[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

情報コーナー



「なすフォーラム2007」より
~需給の現状と需要拡大の可能性を探る~

NPO法人 野菜と文化のフォーラム
理事 川口 和雄
(日本農園芸資材研究会 事務局長)


 近年の野菜を取りまく環境は健康志向時代を迎え、おいしさ、栄養面、機能性に対する消費者の関心が高まる一方で、安全に対するチェックも一段と厳しい状況にあります。生産側の動向に目を転ずると高齢化、担い手の不足、海外農産物の攻勢の中にあって地球温暖化による異常気象、甚大な気象災害、さらには昨年施行されたポジティブリスト制度など農家における生産環境は年々厳しい内容となっているのはご承知のとおりです。

  本稿ではNPO法人野菜と文化のフォーラム(以下「野菜と文化のフォーラム」)が6月27日、女子栄養大学で開催した「なすフォーラム2007」を中心に野菜と文化のフォーラムが行っている野菜の消費拡大のための活動内容を紹介する中で、国内野菜の需給に関する課題を考えてみたいと思います。

Ⅰ 野菜と文化のフォーラムの設立主旨と活動について

1 設立主旨
  日本は南北に細長い島国で地域ごとに異なる自然環境との関係の中でそれぞれ地域特有の生活習慣を築いてきました。生活の基本となる食生活においても、健康維持のため一日たりとも欠かすことのできない野菜はとりわけ自然との関係が強く、品種の地域性や地方特有の調理、加工方法など地域に密着した食文化を築きあげてまいりました。

  一方で、食生活の内容の変化、嗜好性の変化など消費者ニーズの多様性に対応した野菜流通技術の向上や新しい野菜、品種の改良、栽培技術の革新などが関係する研究機関の努力によりたゆまず行われてまいりました。

  野菜と文化のフォーラムでは野菜の素晴らしさを見直して、おいしい野菜・安全な野菜を生産し流通させ消費するために、作り手・売り手・食べる側が一緒になって「文化としての野菜」という概念を認識し、その文化を普及拡大することを目的に1988年3月に設立されました。近年は野菜の品種改良や輸送技術の高度発達により我々はいつでもどこにいても好きな野菜が手に入るようになりました。しかしながらその手軽さや、おいしさ、安全性などに疑問の声も多く聞かれるのも事実であります。

  私共は全国の産地から四季折々の野菜を取り揃え「食べ比べ」を行い、それぞれの野菜にふさわしい食べ方や、調理方法の調査研究を行ったり、実際に栽培されている現場に出かけ、その圃場で生産者の「思い」を聴いたり、丹精こめて作られた野菜を食べることにより、喜びを共有することも大切なことと考えており実践しています。

  また、各方面の専門家を招いて野菜について様々な面から学ぶこと討論することなども実行してきました。

  これらの活動を続ける中で私共はおいしい野菜・安全な野菜を生産させ、流通させ販売する仕組みを吟味し、改善策を見い出す努力の必要性を一層痛感しました。

  このフォーラムが主体となって「安全でおいしい野菜」を正しく評価し、認定するシステムを作り、消費者が用途に応じて「安全でおいしい野菜」を買い求める指標にすることができればという願いも膨らんできました。

  これらの願いと思いをさらに発展させ充実させるために2002年5月に非営利活動法人野菜と文化のフォーラムを設立いたしました。

2 活動内容
(1) 野菜ブランド化推進調査事業
  「野菜のおいしさ検討委員会」
農林水産省平成18年度知識集約型産業
創造型対策事業

  「野菜のおいしさに係わる指標等を策定」することを目的とし、消費者に好まれる野菜の品質をあらゆる要因から総合的に考慮した「おいしさ」に着目し、品質の評価指標づくりとして取り組んだ事業
「野菜のおいしさ検討委員会報告書」
(2007年5月)

(2) 食べておいしさを知り、野菜を学ぶ「野菜の学校」
  毎月1つのテーマ野菜を取りあげ、野菜の特徴や産地・市場動向、味や保存・扱い方など講義し野菜の勉強を行う。

  「調理と食べ比べ」「旬の野菜の試食」など食に係わる講座もある。
(毎年4月開講 1ヵ年(11回講座)で終了)

(3) 作物フォーラム(本稿にて後述)

(4) 会員による会員のための勉強会
  当会に会員として在籍する業界の専門家による、会員相互の資質向上を図るための勉強会
〔野菜の品種、海外の野菜事情、卸売市場の動向、流通・加工・スーパーの動向など〕

(5) 有名野菜品種研究会
  1~2作物を取りあげ、主産地、主銘柄、新興産地、新品種の作物を集め、作物の市場動向を検討する。また、それらの作物の「食べ比べ」による総合評価を行う。

(6) 研修旅行・産地研修会
野菜と文化のフォーラム・ホームページ参照
http://www.yasaitobunka.or.jp/

3 「作物フォーラム」
  「作物フォーラム」は野菜と文化のフォーラムで毎年実施している中心的な事業の一つです。国内における野菜の1人1年当たりの消費量は減少傾向で推移しており、2005年には95kg/年間とピーク時の70%になっております。国内の野菜作付面積、生産量も年々大幅な減少傾向にあります。現在、日本には国の定める指定野菜が14品目あります。

(きゅうり・キャベツ・さといも・だいこん・たまねぎ・トマト・なす・にんじん・はくさい・ピーマン・ばれいしょ・ほうれんそう・レタス・ねぎ)

  これらの主要野菜は消費量も多く、価格の動きが消費者物価に直結する重要な野菜ですが、気象災害や産地の動向により、時期により供給が不安定になりがちです。また、近年は食生活の変化により、外食・中食と呼ばれる弁当屋やレストラン等の加工・業務用に使用される割合が高くなり、年間を通して安定した形で供給されることが求められる野菜でもあります。

  中国を中心とした生鮮野菜の輸入量が2001年に年間100万tを超えましたが、多くは加工・業務用に使用されているものであります。

  私共は農林水産省の野菜課流通加工対策室と相談し、このような内外の需給環境の中で1つの指定野菜をテーマに、行政、研究機関、生産者、消費者、実需者が集いその野菜の消費拡大を図るための課題を多面的に検討する必要があると考え作物フォーラムを企画しました。

  作物フォーラムでは下記(1)~(6)の流れで会を進行して参りました。

  1. 農水省─統計資料をベースとした需給状況の報告と講じようとする施策の発表
  2. 研究機関─テーマ作物に係わる栽培状況、作物の特徴(栄養価、機能性)
    品種改良等の新しい研究内容の報告
  3. 栽培者─消費者・実需者の求めるニーズに対応した栽培に関する報告(安全対策、周年安定供給、品質向上の工夫など)
  4. 種苗会社・産地─特産品種や新品種の紹介と試食会
  5. 実需者─調理家や栄養士の方より、テーマ作物に関する講演など
  6. パネルディスカッション
  特に(4)では実際に産地の自慢の野菜を「見る、触れる、食べる」ことを目的とし、調理の設備のある女子栄養大学(松柏軒)で開催しています。毎回、事前に会のメンバーと松柏軒の料理長とテーマ野菜の素材を生かした調理について工夫をし参加者に紹介しています。

【作物フォーラム実績】
第1回 2003年 トマトフォーラム
第2回 2004年 キャベツフォーラム
第3回 2004年 きゅうりフォーラム
第4回 2005年 ピーマンフォーラム
第5回 2006年 ほうれんそうフォーラム
第6回 2007年 なすフォーラム 
2003年 10月 東実健保会館
2004年 2月 女子栄養大学
2004年 7月   〃
2005年 6月   〃
2006年 7月   〃
2007年 6月   〃




女子栄養大学で開催された「なすフォーラム」
天ぷら、塩漬け、揚げびたしなどを
試食する来場者



※クリックすると拡大します。
図1 なすの統計



※クリックすると拡大します。
図2 なすの品種

Ⅱ 「なすフォーラム2007」

  「一富士二鷹三茄子」「秋茄子は嫁に食わすな」「親の意見と茄子の花は千に一つも仇はない」
  なすには多くの故事・ことわざがあることからもわかるように日本では1200年も前から栽培されており、地方により長卵形なす、小なす、丸なす、長なすなど様々な特徴を持ったなすが存在しています。今回の「なすフォーラム2007」は2007年6月27日女子栄養大学で開催されました。

  野菜と文化のフォーラム会員(50名)、研究機関、JA、種苗会社、市場関係者、生産者など(70名)の皆さんが全国より参加しました。例年の作物フォーラムは150名以上の参加となりますが、今回は市場関係者(水曜日は休日)の参加が少なったため総員で120余名の参加となりました。

1)「今後の野菜政策となすの需給の現状」

農林水産省生産局野菜課流通加工対策室長
鈴木 良典 氏

  なすの作付面積は平成17年度1.2万ha、収穫量は40万tで作付面積・収穫量、消費量とも年々減少傾向にある。市場入荷量は8月が最も多く、冬季になると少なくなる夏型野菜といえる。

  なすは古くから栽培されてきたことから、地方独特の品種も多く見られ、伝統的に卵形なすは関東、長卵形なすは東海から関西、長なすは関西以西、大長なすは九州で生産が多かったが、近年では栽培が容易なことといろいろな用途に向くことから長卵形なすが全国的に生産されるようになった。

  なすは漬け物、揚げ物、焼き物など調理の多様性もあり、最近は水なす、サラダなすの登場により消費の拡大が期待できるが、地域に結びついた特徴のある品種も多くこれらの品種を大切に育て生産し栄えていくというのも野菜の重要な方策であると考えている。

2)「なすの品種動向と今後の展開」

(独)農業・食品産業技術総合研究機構
斉藤 猛雄 氏

  なすはなす科に属する野菜でなす科には、タバコ、チョウセンアサガオが属するほか野菜では、トマト、ピーマン、トウガラシ、ばれいしょなどもなす科に属している。

  インド東部が原産と推定され5世紀頃に中国へ伝わり日本には8世紀以前に渡来したとされ、日本では10世紀にはすでに重要な野菜となっていたようである。なすには多くの種類があり果皮色は黒紫色以外に緑色、白色や黄色などがあり縞のあるなすもある。果実の形や大きさに対する日本人の嗜好は地域によって異なり、その嗜好や各地域の気候にあわせ種々の雑来種が成立している。日本型なすの紫色は主としてナスニンというアントシアニン系色素により、その合成には光を必要とする。ナスニンはある種の金属イオンと錯塩を形成すると色が安定するため、漬け物の青紫色を鮮やかにするために鉄やミョウバンを入れることがある。なすはビタミン、ミネラルや食物繊維含量が少なく、栄養面では目立つものはありませんが、果実中には活性酸素の働きを抑えるなどの効果があるクロロゲン酸が含まれている。また、果皮にはアントシアニンが含まれており、コリンという血圧を下げる機能性のある成分も含まれている。

  なすの品種改良の目標として生産面からは土壌病害抵抗性、その他の病害虫抵抗性、早熟性、収量性、耐寒性、とげなし性、草型等多くの形質が挙げられる。
  流通・消費面からは果形、果色とつや、果皮の硬さ、肉質等が挙げられ、嗜好の地域性も加味される必要がある。
  近年、単為結果性品種という受粉しなくても子房が発達し、無種子の果実が生長及び肥大する性質を持つ品種の研究開発が、栽培の省力化および果実品質向上の両面より期待されている。
  野菜茶業研究所では2004年に「ナス安濃交4号」を育成し、全国で試験栽培して良好な結果が得られたので「あのみのり」として2006年12月発表した。

3)「なすの魅力」

有限会社おいしいもの研究所代表
料理研究家 土井 善晴 氏

  土井先生は、テレビ朝日「おかずのクッキング」などテレビ、雑誌で著名な料理家・フードプロデューサーですが、今回の講演では「食」に関する全般的なお話とスライド写真による「なす料理」の説明をされました。

  野菜は「旬」を大切にしたい。「旬」は人の力で作りだすことはできず、私達は「旬」の野菜を食べることで、季節を感じ、その野菜の持つ美味しさ美しさを実感し、豊かな恵み(栄養)を摂ることができる。

  最近は甘い=美味しさの風潮があるが、美味しい,美味しくないという感覚を育てるのは家庭の環境・料理が大切である。「旬」の食材で心のこもった料理を食することにより、季節を感じ家族のつながり(思い出)ができる。そういった体験が人間の本能的な味覚を研ぐことにつながると思う。調理もしないで1人で食べる食事に文化は芽生えようもない。

  例えば「じゅんさい」~ ヌメリが強くて冷たいのどごしが魅力で夏には最高の食べ物だが、味としての説明はつかない美味しさ・風味がある。こういったものが野菜の本物の味・力強さなのではないかと思う。

  「なす」は地域ごとに色々な種類があり、焼く・煮る・漬けるなど料理のし方も様々で魅力のある野菜だが、最近、地方の特徴ある在来品種なすは少なくなってきたようである。

  地方で自家用に栽培されるなすは地域の郷土料理と結びついて感激するような味が残っている。これからも大事に残して受け継いでほしいと思う。

表1 なすの栄養成分

※クリックすると拡大します。
資料:「五訂日本食品標準成分表」科学技術庁資源調査会編
注:Tr→微量。含まれているが成分の記載限度に達していないもの。
*…植物油(調合油)16.9g




※クリックすると拡大します。
図3 最近の野菜育種研究の成果例
図4 さまざまななす料理

4)出展会社 プレゼンテーション
  下記の出展会社より、なす品種の紹介と商品展示がありました。試食会場では出展された「なす」を天ぷら、塩漬け、揚げびたし、焼きなすなど調理されたものを参加者が試食しました。


出展会社と品種

  1. (株)渡辺採種場(宮城県)式部
  2. タキイ種苗(株)(京都)とげなし千両、庄屋大長
  3. (株)サカタのタネ(横浜)ごちそうナス
  4. (株)丸種(京都)水の匠、黒雄、ひもなす
  5. 八江農芸(株)(長崎県)黒船
  6. 野菜茶業試験場(三重県)あのみの



元のページへ戻る


このページのトップへ