徳島県農林水産部 とくしまブランド戦略課
1 はじめに
四国の徳島県は、県土の8割を山林が占めており、耕地面積は3万2,400ha、産出額は1,094億円(平成17年。以下同じ。)で、部門別に見ると野菜が42.4%と最も多く、畜産27.3%、米13.8%の順となっている。
県全体の一戸当たり経営規模は、75aで、全国平均に比べると54%と狭小なため、稲作などの土地利用型農業については大規模経営が成立しがたい状況にある。
しかし、水田の持つ高い生産性を活かし、水稲の裏作を利用した野菜の作付けが多い。
また、「にんじん」「かんしょ」等の露地野菜や、「きゅうり」「なす」等の施設野菜に見られるように、農地を有効に活用し、労働・資本を集約し、高収益を得ている農業経営が多いことも特徴としてあげられる。
本県には、吉野川、那賀川といった一級河川があり、その河川に沿った平野部と海外線に沿った平野部を中心に、肥沃な土壌と温暖な気象条件を生かして野菜、果樹、花卉等多種多様な農業生産が行われている。
また、大消費地の京阪神市場に近いことから、様々な農産物に対する要望があり、少量多品目生産が特徴で、需要の変化に対応しやすい農業経営が展開されている。
このような状況を受け、県独自の施策として「新鮮とくしまブランド戦略」により、県内外の消費者の信頼を確保するとともに、輸入農産物にも負けない力強い産地を育成するため、県産農林水産物の「ブランド化」に取り組んでいる。
2 徳島県の野菜生産の状況
1)生鮮食品の供給基地として
本県の野菜生産は、冬季温暖な気象条件と、京阪神地域を始めとする大都市消費圏に近いという地理的条件を生かし産地化を進めてきた結果、県産出額の4割を越し、本県農業生産の重要な位置を占めている。
本県産の野菜は、その大半が秋から春にかけて栽培・出荷がなされており、その時期には数多くの種類の野菜を県内外に供給している。
用途としては、量販店や小売店で消費者に直接販売される一方で、卸売市場を経由して業務用需要への供給が多く、野菜全体の販売仕向先別では、販売額の約52%が京阪神市場向けとなっている。
また、京阪神主要7市場における市場取扱額において、本県は北海道に次いで第2位であり、取扱高の約1割を本県産が占め、れんこん、菜の花等の多くの野菜で大阪中央市場における入荷量シェアが30%以上を占めるなど、京阪神地域において、生鮮食料品の基地としての地位を築いている。
2)本県産野菜の出荷状況と課題
平成17年度における市場販売量は約19万2千トンであり、その内、約6割にあたる約12万1千トンが、にんじん(5万2千トン)、だいこん(3万1千トン)、かんしょ(2万5千トン)などの根菜類である。
一方、販売額は約447億円であり、にんじん、かんしょ、れんこん、だいこん等の根菜類が最も多く、いちご、なす、きゅうり、トマト等の果菜類や、ほうれんそう、レタス、ねぎ等の葉菜類が上位を占めている。
しかし、近年の生産者の高齢化等による労働力の衰退、海外からの輸入野菜の増加による価格低迷によって栽培面積は減少傾向にある。
また、近年発生する台風や干ばつ害や、暖冬などの気象変動も加わり、生産量の変動幅が大きくなっている。その中でも、にんじん、れんこん、なす、ねぎ等で、輸入増加の影響が認められている。
特に、本県の主力品目であるにんじんについて、輸入増加による影響とその対策について報告する。
3 徳島県におけるトンネルにんじん栽培
1)トンネルにんじんの生産状況
本県のにんじん生産は、昭和33年頃にトンネル栽培技術が開発され、にんじんの端境期に当たる4から5月に出荷する栽培方法が確立された。
トンネル栽培は、10月下旬から12月中旬に播種し、冬場に生育促進をさせるためビニール資材によりトンネル被覆を行い、3月から5月にかけて収穫を行う。
トンネル栽培により「みずみずしい」、「柔らかい」、「甘みのある」等の品質の良いにんじんの生産ができる。
また、生産者やJA、農業研究所等と連携して作成したトンネル栽培マニュアルと、昭和42年から野菜価格安定制度の産地指定により、県下一円で栽培が可能となった。
その結果、本県のにんじん栽培は、昭和55年頃からは面積の伸びが大きくなり、平成5年のピーク時には面積1,170ha、収穫量50,700トンまで拡大した。
しかし、現在では、面積983ha、収穫量43,800トンと、やや減少傾向となっている。
2)にんじん販売と輸入の影響
本県で生産される「春夏にんじん」は、その優れた品質を活かして、全国一位のシェアを誇り、大阪中央卸売市場の4~5月の市場占有率は約71.7%を占めている。
当初は、京阪神市場を中心とした販売であったが、生産量の伸びに対応して、中部市場や京浜市場へも出荷され、現在では東北から中国地方まで幅広い出荷を行っている。
しかし、近年は面積や出荷量が減少傾向にある。この要因としては、生産者の高齢化や宅地化による栽培ほ場の減少に加え、平成5年からの輸入にんじん増加等が考えられる。
特に、輸入にんじんの増加により、販売単価が低下し所得が減少しているため、更なる品質向上と低コスト生産に耐えうる大規模農家の育成等が必要となってきた。
3)にんじん産地での新たな動き
本県のにんじん出荷は、生産者段階で収穫・選別・箱詰めし、JA集荷場に持ち込み、全生産者の出荷物を検査後、卸売市場へ出荷する個選共販方式をとっている。
そこで、出荷量を増やすためには、生産段階での省力化が必須であり、産地では省力化を図るため播種機や収穫機、洗浄機等の導入が進んでる。
農業研究所などにおいても、地域に合わせた機械開発が行われており、近年ではトンネル支柱打ち機が開発された。省力機械の導入により規模拡大も図られ、一戸当たり栽培面積も拡大され、産地全体の面積維持につながっている。
また、新品種の検討等に関しても、県・JA等が連携し取り組んでいる。
今回の野菜価格安定制度の改革に対しては、本県においても積極的に、認定農業者の育成に取り組んだ結果、県内主要にんじん産地における認定農業者の面積率は73.5%に達している。
また、平均耕作面積も全平均が1.39haに対し、認定農業者は2.09haとなっており、今後も継続した産地になることを期待されている。
4 「新鮮とくしまブランド戦略」による農産物のブランド化について
1)「新鮮とくしまブランド戦略」とは
本県の農林水産業は、恵まれた自然環境や立地条件を生かして、京阪神地域をはじめとする大都市消費圏等への生鮮食料の供給基地として発展してきた。
しかし、近年は消費者ニーズや流通環境の多様化、輸入農林水産物の増加等により、農林水産業を取り巻く環境は益々厳しさが増しており、県産農林水産物の優位性、独自性を全面に出した新たな戦略の展開が求められている。
そこで、「新鮮とくしまブランド戦略事業」により、県内外の消費者の信頼を確保すると、輸入農産物にも負けない力強い産地を育成するため、ソフト面とハード整備面、PR活動面を連動させ、品質や供給力の向上を図りながら、生産から販売までの総合的な戦略を展開し、県産農林水産物の価値を高めるブランド化を進めている。
2)ブランド化を進めるための戦略事業
① とくしまブランド推進事業(ソフト事業)
ブランド化を効果的に推進するための推進体制を整備する。
ア)「県とくしまブランド戦略会議」を設置して、本県農林水産物のブランド化の推進とその定着に資するための基本的方針の策定、その検証を行う。
イ)県内11地域に市町村やJA等で構成した産地戦略会議を設置し、地域としてブランド化を進めるため、「ブランド産地振興計画」の策定や、生産流通体制の整備、省力低コスト化技術の導入及び消費者ニーズに重点を置いた販売戦略の展開等に取り組む。
生産、流通、販売及びPR活動に至る一体的な取り組みを支援し、ブランド産地を育成する。
② とくしまブランド育成事業(ハード事業)
ア)ブランド品目育成型では、「ブランド産地」を育成するために必要な生産及び出荷・流通体制の整備や、供給量の拡大、品質の向上等に必要な大規模実践ほの設置などを支援する。
イ)オンリーワン品目育成型では、地域固有の特産物の育成や、特徴ある栽培方法の導入した商品開発のための、機械施設の整備や、商品PR及び販売促進に必要な機材等の整備を支援し育成する。
ウ)輸入野菜等緊急対応型では、輸入農産物の影響を受けている政府監視7品目と県選定9品目を対象に、輸入農林水産物に対抗できる産地の育成を図るため、低コスト・高付加価値化のための機械施設等の整備や、安全・安心を提供するための情報機器等の整備を支援する。
③ とくしまブランド知名度向上事業(PR事業)
移動型のブランドショップ
「新鮮なっ!とくしま号」は、11tトラックにキッチンや大型プロジェクター等を装備し、全国で徳島県産農林水産物の対面販売や料理提供を行うことが出来る機能を有している。
5 おわりに
徳島県では、輸入農産物に打ち勝つために、また、多様化する消費者・流通者のニーズに対応するため、「新鮮とくしまブランド戦略」を展開することによりブランド化に取り組んでいる。
平成19年度以降は、「とくしまブランド」のさらなる飛躍に向けて、「県産品の供給力アップ」を図るための産地育成や担い手育成、「県産品のイメージアップ」を図るための統一ロゴ・マークの制定等、生産から販売までの総合的な新戦略の展開を行うこととしている。