農林水産省 農林水産政策研究所
地域振興部 地域経済研究室長 小林 茂典
2)ますます強まる加工・業務用需要と輸入品との結びつき
次に、輸入はどのような需要と結びつきながら増加しているのか、この点をみることにしよう。表1は、平成2年度、12年度、17年度における粗食料計、家計消費需要、加工・業務用需要をそれぞれ100とした場合の輸入割合を示したものであるこのうち、加工・業務用需要の輸入割合だけを取り出して図示したものが図3である。
主要野菜全体の粗食料に占める輸入割合をみると、平成17年度では19%となっている。平成2年度、12年度のこの割合が6%、15%であったから、輸入割合は着実に増加していることがわかる。ここで注目すべきは、家計消費用と加工・業務用における輸入割合の大きな違いである。家計消費需要における輸入割合は、平成2年度が0.5%であり、その後若干増加したものの、12年度、17年度ともに2%にすぎない。これに対して、加工・業務用需要における輸入割合は、平成2年度の12%から12年度の26%へ大きく上昇し、17年度にはさらに6ポイント増加して32%に達している。先に、主要野菜の輸入量が同期間に約130万トン増加していることをみたが、この輸入増加は、加工・業務用需要における輸入品利用の増加と結びつきながら進行していることは明らかである。
加工・業務用需要における輸入割合を品目別にみると、トマトについては、加工企業や外食・中食企業における輸入ペースト・ピューレ、ホールトマト缶詰等の利用増を反映して、輸入割合がきわめて高くなっている。にんじんにおける輸入割合の大幅な上昇は、野菜(および果実混合)ジュース等の原料となる輸入ペーストのほか、カット野菜原料等として使用される輸入生鮮品の利用増を反映したものである。さといもについては、外食・中食企業等における輸入冷凍品等の利用増が、たまねぎ、ねぎについては、カット野菜原料や業務用食材等として使用される輸入生鮮品のほか、インスタント食品の具材等に使用される輸入乾燥品の利用増が、ピーマンでは業務用食材等として使用される生鮮パプリカの利用増が、それぞれ輸入割合の上昇の背景となっている。
なお、これらの品目とは異なり、ほうれんそう、きゅうり、なすの場合、12年度から17年度にかけて、加工・業務用需要に占める輸入割合が低下している。これについては、きゅうり、なすの場合、漬物原料となる塩蔵品の輸入量の減少が主な要因である。ほうれんそうの場合、同需要に占める輸入割合は、平成2年度から12年度にかけて大きく上昇し、17年度に低下している。これは、平成14年に中国産冷凍ほうれんそうから基準値を超える残留農薬が検出されたことを契機に輸入量が減少し、外食・中食企業における輸入冷凍品の使用量が減少したことによる。
以上、主要野菜全体としてみるならば、(1)加工・業務用需要が過半を占め、しかもその割合が増加していること、(2)この加工・業務用需要の増加は輸入品利用の増加と結びつきながら進行していることをみた。
このような状況の中、今後、国内産地が輸入品に対抗し、加工・業務用需要対応を強化していくためには、従来型の家計消費用を前提とした生産・出荷の延長では不十分である。なぜなら、家計消費用と加工・業務用とでは、実需者から求められる基本的特性等が異なっており、これに対応した生産・出荷体制が必要とされるからである。以下、国内産地の基本的対応課題について簡単にみることにしよう。 (注3)
(2) 加工・業務用需要への対応に向けた産地体制の整備の方向
上記の加工・業務用需要の基本的特性を念頭に置くならば、産地の生産・出荷体制のあり方は、家計消費用とは自ずから異なることとなる。
まず、加工・業務用ニーズに適合した栽培技術の確立と小グループ化等による機動的な対応が求められる。加工・業務用野菜の場合、家計消費用に比べて一般に取引単価は安価である。このため、家計消費用と同じ作り方をしていたのでは産地側にとってのメリットは必ずしも多くはない。しかし、家計消費用よりも大型規格の栽培による単収の向上を図り、単価の相対的な安さを単収の増大でカバーすることができるならば、産地側にとっても粗収益の点で十分なメリットを見込むことができる。
このためには、用途別ニーズに適合した品種、規格での多収生産技術(在圃性の高い品種等の選定、株間の取り方等の栽培方法)の確立・普及、選別・調製作業等の省力化による規模拡大等のほか、家計消費用とは異なる生産に対応できる生産者の育成やそのグループ化、実需者別の営農部会の再編等を図り、実需者ニーズに機動的に対応できる生産・出荷体制を整備する必要がある。
さらに重要な点は、加工・業務用対応においては、実需者の用途別ニーズを把握した上で、播種前に販売先を確保するという考えが大切である。これは、契約取引等によって、品質内容、規格、数量、価格、出荷期間等を事前に決定し、売り先を確保した上で計画的生産出荷を行うことであり、これまで、さまざまな産地でみられたような、数年に一度等の高値期待という考えから脱却し、相場の動きに左右されない経営の安定化を目指すものである。
このためには、実需者のニーズをしっかり把握することが重要であり、産地の営業・販売力の強化が必要とされる。たとえば、出荷先の卸売市場から先の実需者が誰なのか、どのような用途に使うのか等が不明のままでは、十分な対応はできない。また、産地側がコスト意識を明確に持つことが重要であり、実需者との価格交渉を進める上で、生産コストの把握を欠かすことはできない。
こうした点に加えて、生産・供給体制の整備にあたっては、産地と実需者を結び、さまざまな調整等を行うコーディネーター(調整役)との連携を視野に入れた取り組みも重要である。コーディネーターは、卸売市場の卸売業者や仲卸業者をはじめ、さまざまな担い手が存在する。コーディネーターの機能として、(1)産地と実需者間の情報交換の促進や実需者ニーズの伝達、(2)用途別・等階級別の販路調整とこれによる商品化率の向上、(3)周年供給対応に向けた産地間リレー等の調整、(4)短期的な貯蔵機能を含めた物流機能、(5)川上・川中・川下の各段階におけるリスク分担とその調整等が重要である
(3) 主な品目別の基本的対応課題
最後に、主な品目について、輸入の特徴等を踏まえた加工・業務用対応における基本的課題について簡単にみておくことにする(表3)。(注4)
2)トマト
トマトの輸入形態はペーストやホールトマト缶詰等の加工品が中心である。これらに関する国内生産対応も重要であるが、その価格差等を考えるならば、今後、国産品が輸入品に大きく置き換わっていくのは困難な面が多い。今後の加工・業務用対応を考える際に留意すべきは、加工品に比べて輸入量は少ないものの、アメリカ等から輸入される生鮮「赤系」トマトの動向である。「赤系」トマトの場合、果肉が厚く、スライスした時にゼリー部が落ちにくく形くずれしにくい等の特性があり、加工・業務用実需者からは、サンドイッチ、ハンバーガー、サラダ用等として使い勝手がよく、また加熱調理用にも適しているとの声が聞かれる。このため、今後の加工・業務用対応における重要な取組として生鮮「赤系」トマトの低コスト供給を欠かすことはできない。
また、実需者が求めるトマトは、サラダ用等の高糖度トマト、糖度と酸味のバランスがとれたトマト等多様であり、実需者の用途別ニーズを細かく把握した品種選定も重要である。
3)にんじん
にんじんの主な輸入形態はペーストと生鮮品である。ペーストは各種ジュース用原料として使用されており、国内においても、加工メーカーの品種指定(糖度やカロテン含有量の高さ、製品としての色等を勘案)によるジュース用原料生産が行われている。これに加えて、今後の国内生産対応として重要なのは、増加する輸入生鮮品への対応である。
カット用等に利用される大型規格のにんじん(2L以上が基本)は周年必要とされているが、実需者からは、特に4~6月の国産大型規格のものが不足しがちであるとの声が聞かれる。このため、今後の加工・業務用需要対応においては、特に4~6月の大型規格にんじんの安定供給に向けた体制作りが重要であり、併せて、産地間リレーの円滑な実施による大型規格にんじんの切れ目のない周年安定供給が必要とされている。
4)ほうれんそう
ほうれんそうの主な輸入形態は冷凍品であり、その低価格性が輸入増加の大きな要因である。中国産冷凍ほうれんそうの残留農薬問題を契機に、国産冷凍ほうれんそうに対する需要(潜在的なものを含む)は増加しているが、国内の生産・供給対応は必ずしも十分ではなく、圃場段階における原料ほうれんそうの低コスト生産と冷凍加工施設の拡充整備の双方が求められている。
一般に家計消費用ほうれんそうの場合、草丈25cm程度で出荷されるが、冷凍用原料の場合、歩留まりを高めるため40cm程度の大型規格による生産・出荷が基本となっている。したがって、冷凍原料用等の大型規格の高単収栽培による低コスト原料生産が重要な取り組み事項として位置づけられ、これに加えて、増加する需要に対応するためには、現在の冷凍加工施設規模では不十分であることから、国内冷凍加工施設の拡充という加工段階の整備も必要である。
5)ねぎ
ねぎの輸入形態は生鮮品を中心に、乾燥、冷凍等である。輸入増加の最も大きな要因はその低価格性にある。したがって、ねぎの加工・業務用需要対応においては、コスト低減が最も重要な課題となり、そのためには、収穫・調製作業の効率化が不可欠である。収穫作業については作業受委託等が重要な取組事項としてあげられ、皮むき等の調製作業の場合、個々の生産者が行っている産地については共同調製への転換が重要な取組方向として指摘されている(個選共販から共選共販へ)。
また、ねぎの場合、加工・業務用実需者から求められる規格は用途別・実需者別に多様であることから、その規格分けについては、中間流通業者等とも連携し効率化を図ることも必要であろう。
6)キャベツ
キャベツの場合、上記品目とは異なり、国産品と輸入品とが直接競合する度合いは今のところ小さく、国産の不作時対応型の輸入という性格が強い。しかし、加工・業務用需要への国内対応の強化という観点からは見逃すことができない側面を有しており、加工・業務用実需者からは、特に4~5月の国産寒玉系キャベツの不足が指摘されている。加工歩留まりを高めるためには、葉質が軟らかく巻きがゆるい等の春系品種よりも、葉質が硬く巻きがしっかりしている等の寒玉系品種の方が適している。
このため、カット用等を中心に、大玉(10kg詰めの場合、6玉程度)の寒玉系キャベツが周年必要されているものの、4~5月の寒玉系については抽苔、不結球等が発生しやすく生産が困難であったことから、実需者の中にはこの時期に輸入品を利用するものみられる。しかし、4~5月の寒玉系のキャベツにおいては、現在、在圃性の付与等の品種開発も進展し栽培技術的な課題も克服されつつあることから、この時期の国産寒玉系キャベツの安定供給への取り組みを期待する実需者は多い。
7)レタス
レタスもキャベツ同様、国産の不作時対応型の輸入という性格が強く、年間供給量に占める輸入品割合は今のところわずかである。しかし、不作時にも迅速に対応できるよう周年的に輸入している実需者がいるほか、国内生産が不安定になりがちな冬場の時期等を中心に輸入品を利用したり、今後利用したいとする意向を持つ実需者もみられる。
カット用等を中心に、加工歩留まりを高めるため、葉肉が厚く適度な巻きの硬さ等を有する大玉(10kg詰めの場合,12~14玉が基本)レタスが必要とされており、冬場の安定生産はもとより、大玉レタスの周年安定供給が求められている。