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GAPの普及、及びJGAPの世界基準認証の取得について

NPO法人 日本GAP協会
理事 事務局長 武田 泰明


はじめに
 農産物の安全・安心が日常的に話題に上るようになって久しいが、近年の食品業界の度重なる不祥事及び中国産食品の問題多発によって、消費者をはじめ農産物の需要者からの安全・安心への関心は非常に高まっている。
 農産物の安全については、残留農薬の検査などによる対応が増えているが、あくまでこれはすでに流通している大量の商品の一部を抜き取りにより検査するもので、安全な農産物の生産自体を保証するものではない。このような状況の中、ヨーロッパ発の手法としてGAPが普及をし始めている。今回はGAPをご紹介するとともに、JGAPの世界基準認証の取得、またJGAPの導入の現場を紹介する。

◆1 GAPとは何か。
 GAPとは、Good Agricultural Practiceの頭文字をとったもので、適正農業規範もしくは農業生産工程管理と訳される。平たく言えば「適切な農場管理とその実践」ということになる。農場には、農薬散布をはじめ、収穫や種苗購入など様々な作業があり、土や水など様々な生産環境がある。数多くある作業や生産環境のうち、農産物の安全等を確保するために押さえるべきポイント(管理点)をまとめたものがGAPである。

 農産物の安全に関する大きな問題として残留農薬問題がある。これを例にとってGAPを説明するとすれば、残留農薬基準違反を起こさないために、「農薬の計画・選択段階で何に気をつけるべきなのか。」「農薬の使用・散布段階で何に気をつけるべきか。」「後片付けや記録、収穫以後の取扱いで何に気をつけるべきか」といった形で、一連の農場管理・農作業の中で残留農薬基準違反を起こさないために押さえるべきポイントをまとめたのがGAPである。言い換えれば、残留農薬の問題に対して、「抜き取りサンプルを用いた残留農薬検査による品質保証」ではなく、「生産工程管理による品質保証」を行おうとする試みである。

 GAPは農業生産者が使う新しい道具(手法)と言える訳だが、考え方自体は新しいわけではない。食品製造業でHACCPが導入され製造工程管理による品質保証が進められたのと同じく、農業生産現場でも生産工程管理による農産物の品質保証が進められているということである。

 GAPは、一般的には冊子になっており、
(1) 管理点:農産物の安全等を確保するために押さえるべきポイント
(2) 適合基準:押さえるべきポイントごとの、目指すべき望ましい状態
の2項目で構成されている。

 具体的に実物を見てみたい場合は、NPO法人日本GAP協会のホームページ(http://j-gap.jp/)でJGAPを見ることができる。

 日本で最も普及しているGAPの一つであるJGAPは「農産物の安全」「環境への配慮」「生産者の安全と福祉」「農場経営と販売管理」の4つのテーマを持っている。JGAPは、これら4つのテーマを実現するために、農場で押さえるべきポイントをまとめてある。「農産物の安全」については、農薬だけではなく、病原菌や重金属の管理も盛り込まれている。JGAPに書かれた「適切な農場管理の状態」になっているかどうか、農家は自らの農場管理を自分で確認して改善していくとともに、第三者による審査を受け、JGAP認証を取得していくこともできる。

 GAPは、生産者、小売業者、食品加工業者、外食業者などが参加し作成されるべきものである。農産物を作る人、売る人、買う人全員が納得したGAPを農場が導入し、認証を取得することにより、安心して取引できる農場かどうかを判断する指標として用いられてもいる。GAP導入の利点を下記のとおりまとめた。

(1) 農業生産者・産地にとってのGAP導入の利点 (ア)
農産物の安全の確保など、農業経営のリスクが低減され、持続的な農業経営を実現できる。
(イ)
GAP認証を得ることで、信頼できる農場であることを、農産物バイヤーをはじめ社会全体へアピールすることが可能
(ウ)
農場の作業標準化に基づく効率的な農場管理の実現


(2) 農産物バイヤーにとってのGAP導入の利点 (ア)
一定の安全性が確保された農産物の調達が可能
(イ)
農産物の安全等に関する確認を独自に行う必要が無くなり、効率的な商談が可能
(ウ)
味や外観などの品質基準、栽培基準は自由に設定が可能であり、差別化された商品の調達とも両立する。

図1 JGAPの管理点、適合基準
(青果物第2版(2006年4月1日発行)抜粋、日本GAP協会HPより)
※クリックすると拡大します。

◆2 世界のGAPの普及
 世界的には、欧州小売業組合(Euro-Retailer Produce working group)が作成したEUREPGAPが最も普及しており、欧州で流通する農産物の大半がEUREPGAP認証農場で生産されている。EUREPGAPは、1997年に小売業界が先導してスタートしたと言われている。欧州で、GAPの普及が小売業からスタートしたという理由は明確である。小売業は農産物を買い、そして店頭で売るという仕事である。農産物の安全をとってみても、残留農薬や食中毒菌の存在は、調達した農産物を見ても分からない。残留農薬検査などの取り組みも可能だが、あくまで抜き取り検査であって、購買している農場が複数あれば、全体を代表するサンプリングを行うことは容易ではない。最終的には、農産物を生産している農場で、残留農薬基準値違反を起こさないように、いかに気をつけて農作業をしてもらうかということが大事である。このような理由から、欧州の小売業は、農業生産工程管理による品質保証、つまりGAPを農業生産者に求めるようになった。

 欧州の小売業は、欧州域内の生産者だけでなく、輸入農産物にも同様の農場管理、つまりEUREPGAPを求めるようになった。欧州は巨大な農産物輸入国であり、その影響は世界中に波及した。EUREPGAPからの報告では、2006年9月時点で既に世界75カ国でEUREPGAP認証農場が存在し、59,000認証(団体認証含む)以上になっている。

 欧州以外では、ケニア、チリ、ニュージーランド、メキシコ、ウルグアイ、中国、マレーシア、米国、ブラジル、タイ、ガーナ、オーストラリアで、各国の生産環境を考慮したGAPが作成されている。生産環境の違いとは、例えば日本の生産環境においては農薬のドリフト(飛散)は必ず押さえたいポイントであるため、JGAPではドリフトを大きく取り上げているが、EUREPGAPではあまり強調されてはいない。欧州の生産環境(単一の農産物を大規模な圃場で栽培)では、日本ほどもドリフトが深刻な問題ではないためである。

◆3 日本のGAPの普及
 日本ではNPO法人日本GAP協会が作成したJGAPの他に、農林水産省、都道府県や小売量販店が作成しているGAPがある。

 農林水産省は、2007年4月に「21世紀新農政2007(食料・農業・農村政策推進本部(本部長:安倍総理大臣))」を発表し、その中で食品の安全と消費者の信頼の確保に向けた取り組みの充実としてGAPの導入を述べ、23年度までに国内の主要な産地(2,000産地)においてGAP導入することを宣言している。同時に「基礎GAP」を発表し、普及指導員などによるGAP指導・普及をスタートさせた。

 都道府県は、2005年ごろから開始された農林水産省の指導の下、独自のGAP作りを開始し、先行した都道府県では地域限定版のGAP導入が進められている。

 小売量販店では、イオングループの動きは早く、2002年ごろから自社のGAPを作成しながら、GAPの普及を推進した。その他には日本生活協同組合連合会が発表した「生協産直の青果物品質保証システム」があり、実証実験を経て2007年より本格展開を始めている。両者とも、同時に流通規範や販売規範も進めており、農産物流通全体を通した品質保証体制を構築しつつある。

 JGAPは2004年度農林水産省総合食料対策事業でGAP推進協議会が作成したものが土台となり、現在普及しているものは2006年4月に発表したJGAP第2版である。GAPを農業経営者の新たな道具として位置付け、日本の生産環境にあったGAPの作成と普及を目的としてNPO法人日本GAP協会が設立された。1,000以上の農場がJGAPに取り組んでおり、2007年8月までにJGAP認証を取得した農場は150農場を越えた。2007年8月にはJGAPがEUREPGAP同等性認証を取得し、これにより一定の条件のもとで審査を受けたJGAP認証農場はEUREPGAP認証農場と同等に扱われることとなる。

◆4 JGAP導入の現場
 2007年9月現在、JGAP指導員と呼ばれる方が全国に500名以上いる。JGAP指導員はNPO法人日本GAP協会が主催するJGAP指導員研修の合格者である。出身母体は多岐に渡っており、農協や生産者団体の関係者、地域の指導的な立場の農業生産者、中間流通業者の産地担当者や、小売量販店や食品メーカーの仕入担当者、農薬や肥料を販売する農業資材関係者などが中心である。JGAP導入に取り組む農業生産者は、単独で挑戦することもあるが、多くはJGAP指導員とともに導入を図っている。

 JGAP指導員が中心になって行う指導では、地域の複数の農業生産者がグループで指導を受けることも多い。多くの農場の事例では、JGAP導入開始から3ヶ月から半年程度でJGAP認証まで到達している。JGAPはあくまで「信頼できる農場管理」であることから、篤農家の中には1ヶ月かからずにJGAP認証を取得している事例もある。

 農業生産者が団体でJGAPに取り組み、審査認証を受ける事例も増えている。小規模の生産者を抱える農協の部会などは、団体での審査認証を目指している場合が多い。農場管理の責任範囲を、部会と各生産者で分担しながら取り組むため、各生産者の管理にかかる負担が少なくなり、非常に効果的な取り組みといえる。

 農林水産省は、食の安全・安心確保交付金を準備し、GAPに取り組む生産者を資金的な面からバックアップしており、JGAP認証農場も取り組みの中で積極的に活用している。


図2 JGAP指導風景

◆5 国産農産物の競争力とGAP
 残念ながら、日本はGAPに関して後進国と言わざるを得ない状況である。国産農産物の競争力を保つために、日本でGAPを早急に普及させることは重要なことであり、そのためには日本の農業生産者が取り組み易い環境作りが必要である。日本の農業生産者、農産物流通業者の共通財産として、「(1)国際的な水準をクリア」し、かつ「(2)日本の農産物を作る人・売る人・買う人全員が納得した」スタンダードGAPが一つ存在し、同時にその指導体制が整備されていることが重要である。企業文化や地域文化を反映した独自のGAPもあっても良いが、それらがスタンダードGAPを土台とすることで、国産農産物の競争力を保ち、同時に生産側と消費側の信頼関係作りに貢献することができる。

 安全・安心の話が食品業界を賑わすようになって久しいが、安全と安心は別である。農産物の安全の確保のためには、「生産現場がしっかり正しく農場管理すること」が不可欠である。そして「適切な農場管理が行われている農場で生産された農産物であること」を消費側に対して伝えていくことが安心につながる。トレーサビリティだけでは食品事故は防げないと言われる所以である。GAPで安全を確保し、トレーサビリティで安心を伝えるというのが正しい取り組みである。どちらかだけでは片手落ちで、両方取り組まなければならない。

 GAPが大きなテーマとしている農産物(食品)の安全・安心は、消費者にとって「当たり前の品質」であり、JGAP普及によって消費側と生産側の間に信頼関係でき、安全・安心に関する話題が上らなくなる日が来ることを願う。その信頼関係を土台として、その上で美味しさや新鮮さを競い合い、同時に手頃な価格を実現し、国産農産物の総合的な競争力をしっかり打ち出していきたい。

=言葉=
GAP:ギャップもしくはジーエーピー
JGAP:ジェイギャップ
日本GAP協会:ニホンギャップキョウカイ
EUREPGAP:ユーレップギャップ


プロフィール
たけだ やすあき


99年 
筑波大学生物資源学類卒業
00年
株式会社ケーアイ・フレッシュアクセス 
サービスセンター事業部にて農産物鮮度管理と物流改善を担当
01年
農業情報コンサルティング株式会社 
システムエンジニアとして業務システム、WEBアプリケーション開発を担当
02年
筑波大学大学院経営政策科学研究科卒業 ロジスティクス専攻
02年 
三菱商事株式会社
食品本部にて農産加工品の営業、業務システム開発、食品工場のQC(品質管理)など担当
06年
日本GAP協会理事、事務局長 現在に至る
著書
「サプライチェーン・ロジスティクス」、
松浦、島津、阿保、武田他翻訳 朝倉書店出版(2004年3月刊行)



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