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情報コーナー


食品安全GAPの推進について

農林水産省 消費・安全局 表示・規格課
有機食品制度班 課長補佐 谷 口 康 子


1.はじめに
 この「野菜情報」でも、GAPを導入した産地の取組みなどが過去に紹介されています。流通、小売業サイドからの要求事項としてGAPという言葉を聞くこともあります。また最近、アジアや中南米の諸国ではEUへの農産物輸出を目指して、国を挙げてGAPの導入・普及を強力に推進しているといった情報を聞く機会も多くなりました。

 このように、先進的な生産者や食品業界ではかなり関心を持たれるようになったGAPですが、国内の一般の生産者などには、規制の強化と受け止められたり、非常に高度な営農技術の導入と誤解されたりしていることもあるようです。本稿では、なぜ今、わが国の農業に、GAP導入が求められているのか、海外の例などを紹介しながら解説するとともに、現在、農林水産省で推進している食品安全GAPについて紹介します。


2.GAPとは
 GAPとは、「Good Agricultural Practice」の略語で、「適正農業規範」と訳されています。「規範」という言葉には厳格なイメージがあり、難しい内容を想像されるかもしれませんが、「合理的な農業の実践」と理解していただくとよいかと思います。「食品安全」や「農業活動を原因とする環境負荷の低減」、「農作業における労働安全」といった具体的な目的のために、農業の作業工程ごとの基本的な考え方や、実施すべき作業の内容をあらかじめリストアップし、それを実践するとともに、記録に残し、さらにシーズン終了後には次期作に向けて作業内容の見直しを行うという一連の取組みです。

 作業の内容を文書化し、リストアップし、さらに記録に残すことは、合理的な作業を着実に実施する上で有効であるばかりでなく、ひとたび問題が起こったときに原因を究明したり、改善点を検討するためにも必要となります。食品安全を目的としたGAPの場合、農業生産工程やそこで使用される生産資材ごとに危害要因の分析を行い、生産工程の各段階で危害を排除するような作業内容をあらかじめリストアップし、さらにリストに沿っての実践を確認しながら、すなわちプロセスチェックを行いながら、安全な農産物の生産を行う取組みです。


3.食品安全のためにGAPはどのように有効か
 食品安全GAPは、農業生産の現場に存在する様々な危害要因を対象とした総合的かつ効果的なリスク管理の手法であり、国際的にもその有効性が認められています。たとえば農産物は、ほ場における生産の段階で、虫や風、土壌や水などを介してかびに感染し、かび毒に汚染されることがあります。また作物によっては土壌や水を介して、重金属を吸収することもあります。このようなかび毒や重金属のような有害物質による農産物の汚染を防止、低減する技術対策を、作物の特性や地域の気象、土壌条件に応じてあらかじめ検討し、リストアップしておき、着実に実践することにより、これら複数の危害要因を的確にコントロールすることができます。

 一方、最終産物の一部を採取、分析してその品質や基準への適合性を検査するファイナルチェック方式では、分析対象となったロットの安全性等は確認できますが、隣のロットの安全性は保証できません。産地全体で同じ考え方に基づくGAPを導入し、生産工程管理を行っていれば、ひとつのロットの検査によって、産地全体の生産工程管理の正当性、妥当性が確認でき、その産地から出荷された農産物全体の安全性を保証することにもなります。

 たとえば、食品衛生法の改正による残留農薬基準のポジティブリスト化の本格施行が目前に迫り、農産物の残留農薬の検査項目を増やす必要があるのではないかと心配される産地も多いかと思いますが、残留農薬基準のポジティブリスト化の対策としてもGAPは有効です。GAPの導入によって適正な農薬使用を徹底し、また、農薬の使用状況を記録しておけば、わざわざ高い経費をかけて多くの項目の分析を行わなくても、農産物の安全性は保証できます。一方、分析成分や対象品目を増やすことは、分析経費が増加することを意味します。費用対効果や合理的なリスク管理について、食品事業者や消費者を交えた意見交換を行いつつ、すべての関係者が納得するGAP導入を目指すことが重要です。

 まずは、生産者のみなさんにおかれては、入門編GAPチェックシート(仮称)などを利用しながら、GAPの考え方を理解し、できることから実践してみてください。また、生産者団体や技術指導者の方々は、このような生産者の取組みを支援する体制を整えていただくようお願いいたします。


4.海外におけるGAPの普及の状況等
(1) 欧米の状況
 海外ですでに普及が進んでいるGAPの代表例に、EurepGAPとSQF1000があります。前者はEUで、後者は米国やオセアニアで普及が進んでいます。これらはいずれも、農産物がどのような管理のもとで生産されているのかを客観的に証明するため作成されたもので、これを要求する食品小売業者と生産者団体等の取引契約に必要となるGAPの基準認証のシステムです。

 このうちEurepGAPは、EUの消費者が求める「食品安全」などに関して、食品小売業者が各社ごとに取引基準として定めて取引先の生産者に要求していたところを、食品事業者等の団体であるEurep(欧州小売業協会)によって、「環境保全」、「労働安全」、「労働福祉」、「家畜福祉」などの考え方も取り込んで、統一化・共通化されたものです。現在、Eurepに加盟する食品小売業者との取引において、その認証取得が必須要件とされています。また、Eurep GAPは生産者と食品小売業者との契約事項であるので、農場レベルでの管理事項がかなり詳細に示されています。さらに、透明性を保ちつつ、公平な判断ができるように、専門技術を持った第三者が審査を行い、認証することが要件となっています。

 一方、このような基準認証の仕組みは、透明性や公平性を保つためには有効ですが、枠組みを作り、運用することに加えて、審査のための技術者を養成確保するための費用なども相当かかります。欧米では食品小売業の寡占化が進んでいることもあり、このような基準認証が普及、発展しやすい状況にあったと思われます。

(2) その他の諸外国における状況
 EurepGAPやSQF1000は、それぞれEUや米国等のメジャーな小売店が取引条件として採択していることから、当該小売店向けに農産物を出荷しようとする生産者にとっては、これらの規格の認証を取得することが必須です。

 一方、EurepGAPやSQF1000は、いずれも民間事業者による自主的な規格なのですが、事実上のグローバルスタンダードとして認識されつつあり、農産物輸出を国策とする中南米、アフリカ、アジアの各国では国の主導の下で、これらGAPの導入・推進が図られています。

 たとえばタイでは、「世界の台所」をスローガンにかかげ、輸入検疫事項をクリアするだけではなく、高い安全性及び品質の確保のために生産から出荷の各段階でどのような工程管理をすべきかについて、GAPの考え方に基づいた統一的な基準を作り、証明できる生産体制の整備を図っています。EU等海外向けの農産物については特に、品目別にマニュアルを作り、普及員等による技術指導の下で生産が行われています。


5.わが国の農業に今、食品安全GAPの導入・普及が求められる背景
 先に述べたように、食品の安全性を確保するためには、最終産物のファイナルチェックにのみ頼る方式より、生産工程ごとのリスク管理を着実に実施するプロセスチェック方式の方が、より確実かつ効率的です。また、今では、「これまで問題がなかった」ということだけで消費者や食品関連業者の信頼を確保することは困難であり、安全性の確保や品質向上のために十分な生産管理が行われ、それを証明する客観的な資料が必要に応じて提供可能な、信頼できるシステムによって食品が供給されるということが求められています。

 一方、今後わが国に、国際的な基準に基づき安全性が確保され、さらにそれを証明できる農産物が大量に輸入された場合、これまでのような「国産だから安全だろう」といった根拠のない優位性は失われ、国産農産物の市場競争力は一挙に低下するおそれがあります。こうしたことへの「備え」としても、食品安全GAPの早期導入が急務となっています。このように食品安全GAPの導入は、海外への農産物輸出を目指す一部の農業者のためだけでなく、国内市場における国産農産物の地位をこれまでどおり確保するとともに、持続的な農業生産を行うためにも必要となっています。

 こうしたことを背景として、平成17年3月閣議決定された新たな「食料・農業・農村基本計画」においても、最も重要な政策課題のひとつである「食の安全と消費者の信頼を確保」に向けて、リスク分析の枠組みに基づいた食品の安全性確保に係る施策の展開を図ることとし、農作物の生産段階における具体的な取組みとして、各地域や作物の特性等に応じた食品安全のためのGAPの策定・普及と、これに基づく農業生産・出荷等、農業者・農業団体・事業者による自主的な取組みを促進することとされています。


6.わが国における食品安全GAPの導入・普及の取組み
(1) 『食品安全のためのGAP』策定・普及マニュアルの公表
 農林水産省では本年4月に、食品安全GAPの取組を普及・推進していくための手引きとして「『食品安全のためのGAP』策定・普及マニュアル(初版)」を作成、公表しました。マニュアル本体を農林水産省のホームページに掲示していますので、ご覧ください(http://www.maff.go.jp/www/ press/cont2/20050428press_14.html)。このマニュアルでは、主要な作物(野菜、米、麦、果樹(りんご)、きのこ(原木及び菌床栽培の生しいたけ))を例にして、危害要因の抽出のやり方や、危害に対応したリスク管理方法の考え方、さらには作業チェックリストの作成の方法などを示しています。このマニュアルは主に産地を指導する技術者を対象として、食品安全のための生産工程管理とはどのようなものか、自分の関係する産地ではどのような管理をするとよいのか等を確認し、また食品安全GAPの策定の手順等を理解していただき、実際に産地で指導する際の参考書として使っていただきたいと考えています。

(2) 入門編GAPチェックシート(仮称)の作成
 食品安全GAPは、わが国の農業においては新しい概念であり、少しでも多くの生産者に取り組んでいただくためには、できるだけわかりやすく、また取り組みやすい形で紹介し、導入をあと押しする必要があります。また生産者は、環境への負荷低減や品質の向上、生産情報の提供など、同時に複数の課題解決に向けた取組みも求められています。こうした現場の生産者の実態を踏まえて、JAグループが提唱し、全国のほとんどのJAで取組みが行われている生産履歴記帳運動をベースとして、これに農業環境規範で実践が求められている事項や食品の安全性確保の観点から取り組む必要がある事項なども盛り込み、運動をステップアップする方式でGAPの普及を図るべく、現在、入門編GAPチェックシート(仮称)の作成作業を進めています。

 入門編GAPチェックシート(仮称)は、生産履歴記帳運動ですでに実践されている事項の中に、食品の安全性確保に必要な事項等を関連づけてチェック項目を整理することとしています。農林水産省では今後、入門編GAPチェックシート(仮称)を活用して、各産地においてGAPの普及推進を図っていきたいと考えています。ただし、具体的な作業方法や技術対策はそれぞれの産地で異なることがあることから、すでに産地で作成している栽培暦(栽培基準)をベースに、必要な項目を追加するなど、現場の実態に応じて取り組みやすい方法を工夫してみてください。

(3) 入門編GAPチェックシート(仮称)の活用
 産地でチェックシートができましたら、それを用いて作業内容の点検を行ってみてください。まず生産者は、チェックシートの内容を理解した上で、実践した作業項目について作業日誌に記録するとともに、一連の作業が終了した後に作業日誌等を確認しながらチェックシートに記入します。また、チェックシートの記入が終わったら、生産者自らがその内容を点検し、次期作に向けて改善すべき点は何か、どのように改善したらよいのか等、問題点を把握するためにチェックします。

 さらに平行して、生産者団体、生産部会等が中心となって産地全体の集計を行い、取り組みの内容が十分であったかどうか、改善すべき点があるのか、などについて実施率を基に点検し、実施できなかった理由を分析した上で、今後の指導上の改善点を検討します。GAPでは、実施率自体が重要なのではなく、それを基に、次期作において必要な見直しを行うとともに、そうした取組みを継続することが重要となります。


7.食品安全GAPの円滑な普及に向けて

 わが国農業を将来にわたって持続的に発展させていく上で、GAPの導入・普及は不可欠な要素となっています。このため農林水産省では、まず広く生産者の皆さんにGAPを知っていただき、できることから取り組んでいただくよう、様々なサポートを行っています。


ほ場におけるリスク管理の例1

EurepGAP認証ほ場。
雇用労働者や外部からの来訪者に対して、ほ場内
での禁煙や収穫物に対する衛生的な取り扱いを求
めるため、サインボードをかかげている。

 一方、わが国でも先進的な生産者グループや民間事業者において、自主的にGAPの考え方を取り入れた基準認証の仕組みを作ろうとする動きが始まっています。先進的な生産者が主体となって設立されたGAI協会が、農林水産省の平成16年度補助事業での実証成果を基に作成し、提案するJGAPもそのひとつです。こうした動きは、取引先の事業者に対して、生産者サイドから商品提案していくという新しい農業ビジネスモデルとしても興味深い取組みです。

 また、流通サイドから取引先の産地に対してGAPの考え方を取り入れた管理基準を提案するケースも複数出てきています。ただし、事業者により特徴のある取組みを進めることも重要ですが、食品安全や環境保全などのすべての農業者が考慮しなければならない項目については統一化・共通化を図ることが、GAPの円滑な導入・普及にあたり重要ではないかと考えています。このため農林水産省では、生産者や事業者等関係者間で、GAPのあり方や導入・普及の進め方などについて情報交換を行う場の設置を計画しています。またそれに先立ち、平成18年2月頃をめどとして、生産者、事業者、消費者を交えたGAP普及のためのシンポジウム(仮称)を計画しているところです。具体的な日程などが決まりましたら、農林水産省のホームページでご案内しますので、ご関心をお持ちの方は、ぜひ参加していただきたいと思います。

 入門編から入るか、一足飛びに基準認証に取り組むか、どちらもできることから始めることは全く同じです。GAP導入は産地の持続的な発展のためにも有効な取組みです。今後GAPが全国の産地に広っていくことを期待するとともに、生産者はもとより消費者を始め関係者のみなさんのご理解をご協力をお願いします。



ほ場におけるリスク管理の例2(農薬の使用状況の記録)
出荷前に農薬の使用状況と出荷計画を確認するための報告書。この生産者団体ではそれぞれの生産者から毎週報告をもらい、農薬の使用状況を確認するとともに出荷計画を確認している。
生産者用の栽培日誌のうち、農薬の使用ごとに記入する記録表。
 
 


ほ場におけるリスク管理の例3(農薬の飛散防止対策)
右写真のほうれんそうほ場を左手側から見たところ。隣はレタスほ場。
ほうれんそうほ場。隣のほ場で使用した農薬の飛散防止用にデントコーンで生け垣を作っている。
 
 


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