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野菜生産における機械化の現状

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
生物系特定産業技術研究支援センター
園芸工学研究部 吉永 慶太


1.はじめに
 日本の野菜の産出額は農業全体の4分の1を占めておりますが、作付面積および国内生産量は、過去10年で約15%減少しています。これは、(1)需要の加工・業務用へのシフトによる輸入の増加、(2)個人需要の減少、(3)野菜生産農家の後継者問題等いくつかの原因が影響していますが、一方で、安心・安全かつ新鮮な国産野菜に対する消費者、実需者の根強い需要もあります。

 昨年3月制定の食料・農業・農村基本計画においても野菜は生産拡大、自給率向上(82%→88%)を目標としており、この実現のためには特に、加工・業務用需要への対応が不可欠で、定時・定量・定質・定価の供給を目指した供給体制の強化を進めていかなければなりません。

 このような野菜を巡る情勢に対処し、特に若い後継者が意欲を持って野菜生産に取り組む態勢をつくるためには、野菜栽培の省力化、機械化を進めることが一層重要になっています。農作業は今や機械で行うのが常識と思われるかもしれませんが、実は稲・麦や飼料作物に比べて野菜は手作業に頼る部分がまだまだ多いのです。このため農業機械メーカーと国(当生物系特定産業技術研究支援センター(以下「生研センター」という。)をはじめとする公的機関)が共同して野菜用機械を重点的に開発する事業にも取り組んでいるところです。ここでは、これらの機械を含め、主だった野菜の栽培体系に沿って(1)野菜生産はどこまで機械化が進んでいるか(2)今後の課題は何か等についてご紹介いたします。


2.機械化の困難性と取り組みの現状
 表1は野菜の種別、作業ごとの機械化の現状を示したものです。耕うん作業や、防除作業は、ほぼすべての野菜において機械が用いられていますが、作物ごとにみるとすべての作業が機械で行われている品目はまだ多くなく、特に根菜類の間引き、葉茎菜類・果菜類の収穫作業については多くが手作業となっています。

 野菜栽培用機械の開発・普及が遅れてきた理由として、(1)その種類、作型、栽培方法、経営規模等が地域によって異なり栽培様式が多様であることから機種が増える一方、一機種あたりの生産台数が少なく、機械価格も割高とならざるを得ない、(2)野菜栽培では、これまで各作業を熟練された手作業で行われてきており、これを機械で置き換えるのは困難な面が多かった、(3)野菜は市場価格に関わる外観品質、包装形態に求められる要求度が高く、特に生鮮野菜においては、「見た目」も重要視されており、機械収穫等による損傷は、価格の低下に直結する、等の理由が挙げられます。

 (1)は、稲と比べてみたら分かると思いますが、稲の作付面積約170万haに対して、例えばキャベツは約3万haに過ぎません。しかも稲用のコンバインは麦にも使えます(コンバインの機種によっては、稲・麦・大豆・ソバ等さらに汎用的に使えるものもあります)が、キャベツ収穫機ははくさいやレタスには使えません。さらには、コンバインであれば、まずどれでも日本中の稲を収穫することができるのに対して、キャベツは栽培様式によって、機械が使えるとは限りません。機械が想定しているうねの間隔や、うね上の条数などが違うと対応できないのです。

 このため、野菜栽培用機械は稲作用機械に比べて販売される台数が少ないということになり(表2)、台数が少なければ高価にならざるを得ず、高価であれば買う人がいないので、ますます台数が少なくなるという訳です。

表1 主な野菜の機械化の状況

 
表2 主な農業機械の出荷台数(2004年)

 一方、耕うんや防除については野菜専用ということではなく、稲や飼料作物用と同じ機械がほとんどそのまま使えますので、機械化されています。

 (2)は、間引きや葉茎菜類・果菜類の収穫が機械化されていないと前述しましたが、いずれも人の目で見て選択的に行う作業なので、機械で実施するのは極めて難しいのです。いも類やたまねぎなど、もともと土の中にあって昔から一斉収穫だったものは収穫機が普及していますが、大きくなったものから順番に収穫するのが一般的なキャベツやトマトは、ほとんどが手収穫となっています。なお、キャベツ収穫機は既に市販されていて、これは大小関係なく一斉に収穫していく仕組みであり、機械化による低コスト生産を進めていくには、このように作業の方法を機械に合わせていくことも必要です。

 (3)は、特に葉茎菜類・果菜類の収穫調製に関してであり、これらが柔らかくて傷つきやすく、形も不揃いであることから機械によることが困難な訳です。


3.野菜生産における主な機械
【耕うん・整地・施肥用機械】
 ほ場内の土壌環境は、作物の発芽・生育・収量のみならず、機械の耐久性や作業性能に大きな影響を与えます。よって、栽培する作物にとっての最適な土壌条件にするように適切な機械を正しく利用することが重要になってきます。

 もともと農業の機械化は、牛馬あるいは人力で行っていた耕うんに機械を用いることから始まっており、長い歴史の中で完成された多様な機械が揃っています。以下に主な機械を列挙しますがいずれもトラクターに装着して作業を行うものです。

主な機械
・ プラウ(地表面の雑草等の残渣を地中にすき込むために、土を反転させる)
・ ハロー(大きな土塊を細かく砕き、ほ場を均平に整地)
・ ロータリ(プラウほどの反転作用は無いものの耕起と砕土を同時に行える)
・ ブロードキャスタ(粉・粒状の肥料をとばして全面散布)
・ ロータリ装着式施肥散布機(播種、ロータリと組み合わせて施肥)
・ マニュアスプレッダー(堆肥をうちほぐしながら散布)

 最近では、ばれいしょ生産において、「セパレータ」という機械を用いて栽培畦部分から土塊や石礫を除去しておくことにより、収穫時の作業能率を上げるとともに、いもにキズがつくことを防ぎ、根が張りやすくなることから収量の向上も見込める栽培技術の開発が進んでいます。


図1 セパレータ(畦から土塊や石礫を除去する)

【播種・育苗・移植用機械】
 野菜の播種作業は、決まった数の種を狙ったところに精密に播種することが重要です。直接手で播くのでは、能率が悪いだけでなく、所定の深さに所定の粒数を播くことが困難で、生育にばらつきが出やすくなります。すなわち、播種は能率ばかりでなく、作業の精度も機械を用いた方が上です。特に根菜類は、間引き作業が手作業であることから、その手間を省く観点からも正確な播種が求められています。

 移植苗を作る場合もほ場に直接播く場合もそれぞれ機械がありますが、キャベツ、はくさい、レタスなどの葉物野菜や、トマト、きゅうり、なすなどの果菜類では苗を作って移植するのが一般的です。苗を使うメリットとして

(1)苗は、ハウスなどの環境が安定しているところで作るため、病害虫や悪天候から守られ、畑に定植後も生育が順調になる、(2)直播きは、芽が出るまでに雑草が生えてしまう場合があり、大きくなった苗を植えることで雑草抑制につながる、(3)苗を自分で作らずに、苗生産業者から購入することで、生産期間の短縮・省力化に役立つ、等が挙げられます。

主な機械
・ 野菜播種機(手押し式、乗用トラクター装着型があり、種をほ場に均等に播く機械)
・ 接ぎ木装置(苗の接ぎ木を自動的に行う装置)
・ 野菜移植機(苗をほ場に植え付けていく機械、(1)苗を手で供給して植え付けは機械が行う半自動タイプ、

(2)セルトレイから自動的に1本ずつ苗を取り出し植え付けていく全自動タイプ、がありともに乗用型、歩行型が市販されている)



図2 全自動型移植機(セルトレイから
自動的に苗を抜き取り定植する)

図3 半自動型移植機(苗を1本ずつカ
ップに手で供給する)

 図4は野菜移植機の出荷台数を示します。苗の適応範囲が限定される全自動型に比べ、慣行から使っていた苗をそのまま用いることのできる半自動型の普及が進んでいます。


図4 野菜移植機の出荷台数の推移

 また、軽量安価な歩行型を中心に普及が進んできましたが、農業生産が担い手にシフトするのに従い、より高能率の乗用型への移行が進むものと考えられます。今後は、適応作物の拡大や、より高速で作業を行える移植機の開発が課題となっています。

【栽培管理用機械】
 一口に栽培管理といっても中耕除草・追肥・防除等幅広い作業があり、物理的な雑草の除去や農薬散布等を行うことで作物の生育環境を適正化し、生育を促進させることを目的としています。作業に応じて様々な機械があります。

主な機械
・ マルチャ(ほ場にマルチのためのフィルムを敷設する)
・ カルチベータ(数本の爪が作物の畦間を通過することにより、表土を膨軟にすると同時に除草を行う)
・ 培土機(作物の倒伏防止や畝間除草等のために畝間の土を株際に寄せ上げる)
・ 動力噴霧器(エンジンなどの動力でポンプを作動させ農薬を散布)
・ ブームスプレーヤ(多数のノズルが付いたブーム(竿)を搭載し、一行程で幅広く農薬を散布する)
・ ミスト機(薬液を送風機で微粒子化して散布する)
・ 野菜栽培管理ビークルアタッチメント交換により(防除、中耕・培土、液肥追肥等の管理作業を1台で行える)


図5 野菜栽培管理ビークル(ブームスプレーヤを搭載)

 防除作業はほぼすべての野菜において機械化が行われておりブームスプレーヤをはじめとする各種防除機が広く普及していますが、近年、食の安心、環境に優しい農業の観点から、農薬散布時におけるドリフト(漂流飛散)が問題となっています。特に本年の5月から始まった残留農薬のポジティブリスト制(どの作物についても全ての農薬に関する残留基準を設定すること)により、農家はより慎重な対応を求められています。これに対し、噴霧粒径を従来のものより大きくしたドリフト低減型ノズルが開発されて普及が始まっており、今後、より一層ドリフトを軽減できる機構の開発や、作業者の農薬被爆軽減のための装置開発が課題となっています。



図6 ドリフト低減型ノズル
図7 慣行型ノズル

【収穫・運搬用機械】
 野菜生産における収穫・運搬作業は、腰を曲げたつらい作業姿勢で重い野菜を取り扱う長時間労働作業が多く、産地からの機械化の要請が強い作業です。ただし、前述のように(1)機械では選択的な作業が難しいこと、(2)キズつきやすい不定型なものを対象とすること、から機械化されていない作目も多いのが現状です。野菜の収穫機は、いも類を皮切りに普及が進んできましたが、近年にんじん等の根菜類やたまねぎ等の鱗茎類では一般化し、ねぎ、キャベツ等の葉茎菜類は収穫機が登場してきたところです。

主な機械
・ 根菜類収穫機(いも類収穫機、にんじん収穫機、だいこん収穫機等)
・ 鱗茎・葉茎菜類収穫機(たまねぎ収穫機、ねぎ収穫機、キャベツ収穫機等)
・ 野菜運搬車

 既述のとおり根菜類の収穫はおおむね機械化がされており、葉茎菜類では、関東の主産地を中心にねぎ収穫機の普及が進んでいます。白ねぎの掘り取りから土落とし、収容・梱包までを一工程で行えるトラクター装着式や、堀取りから搬出まで1台で行える自走式の専用機が市販されており、手作業の3倍の作業能率を実現しています。

 一方、キャベツ収穫機については、調製や流通の形態などトータルな対応が必要です。すなわち、ほ場で調製作業(外葉を落とす、大きさ(L・M・S等)を分類する等)を行って、その場で段ボール詰めをする現行出荷体系では、収穫機の性能が生かされません。調製作業は調製施設で行うといった作業体系を構築することによって、収穫機に要求される機能が少なくなり、収穫作業の高速化、高能率化が可能となります。そして、キャベツで体系を作り上げれば、はくさいやレタスの機械収穫にも繋がると考えています。

 果菜類については、選択収穫するセンシング技術、傷を付けないハンドリング技術等が研究されています。現在、生研センターと農機メーカーが共同して、いちご収穫ロボットの製品化に向けた開発を行っているところです。

 運搬車は、特に露地野菜の収穫作業では、歩きにくいほ場で重い野菜を運搬しなければならないことが多いことから、重要な機械です。畦間や積み替え方法などにあわせて運搬作業用の車輪幅、荷台の高さが調節できたり、不整地や泥濘地でも安定した走行ができるクローラタイプのものなどが市販されています。近年では女性や高齢者にも使いやすいようにエンジンの始動が軽い力でできるものや、運転者なしでも収穫機に自動追従する追従型野菜運搬車が開発され、収穫作業の効率化・省力化を実現しました。



図8 だいこん収穫機
図9 汎用いも類収穫機
 
 


いも類収穫機
図11 キャベツ収穫機
 
 

 
図10 ねぎ収穫機
 


図12 野菜収穫機の出荷台数

【調製・選別機械】
 調製作業は出荷規格に応じて収穫された野菜を洗浄したり根や葉を切ったり皮を剥いたりする作業です。特に生鮮野菜として出荷する場合は、商品の見た目が商品価値に大きく関係してくることから高度な調製作業ができる機械が要求されています。

主な機械
・ 調製用機械(根・葉切り機、皮むき機、下葉取り機、ひげ根取り機等)
・ 洗浄・清掃用機械(ブラシ式、ドラム式、噴射式洗浄機等)
・ 選別用機械(階級選別機、等級選別機)
・ 結束・包装用機械(結束機、袋詰め機等)

  近年では容器包装のゴミ問題や輸送コスト削減等の点からプラスチック製の通いコンテナを利用する取り組みが進んでいます。段ボール容器は使い捨ての利用が多いのに対し、プラスチック製コンテナは再利用が可能なことから、流通コストの削減が期待されています。

 今後は、例えば残留農薬の非破壊検査が容易にできるような機器が開発されれば、選別過程を持つ集出荷施設等での活用が見込まれます。



図13 追従型野菜運搬車
図14 長ねぎ調製機

【施設用機械】
 施設栽培とは、ガラスやビニールで隔離することにより、風雨、冷害、害虫等から作物を守り、作物に最適な環境を制御して生育を促進させる設備のことです。

主な機械
・ 暖房機(温風、温湯)
・ 換気窓開閉装置
・ カーテン開閉装置
・ 灌水装置
・ 土壌消毒機

 温室等施設栽培は暖房のために化石燃料を消費しますが、最近の原油の高騰や環境負荷低減の観点から、木質ペレット等のバイオマスエネルギーの利用が始まっています。

 近年では、閉鎖系で野菜生産を行う「植物工場」等への他業種からの参入も盛んとなっています。2004年は史上最多の10個の台風が日本に上陸し、野菜価格の高騰が大変問題となりました。植物工場は、そのメリットとして、(1)季節、土地、気候等に関係なく安定して生産することが可能、(2)栽培環境を高度にコントロールすることができるため、生産サイクルを大幅に短縮でき、また無農薬野菜(洗わずに食べれる野菜も)の生産が可能、(3)多段にして栽培できることから土地生産性が格段に上昇する等があり、デメリットとしては、イニシアルコスト(初期投資費用)、ランニングコスト(光熱費等の維持費)がともにまだ高額なことですが、今後の照明技術等の進歩によりまだまだ革新されていくものと考えられます。


4.野菜機械化栽培体系とその効果
 表3に機械化一貫体系の完成している、ねぎの作業体系について慣行栽培と機械化体系の対比を示します。表からもわかるように、ねぎの栽培体系において、収穫・調製作業は全体のおよそ6割を占めており、産地によっては8割もの時間を割いているところもあります。つまり、特にこの部分の手作業を機械化する、あるいは機械の高能率化をすることが、全体としての労働時間短縮に効果的な訳です。表3の事例では、慣行栽培に比べ、機械化体系は労働時間を約3割短縮できています。

表3 10aあたりのねぎ栽培体系および労働時間



 労働時間の短縮は、すなわち労働費の節減につながります。労働時間の短縮によって余った労働力を、規模拡大や他の作物へ投入することで経営の合理化が見込めます。また、労働費の節減は生産費を下げることを意味し、低価格な野菜の生産が可能となります。しかも、機械化により作業能率を上げ、作業を最適な期間に集中して行うことにより、収量や品質を向上させることが期待できます。なにより、軽労化は産業としての魅力にもつながります。野菜生産農家の高齢化や担い手不足が問題となっている中、後継者に就農したいという気持ちをもっていただくためにも一層の機械化を進めていくことが重要になっています。


5.おわりに
 ここまで、主だった野菜の栽培体系に沿って、いくつかの野菜生産用機械を紹介してきましたが、野菜は、例えばゆりね、とんぶり等に代表される伝統野菜や、最近ではモロヘイヤ、エンダイブ等の新野菜など膨大な品目があり、品種、地域、作型等による多種多様の野菜用機械が求められています。これまでにも多くの野菜生産用機械が普及してきたものの、まだまだ機械化されていないもの、あるいは既に開発された機械にも改良すべき点が多く残されています。今後は、作業者にとっては低コスト、省力的で高性能なことはもとより、安全性、快適性が高く、楽に作業ができる機械が、また、消費者にとっては安心・安全でおいしい国産野菜が安価に安定供給されるための機械の開発が望まれています。

 折しも先般決定された「21世紀新農政2006」では食料供給コストを5年で2割縮減することが目標に掲げられています。この実現のためには、主要な野菜の主たる作業については、すべて高能率な機械を用いる態勢を作り上げるべきであり、関係者のご尽力とご協力をお願いする次第です。


参考文献
(社)日本施設園芸協会(1999)野菜生産機械化の手引き
(社)日本農業機械化協会貝沼秀夫(2003)機械化の現状-収穫
農業機械学会誌第65巻1号p16-20大森定夫(2003)機械化の現状-収穫以降の機械化
農業機械学会誌第65巻1号p21-23木下榮一郎(2005)農業機械の歩み 7野菜用機械
農業機械学会誌第67巻4号p33-38青木循、紺屋朋子(2006)
野菜作用機械、機械化農業
2006農業機械カタログ集p188-190



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