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栃木県における産地改革強化プロジェクトの推進について
~青果物の加工・業務用需要への対応促進~

栃木県農政部生産振興課



1.栃木県における野菜の生産・流通の現状について

 平成17年現在の主要野菜の作付面積は8,942ha、野菜産出額は730億円(全国第8位)で本県農業産出額の27%を占めています。年次別の推移は、作付面積・生産量は漸減傾向、産出額は横ばいから微増傾向となっています。(図1、図2)

 また、平成17年の販売量は203,493t(前年比101%)であり、系統共販による、関東地方や東北地方の中央卸売市場への出荷が大半を占めています。

 一方、近年の野菜消費は、食の外部化のにより、外食・中食産業を中心とした加工・業務用需要での消費が大半を占めるまでに至っており、これに対応して輸入野菜の利用量も増大しています※)。

 このような状況の下、本県の青果物産地の維持発展を図るためには、加工・業務用需要に対応できる産地体制の整備が緊急の課題となっています。本県では、これらの課題に対応するため、「産地改革強化プロジェクト」と「マーケット・イン産地育成事業」の推進に取り組んでいます。

図1 栃木県の野菜の生産量と産出額の推移

 
図2 栃木県における主要野菜の作付面積の推移


2.産地改革強化プロジェクト

(1) 目的と展開方策
  野菜を取り巻く情勢の変化に対応し、将来も競争に勝ち残ることができる産地を確立するためには、産地の構造を従来の「プロダクト・アウト(できたものを販売する)」型の構造から「マーケット・イン(求められるものを生産し、販売する)」型の構造へと変えていくことが重要です。

 そこで、本県では、平成17年度から「産地改革強化プロジェクト」に取り組み、(1)「改革を進める人材の育成」、(2)「産地改革を戦略的に進める改革モデルの育成」、(3)「実需者や消費者に対する安全・安心の確保対策」を産地の構造改革を進めるための重要な課題として、様々な事業を展開しています(図3)。

図3 産地改革強化プロジェクトの概念図

(2) 改革を進める人材の育成
  産地の構造改革を進めるためには、牽引役となる人材の育成が重要であるため、以下の事業を実施しています。

『産地改革トップセミナー』

 産地の構造改革を進めるためには、産地リーダーの意識改革が必要であることから、農協幹部職員や生産部会代表者等を対象としたセミナーを開催しています。セミナーでは、有識者や実践者による講演や情勢報告と、これらを題材とした総合討議を行っています。
『青果物マーケットマッチメーカー養成講座』

 用途価値の高い商品の開発や生産を誘導するためには、実需者と産地を結びつけ、産地と実需者との直接取引をコーディネートする仕掛け人が不可欠です。

 このような人材を育成するため、青果物の生産・流通・販売に関わる職業人を公募し、専門家や実践者を講師とした「青果物マーケットマッチメーカー養成講座」を実施しています。本講座では、全10回のカリキュラムを通じて、(1)青果物マーケットマッチメーカーの基本、(2)多彩な講師陣との討論による課題探求、(3)青果物ビジネス最前線の体感、(4)幅広い人的ネットワークの構築、(5)利害調整能力、(6)リスク管理能力等について学んでいきます。平成18年度のカリキュラムは表1のとおりです。
  表1の第9回「マッチメーキング実践研修」では、JA全農とちぎ並びにとちぎ農産物マーケティング協会との共催による「ベジフルとちぎビジネスフェア2006」を埼玉県大宮ソニックシティにおいて実施しました。本フェアでは、県内青果物産地と首都圏を中心とした小売・量販店や中食産業等の実需者による情報交換が行われ、多くの商談が進められました。

1 H18年度青果物マーケットマッチメーカー養成講座カリキュラム




青果物マーケットマッチメーカー養成講座
ベジタブルとちぎビジネスフェア2006

(3) 改革モデルへの重点支援
  この事業は、産地改革を積極的に進める産地を重点的に支援することにより、モデル事例を確立することを目的としており、3つのメニューで構成されています。

『産地改革実践モデル事業』

 産地の関係者全体が参画したワークショップにより、現状分析やシミュレーションによる、産地能力の評価と課題の抽出を行い、重点戦略(産地、各生産者の戦略目標、アクションプラン)を策定するための事業です。本県では改革支援人材バンクを設置し、産地の課題に応じた専門家チームを産地に派遣する等の支援を行っています(図4)。

図4 産地改革実践モデル事業の概要

『新生産流通システムトライアル支援事業』

 用途価値の高い商品づくりや、生産・供給システムの効率化に向けた先駆的な取り組みについて、新たな挑戦に伴うリスクを低減して産地改革への取り組みを助長するため、独創的なプロジェクトを公募し、支援を行っています。

 これまでに、規格外品を利用した新商品の開発やトマトの養液栽培プラントを活用した高品質・高収量栽培体系の確立、健康野菜ヤーコンを用いた新商品開発への取り組みなど、計12のプロジェクトが本事業を活用して実施されています(表2)。

表2 新生産流通システムトライアル支援事業を活用したプロジェクト の一覧




規格外品を活用して開発した野菜ペースト
健康野菜ヤーコンを用いた新商品開発への取組

『サプライヤー産地創出事業』

 この事業は平成19年度から新たに取り組む事業であり、青果物産地に対して、サプライヤー機能(商品確保機能、パッケージング・一次加工機能、効率的物流機能、高度情報伝達機能等)を持った産地の具体的なモデルを示すことにより産地の意識改革を進め、加工・業務用需要への対応力強化を図ることを目的としています。(図5)

図5 サプライヤーの産地のイメージ

(4) 安全に対する消費者の信頼確保
法令遵守や衛生管理等に対する実需者や消費者の要請に応え、青果物の安全性に対する信頼基盤を確立するため、GAPの導入推進が有効です。
、栃木県版GAPの策定と推進に着手しました。

 この会議では、「EUREPGAP」や「食品安全のためのGAP((社)日本農林規格)」、「J―GAP(GAI協会)」、「青果物品質保証システム(日本生活協同組合)」等を参考に、検討を重ね、平成18年3月に「栃木県GAP導入指針」を策定し、平成19年3月には、これに基づく主要農産物の品目別実践マニュアル(いちご・トマト・ほうれんそう・なし)を策定しました。また、これに平行して、生産組織代表者や農協営農指導員等を対象にGAP産地指導者養成講座の開催等、GAPの普及啓発活動を実施しています。

 更に、GAPの導入を進めようとする産地に対しては、実践講習会の開催や生産環境における病原菌等の調査、監査体制整備のための検討、産地版GAPの作成等に対する支援を実施し、GAPを実践するモデル産地の育成を進めています。平成18年度は、ほうれんそう、トマト、なし、いちごの4産地がGAPの導入に取り組んでおり、次年度は更に取組産地を拡大する予定です。


図6 GAP推進のイメージ


いちごのパッケージング作業

3.マーケット・イン産地育成事業

 これまで、施設装備の整備に対する支援は、主要品目の面的な拡大を目的とした事業を実施してきましたが、平成18年度に事業を刷新し、「需要への対応力の強化」をメインテーマとして、「加工・業務用需要への対応力の強化」や、「用途価値を追求した商品の供給」、「さらなる産地発展のための魅力ある次世代型経営の実現」等を図るために必要な施設・機械の整備等に対する支援を目的とした「マーケット・イン産地育成事業」を実施しています(図7)。

図7 マーケットイン産地育成事業の概念図

 具体的には、生産コストの低減や周年生産を可能とする先進的な技術の導入、新商品(新品目)の生産に必要な機械、施設の導入等に加え、トリミングやカットなどの一次加工機械の導入や、パッケージルームの整備等、実需者の用途価値を追求するために必要な施設・装備の導入を支援する内容となっています。

4.おわりに
  本県が、平成18年3月に策定した「とちぎ“食と農”躍進プラン」では、平成22年度までに、加工・業務用需要との契約取引を行う産地を現在の26産地から50産地へと拡大することを目標の一つとしています。

 しかしながら、本県の青果物産地が、実需者ニーズに対応した用途価値の高い商品を供給できる体制を確立するためには、生産組織の再編成や栽培技術の革新、集出荷体制・物流体制の見直し、多様なニーズに対応した品質管理方法の確立等が必要であり、これらを実現するために解決すべき課題も山積しているのが現状です。

 系統共販率が極めて高い本県においては、まず第一に、生産販売面で従来とは異なる新たな展開が必要であることを生産者の方々に十分に理解してもらうことが重要です。意識に変革が起これば、これまで培ってきた組織力を最大限に生かし、加工・業務用需要に対応するための生産面、販売面での戦略を組織的に展開することは決して難しいことではないものと考えています。

 産地改革強化プロジェクトに着手して2年が経過し、産地改革に意欲的な生産者グループ等を中心に前述したとおり新たな取り組みが展開されるようになってきました。

 本県では、これらの意欲的な産地への重点的な支援を通じて、園芸産地の構造改革の加速化を図り、需要対応力の高い園芸産地の確立を進めています。


※「野菜情報 2007-4月号」P18―27 主要野菜の加工・業務用需要の動向と産地の対応課題(農林水産省 農林水産政策研究所地域経済振興室長 小林茂典氏)による。


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