業務用農産物プロジェクト」におけるきゅうり育種の取り組み
「加工・業務用農産物プロジェクト」においては、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所が、果実がやや硬く、パリパリとした新しい食感のきゅうりを育成中です。また、果実の表面のトゲを無くすことにも取り組んでいます。
野菜茶業研究所では、まず、果実が硬く、パリパリとした新しい食感のきゅうりを育成するための素材となる「きゅうり中間母本農4号」を平成18年に品種登録出願しました。
「きゅうり中間母本農4号」は、中国から導入した果実の硬いきゅうり「新昌白皮」(図1上)にわが国の市販品種「シャープ1」を交雑後、さらに「夏節成」、「アンコール10」を交雑し、果肉が硬く、市販品種並みの果実品質を有するきゅうりを目標に選抜を繰り返して育成した系統です。
果実の形はわが国の一般のきゅうり品種と同様の緑色、円筒形で、いわゆる白イボと呼ばれるきゅうりです(図1下)。果実に苦みはありませんが、時折、渋みを生じることがあります。一般のきゅうりに比べ1割程度果実(果肉部分)は硬くなっています。やわらかい胎座部分(中央の種子が入るところ)に比べて、相対的に硬い果肉部分の割合(果肉比)が大きくなっています。これらのことから、果実は平均的に硬くなり、食感にも優れます(表)。「きゅうり中間母本農4号」の果実は側枝に着果するため、収穫始期はやや遅れます。なお、「きゅうり中間母本農4号」は食感の良い品種を作るための素材であるため、遺伝様式が明らかでなくてはなりません。果実の硬さは複数の遺伝子に支配されており、不完全優性に遺伝する(雑種後代は、両親の中間程度の硬さになる)と推定されています。
業務用としては、トゲが無いことがひとつの条件であることは先に述べたとおりですが、トゲ、イボはもちろん、全身に毛(毛じ)もないきゅうり系統(図2)を育成しました。
アメリカノースキャロライナ州立大において突然変異で作出された無毛系統NCG90に、日本の市販品種を連続戻し交雑したものです。果実、葉、茎等全ての部位が無毛であり、また、果実のブルーム(表面を覆う白い粉)も出ません。ブルームを回避するための特殊な台木を用いる必要が無いことから、強勢台木を使うことができます。
◆トゲ無しで、食感がよい
生食用・業務用にも向くきゅうりを目指して
「きゅうり中間母本農4号」の成果を受けて、現在、野菜茶業研究所では、高硬度・良食感系統と市販品種を交雑し、(1)良食味で、収穫始期が早い良食感きゅうり品種を育成中です。また、業務・加工用としては、通常のきゅうりの大きさ(重さ100~120g、長さ20~22cm)にとらわれる必要はないことから、大型の温室きゅうり(ヨーロッパ系)等と高硬度・良食感系統を交雑し、(2)トゲが無く、やや大型で食感の良い品種の育成を行っています。さらに、トゲ、イボ、毛じの無い完全無毛系統と高硬度・良食感系統を交雑し、(3)完全無毛で食感の良いきゅうりの開発に着手しました。
家庭における生食用はもちろん、業務用途にも適するトゲ無しで、良食感のきゅうり、そのようなきゅうり品種を目指して、育種研究を進めています。
※次号は、「きゅうりの食味・食感について」を掲載する予定です。