青果物健康推進委員会
事務局長 近藤 卓志
平成12年3月31日に当時の厚生省事務次官通知により策定された「健康日本21」の中で、野菜の摂取目標量が1日350グラム以上と決められた。しかし、7年経った現在でも、野菜の摂取量は目標量を大きく下回り、一向に伸びていない。
平成16年の国民健康・栄養調査によると、20代、30代など若い世代の野菜摂取量が特に少ないことがわかる(図1)。おそらく、食事量全体では50代以上に比べてかなり多いはずなので、食事全体の摂取比率から考えると、野菜の摂取が相当少ないことが想像できる。
野菜はそのイメージから女性の方が摂取量は多いと思われるが、図1のとおり明らかに女性の野菜摂取量は男性に比べ少ない。また、サラリーマンの食生活を見ると、昼食でラーメンとおにぎりやラーメン・ライスなど、炭水化物中心で野菜の出番が少ない例が多い。
このような現状を把握しながら、青果物健康推進委員会は平成14年度から、青果物の消費拡大と豊かな食生活の実現を目的に「ベジフルセブン運動」を全国で展開してきた。平成18年度の事業について報告するとともに、今後の課題について考えたい。
◆1 野菜消費拡大の取組みの現状
青果物健康推進委員会は平成14年7月に、青果物の生産、流通、量販店、専門小売、外食、中食、食品メーカー、種苗会社などの有志が一致団結して設立された非営利活動団体である。活動のキャッチフレーズである「ベジフルセブン」の意味は、ベジタブル(=野菜)とフルーツ(=果実)を1日に7スコア(皿分)以上食べよう、という意味が込められている呼びかけのメッセージ。7の内訳については、野菜5、果物2としている。国民栄養調査によると、摂取している副菜としての野菜料理の量が、生換算で約60グラム~70グラム程度であり、仮に70グラムとすると、×5皿分で野菜の摂取目標の350グラムとなる。
一方、果物は200グラムが一日の摂取目標量であり、みかん1個など、通常食べる量が約100グラム程度なので、×2としている。
発足から約3年間については、主に消費拡大がテーマであり、有楽町の丸ビルの隣に「ベジフルギャラリー」を開設したり、全国各地でセミナーやシンポジウムなどを開催、また、会員の量販店やスーパーの店頭でポスターやPOPを貼付するなど、一般消費者向けの情報発信活動を中心に実施してきた。
しかし、昨今の日本人の食生活を見ると、スーパーなどで野菜を購入して家で料理して食べる「内食」から、外食や出来合いの総菜などを購入して家で食べるような「中食」の比率が高まっている。しかも、平成12年度の国民栄養調査によると、外食を毎日1回以上利用する人は、ほとんど利用しない人に比べて1日60グラム~70グラム程度、野菜の摂取が少ないという結果がでている(図2)。
そこで、平成17年度からは、外食・中食での野菜の利用増大を柱のひとつに加えた。また、野菜の摂取量が少ない年代が20代~30代であることから、企業の職場での野菜摂取拡大の取り組みも新たに柱に加えた。つまり、平成17年度からの青果物健康推進委員会の活動の柱は4本である。
1つ目は、「産地における野菜の栄養成分・機能性に係る情報提供の取組促進」、2つ目は「外食・中食における野菜利用増大及び普及啓発活動の取組推進」、3つ目は「企業・団体における健康のための野菜摂取拡大活動の支援」、そして、4つ目が「消費拡大に向けたキャンペーン活動」である。それぞれの柱の内容について平成18年度に実施した活動の紹介とともに説明する。
産地における野菜の栄養成分・機能性に
係る情報提供の取組促進 「野菜は健康に良い」とは、消費者の共通認識だろう。しかし、巷には健康に関する様々な情報が氾濫し、また、テレビなどでも健康情報の捏造問題があったことは記憶に新しい。この取り組みは消費者の健康志向の高まりを受け、野菜の健康に対する重要性をアピールするものだが、適切な情報内容と提供方法に心がけていることは言うまでもない。
具体的には、青果物健康推進委員会の会員である量販店やスーパーなどからモデル店舗を54店舗選び、各店舗で扱うトマト、キャベツ、ピーマンの産地から食品分析センターへ野菜を送り、それぞれ栄養分析を行う。分析内容は、トマトがリコペン、カロテン、水分、キャベツがビタミンC、ビタミンU、水分、ピーマンはビタミンC、カロテン、水分である。その結果をPOPにして、それぞれの店頭で表示をする。もちろん、分析をした産地の品目がその売場に並べられてある期間のみだ。産地が移る場合は、事前に測定し、次産地に品目が変わった段階でPOPも張り替える。同じ産地であっても、2週間程度で新しい分析を行い、POPを付け替えた。
また、この栄養成分表示とともに、機能性情報もPOPを作成し、掲示した。掲示内容は専門家に相談して決めたものである。例えば、「真っ赤に熟したトマトは、リコペン(赤色)とカロテン(黄色)を多く含んでいます」というキャッチのほか、機能性情報として「リコペンとは、トマトの赤みを作っている色素で、抗酸化作用があり、活性酸素の働きを抑えるといわれています」などを掲載している。
この取り組みの効果だが、事前、事後の売上を比較すると、おおよそ5%程度増加している。しかし、アンケートでは、POP表示の認識率はそれほど高くはなかったようである。
外食・中食における野菜利用増大及び普及啓発活動の取組推進
この事業は、食の外部化率が高まっていることから、野菜使用量の比較的少ない外食・中食における野菜利用増大を図る取り組みである。平成18年度は、中食ではコンビニエンスストアチェーンの会員であるスリーエフ全店でキャンペーンを実施したほか、外食では、同じく会員である千葉・舞浜の商業施設イクスピアリのレストラン21店舗でキャンペーン活動を実施した。
スリーエフでは、キャンペーン期間中、全店のサラダ売場に「野菜をあと一品」と書かれたボードを各売場の上部に掲示したほか、売場には、野菜摂取を呼びかけるPOPを掲示し、野菜摂取の重要性を訴えた。事前、事後の売上比較では、全店平均で5%程度増加したが、アンケートを実施した3店舗では、10%程度も増加した。アンケートを実施することで、店舗のスタッフの意識に変化があったものと思われる。本気で消費拡大を実施するなら、スタッフ教育からスタートする必要性があると考えられる。
イクスピアリの外食店舗でのキャンペーンでは、参加各店舗の既存の野菜料理並びに、新たにキャンペーン用に提案をしてもらった野菜メニュー、それらのメニューを店頭にてボードで紹介する。そして、そのメニューを注文した人には、トマトなどがプレゼントされ、アンケートの記入を依頼するものだ。館内には、A全サイズのポスターを掲示し、キャンペーンの告知を行ったほか、初日には、イベント広場でタレントや栄養士を招いたイベントを行った。マスコミなどにも取り上げられ、大勢の人で賑わった。
効果検証は、既存の野菜メニューの販売点数で比較したが、3割程度の増加が見られた。しかし、キャンペーン期間中のみで、キャンペーンが終われば、元に戻ってしまったようだ。外食・中食での消費拡大を考えるには、店舗側の意識がもっとも重要だろう。やはり、売上重視となるため、単価の取れる肉、魚類に比重がおかれ、野菜料理はなかなかメインとしては見られない現実があるようである。
企業・団体における健康のための野菜摂取拡大活動の支援
この取り組みは、野菜摂取の最も少ない年代である20代~30代の社員食堂を利用するサラリーマンをターゲットとしたものである。特に、食事のバランスなどの情報が少ないようで、社員食堂での食事を見ていると、質より量を重視する傾向が強いようである。
今回取り組んだのは、荏原製作所の4事業所の社員食堂。4事業所の社員らは4月に健康診断を受け、メタボリックシンドロームのチェックとしてウエストや血液検査などを受けた。その中からメタボリック予備軍として約150人が抽出され、その150人を中心に全員に対して啓発活動が行われた。啓発活動の場である社員食堂では、毎日の定食メニュー及びサラダメニューなどに野菜の使用量をスコア(皿分)表示したほか、「野菜を食べよう」などの呼びかけをメニューなどで行った。また、全員ではないが、セミナーなども実施し、野菜摂取の重要性や摂取目安量などを啓発した。
一方、予備軍の方々には、毎月の食事チェックを義務つけた。食事バランスガイドを活用し、毎日バランスの良い食生活を考えるようにした。毎月、食事チェックを行った人には、野菜セットのプレゼントがあり、家庭での野菜摂取も促した。毎月、100人以上がチェックを行ったようだ。半年が経過した平成19年1月に再度、健康診断を行い、メタボリックの改善度をチェックした。細かいデータは今整理中だがかなりの確率で改善されたようだ。
消費拡大に向けたキャンペーン活動
キャンペーン活動としては、(1)第2回日本全国野菜フェアの開催(11/27~28)(2)第3回野菜が主役のクッキングコンテストの開催(11/1~2/16)(3)ベジフルセブンin九州の開催(2/26~27)(4)大阪での野菜の情報交流会の開催(3/2)などを実施した。(1)(3)(4)は、生産者団体や流通業者などが主に出展し、試食コーナーやステージイベントなどで野菜の情報を発信し、消費拡大を図るものだ。(4)については、一般消費者ではなく外食、中食などの野菜実需者のみの来場となった。
(1)第2回日本全国野菜フェアは、第1回と同様、有楽町の東京国際フォーラムで開催され、55ブースが出展し、野菜の情報を発信した。中央に試食コーナーを設置し、外食会員のロイヤルホールディングスの支援で出展者の野菜の美味しさを引き出すメニュー提案をした。2日間でトラック2台分の野菜が試食として提供された。アンケートによると、「野菜の美味しさを見直した」とのコメントが多かった。
ステージでは、タレントによるトークショー並びに有名料理人のトークショーなどが行われた。来場者は一般消費者と野菜実需者を合わせて約1万人。実需者のアンケートでも、「野菜についての情報交換ができた」とのコメントが最も多かった。
(3)ベジフルセブンin九州は、九州地方で開催した初のイベントで、野菜、果物関係の九州地域の生産者団体などが出展し、福岡のJALリゾートシーホークホテルで開催した。野菜フェア同様に試食コーナーやステージイべントなどを実施した。
(4)大阪での野菜の情報交流会は、京セラ大阪ドームで開催し、出展した生産者らは57団体で、野菜の実需者らが834人来場した。1日のみの開催だったが、アンケートでは「毎年開催してほしい」など、継続開催を望む声が多かった。
このような展示イベントは、実需者に対しては、来場する目的がはっきりしているため効果的な開催が可能だが、一般消費者向けには、「お祭り」としては賑わうが、「啓発効果」を考えると疑問が残る。今後の課題といえよう。
一方、(2)第3回野菜が主役のクッキングコンテストは、一般消費者とプロを対象に開催した。毎年ファイブ・ア・ディ協会と共催で実施しているものだ。審査員長には、青果物健康推進委員会会長の岸朝子とファイブ・ア・ディ協会顧問の服部幸應氏を迎えて行った。全国から800通を超える応募があった。
◆2 消費拡大への今後の課題
野菜の消費拡大についての今後の課題だが、「いかに継続するか」ということだろう。青果物健康推進委員会は発足して今年で5年が経過したが、啓発効果はそれほど現れていないようである。
その啓発効果だが、いくつかの段階があると考える。第一段階として、野菜の必要性や摂取量の目安を知る段階。この段階は「ベジフルセブン」の認知度を調べたアンケート調査で年々、効果は現れている。次に「認識」の段階がある。ただ「知っている」だけでは何の変化もない。しっかりと認識することが、行動変化を促す。この「認識」がモチベーションとなると考えられる。つまり、今後のテーマはモチベーションのかけ方にあるのではないだろうか。
とはいっても、相手により認識レベルが違い、生活スタイルも違うため、相手に合わせた使い分けが重要だ。セールスの手法に「アイドマの法則」がある。人が商品を購入するプロセスには、注意を惹かれ、興味を持ち、それから「欲しい」という欲望が湧くというものだ。注意すらない人にはまず「注意」を惹かせる取り組みを。「注意を惹いている」人には、「興味」の段階に引き上げるモチベーションが必要となる。
「注意」を惹くためには、北風タイプと太陽タイプがある。北風とは、テレビなどメディアの活用だ。たとえば、テレビで「たまねぎは○○に良い」と放映すると、その夕方にスーパーの店頭からたまねぎが消える。しかし、この現象はもって3日程度で、継続性がないのが欠点だ。太陽タイプは青果物健康推進委員会がこれまで実施してきたような、地道な取り組みである。この両者をうまく連動させれば効果的だろう。
注意から興味への誘導は、相手のニーズに合わせたモチベーションが鍵となるだろう。その際、「健康」というキーワードは確かに効果的だが、それだけでは、最もターゲットにしたい20代~30代にはメッセージが届きにくいという難点がある。野菜の消費が多い年代が60代という裏には、健康訴求重視がある。若い世代をターゲットにするためには、彼らに注意を惹かせるキーワードが必要だろう。例えば、女性にはデトックス(解毒)やアンチエイジング、マクロビオテックなどが美容と結びつくキーワードとして有効だ。
それと、忘れてはならないのは、「野菜は食べ物」ということだろう。当たり前のことだが、野菜の規格には、「美味しさ」の基準があまりない。どちらかというと「見栄え」重視といえる。食べ物ならば、「美味しさ」が消費者にとって最重要の価値となるはずだ。
ただ、美味しいからと言ってトマトを完熟で収穫したら、流通段階で商品価値が下がり、売り物にならなくなってしまうことは理解できる。それでも、出来る限り「美味しさ」の追求はするべきだろう。それが、品種なのか、栽培方法なのか、収穫時期なのか、鮮度なのかは別として、食べ方提案も含めて、「野菜を美味しく食べる」ことに生産、流通段階でも取組む必要があるだろう。