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直売所における情報システムの活用について

茨城大学農学部 地域環境科学科
教授 塩 光輝


平成16年度の農林水産省の調査によると、農産物直売所において、野菜類は品目別年間販売額が30.6%(1産地直売所当たり平均)で第1位を占めており、直売所における主要品目となっている。本稿では愛媛県の「内子町フレッシュパークからり」と岐阜県平田町の「道の駅クレール平田」の情報システムをとりあげ、直売所のかかえている課題を明確にしながら直売所情報システムの考え方を提示するとともに、筆者が実際に開発した直売所情報システムの概要と運用の流れ、ならびにシステムのハードウェアとソフトウェアの全体像を紹介する。


1.農産物直売所の課題

 農産物直売所の情報化を考える前に、直売所の抱えている問題を考察し、課題を整理しておくことが重要である。

 たとえば農林水産省の調査結果1)によると、販売されている農産物について当該直売所のある市町村および隣接市町村で生産されているものの割合が64%程度にとどまっているといったデータがあり、直売所の存在意義そのものを根本から考えなければならない課題も見受けられる。また、市町村や農協が設置した全国約3,000の比較的大きい規模の直売所では、87.4%が通年営業を行っているが1)、中小を含む全国約12,000箇所の調査結果では通年営業が31.9%にすぎない2)。観光地や伝統文化に根ざした特別な直売所を除き、「売り切れ御免」的な時間限定の直売所では、安定した顧客や継続的な販売額を確保することは困難である。

 しかし、より大きな課題としては安定した量および品目数を確保することができないため魅力ある直売所とはなっていないという点があげられる。前掲の調査結果でも、地場農産物販売に当たっての課題の第1位が「地場農産物の品目数、数量(参加農家)の確保(77.4%)」であった1)。ちなみに課題の第2位は「購入者の伸び悩み(42.7%)」である。安定した多品目少量生産の概念は農産物直売所において最も重要な課題であり、加えて現行の直売所でよく見かけられる欠品の防止対策も図る必要がある。一般論として、需要の多い旬の野菜が早い時間帯で欠品しているような直売所には、顧客は二度と訪問しないものである。

 また、直売所の生命線ともいわれる農産物の鮮度維持の問題や生産情報の提供の課題もある。一般的には直売所の農産物は鮮度がよいと消費者に評価されており、その鮮度のよい農産物を安定して供給することこそが課題となっている。

 農産物の安全・安心問題は地産地消の直売所において最もその本領を発揮すべきであるが、出荷者が必ずしも農業のプロでないことによる認識の甘さがみられる場合がある。また、生産者の自己満足的な販売ではなく、顧客を重視した顧客優位のサービスをいかに提供できるかといった課題も重要である。

 こうした農産物直売所のさまざまな課題を解決するためには出荷者である生産者の大きな意識改革が必要と考えられるが、その意識改革を実現するためには迅速で正確な直売所に関する情報を提供していくことが何よりも有効な手段である。そして、このためにはITを活用した農産物直売所の情報システム化が避けては通れない課題である。


2.直売所情報システムの先進事例
(1) 内子町フレッシュパークからり
 直売所情報システムの先駆的な事例として全国の直売所に大きな影響を与え、またその成果が評価できる事例として愛媛県内子町の「フレッシュパークからり」(写真1)を紹介する。


写真1 フレッシュパークからり

 内子町は人口11,500人(2002年)、松山市から南西に40kmの中山間地域である。1994年7月に特産物直売所の実験施設として「内の子市場」を開設し、産直のトレーニングを開始した。さらに1997年4月、第3セクターによる「内子フレッシュパークからり」をオープンし、「道の駅」に指定された特産物直売所で中山間地域の農産物を提供している。

 施設としては特産物直売所のほか、レストラン「からり」、シャーベット工房、パン工房、燻製工房、そして現在では主婦グループによるアグリベンチャー支援事業の農産物加工場と、農家レストラン「あぐり亭」が設置されている。

 開設当初は、価格の設定や品揃え、消費者対応等に戸惑いがあった。さらに、迅速なシールの印刷や正確な精算業務のためにも、残品情報(売れ残りはその日のうちに出荷者が引き取ることが前提であるため閉店間際に出荷者からの電話による問い合わせが殺到した)や販売情報(毎日の販売品目・数量の把握)を適時適切に把握する必要があり、情報システムを整備することとなった。現在、農家端末220台(FAX)が接続され、双方向の情報連絡システムとPOSシステムが稼動している。

 出荷者は、直売所に出荷する時点で自分でバーコードシールを印刷し、添付する。シールには出荷日、商品名、商品コード、価格、生産者名、電話番号が印刷されており、レジ停電時の緊急措置等のため価格の部分を切れるような工夫もされている。

 売上データはセンターのサーバに蓄積され、1時間ごとに農家・品目・単価ごとに集計されるので、農家はFAXや電話音声、あるいは携帯電話で確認できるようになっている。携帯電話による場合は、あらかじめ登録した時間(複数選択可)に自動的に売上情報のメール配信を受けることもできる。

 こうした情報システムの構築によって、きめ細かな出荷量の調整が可能となり、品不足や売れ残りの解消、そして売れ筋商品の把握といった戦略的な販売が可能となった。また、生産者名や電話番号の表示によって、消費者への安心感を高め、生産者と消費者との交流がより深まったといわれる。

 また、売上高への影響も大きく、販売額は年々増加の傾向にある。2000年度には農産物のみで3億円を突破し、出荷者は346人、直売所の利用者は年間30万人である。中には販売額が1,000万円を超す農家も現れ、単作経営から少量多品目栽培や有機農業を志向する農家も出現している。この売上高は町の農業総生産額の11%に相当する。果実にいたっては桃の62%、梨の57%などが直売所販売となっている。

 なお、販売は町内の農産物に限定されており、1日のうちに追加出荷している農家は約半数で、1日平均2~3回の追加がある。また、出荷品目は全体で1,000品目あり、このうち野菜は約150品目になっている。

 さらに現在は情報システムの一歩進んだ活用方策として、直売所型トレーサビリティ・システムの構築に取り組んでいる。

(2) 平田町「道の駅クレール平田」
 次に紹介する事例は岐阜県平田町の「道の駅クレール平田」(写真2)である。ここでは前述した内子町の情報システムを参考にしながら、さらに独自のシステム機能を追加構築し、高度に充実した情報システムが運用されている。


写真1 フレッシュパークからり

 平田町は岐阜県の南端に位置し、揖斐川と長良川の両河川に囲まれた平坦な三角州にあり、大垣へは15km、名古屋へは30kmの位置にある人口8,863人(2002年)の町である。

 「道の駅クレール平田」は、2000年1月にオープンし、情報提供端末、水防倉庫、そしてレストランと農産物直売所が設置されている。運営は全て町営で、農産物直売所の方は運営協議会が全ての運営のとりまとめを行っている。2002年度の直売所への出荷者は月平均約80人、売上高は3億2,000万円、出荷者の75%が60歳以上の高齢者である。農業専従者はごく少数でそれも退職者が多い。

 2002年7月には、他産地との競合や農産物の急増に対して農産物直売についても販売戦略が肝要であるとの判断により「IT活用型支援システム」という情報システムが導入された。消費者ニーズに呼応した「安全」「安心」「健康」「新鮮」な農産物を提供し、対面による「顔の見える農産物販売」を戦略としたシステムが必要とされたのである。

 従来は、誰が何をどれだけ販売しているのかも分からなかった。また、消費者から苦情があっても、何に対する苦情なのか即座に理解することさえも難しい状況であった。こうしたことは管理責任者としては当然対応すべき課題である。そして、何よりも将来の販売戦略を構築する上で、情報システムは欠かせない存在であると考えられた。

 システムは消費者と生産者の双方に有益な販売情報を提供し、消費者の購買意欲を高めるとともに、生産者の出荷意欲向上と販売の効率化を図ることを主眼として開始された。生産者はLモードFAXを利用して各種情報の入力と取得ができる。一方消費者はWeb上に公開された販売情報が閲覧できるようになっている。また、直売所のPOSデータはそのままデータベースとして活用できるようになっている。

 まず、生産者はLモードFAXから出荷予約を行う。予約された農産物のバーコードは自宅のFAXに出力され、商品に貼付された状態で直売所に農産物を搬入することができる。この出荷予約は全て自分で入力する必要があり、90歳を超えた高齢者でも入力を行っている。

 直売所には3台のPOS端末が配置され、リアルタイムにPOSサーバにデータが集積される。この売上データは1時間ごとに集計されデーターベース・サーバに転送されており、各出荷者は出荷量と売上量から算出された在庫量をLモードFAXで確認できる。また、刻々と変化する売上げ状況から在庫がなくなったときに追加出荷を要請する「追加出荷依頼メール」のシステムも構築されており、これで追加出荷をしている出荷者も少なくない。一方、消費者は、その日の直売所に出荷された農産物の情報をインターネットで見られるようになっている。

 なお、直売所店内外にコントローラの付いたカメラが設置されており、インターネット上でもライブで見ることができる。このライブカメラは、生産者にとっては自分の出荷した農産物の在庫状況の確認用として、消費者にとっては店内の品揃え状況の閲覧用として利用されている。

 以上のように、生産者だけでなく消費者へも各種の販売情報を提供するのが本システムの特徴である。この消費者への情報提供には工夫しだいで限りない可能性が秘められていると担当者は考えている。

 情報システム設置の最大のメリットは、直売所の管理体制がよくなったことで、その証拠に、売上数のデータベースが見られないときはすぐに苦情がくるそうである。売上情報が家に居ながらにして見られることは生産者の楽しみであり、生産意欲の向上に結び付いている。


3.直売所情報システムの考え方
 前述した直売所の課題と先進事例の調査結果を踏まえ、ここで筆者の考える開発すべき情報システムのコンセプトを提起したい。

 まず何よりも直売所情報システムの基本とは、直売所を核とする消費者と生産者の情報共有システムを構築することである。このシステムでは単に生産者から一方的に出荷情報を提供するのではなく、消費者から得られた購買動向に関する情報を生産者に提供し、それを活用した販売をするといった双方向の情報システムであることが望ましい。すなわち相互に顔のみえる販売システムである。

 相互に顔の見える販売システムにおいては、以下のような情報提供メニューが必要である。これによって消費者は安心して購買することができ、生産者は常に消費者のニーズを肌で感じながら生産意欲を高めることが可能である。

○生産者から消費者へ
(出荷情報、安心・安全情報)
 出荷商品情報、生産者情報、商品紹介情報、産地・栽培方法(農薬に関するもの等)の情報など

○消費者から生産者へ
(販売情報、消費者のニーズ情報)
 販売品目・販売量等の情報、売上ランキング情報、購買者に関する集計と分析など

 次に、直売所の情報システムとして重要であると考えられるのは、新鮮な農産物の提供を支援するシステムであるという点である。これは別な言い方をすれば、いかに地産地消を情報システムがサポートできるかということである。農産物直売所の生命線は新鮮さであると課題に挙げたが、鮮度のよい農産物を安定して供給すること、需要の多いものは欠品をなくすことという課題を解決するためには、以下のような情報提供メニューが必要である。

○販売状況の把握
 リアルタイム販売情報、リアルタイム在庫情報、販売客数情報など

○欠品防止
 出荷予約商品情報、売切れメール情報、売れ筋商品情報など

 次に、農産物直売所における販売戦略を高度化し、生産者へ戦略的なフィードバック情報を提供することも情報システムの重要な役割である。このためには以下に示すように、売上データを集約して高度に分析された販売結果をレポートとして出荷者に提示し、販売計画や生産計画に戦略的に生かされるようなシステムづくりが求められる。

○生産者へのレポート
 商品別出荷量・販売金額の成績表、月別人気商品分析表、高完売率商品分析表、商品別出荷者数分析表、商品別出荷占有率、売上ランキングなど

 次に、生産者と消費者のコミュニケーションを図るための情報システムも重要なコンセプトの1つと考えられる。ここでは単に商品や生産者を紹介するだけでなく、消費者がさまざまな体験を通して生産者とのコミュニケーションを深め、生産現場を理解してもらうための支援情報が求められる。例えば以下のような情報提供が考えられる。

○生産者と消費者のコミュニケーション
 農業体験情報、イベント情報、産地見学情報、グリーンツーリズム情報など

 また、以下のような顧客サービスも情報システムの一環として重要である。
○会員サービス
 売上ポイント・サービス、来店ポイント・サービス、特別会員サービスなど

○宅配サービス
 宅配商品情報、商品予約情報など

 最後に、農産物直売所の情報システムに求められる条件や機能について考察すると以下のような項目が挙げられる。
・システムの構築費用(ハードならびにソフト)が安価であること
・システムが高齢者である出荷者にも使い易いものであること
・いつでもどこでも情報が閲覧できるユビキタス情報であること
・システムのメンテナンスが安価かつ容易であること
・ソフトやハードの追加などシステムの拡張性が高いこと


4.開発されたシステムの内容
(1) 情報システムの概要と運用の流れ
 これまで述べたような直売所情報システムの考え方に即して実際のシステムを構築したので、その概要を説明する。図1に主なシステム運用の流れを示した。


図1 情報システム運用の流れ


 本システムの中心はラベルの添付された商品をバーコードで読み取り、販売データをリアルタイムに取得できる「POSレジ入力」の部分である。このPOSデータから時々刻々と変化する売上情報などの販売状況をリアルタイムに把握でき、一般の消費者にも在庫状況等の変化を案内することが可能である。また、生産者には売上速報や売り切れメールなどのリアルタイムな対応を実施することができ、かつ、蓄積された販売データを各種の売上集計として活用することができる。

 以上の「POSレジ入力」と商品の在庫管理を可能とするためには「出荷予約」が不可欠であるので、本システムでは「出荷予約」にきちんと対応させている。「出荷予約」がなければ出荷データを集計し分析することができないということを充分に考慮する必要がある。予約がなければ当日直売所に陳列される商品情報を消費者に提供することができない。そして商品の在庫状況をリアルタイムに把握することもできない。「出荷予約」によって、出荷が予定されている商品のラベルを自動的に印刷することも可能であり、システムの重要な機能として付加する必要がある。

 「在庫処理」は日々の具体的な在庫管理を実施している機能である。中には出荷予約がきちんとされないために不適切な在庫量を記録してしまうことがあることも想定されるので、それらのデータを毎日適正に更新する機能をもっている。基本的には予約された出荷数量を在庫数量とし、かつ、出荷数量を出荷データとして転記したのち、翌日の出荷予約のためにデータを初期化するといった処理を行っている。転記された出荷データは生産者向けの各種の出荷集計と分析に利用される。

 なお、出荷された農産物は売れ残った場合、出荷者がその日のうちに回収するということを前提にシステムが構築されているが、「じゃがいも」などのように必ずしも回収する必要のない商品については在庫量を継続することができるためのサインを在庫管理データの中にもたせている。

 次に運用についてだが、本システムは顧客を一般消費者と会員との2つに区分し、会員にはさまざまな特典を付加する会員サービスを考えている。この中で「顧客受付」は基本的に会員への各種のサービスを実施する機能を具備している。例えば来店時のポイント・サービスや携帯電話への商品情報の提供サービス、商品購入時においてはポイント加算などのサービスが実施され、これらの顧客データは顧客管理のデーターベース(DB)へ登録されてさまざまな消費者ニーズの分析に利用される。

 POSレジで入力された販売データは一定の期間に集積されて「生産者レポート」として分析出力される。例えば商品別出荷量や販売金額の出荷者ごとの分析結果や、人気商品分析表、出荷占有率、売上ランキングなどが集計され、各出荷者個人の成績として配付される。そしてこれらの生産者レポートは出荷者の戦略的な販売と生産計画に活用されることが期待される。表1に生産者レポートの出力事例を示した。

(2) システムのハードウェア構成
 図2に本システムのハードウェア構成を示した。
 レジ機で入力されたPOSデータはダイレクトにサーバ(DBおよびWebサーバ)に転送され、その内容はインターネットによって生産者と消費者に情報提供される。このため出荷・販売情報等が全くタイムラグのない状態でリアルタイムに提供されるという特徴と、出荷予約などの情報入力がユビキタス環境下で実現できるというメリットを具備している。


図2 システムのハードウェア構成
 
 
表1 生産者レポート

 また、POS機はパソコンを使用するPC-POSシステムであるため、システムの拡張性と経済性に優れている。POS専用機と異なり、パソコンをベースにしたPC-POSでは以下のような特徴がある。
(1) 費用が安価である
(2) 拡張性が高い
(3) ネットワーク接続が容易である
 パソコンベースなので、他のシステムとの併用や共存が可能である。また、エクセルやアクセスなどのソフトとDBの共有が可能であり、インターネットを使用したDBの構築やホームページを含むWebシステムの構築が容易である。

(3) システムのソフトウェア構成
 本システム全体のソフトウェア構成を示したのが表2のソフトウェア構成表である。
 システムは大きく分類すると(1)レジ、(2)ラベル印刷、(3)管理業務、(4)生産者向け情報、(5)生産者個別レポート、(6)一般消費者向け情報、(7)会員向け情報の7種類から構成されている。
 最後に、本システムは直売所への実質的な普及を前提に開発されているものであり、単なる試験的なシステムではないことを付記しておきたい。実際に直売所に導入可能な段階に達しているものと自負している。

<引用文献>
1)平成16年度農産物地産地消等実態調査結果の概要、農林水産省大臣官房統計部、平成17年5月10日公表(2005)
2)都市農村交流に係る市場規模等算定手法確立の調査結果、(財)都市農山漁村交流活性化機構、平成15年3月(2003)

表2 情報システムのソフトウェア構成表



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