独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
野菜茶業研究所
野菜育種研究チーム 若生 忠幸
2.短葉性ねぎの育成
近年では、安価な輸入品に対抗するために、生産性の向上ばかりでなく、味や新鮮さによる差別化に取り組む産地が増えてきました。短いねぎは早期に収穫でき、土寄せ作業などの栽培の省力化が可能となることから、高額な機械の導入が困難な小規模産地でも取り組みやすいと考えられます。
そこで、野菜茶業研究所では、従来の根深ねぎ用品種よりも葉が短く、そのかわり早期収穫が可能になるような葉鞘の肥大の早い「短葉性ねぎ」の品種開発を進めてきました。消費場面への対応としては、「コンパクトで扱いやすく、軟白部だけでなく緑葉部までもおいしく食べられるねぎ」をコンセプトに、食味についても差別化が可能となるような、やわらかく、辛味が少なく、葉身も葉鞘とともに利用できるものを目標として選抜してきました。
育種の過程では、根深ねぎに用いられている千住群品種から、葉鞘の短い系統を選抜するとともに、葉が短いことで特徴的な下仁田系、葉がやわらかく、葉ねぎとして用いられる九条系を素材に組合せ、交配・選抜を重ねてきました。
3.育成系統の特徴
これまでに育成した短葉性系統「安濃1号」及び「安濃2号」は、一般的な根深ねぎ品種「吉蔵」と比べ、葉身部・葉鞘部ともに顕著に短く、太いという特徴的な形状を有します(写真1)。同じ栽培期間で得られる1本当たりの重量はほぼ同程度となります(表2)。短いねぎとして知られる「下仁田」と比べると成長が速く、早期収穫が可能です。
また、葉鞘の巻きが強く、短くても土寄せの際に葉の中へ土が侵入しにくくなっています。根深ねぎの栽培では、通常5、6回程度の土寄せが必要ですが、短葉性ねぎでは、2、3回で十分です。軟白長20cm程度で収穫すれば、全長40cm程度のコンパクトな荷姿に調整することができ、持ち運びや収納に便利な外観的特徴が引き出されます(写真2)。
食味に関しては、辛味の指標成分であるピルビン酸生成量が、一般の根深ねぎ品種「吉蔵」や葉ねぎ用の「九条太」よりも低く(図1)、生で食べても辛みをあまり感じないので、白髪ねぎや薬味にも適しています。2005年、野菜茶業研究所一般公開日に、来場者を対象に生産物を配布し、アンケートを実施した結果でも、短葉性ねぎに対する関心は高く、食味についても概ね好評でした(図2)。
ただ、短葉性ねぎにも課題はあります。従来のねぎと比べ、早く収穫できるものの、最終的な生産物のサイズが小さいため、収量を確保するためには密植栽培が必要となります。そのための栽培技術や省力的な調製技術の確立が求められます。
しかし、根深ねぎの栽培は長期間にわたり、最も一般的な春まき秋冬どり作型では、定植後に高温多湿期となり、病害や湿害の多発、生育停滞による収量低下が問題となっています。育成した短葉性系統は、高温期の成長が盛んで、夏まきすることにより本圃での病害遭遇が回避できるとともに、栽培期間の大幅短縮が可能となります(図3)。このように、短葉性ねぎは、短期間での栽培が可能であることから、柔軟な作付け体系をとることにより、生産のリスクを低減させ、安定した栽培ができると期待されます。今後、春夏どりなど多様な作期に対応可能な短葉性品種と、各作期で高品質な収穫物を得るための栽培技術の開発が望まれます。
4.ねぎのおいしさとは
消費者アンケートでも、おいしいねぎを求めるニーズは強く、やわらかく甘いねぎがおいしいととらえられている傾向が認められています。見た目にやわらかそうでも、食べてみるといつまでも噛み切れない「すじっぽさ」が残るものもありますし、ねぎの甘さといっても果物のような甘さとは質が異なります。野菜のおいしさについて、直接関与する因子が明らかされている事例は極めて限られおり、食べたときの食味や食感を客観的に測定する手法の確立が、今後のおいしいねぎの開発への課題となるでしょう。また、ねぎには様々な調理形態があり、それぞれの食べ方を考慮したねぎを開発する必要があります。短葉性ねぎの葉身の部分は、その太い形状から薬味としての利用は困難と感じられますが、加熱すると非常にやわらかく食べやすくなります。このような新しいねぎの特徴と利用方法に関する情報を、消費者に的確に伝えていくことがねぎの需要拡大には重要と考えられます。
※好評を得ています「ブランド・ニッポン」開発品種の連載は、今月号で最後になります。
次号では、この「ブランド・ニッポン」開発のプロジェクトの成果全般と連載を終了にするにあたってのとりまとめをプロジェクトの責任者の望月氏にご執筆いただきます。