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加工・業務用野菜の品種及び技術研究最前線①
トゲが無く食感がよい、きゅうりの品種の育成について

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
野菜茶業研究所
野菜育種研究チーム長 坂田 好輝


◆きゅうりの形状は、季節や地域で差がなく、画一的
 昨今、日本では年中同じ顔をしたきゅうりが並んでいます。夏期だけではなく寒い冬や春でも、また、九州や沖縄、東北・北海道でも同じです。長さが約20cmで濃緑色、まっすぐなきゅうりです。つやも良く、ぴかぴかです。品質的にもあまり大きな差はありません。同じ顔、同じ品質で、きゅうりそれぞれの品種特性にあわせて使い分けられることはほとんどありません。

 一方、トマトは、ピンク色の一般的なトマト以外にも、真っ赤なミニトマト、ちょっと小振りのミディトマト、黄色いトマト等があります。また、サラダ等の生食用のトマトだけではなく、加熱調理に向くクッキング用のトマトも並んでいます。また、一般には見ることはありませんが、トマトジュースにはジュース専用の品種が生産されています。このようにトマトでは利用方法や目的、利用状況に合わせて、多様な品種の選択が可能になっています。

 きゅうりは、サラダ以外にも漬物、酢の物、和え物、中華風に炒め物、また、かつては味噌汁の具やあんかけ等にも利用していたのですから、さまざまな用途に合わせた品種があっても良いのではないのでしょうか。逆に言えば、いろんな用途にあった大きさ、形、色、味、口に入れた時に感じられる歯ごたえ等の食感の特性を持ったきゅうりが欲しいところです。多様な特性、例えば長さが20cmばかりではなく、もっと果実の長いきゅうり、果皮の色がうす緑色のきゅうり、今よりもっとパリパリとした歯ごたえのきゅうりが開発されることにより、さらに、需要の幅が広がることが期待されます。

◆国産きゅうりの半分は加工・業務用途
 ところで、前号の「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」(加工・業務用プロジェクト)の概要でも紹介したように、わが国で消費される野菜の5割以上を加工・業務需要が占めています。きゅうりも例外ではなく、45%(注)が加工・業務用に用いられています。国産きゅうりの場合、加工用の主体は、浅漬けやキムチであり、業務用としてはサラダ、カッパ巻きの具、サンドイッチや冷麺の具等と思われます。きゅうりは、果皮部の緑色と果肉部分の乳緑色の対比が涼しげで、業務用には特に魅力的な野菜です。

 しかし、きゅうりにはひとつ大きな問題があります。加工・業務用野菜では、定時・定量供給、品質安定性、安価であること等、いくつかの条件が求められます。また、きゅうりの場合は、カット後の貯蔵性に難があるため利用しにくいといわれています。きゅうりにはトゲがあり、その台にはイボがあります。トゲは落ちやすく、そのトゲ跡には、大腸菌等を含む生菌が付着しやすく、洗ってもなかなか落としきれません。

 そのようななか、トゲのないきゅうりの品種に注目が集まっています。「フリーダム」((株)サカタのタネ)や「ポリッシ」((財)日本園芸生産研究所)という品種ですが、従来の日本のきゅうりと異なり、目立ったトゲがほとんどありません。トゲの台となるイボもないことから、つるんとしたきゅうりです。トゲ跡がほとんどなく、洗いやすいことから、給食を始め、業務用に向くといわれています。

 これらの品種は、もともとトゲが無く、果実(果肉部分)がやや軟らかいきゅうりを素材に用いていることから、果実がやや軟らかい傾向があります。わが国では、きゅうりを食べたときの音はパリパリ、ポリポリと表現するように、食感を大事にします。トゲが無くて、やや硬めでパリパリとした食感のきゅうり、それが業務用としては理想の形であると考えられます。
注)野菜情報 2007-4月号「主要野菜の加工・業務用需要の動向と産地の対応課題」参照

◆「加工・業務用農産物プロジェクト」におけるきゅうり育種の取り組み
 「加工・業務用農産物プロジェクト」においては、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所が、果実がやや硬く、パリパリとした新しい食感のきゅうりを育成中です。また、果実の表面のトゲを無くすことにも取り組んでいます。

 野菜茶業研究所では、まず、果実が硬く、パリパリとした新しい食感のきゅうりを育成するための素材となる「きゅうり中間母本農4号」を平成18年に品種登録出願しました。

 「きゅうり中間母本農4号」は、中国から導入した果実の硬いきゅうり「新昌白皮」(図1上)にわが国の市販品種「シャープ1」を交雑後、さらに「夏節成」、「アンコール10」を交雑し、果肉が硬く、市販品種並みの果実品質を有するきゅうりを目標に選抜を繰り返して育成した系統です。

 果実の形はわが国の一般のきゅうり品種と同様の緑色、円筒形で、いわゆる白イボと呼ばれるきゅうりです(図1下)。果実に苦みはありませんが、時折、渋みを生じることがあります。一般のきゅうりに比べ1割程度果実(果肉部分)は硬くなっています。やわらかい胎座部分(中央の種子が入るところ)に比べて、相対的に硬い果肉部分の割合(果肉比)が大きくなっています。これらのことから、果実は平均的に硬くなり、食感にも優れます(表)。「きゅうり中間母本農4号」の果実は側枝に着果するため、収穫始期はやや遅れます。なお、「きゅうり中間母本農4号」は食感の良い品種を作るための素材であるため、遺伝様式が明らかでなくてはなりません。果実の硬さは複数の遺伝子に支配されており、不完全優性に遺伝する(雑種後代は、両親の中間程度の硬さになる)と推定されています。



図1
果実が硬い「新昌白皮」
「きゅうり中間母本農4号」

表 「きゅうり中間母本農4号」の果肉の硬さ、果肉比と食感

果肉の硬さは、「久輝」を1.00とした相対値。
果肉比は、果肉の厚さ/果実の直径。
食感は7:良、5:普通、3:不良として評価した。

 業務用としては、トゲが無いことがひとつの条件であることは先に述べたとおりですが、トゲ、イボはもちろん、全身に毛(毛じ)もないきゅうり系統(図2)を育成しました。


図2 トゲ、イボ、毛のない育成中の系統

 アメリカノースキャロライナ州立大において突然変異で作出された無毛系統NCG90に、日本の市販品種を連続戻し交雑したものです。果実、葉、茎等全ての部位が無毛であり、また、果実のブルーム(表面を覆う白い粉)も出ません。ブルームを回避するための特殊な台木を用いる必要が無いことから、強勢台木を使うことができます。

◆トゲ無しで、食感がよい
 生食用・業務用にも向くきゅうりを目指して
 「きゅうり中間母本農4号」の成果を受けて、現在、野菜茶業研究所では、高硬度・良食感系統と市販品種を交雑し、(1)良食味で、収穫始期が早い良食感きゅうり品種を育成中です。また、業務・加工用としては、通常のきゅうりの大きさ(重さ100~120g、長さ20~22cm)にとらわれる必要はないことから、大型の温室きゅうり(ヨーロッパ系)等と高硬度・良食感系統を交雑し、(2)トゲが無く、やや大型で食感の良い品種の育成を行っています。さらに、トゲ、イボ、毛じの無い完全無毛系統と高硬度・良食感系統を交雑し、(3)完全無毛で食感の良いきゅうりの開発に着手しました。

 家庭における生食用はもちろん、業務用途にも適するトゲ無しで、良食感のきゅうり、そのようなきゅうり品種を目指して、育種研究を進めています。

※次号は、「きゅうりの食味・食感について」を掲載する予定です。



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