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野菜の業務用需要に対応した産地間連携

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構
 中央農業総合研究センター 関東東海総合研究部
総合研究センター第4チーム長 佐藤 和憲


 業務用需要においては、周年安定供給が求められる。そこで外食企業等への業務需要に国産野菜を安定的に周年供給しようとする産地と実需者の連携の動きを紹介する。

1.業務用需要における周年安定供給の必要性
 ファミリーレストラン、ファーストフードといった外食や弁当、惣菜といった中食が食生活に占める割合(食の外部化率)は44%に達しているが、そのなかで野菜は食材費の2割程度を占めるといわれており主要な食材に位置づけられる(注1)。外食や中食で用いられる業務用の野菜には、メニューに応じて多くの品目があるが、その製品形態も生鮮野菜だけでなく、冷凍野菜、乾燥野菜、ペースト類など多様である。

 外食企業や中食企業(以下では外食企業等と呼ぶ)では、競争激化に対応して輸入食材の利用による食材コストの削減が進められているが、冷凍野菜や乾燥野菜はその代表格の一つである。生鮮野菜についても中国産などを主体として輸入品が増加し定着化している。

 従来、外食企業等は、生鮮野菜を卸売市場の仲卸業者やカット野菜メーカー等を納品業者として調達してきた(注2)。こうした納品業者は、原体での納品の場合だけでなくカット野菜の原料についても、卸売市場から仕入れることが多かった。これは天候によって野菜の供給量が大きく変動するので野菜を、欠品が許されない外食企業等においては、需給調整機能に優れた卸売市場から調達するのが無難であったためとみられる。

 しかし、消費者の安全・健康志向が高まる中で、外食企業等は、生産資材(肥料、農薬等)、栽培方法、産地、生産者等を指定して野菜を調達しようとする動きが出ている。こうした動きに対して、卸売市場は多様な品目を数量面で安定的に調達するには適しているが、野菜の内容品質、生産資材、栽培方法、産地、生産者を指定して調達するに必ずしも十分な機能を有しているとはいえない。

 このため、外食企業等の中には、自社スペックの生鮮野菜を国内産地から直接的に調達できるチャネルを自社または第三者に委託して構築しようとする動きがある。しかし、露地野菜では1~2の産地からの調達チャネルを構築しても、1産地の供給期間は数ヶ月しかないため、周年安定した調達は困難である。つまり、メニューに応じて品質・規格、数量、価格等の条件を満たしうる産地を時期毎に選択し、これらを繋ぎ合わせて周年の切れ目のない調達チャネルを組み立てる必要がある。

 一方、国内の野菜産地では、90年代から中国産を主体とした輸入野菜の急増による価格低迷により収益性が低下しており、生産者は苦境に立たされ作付面積が減少傾向にある。こうした中で、複数の野菜産地が連携することにより、外食企業等が求める周年安定的な供給を実現しようとする動きが出てきている。
 そこで、本稿では外食企業等の業務需要に国産野菜を周年的に安定供給しようとする産地間連携の動きについて、その形態・機能、仕組み及びコーディネーション(調整)(注3)について整理したうえで、今後の課題についても若干述べたい。

2.産地間連携の形態と機能
 産地間連携とは、どのような形態をとっているのであろうか。一般に産地間連携と考えられている形態は、同一品目で出荷時期の異なる産地と産地の間の連携、例えば春から初夏にかけては春キャベツの茨城県A産地、夏から秋にかけては夏秋キャベツの群馬県B産地、冬から翌春にかけては冬キャベツの愛知県C産地といったもので、従来リレー出荷方式とも呼ばれていた形態である。この形態に固有な機能としては、(1)特定品目の周年安定した供給の実現、(2)生産時期を分担した生産性と品質の向上があげられる。これらの機能は先に挙げた外食企業等の野菜調達ニーズを満たすものといえよう。また、この形態は卸売市場等における産地間の競合も競争も少いため、連携関係を築くことは相対的に容易といえよう。

 これに対して、同一品目、同一出荷時期の産地間では、競争の側面ばかりが注目されるが連携も可能である。例えば外食企業D社が夏期のキャベツをB産地のみと契約して調達していたとすると、B産地が不作になった場合には欠品が発生する恐れがある。しかし、B産地だけでなく同一時期にキャベツを生産しているE産地からも調達できるようになっていれば、どちらかの産地が不作になった場合でも他方の産地からの調達量を増やして補完することができる。つまり、同一出荷時期の産地と産地が連携することにより、(3)生産リスクを分散することにより供給の安定化、という機能を果たすことができるのである。このことは外食企業にとってメリットがあるだけでなく、産地にとっても欠品発生を理由としたペナルティや取引解消といった最悪の事態を回避することにもつながるのである。ただし、この形態では産地間に強い競合関係があるため、産地間での受注枠の配分や日々の出荷調整が不可欠である。

 これらの形態の他に、品目は異なるが出荷時期が同一の産地間での連携や出荷時期と品目がともに異なる産地間での連携形態も考えられるが、メリットは少ないため単独で形成されることは少ないと見られる。

 また、何れの産地間連携にも共通した機能として、(4)複数の産地が同一の販売チャネルを利用することによる商流コストの低減、(5)外食企業等の仕様に合わせた規格の簡素化、(6)輸送などの共同化による物流コストの低減が挙げられる。

3.産地間連携の仕組みとコーディネーター
 それでは産地間の連携関係を作り上げ、野菜を外食企業等へと供給している仕組みはどのようなものであろうか。一般に産地間連携の仕組みは、複数以上の産地の出荷団体等が共同して組織的な活動を行っている場合であろう。例えば岩手県と宮崎県のピーマンの産地間連携のように、県経済連(全農県本部)同士が契約を結び、夏秋期と冬春期に分かれてリレー出荷を行うといったものがその典型であろう(注4)。そこでは産地間連携の基本的な目的だけでなく、時期別、取引先別の分担を明確にしておくとともに、定期的な協議を行い端境期に起こりやすい欠品等のトラブルを未然に防ぐことが必要である。こうした仕組みは、産地段階の経済主体間に形成される水平的な関係であり、その運営は平等と互恵が原則とされよう。ただし、外食企業等との取引関係や物流拠点を有している特定の出荷団体がリーダーシップを握ることもある。


図 産地間連携のイメージ


 しかし、現実の産地間連携は、外食企業等による品質・規格、数量、価格の決まった年間又はシーズン単位の調達計画に始まり、これを流通業者やカット野菜メーカーが受けて、さらにその原料を同一出荷時期又は異なる出荷時期の各産地が分担することにより、初めて実効あるものとなる。つまり、産地の生産者から外食企業等へ至る取引関係により、産地間連携が作り上げられているもう一面の仕組みなのである。こうした売り手と買い手という垂直的な関係においては、需給バランスによって、何れかの側が取引上優位な立場に立ちやすく、現状では買い手である外食企業等が主導権を握っている場合が多い。しかし、外食企業等は、必ずしも野菜の生産や流通に関するノウハウを十分有しているとは限らないため、流通業者やカット野菜メーカーが、産地から店舗に至る流通過程において大きな役割を果たしていることが少なくない。

 このように、産地間連携は、産地と産地が結びついた横の連携関係だけでなく、産地と流通業者、カット野菜メーカー、外食企業等が結びついた縦の取引関係に支えられて大いに機能しうるものとなる。現実に存在する産地間連携をみると、産地間の連携関係が主導性を持っている場合と産地から外食企業等に至る取引関係が主導性を持っている場合があるが、概して実体のある産地間連携は後者の場合が多いようである。後者は外食企業等自らが、または流通業者やカット野菜メーカーが、外食企業等のニーズに対応できる産地を時期別に選択して個々に契約取引を行い、これらを組み合わせて周年供給を行うといったものである。このような形態は結果的には野菜の周年安定供給を達成しているが、本来的な産地間連携ではないという指摘もあろう。

 産地と産地が自主的に結びついているとはいえないので、このような形態においても、品質・規格の統一や端境期の安定供給を図るには産地間の連携関係が必要であるとの認識が流通業者やカット野菜メーカーの間にもみられる。さらに一歩踏み込んで流通業者やカット野菜メーカーが産地間の人的交流や技術交流を促進するといった試みも見られるようになっている。このことから外食企業等への周年安定供給には、個々の産地との取引関係だけでなく産地間の連携関係が必要である。

 さらにこの形態における産地間連携を実際に機能させ周年供給をスムーズに機能させるには、産地と産地、産地と流通業者、カット野菜メーカー、外食企業等を取り結び、生産・流通に関する情報提供、関係者間での取引交渉の促進、利害対立の発生時における調整といったコーディネーション(調整)機能とその担い手(コーディネーター)が必要である。コーディネーターの担い手として、カット野菜メーカー等がなり、生産者の圃場から外食企業等の店頭に至る流通チャンネルを一手に担う形態がある。また、全農県本部等の出荷団体、産地集荷業者といった産地サイドのコーディネーターと卸売市場の卸売業者、仲卸業者、カット野菜メーカーといった消費地サイドのコーディネーターが、それぞれの領域で機能分担しながら提携して対応するといった形態も考えられる。

4.むすび
 野菜産地での業務用需要への対応の必要性は益々増大するとみられるが、そうしたなかで産地間連携は業務用需要に応えるための基本的な方策の一つとみられる。産地間連携を構築するには、産地と産地が横に結びついた連携関係だけでなく、流通業者やカット野菜メーカーを経て外食企業等へ供給するための取引関係を確立しておかなければ実体のあるものとはならない。さらに、産地間連携を実際に動かすには、産地、流通業者、カット野菜メーカー、外食企業等の間での情報交換を図り、取引を促進して、利害調整を担うといったコーディネーター機能が必要とされている。今後、国内産地を業務用需要に適応させ輸入野菜に対抗していくうえで、コーディネーターの育成が一つの鍵となろう。現状ではコーディネーター機能の担い手は、特定の流通段階に本業と利害を持つ企業や団体が兼務していることが多いが、理想論としては農業生産の現場から外食企業等の店舗までを幅広く見渡せる立場にある経済主体がその担い手となるのが望ましいのではないだろうか。

注1)小田勝己『外食産業の経営展開と食材調達』農林統計協会、2004、P75
注2)(財)外食産業総合調査研究センター『平成11年度 国産食材利用増進推進事業報告書』2000.3、P15~16
注3)コーディネーション、コーディネーターの概念については、斎藤修『食品産業と農業の提携条件』農林統計協会、2001.11、P179~221参照
注4)日本施設園芸協会『特定需要野菜安定供給システム確立支援事業報告書』平成14年3月、P56~60



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