愛知県農林水産部 園芸農産課
主査 恒川 靖弘
2.輸入野菜の増加の影響
生鮮野菜の輸入量は、平成10年の国内産野菜の不作による高値を契機に急増し、その後、平成14年に国内産野菜の安値と輸入野菜の残留農薬問題で一時減少したものの、翌年からは再び増加に転じ、平成17年には初めて100万トンを超え、過去最高を記録した。品目別にみると、たまねぎ、かぼちゃ、にんじん及びかぶ、ねぎなどの輸入量が多く、輸入先は中国が多くのシェアを占めている。
輸入野菜は、天候不順などの影響により国内産野菜の出荷が減少し、価格が上昇する時期に増加する傾向があることから、市場流通段階において輸入野菜による補完が行われ、品薄による高値が期待できなくなっている。特に、輸入野菜の価格は、国内産の価格を大幅に下回っており、本県産野菜の価格低迷の一因ともなっている(図1)。
また、家計消費が減少する一方で、外食や中食を中心とした加工・業務用需要が増加していることから、家計消費向けの生食用需要を中心に出荷体制を確立してきた本県産地については、加工・業務用需要への出荷の推進が急務となっているが、加工・業務用需要は輸入野菜のシェアが高く、生食用並の価格設定が難しくなっているのが現状である。
3.輸入野菜に対応するための取り組み
(1) 野菜生産振興方針への位置づけ
平成17年12月に策定した愛知県野菜生産振興方針においては、平成22年度を目標として、野菜全体および主要品目別に生産目標を設定するとともに、担い手の確保育成や用途別需要への対応について、多様な手法を提案している。
このうち、輸入野菜のシェアが大きい加工・業務用需要については、定時・定量・定価・定質での周年安定供給や洗浄・カット・下ごしらえなどのニーズに適した供給が求められていることから、一次加工・鮮度保持などの機能の確保や産地間連携によるリレー出荷などを通じて、需要動向に見合った生産供給体制づくりが必要であるとしている。
また、加工・業務用需要に対しては、需給の変化により価格や数量が変動する市場経由での委託販売では対応が難しいことから、実需者を把握して用途に応じた生産を行う契約取引を推進することとしている。
(2) 加工・業務用需要の取り組み
JAあいち経済連においては、販売開発担当の直販扱いとして、たまねぎ、キャベツ、だいこん、はくさい、にんじんで加工・業務用の取引を実施している。平成17年産の取扱い実績は、上記5品目合計数量5,012トンで、顧客数は延べ24社、対象JA数は延べ18JAとなっている。平成18年産については、5品目合計数量5,500トン、顧客数延べ24社、対象JA数延べ19JAで引き続き取り組みを進める計画である(表1)。
(3) 生産基盤の整備
輸入急増農産物対応特別対策事業および強い農業づくり交付金を活用して、低コスト耐候性ハウス、残留農薬分析機器、選果施設などの施設整備を進め、輸入野菜に対応できる産地の競争力強化を図っている。
このうち、平成16年度には県内3地区でトマトの低コスト耐候性ハウス延べ31,254m2を整備し、施設内環境の好適化による冬春トマト産地の生産振興を図るとともに、平成14年度および17年度にはJAあいち経済連に残留農薬分析機器を整備し、出荷物の残留農薬検査による本県産野菜の安全性の確保に努めている。
また、平成17年度には1地区できゅうりの選果機を整備し、トレーサビリティに対応するための個体管理により、加工・業務向けの契約取引数量の拡大に努めている(写真1)。
(4) 生産履歴情報のシステム構築
県では平成15年度に、生産・出荷に関する履歴情報を記録して消費者に発信するシステムの構築に向けた調査・研究を行い、その結果を踏まえて、平成16年度にはJAあいち経済連が事業実施主体となり県内19JAに生産履歴管理システムを導入し、農家が記帳した農産物の生産履歴情報のデータベース化を進めている。
(5) 産地の取組事例
県内ブロッコリー産地においては、輸入品との差別化を図り、国内産の新鮮さをPRするため、平成14年度から葉付きブロッコリーの契約出荷に取り組んでいる。また、さらに付加価値を高めるため、JAあいち経済連の「いきいき愛知」制度の中で化学合成農薬5割減栽培に取り組むとともに、JAあいち経済連の「あいちそだち」用生産者ID付き二次元カードにより生産情報を提供し、消費者に対するアンケート調査やプレゼントを実施している(写真2)。こうした取り組みにより、消費者への新鮮さや安全・安心のPR、購入者の意見の聴取ができ、取扱い量販店からも売り場構成の中での好商材として安定的な供給要望も強く、生産者の取組意欲の向上につながっている。
また、県内はくさい産地においては、貯蔵に適した非黄芯系品種の作付けのウエイトを高め、加工・業務用(漬物)需要に対応するとともに、生産者の高齢化や遊休農地対策として、収穫作業をJAが受託する取り組みを行っている。
4.消費者・実需者ニーズに応えられる産地づくりに向けて
(1) 産地の生産構造の分析
消費者や実需者のニーズに応えられる野菜産地を確立するためには、担い手の確保育成が不可欠である。担い手の確保育成方策は各産地ごとに異なることから、方策の検討に当たっては各産地において「生産構造分析」を実施するよう推進している。
生産構造分析とは、生産農家ごとの経営規模、従事者の年齢構成、後継者の状況、作付面積および出荷量等の現状把握を行い、これに基づいて5~10年後の生産力を客観的に判断し、(1)規模拡大志向農家、(2)現状維持農家、(3)規模縮小農家、(4)離農農家の4区分に分け、産地の将来像を予測するというものである(図2)。
生産構造分析の結果、将来的に生産力の維持が困難であると判断された産地においては、法人の育成、新規就農者の確保育成、JA等による農作業支援、人材派遣会社等との連携などの対応策を講じて、新たな担い手の確保育成を図るとともに、生産出荷近代化計画や産地強化計画にこうした方策を盛り込んで、計画的に実施することにより、産地としての安定供給体制を確立していく必要がある。
(2) 加工・業務用出荷の推進
輸入野菜にシェアを奪われている加工・業務用需要については、需要者のニーズを把握するとともに、本県産野菜を積極的にPRすることにより、需要者との連携を深めていく。また、生産者団体と加工・業務用需要者との情報交流会を用途別に開催して、相互の理解を促進し、契約取引を推進するとともに、契約野菜安定供給制度への加入についても推進する。
(3) 生産履歴情報のデータベース化
消費者の安全・安心志向が高まる中で、本年5月の残留農薬に係るポジティブリスト制度の施行や、10月の加工食品の原産地表示の義務化により、生産履歴情報が明確な国内産野菜のニーズが高まっている。
こうした気運を一層の追い風にするため、県内19JAに導入した生産履歴管理システムの効率的な運用を図るとともに、農家の生産履歴記帳については100%の実施を目標に推進する。また、流通・販売段階との連携を図り、生産から消費まで一貫したトレーサビリティシステムの確立を目指すとともに、消費者への情報開示内容についても検討を行い、農家が栽培した安全な農産物を消費者が確認できる仕組みづくりに取り組む必要がある。
5.おわりに
本県では、農業従事者の高齢化と後継者不足、施設の老朽化など産地構造が大きく変化する中で、県民へ安全で良質な野菜を供給するため、平成22年度に向けて、出荷量および産出額の現状維持を目標としている。
この目標を達成するため、担い手の育成、消費者・実需者ニーズに応えられる野菜生産、安全管理と環境に配慮した野菜生産、生産性向上等の技術開発・普及、生産基盤の整備、本県産野菜の消費と利用、効率的な流通体系の確立を推進することとしており、こうした中で、輸入野菜への対応、競争力のある産地づくり、加工・業務用需要の取り組みを推進していく。