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「ブランド・ニッポン」開発品種(5) 短節間ミニトマト

長野県中信農業試験場
畑作育種部 松永 啓


1.ミニトマトの栽培はたいへん
 ピカピカと赤く輝くミニトマトは、見た目に美しい野菜です。また、果実を一口ほおばると、適度な甘みと酸味が口の中で広がり、そのおいしさゆえに、男女を問わず幅広く愛されています。さらに、医者が青くなるといわれているトマトの一員ですので、その栄養価の高さは誰もが認めるところです。こんなに良いことの多いミニトマトですが、スーパーなどでは大玉トマトに圧倒されて販売面積が小さいところが多いと思います。なぜでしょうか。

 ミニトマトは1つの果房に非常に多くの果実が着きます。多いものでは100果以上着くこともあります。一方、大玉トマトは1つの果房に4~5果程度です。このことから、ミニトマトの収穫に多くの労力が必要であることが分かります。また、大玉トマトは1果が約150gですが、ミニトマトは約25gです。すなわち、同じ量を収穫しようとすれば、約6倍の労力が必要です。これに加え、日本のミニトマトは果実が割れやすいという特性を持っています。最近の品種はこの性質の改善が進んでいるものの、雨の後などに収穫が遅れると裂果が多発します。このため、生産者は収穫期間中は、ほぼ毎日収穫作業をしなければなりません。これは、大変な重労働で、ミニトマトの生産農家が増えず、消費者から愛されているにもかかわらず、販売面積が増えない原因の一つと考えられます。

2.ミニトマト栽培を快適にするには
 では、ミニトマト生産の重労働を解消するにはどうすれば良いのでしょうか。表1にトマト10a当たりの作業別労働時間を示しました。これを見ると、栽培管理、収穫、調製・出荷に多くの時間を要しているのが分かります。栽培管理には芽掻き、整枝、誘引、つる下ろし、ホルモン処理、摘葉など多種多様な作業が含まれます。今回ここで紹介する短節間ミニトマトは、元々、この中のつる下ろし作業を軽減することを目的に品種改良を進めたものです。つる下ろし作業は労力がかかる上、失敗すると植物体に与えるダメージが大きく、生産者に大きな精神的ストレスをかける作業です。この作業の回数を減らすことにより、ミニトマト生産の軽労化が可能であると考えたわけです。

表1 トマトの10a当たり作業別労働時間(h)

 しかし、生産者にもっと負担をかけている作業として、栽培管理作業全体の1/4を占める収穫作業があります。この収穫作業が省力できれば生産者の負担はさらに大幅に削減できます。では、そのためにはどうすればいいでしょうか。ミニトマトは現状では、その果実を1個ずつ収穫するしかありませんが、10数果をまとめて穫る房取りにすれば大きな省力化が可能です。図1に個どり収穫した「サンチェリー250」と房取り収穫した短節間性系統「STBU01」及び「STBU03」の収穫時間を示しました。異なる品種・系統を比較しているので単純に判断できませんが、房取りした場合の面積当たりの収穫時間は、個どりの約1/5で、画期的に短縮されました。なお、この時の総収量はほぼ同等でしたので、収量当たりでみてもほぼ同等の短縮ができました(表2)。このように、房取り収穫の作業時間短縮の効果は極めて大きいといえます。


図1 収穫作業に要した時間
 
表2 長期どり栽培試験zにおける収量性(育成地、2003年)

3.房取り収穫の問題点
 次に、房取り収穫の問題点について見てみましょう。まず、1番目に果実の裂果があげられます。房取りできる短節間ミニトマトの育成に当たって耐裂果性の付与は必須であると考え、育成の初期段階から果実が割れにくい性質をもった系統を特に気をつけて選抜してきました。

 他に問題点はないのでしょうか。普通のミニトマトでは10数果着いた果房は非常に長くなります。このような、房取り果房を出荷する場合、大きなパックに巻くように収めなければなりません。これでは、流通時に無駄なスペースが増え、見た目も美しくありません。そのため、房取り収穫するミニトマトは果房がコンパクトである必要があると考えられます。今回紹介する短節間ミニトマトは、文字通り、節(葉の基部)と節の間が短いのですが、それだけでなく、果房の果実と果実の間も短くできました。そのため、果房がコンパクトで、小さな容器で流通できるという利点があります(写真1)。


写真1 房取りした果房の形態
上:短節間F1系統 下:市販品種「千果」

4.短節間ミニトマトの特性
 長野県中信農業試験場の農林水産省トマトの育種指定試験地では、つる下ろし作業と収穫作業の省力・軽作業化を目的に、短節間性ミニトマトの育種を進めてきました。写真2は有望系統である「トマト桔梗交41号」、「同42号」、「同43号」の収穫物で、着果数は、それぞれ、15果、18果、19果です。房取り収穫しても、果房がかなりコンパクトであることがわかると思います。


写真2 短節間ミニトマト有望F1系統
左から「トマト桔梗交41号」、「同42号」 及び「同43号」

 現在は、有望系統を「41号」と「43号」に絞っていますので、この2系統の特性を見てみたいと思います。まず、植物体特性ですが、開花日及び第1果房までの節数は「41号」、「43号」とも「千果」と同等、第1果房及び第5果房の高さは「41号」、「43号」ともに「千果」の約半分、果房の長さも約半分でした(表3)。「41号」、「43号」は短節間性及び短果間性を持っていることが分かります。

表3 植物体特性(育成地、2006年)


 次に収量性ですが、今回行った試験は地上から180cmの高さまでに着生した果房を収穫対象とし、赤く着色した果実が15~16個着いた果房を房取り収穫しました。その結果、1個体当たりの収穫果房数は「41号」、「43号」は約10果房で、「千果」の約8果房より多くなりました(表4)。総収量、良果収量は「43号」、「41号」、「千果」の順で、短節間性系統の方が多収でした。果房当たりの良果数は「43号」が13.1果で多く、次いで「41号」の12.0果、「千果」は最も少ない10.4果でした。「千果」の良果数が少なかった原因は裂果が多発したためで、裂果率は「41号」が2.8%で最も低く、次いで「43号」の7.8%でしたが、「千果」は12.4%と多く発生しました。果房当たりの良果重は「43号」が201.3gで最も重く、次いで「千果」が185.3g、「41号」が159.5gで最も軽くなりました。果房当たりの良果数と良果重が「41号」と「千果」との間で逆転していますが、これは、「41号」の果実が小さかったためです。

表4 収量特性(育成地、2006年)

 
表5 果実特性(育成地、2006年)

 最後に果実特性について見てみましょう(表5)。「41号」、「43号」は、「千果」と比べ、果色がやや劣り、果実は軟らかく、小さく、果形はやや扁平です。果実糖度は「41号」は9.5でやや高めで、「43号」と「千果」は同等です。果実酸度は「43号」が0.46%で高く、「41号」が0.38%、「千果」が0.32%でした。食味は「41号」が「43号」、「千果」よりやや優れていました。

 ここで紹介した短節間性ミニトマト系統は、まだ、育成中の系統で、すぐに利用できる状態ではありません。平成19年度は全国各地で行っている系統適応性検定試験(系適試験)が2年目になります。通常、系適試験を3年間行い、その優秀性が認められた系統が正式にデビューする品種の候補となります。品種候補となった後も、法律に基づく品種登録、種子の増産等が必要ですが、順調にいけば平成22年頃から「41号」、「43号」のどちらかの系統が利用できると思います。

5.最適栽培技術を求めて
 上手に収穫した房取りミニトマトは、果実の赤と果房梗の緑のコントラストが美しく、コンパクトな容姿は消費者の注目を引くことと思います。また、完熟果が多いので、食味も良く、大変期待できる商品であると思います。しかし、まだまだ解決しなければならない課題が沢山残っています。例えば、果房基部の果実と果房先端部の果実との熟度の差が大きいという問題があります。これまでにない短節間、短果間性の系統ですので、この系統に適する栽培環境(栽植密度など)を見出すことも重要です。また、裂果をさらに少なくするための栽培管理技術も開発していく必要があります。これらの課題については、今後検討する予定です。

6.おわりに
 短節間ミニトマトは、大きな労力軽減が可能なことから、導入されれば生産量の大幅な増加が期待されます。また、これまでにない独特の商品形態は消費者の注目を集めると思います。このような短節間ミニトマトに、皆様もぜひ期待をお願いいたします。

※1)「指定試験」とは、国が実施すべき試験研究を立地条件等が適切な都道府県の試験研究機関に委託して行う制度。トマトの育種研究が長野県中信農業試験場に委託されている。
※2)「系統適応性検定試験」とは、新しく育成した作物が、全国各地の気象や土壌条件の下で実用的な品種としての特性を備えているかどうかをチェックするもの。

※次号では、「短葉性ねぎ」を取り上げる予定です。



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