カゴメ株式会社
調達部原料グループ 部長 荒木 孝夫
はじめに
近年、野菜飲料の需要が急激に伸びています。従来の枠を越えた様々な種類の商品が多数店頭に並び、消費者の受け止め方も変化してきています。本稿では、カゴメの商品を中心に需要動向及び原料供給の状況について報告します。
◆1.野菜飲料とは
(1)最近の野菜飲料の動向
野菜飲料の需要は、2005年、2006年と2桁の伸びを示し今後もさらに拡大の傾向です。野菜不足であると認識している消費者がどの様に野菜を摂取したら良いかと思っている時に、手軽に野菜不足を補うというコンセプトを商品名でダイレクトに表現した、カゴメの「野菜一日これ一本」、伊藤園の「一日分の野菜」の製品が伸びのきっかけとなったと見ることができます。更に、この間、野菜飲料の種類は一層多様化してきており、需要の裾野は広がっています。
供給面で見ると、現状では、カゴメと伊藤園2社の合計でおよそ7割のシェアになっています。今後、需要拡大の中で、新たなメーカーの参入、新規商品の導入などが一層活発になることが予想され、野菜飲料の全体像が変化していくことも予想されます。
(2)カゴメの野菜飲料の歴史
野菜飲料の歴史をカゴメの商品で振り返ると、スタートは70年余前(1933年)発売のトマトジュースに遡ります。その後、32年前に野菜ジュース(トマトミックスジュース)が発売された。近年の代表商品「野菜生活」は12年前の1995年に発売されました。図1でおよそ50年間のカゴメの野菜飲料製品の販売高の推移を示しました。この図で明らかなように、カゴメの野菜飲料はトマトジュースがベースとなって長い歴史をもっており、特にこの10年は野菜果実ミックスで大きな伸長があったことがわかります。
(3) 野菜飲料の定義と種類
野菜飲料のうちトマト関連品目は表1のように明確に定義されています。
しかし、野菜飲料全体としての規定はなく、「野菜が含まれた飲料」という範囲の意味で使われているのが実態です。カゴメの商品では種類を大きく三区分に分けることができます。
(1) 野菜100%ジュース:単一種類の野菜のジュース
(2) 野菜ミックスジュース:複数の野菜を組み合わせたジュース
ベースとなる野菜により「トマトミックスジュース」「にんじんミックスジュース」などとも呼ぶ
(3) 野菜果実ミックスジュース:野菜と果実を組合せ
各区分毎の代表的な商品例を表2で示しました。
◆2.最近の需要動向
(1) 需要の拡大
食品マーケティング便覧(富士経済)によると野菜飲料の一人当たり年間の需要量は1997年2.8リットルから、この10年で倍増し2006年は5.2リットルと見込まれ、今後さらに年々の大きな上昇が推定されています(図2)。
(2) 野菜が高騰すると野菜飲料は売れるのか。
野菜高騰の際、野菜の代わりに野菜飲料を購入している様子がしばしば報道されました。実際に野菜市況動向と野菜飲料の消費の伸びはどのような関係だったのでしょうか。
最近の野菜市況の推移とカゴメの野菜飲料の売上げの伸び(前年同月比)の動向を比較してみたのが図3です。この期間を通して野菜飲料の伸びは110%以上で推移していますが、野菜価格指標のピーク04年11月、06年1月にそれまで以上の増加が読み取れます。野菜の高値は、野菜飲料需要を拡大するきかっけとなったことがわかります。しかし、野菜価格が低下しても増加傾向は継続しています。これは、新製品投入、CMなど野菜価格以外の要素が需要増に、大きく寄与していることによると思われます。
(3) 世代別の違い
カゴメの野菜果実ミックスジュースの代表商品「野菜生活」について世代別飲料率(期間中に飲んだことのある人の比率)を調査した結果は以下の図4の通りです。
若い世代ほど飲用率が高く需要拡大の牽引役となっています。20歳代の飲用率は50歳代の倍以上の水準です。このことは、野菜飲料の飲用経験は、親から受け継いだものというより、この世代のライフスタイルに即したものと考えられます。そして、20~30歳代子育て世代の飲用は、その子供達にも大きな影響を与えていくことが予想されます。
図5は「野菜生活」種類別の売上げ動向です。野菜の色をテーマとした多様化は、栄養面と楽しさの双方で選択の幅を広げ、新しい需要の拡大につながってきたと考えられます。
(4) どんな場面で飲まれているのか。
野菜飲料の飲用場面の調査結果を2003年と2006年の比較で表したのが図6です。疲労回復や、栄養補給という性格から変わって、朝食、昼食の場面の増加が顕著です。野菜不足を補うために食事の一部の組み込まれてきていることがうかがえます。
◆3.野菜飲料の原料調達
(1) 国内外からの原料調達
野菜飲料の原料は国産と外国産を組み合わせて使っており、最近のカゴメの野菜原料に占める国産原料の比率は5%程度です。原料の調達にあたっては、国内、海外の各地から入手可能な原料を比較検討し選定します。
野菜飲料市場は日本がリードしているため、トマトペースト、濃縮オレンジ果汁などのような国際的な汎用原料が利用できず、自ら産地相手先を選定し原料開発から取り組む必要があります。
現在調達している主な海外原料産地は、トマトについては米国、中国、トルコ、ポルトガルなど、にんじんは米国、豪州、そのほかの野菜(ピーマン、ほうれんそう,プチヴェールなど)は、中国,チリ、オランダなどです。
(2) 国産と海外産原料の比較(価格、数量の面で海外産が優位)
事業を考える際には、コストを常に念頭に置くことが必要です。例えばトマトの農家価格は、国産の場合キロ当たり40円前後ですが、海外産は5~10円程度です。その原料を現地で加工し輸送コストを加味して実際に日本の工場で使う時点でも、まだ海外産が大きく価格競争力をもっているのが一般的です。
数量変動への対応力は、栽培可能期間が長く得られることもあり、海外産に優位性があります。品質については、日本の消費者の要求を満足できる管理水準を持ったパートナーを得ることが大前提となります。野菜飲料の原料は国際市場で一般流通していないものが多いため、生原料の選定、製造工程、品質管理の方法なども日本から技術の移転をしながら調達することが不可欠です。国産、海外産の原料の特徴を表3にまとめました。
(3) 国産原料でなければならない商品
野菜飲料に占める国産原料の比率は、前述したところですが、個々の製品によって大きく差があります。たとえばトマトジュースについて、フレッシュパックは国産品比率100%であり、全体としてもトマトジュースの半分程度は国産原料を使用しています。
生からの加工や鮮度感・国産(地元産)ということが重要な意味をもった商品であるフレッシュパックの『トマトジュース』は、国産原料が必須となるので、国産原料を100%使っています。『トマトジュース』のほか、『夏しぼり』『冬しぼり』など、季節感を重視した商品展開を進めており、お客様の安定的な支持を得ています。
次に小規模で開発段階のものなど、試行段階では国産が優位となります。他に産地・ブランドこだわり製品として、「○○町のトマトジュース」などは根強い支持があります。
こういった国産原料100%の商品に大切なことは、販売規模が安定的なことで、極端な需要増加があると原料確保が難しくなり継続した販売の維持が困難になる問題を抱えています。
◆4.今後の方向性と課題
(1) 需要の拡大
「健康日本21」での一日当りの野菜摂取量推奨値350gに対して実際の平均値は270gにとどまっています。このため「野菜をもっと取ろう」という啓発活動、取り組みは今後も一層増えてくると思われます。しかし、頭で理解しても実際に野菜摂取量を増やすことは、手間、コスト、具体的な方法で難しさが多くあります。
野菜摂取のひとつの方法として、野菜飲料が食事のメニューに組み込まれて定着してきたことが、野菜飲料の近年の増加の背景にあります。今後もこの傾向は拡大すると考えられます。むしろ、より幅広い層に、より多様な形での広がりを見せていくと考えることができます。
具体的には、外食や給食での提供がより幅広くなり、また、他の素材と組み合わせた飲み方、食べ方の工夫が進むことを考えると野菜飲料の需要はこれからが拡大期と考えることもできます。拡大的な市場に対して、これまで以上に多くの製品が特徴を競っていく時代が訪れると思います。
(2) 国産の比率を高めるために求められるもの
こうした野菜飲料の需要増に対して、国産の比率を高めるためには原料そのものの価値を高め、競争力をつけることが第一であることから、以下のような取り組みが今求められています。
①加工用途向けの供給体制を作る
野菜飲料など加工用途の生原料に求められるのは、生鮮用途と大きく異なり、一言でいうと実質的な機能重視です。外観よりも栄養価・機能性が高いこと、加工工場での処理提供のし易さです。
また、加工期間の長期安定化ができるような産地構成は大変重要です。商品設計によっては、国産原料に優位性があることも大いに考えられます。いずれにせよ、従来の生鮮品の一部を仕向けるということではなく、用途に応じた専用の供給体制が中心となることはどうしても必要なことです。
②流通をより円滑にするために改善すべき課題
一つめとしては、加工・業務用の野菜の規格の整備です。「野菜」の多様な品目それぞれについて一定範囲で規格が整備することは製造者とユーザーの双方のために有効なことです。業者・業態によっては、求めるグレードが異なるので、一定の基準に基づく規格が制定されると、流通がかなり円滑にすすむ要因になると思われます。
二つめは、農薬管理・トレーサビリティの共通の基準を制定することです。近年重視されている農薬管理・トレーサビリティについて、管理の方法等の共通の基準があれば、取引に際して個別評価の手間を省いてトラブルを減らすことにつながると思われます。
豊作時の供給過剰農産物を加工利用に仕向けるとの方策が検討されていますが、現実には取引を想定していない相手先のものを受け入れることは簡単なことではありません。規格や、農薬管理・トレーサビリティ管理水準の評価がある程度事前に準備されていることでタイムリーな受入を行いやすくすることができると思います。
③販売方法
国産の需要を拡大するには、販売方法も重要で、産地や原料生産プロセス情報を積極的に発信し、CMや商品パッケージなどに契約相手の農家が出て「私たちがつくった◯◯◯です」というメッセージを伝えることはより効果的であると考えます。
また、近年、直販店、通販など地元産の野菜を販売するルートは多様化してきているので、野菜飲料についてもこれらルートの販売力を生かせば、国産・地元産ならではの商品が多くでてくることが当然予想されます。
◆おわりに
これまで、野菜飲料は、製品の開発と原料開発が並行して進められてきました。今後も、製品の多様化と需要の拡大にあわせた原料供給力の拡大を進めないと、需要拡大の制約要因となってしまう懸念もあります。
国内産地、世界各地の産地がそれぞれの特徴を生かした原料を供給し、この分野の拡大を支えることが期待され、とくに前述したような国産産地ならではの有利性をだしていけば、今後、より国産の需要が拡大することが予想されます。
とくに野菜飲料は近年大幅な需要拡大の局面にあります。これは、食生活の中での野菜とのつき合い方が変化しているひとつの先行事例だと考えます。将来を見越してより大きな需要の変化につなげるためには、需要に即した商品・サービスの開発、さらに野菜生産・加工の充実が必要と考えます。