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農林水産省委託プロジェクト研究
「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」(加工・業務用農産物プロジェクト)の概要

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 
野菜茶業研究所 研究管理監 小島 昭夫


1 背景
 今から6年前、平成13年にねぎ等の暫定セーフガードが発動されたことに象徴される輸入野菜急増を契機として、翌14年度に農林水産省委託プロジェクト研究「国産野菜の持続的生産技術の開発」(国産野菜プロジェクト)が3年間の予定で開始されました。さらに同年、農林水産省は「食と農の再生プラン」を取りまとめ、その柱である「食料自給率の向上のための国産農産物需要の維持・増進」と「食と農に対する国民の信頼性の向上」に対応する委託プロジェクト研究として、「新鮮でおいしい『ブランド・ニッポン』農産物提供のための総合研究」(ブランド・ニッポンプロジェクト)が企画立案されました。

 野菜茶業研究所が中核機関となって開始された「国産野菜プロジェクト」は、平成15年度に「ブランド・ニッポンプロジェクト」の6系(野菜)に組み換えて引き継がれ、平成17年度まで通算4年間実施されました。その成果は、本誌の2006年11月号から2007年5月号までの連載記事により一部紹介したところですが、輸入野菜に対する競争力を強化しつつ国産野菜の良さを消費者にアピールすることに貢献できたものと考えております。図1の左上の棒グラフは平成12年度のデータですが、家計消費における国産野菜のシェアは、その後の輸入野菜急増を経験した後でも、平成17年度には12年度と同水準(98%)に回復しました。

 しかしながら、近年は外食・中食用やカット野菜等加工・業務用野菜の需要拡大が著しく、主要野菜ではシェアの過半、54%を占めるに至りました(平成12年度)。しかも、加工・業務用野菜では輸入品のシェアが平成12年度で26%(図1)を占め、さらに増加して17年度には32%に達しています。このように、加工・業務需要においては、輸入野菜が価格や安定供給等の面で優位性を持つことから増加傾向にあり、国産野菜はニーズに十分対応し切れていない状況にあります。

 そこで、農林水産省委託プロジェクト研究「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」(加工・業務用農産物プロジェクト)1系(野菜)が平成18年度より5年間の計画で実施されています。本稿では、この加工・業務需要に対応した研究プロジェクトの概要を紹介します。


図1 「加工・業務用農産物プロジェクト」のコンセプト(平成18年1月作成)

2 「加工・業務用農産物プロジェクト」のコンセプト
 図1は本プロジェクト研究の背景や目標、課題例、および行政施策との連携を概念的に表したものです。「背景」についてはおおよそ1で述べました。研究の目標をひとことで言えば、「加工・業務需要における国産野菜の競争力を高める品種の育成、生産・流通技術の開発、おいしさ情報の提供等により、野菜自給率向上に貢献する」ことです。研究開発の視点は次の3つです

  • 加工・業務用適性品質を有する品種の育成と栽培技術の開発
  • 低コスト・機械化適性等を有する品種の育成と栽培技術の開発
  • 多様な品目別の食味・食感評価法の開発と育種・栽培・食育等への活用。


  •  これらの3つの視点を組み合わせて、育種、栽培技術、機械・作業技術、品質解析の分野間の連携を図りながら一つ一つの研究課題を実施しています。図1には、単為結果性種なしなす、短葉性ねぎ、トマト低コスト多収生産システムの課題を例示していますが、その他にも多様な品目に取り組んでいます。野菜茶業研究所が中核となり、農研機構内研究所、大学、道府県、および民間の研究者が分担・連携して、53の課題を実施しています(表1)。表1に示すチーム構成、ユニット構成は、品目別および研究手法別に切り分けていますが、ユニット内のみならず、ユニット間やチーム間の連携を個々の課題遂行の中で十分に活用することが重要であると考えています。

    表1 
    「低コストで質の良い加工・業務用農産物の安定供給技術の開発」1系(野菜)のユニット構成
    (平成18年度開始時)





     さらに重要なことは、農林水産省生産局等行政部局との連携です(図1)。平成17年に改訂された食料・農業・農村基本計画は、27年度の野菜の自給率目標を88%としています。そこで図1では、本プロジェクト終了時(22年度末)のイメージとして自給率85%を掲げました。改めて述べるまでもありませんが、もとよりこの数値目標は本プロジェクトによってのみ達成できるというものではありません。加工・業務用野菜の生産振興等における強力な行政施策の実施や生産者、実需者等の努力が不可欠であり、主役であり、そこからの運動を技術開発の面から刺激し、支援することが本プロジェクトの役割です。

     さて、煩雑になるため図1には盛り込めませんでしたが、もう一つの重要な要素として、本プロジェクト以外のさまざまな研究活動との連携があります。これについては、ちょっと視点を変えて、次の項で説明します。

    3 始まったばかりの加工・業務用野菜研究:
    「加工・業務用農産物プロジェクト」をその核に

     表2に、戦後わが国の育種研究における大目標を、重要視され始めた時代の順に整理してみました。

     「1)多収性」と「2)作型適応性」は、戦後日本経済の復興・高度成長に伴って周年的に拡大した生鮮野菜の需要に応える育種目標でした。「3)斉一性」は多収性とともに普遍的な育種目標でもありますが、野菜品目ごとの主産地形成・遠距離流通が確立され、大産地が固定化するようになった高度経済成長期に、「4)病害虫抵抗性」とともに特に重要視されるようになった育種目標でしょう。「5)機械化・省力化適性」は、その後、生産者の高齢化や担い手不足が問題となり、特に重要となってきた育種目標です。以上1)~5)は、生産者ニーズに応えるものといえます。もちろん、現在でも育種目標として重要であることに変わりはありません。


    表2 
    野菜の育種が目指してきたもの・目指すもの



     一方、食生活が量的に豊かになるとともに質的な豊かさや安全・安心が求められるようになり、また、産地間競争の激化も相まって、6)~8)に示すような消費者ニーズへの対応も重要視されるようになりました。

     そして、最も新しい動きとして、「9)加工・業務適性」が注目され始めたのです。そもそも野菜とは、「加工の程度の低いままに、副食など主食以外で食用とする、主に草本性の植物」であり、加工が前提の大豆や麦等とは異なり、加工専用野菜はマイナーであり、わが国ではあまり研究対象になりませんでした。業務用野菜も、以前は、家計消費用との区別はあまりなく、あるいは市場流通から外れた規格外の品物か、逆に高級料亭向き等こだわりのブランド品かといったところが相場であり、主要な研究対象とはなり得ませんでした。ところが、流通業界の統合が進むにつれて事情が一変しました。

     例えば大根おでんのような末端の商品アイテムの一つ一つでも、広域に展開したフランチャイズチェーンでまとまれば大きなロットとなり、アイテム毎に求められる規格や品質の影響が顕在化し、実需者側の発言力(「おでん用にはこういう規格・品質のだいこんを供給して欲しい」というような)も増す、という流れが生じました。本稿の、「背景」の項で述べたとおり、食の外部化による加工・業務需要の拡大や野菜輸入量の増加に加えて、品目の多様な野菜では、流通業界の統合もニーズ顕在化の大きな要因であろうと考えます。

     このような事情から、加工・業務用野菜に関する育種を含めた本格的・総合的な研究は、いま始まったばかりです。しかしながら平成17年度の自給率は79%にまで低下し、野菜の自給率向上は待ったなしの課題です。多様な品目の多様なニーズに対して幅広く総合的に、かつ迅速に対応する必要がありますが、「加工・業務用農産物プロジェクト」はその中核的な研究プロジェクトとして機能することを目指しています。

     図2に、本プロジェクトを構成する各ユニットの主な技術開発目標を示します。これら個々の目標を達成することはもちろん重要ですが、それだけにとどまらず、プロジェクト外のさまざまな研究や事業と連携することも不可欠です。野菜は品目が多く、品目毎に対策技術も多様なため、例えばいちごのユニットがない等、本プロジェクトがカバーしていない重要な品目・要素技術は少なくありません。


    図2 
    「加工・業務用農産物プロジェクト」のユニット構成とユニット別の主な技術開発目標



     しかしそれらの課題のなかには、他の委託プロジェクトや高度化事業、経常研究等で取り組みが始まっているものや、取り組みが検討されているものが増えてきています。これら本プロジェクト以外の産学官の研究も刺激し、互いに連携を密にすることによって、研究成果を補完し合い、面的に効果的に波及させるという視点が重要であろうと考えています。

     来月号から、本プロジェクトのトピックスがいくつか連載されます。12月号では「きゅうりの育種」、1月号では「きゅうりの食味・食感」、2月号では「なすの育種」、そして3月号では「キャベツの品種・栽培技術」について、それぞれの研究担当者がこれまでの中間成果と今後の取り組み方向を紹介する予定です。

     これらの連載が、加工・業務用野菜に関心を持っておられるいろいろな分野の方々との連携のきっかけになることを願っております。

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