福岡県 農政部 生産流通課
3 野菜の生産概況
本県の野菜の作付面積は、平成17年産で10,800haと年々減少しています(図3)。品目別にみて、最も作付が大きいものはレタスで、以下、キャベツ、ねぎ、ほうれんそう、いちごと続きます(図4)。
産出額をみると、いちご178億円が最も多く、次いでなす58億円、ねぎ55億円、トマト43億円、レタス33億円の順となっており、この5品目で野菜全体の6割弱を占めます。
全体的に野菜作付が減少する中で、ブロッコリーが増加しているのが特徴的です。これは、販売情勢が好調なことから、キャベツ産地での品目転換や新規産地が増加していることが大きな要因です。
4 野菜の振興方策
前述したとおり水田率の高い本県において、農業・農村の持続的発展を図るためには、米・麦・大豆といった土地利用型作物から、野菜・花きなどの収益性の高い園芸作物への転換を強力に進めていく必要があります。
このため、平成18年6月に策定した「福岡県農業・農村振興基本計画」に沿って、21世紀を勝ち抜く攻めの農業をめざして、さまざまな取り組みを行っています。
(1) 生産拡大対策
土地利用型農業から園芸農業への転換を加速するため、平成4年度から県単独の「高収益型園芸農業確立対策事業」を実施しています。
これは、農業者が組織する営農集団や法人がハウスを建設する際や、農業協同組合が集出荷場を建設する際などに一定の助成を行うものです。
毎年、約20haのハウスが建設されるなど、施設野菜の振興に大きく寄与しており、農業者からの実施要望が多い本県農政を代表する施策のひとつとなっています。
(2) 新たな産地づくり対策
若年層を中心に野菜の消費量が減少しているなかで、サラダなど新たな消費が期待される野菜を選定し、これを供給する新たな産地を育成することを目標に、平成17年度から「サラダ食野菜開発事業」を実施しています。
野菜の消費拡大方策や、今後需要が期待できる有望品目の提案をしてもらうために、学識経験者や流通業者、料理家等で構成する協議会を設置しており、協議会から提案された品目については、評価のための試験栽培を行います。
試作された野菜については、その協議会の構成員に評価をしてもらい、高い評価を得た品目については、現地普及を進めることとしています。
これまで2年間取り組んできたなかで、ホテルの料理長や仲卸などから高い評価を受けた「新からし菜」については、今年度から産地化を図っています。
また、その他有望と判断された品目については、直売所などで販売を行うとともに、機能性や調理方法をまとめたPRチラシを配布するなど、消費者や農業者に対して普及・定着を図ることとしています。
(3) 担い手対策
本県農業の基幹をなす野菜ですが、個々の産地や品目に目を移すと、いずれも農業者の高齢化進行に歯止めがかからず、販売価格の低迷もあいまって、大変厳しい情勢が続いており、産地の弱体化は否めません。
とりわけ、高齢化は深刻な問題であり、このまま5年、10年と経過したとすれば、産地規模は急速に縮小、ややもすれば産地が消滅する事態も引き起こしかねない状況にあると言えます。
しかし、このように厳しい情勢の中でも、雇用を導入した企業的な大規模経営を開始するなど、意欲ある農業者の前向きな取り組みも芽生え始めています。
産地の維持・拡大には、個々の農業経営が健全であることが欠かせません。
そこで、経営能力に優れた人づくりを強力に進めていくために、昨年度から「企業的経営育成事業」を実施しています。
本事業では、規模拡大を志向している農業者に対し、規模拡大に向けた心構えや留意点を学ぶことにより、雇用を導入した経営への転換を促進するための「企業的経営推進セミナー」や、経営理念の習得や実現までの年次別計画の作り方、資金繰りや雇用確保に係る個々の課題等の解決をめざすための「経営相談会」を開催しています。
これまで、いちごをはじめとして、トマト、レタス、ねぎの農業者を対象に実施してきましたが、規模拡大を実践しようとする農業者も現れてきており、徐々にではありますが、野菜における「企業的経営」が県下に広がりつつあります(図5)。
(4) 集落営農組織等における野菜振興対策
品目横断的経営安定対策を契機として、現在、県下に400を超える集落営農組織が設立されています。これらの組織のほとんどは、米・麦・大豆を基幹作物としていますが、さらに、収益性の向上を図るため、経営品目に新たに野菜を導入し始める組織も出てきています。
現在、導入されている品目は、①栽培が容易で、②作業の機械化が確立されており、③初期投資が少なく、④契約販売が可能な品目という観点から、ジュース加工用のにんじん、ケール、青果用のごぼう、たまねぎなどです。
今後は、既存の野菜農家だけでなく、集落営農組織も新たな対象として、リーダー研修会や栽培講習会、機械作業実演会等を開催し、野菜導入のきっかけづくりを促進していきたいと考えています。
5 輸出促進対策
本県は、古くから輸送園芸産地として、京浜、京阪神地区を中心に販売を行ってきました。このため、これら大都市圏において、テレビCMの放映による認知度向上や販売店舗での試食宣伝即売会、異業種とのタイアップによる商品販売などさまざまな取り組みを行ってきました。
しかしながら、近年は、これらの取り組みに加えて、アジアに非常に近い地理的優位性と、空港・港などの充実したインフラを最大限に活かし、農家や農協、関係機関と一体となり、海外市場に「福岡ブランド旋風」を巻き起こすため輸出促進の取り組みを展開しています。
本県は、香港、台湾、シンガポールなど東アジアを中心に輸出促進事業を展開していますが、その要因としては、次の内的・外的要因などが挙げられます。
これらの要因は、端的に言えば、国内市場の縮小、近隣諸国の魅力ある市場の存在の2点に集約され、自ずと輸出事業への取り組みの必要性が見えてきます。
また、前述の時代背景のみならず、輸出事業を展開していくことにより、本県農業においても次の効果が見込まれます。
①生産者のやる気と自信につながり、JA等の組織が活性化
②経営基盤の安定化、ビジネスチャンスの拡大
③輸出検疫等への対応により栽培管理のレベルアップ
④マスコミ報道による産地の知名度向上
これらの効果は、平成19年5月に農林水産省が発表した「農林水産物の輸出取組事例」の中で、輸出によるプラス効果として、農業団体や生産者から実際に報告されたものです。
このようなことから、平成17年度から、積極的に輸出に取り組むJAなどを公募し、「農産物輸出モデル産地」と位置づけ、香港や台湾を始め、世界各地のバイヤーを招聘する等、直接商談に結びつける取組等の支援を行っています。
この結果、いちごの「あまおう」等は、継続的に輸出される定番商品となり、香港、台湾、シンガポールでの「福岡フェア」とあいまって、県産農産物の認知度向上につながっています。
また、JA全農ふくれんは、平成18年度から株式会社ホクレン通商と提携し、輸出向けの共同輸送や共同販促活動の実現に向けた協議を重ねています。北海道はながいも、ばれいしょ、にんじん等年間を通じて香港、台湾等へ輸出しており、万能ねぎ、しゅんぎく、みず菜等を年間出荷できる本県としては、北海道との連携により、より多くの種類の農産物を安定的に輸出できることとなり、販路の拡大が期待できます。
今後とも、農産物輸出の取り組みにより、産地や農家の元気を引き出し、市場の拡大と農家の所得向上につながるよう、全力を上げて支援していくこととしています。
6 おわりに
野菜を取り巻く情勢は、消費量の減少や輸入量の増大、高齢化による産地の衰退など、全国的に多くの課題を抱えています。
しかしながら、消費者の安全・安心への関心の高まりなどから、国産野菜に対するニーズは高まっています。
福岡県としても、こういった消費者ニーズに的確かつ迅速に応えられるような産地づくりを進めながら、担い手の経営を重視した取り組みを強化することにより、競争力を持った持続ある野菜産地を育成していくこととしています。