農林水産省 消費・安全局 消費者情報官補佐
食育推進班担当 勝野 美江
「食事バランスガイド」作成の目的
平成12年3月に文部省(当時)、厚生省(当時)、農林水産省により「食生活指針」が策定され、それを受けて食に携わる関係者の取り組み方針を定めた「食生活指針の推進について」が閣議決定されるなど、心身ともに健康で豊かな食生活の実現に向けた普及・啓発が進められてきました。
また、生活習慣病予防を中心とした健康づくりという観点からは、野菜の摂取不足、食塩・脂肪のとり過ぎ等の食生活上の問題、男性を中心とした肥満者の急速な増加などに対し、食生活指針を普及することにより、より多くの人々に栄養・食生活についての関心や必要な知識を身につけてもらい、食生活上の課題解決や肥満の改善に結びつけてもらうことが必要でした。さらに、食生活に関する情報が社会に氾濫する一方、人々の価値観が多様化し、忙しい生活を送る中で毎日の食事が大切であることすら忘れがちとなってしまいました。このような中で、平成17年6月に食育基本法(平成17年法律第63号)が成立したところであり、食育基本法はこうした現状に警鐘を鳴らし、国に対しても「食」に関する施策の強化・充実を求めていると言えます。
こうしたことから、食生活指針を具体的な行動に結び付けるものとして、望ましい食事のとり方やおおよその量をわかりやすくイラストで示したものを策定するため、厚生労働省と農林水産省が共同して「フードガイド(仮称)検討会」(座長:吉池信男 独立行政法人国立健康・栄養研究所研究企画・評価主幹)を平成16年12月24日に設置し、「食事バランスガイド」が作られました。
「食事バランスガイド」のイラストについて(図1参照)
まずは、本体の上部から、十分な摂取が望まれる主食、副菜、主菜の順に並べ、牛乳・乳製品と果物については、同程度と考え、並列に表しています。形状は、日本で古くから親しまれている「コマ」をイメージして描き、食事のバランスが悪くなると倒れてしまうということを表しています。また、コマが回転することは、運動することを連想させるということで、回転(運動)することによって初めて安定するということも、併せて表すこととしました。なお、水分をコマの軸とし、食事の中で欠かせない存在であることを強調しています。菓子・嗜好飲料については、食生活の中で楽しみとしてとられている現状があり、食事全体の中での量的なバランスを考えて適度に摂取する必要があることから、イラスト上ではコマを回すためのヒモとして表現し、「楽しく適度に」というメッセージを付すこととしました。
図1
基本形のコマのイラストの中には、各料理区分における1日にとる量の目安の数値(「つ(SV);サービング(食事の提供量の単位)の略」)と対応させて、ほぼ同じ数の料理・食品を示していますが、これらの料理は必ずしも1日の食事のとり方の典型例を示したものではなく、どのような料理が各料理区分に含まれるかを表現することに主眼を置いたものです。また、日常的な表現(例:「ごはん(中盛り)だったら4杯程度」)を併記することにより、「つ(SV)」を用いて数える1日量をイメージし易くしています。自分が1日に実際にとっている料理の数を数える場合には、右側の『料理例』を参考に、1つ、2つと指折り数えて、いくつとっているかを確かめることにより、1日にとる目安の数値と比べることができるようになります。
「食事バランスガイド」の内容
「食事バランスガイド」の料理区分に含まれる料理、各料理区分の量的な基準及び数量の考え方については、以下のとおりです。
(1) 「主食」には、炭水化物等の供給源であるごはん、パン、麺・パスタなどを主材料とする料理が含まれます。これらの主材料に由来する炭水化物がおおよそ40gであることを、「主食」の量的な基準(=「1つ(SV)」)に設定しました。
市販のおにぎり1個分がこの「1つ分」に当たります。1日にとる量としては、5~7つ(SV)としましたが、これは、ごはん(中盛り)(=約1.5つ分)であれば4杯程度に相当します。
(2) 「副菜」には、ビタミン、ミネラル、食物繊維等の供給源である野菜、いも、豆類(大豆を除く。)、きのこ、海藻などを主材料とする料理が含まれます。これら主材料の重量がおおよそ70gであることを、「副菜」の量的な基準(=「1つ(SV)」)に設定しました。
野菜サラダや野菜のお浸しなどの小鉢がこの「1つ分」に当たります。1日にとる量としては、5~6つ(SV)としました。
(3) 「主菜」には、たんぱく質等の供給源である肉、魚、卵、大豆及び大豆製品などを主材料とする料理が含まれます。これら主材料に由来するたんぱく質がおおよそ6gであることを、「主菜」の量的な基準(=「1つ(SV)」)に設定しました。
鶏卵1個を用いた料理がこの「1つ分」に当たります。1日にとる量としては、3~5つ(SV)としました。なお、主菜として脂質を多く含む料理を選択する場合は、脂質やエネルギーの過剰摂取を避ける意味から、この目安量よりも少なめに選択する必要があります。
(4) 「牛乳・乳製品」には、カルシウム等の供給源である牛乳、ヨーグルト、チーズなどが含まれます。これらに由来するカルシウムがおおよそ100mgであることを、「牛乳・乳製品」の量的な基(=「1つ(SV)」)に設定しました。
牛乳コップ半分がこの「1つ分」に当たります。1日にとる量としては、2つ(SV)としました。
(5) 「果物」には、ビタミンC,カリウム等の供給源であるりんご、みかんなどの果実及びすいか、いちごなどの果実的な野菜が含まれます。これらの重量がおおよそ100gであることを、本区分における「1つ(SV)」に設定しました。
「1つ分」としては、みかん1個、りんご半分、かき1個、梨半分、ぶどう半房、桃1個が紹介されています。1日にとる量としては2つ(SV)としました。
なお、油脂・調味料については、主食・副菜・主菜の区分における各料理の中で使用されているものであり、別に区分を設けての整理はしないこととしました。
このように「食事バランスガイド」の表現の方法としては、一般の人々にとってのわかりやすさ、なじみやすさ、外食等での表示のしやすさ等を考慮して、基本的に料理で表すこととしました。
また、「食事バランスガイド」を活用して実際の食事を組み立てる際には、1食毎の判断・選択も必要ですが、多くの人にとっては1日を単位としてバランスを考えることが実際的であることから、1日にとるおおよその量を料理として表現することとしました。当然のことながら、エネルギーの摂取と消費のバランスや各種栄養素等の適正量を摂取するという観点からは、1日のみの食事で判断するのではなく、より長期的・習慣的な摂取を併せて考慮する必要があります。
コマで表現した基本形は、「成人」を対象としており、想定しているエネルギー量は、おおよそ2200±200kcalです。ほとんどの女性、身体活動レベルの低い男性がここに含まれます。したがって、ここに含まれない方々については、この基本形を基にしながら、実際に活用する際には各料理区分における「つ(SV)」の幅の調整を行う必要があります。
「食事バランスガイド」を使った朝昼夕の食事の組み立て方
具体的に「食事バランスガイド」を日々の食生活に活用する際には、1ヶ月程度の期間で、体重や腹囲(ウエストサイズ)の変化を自己チェックすることにより、自分の食事選択が適切であったかどうかを確認しながら、利用していただくと良いでしょう。自分の嗜好に合わせた食事を選択するためには、エネルギーのバランスを考え、それ相応の活動量(運動)が必要であるということも忘れないでください。
ここでは、コマのイラストで示したように、卵・魚・肉・大豆料理を色々と、少しずつ食べるような献立例を示します。この内容でおおよそ2200kcalになります。料理に含まれる脂質やエネルギー、食塩の量は、使用する主材料の種類や調理用の油脂・調味料によって異なってくるので注意しましょう。
<2200kcalの献立例>(図2参照)
朝食:主食2つ(SV)=ごはん軽く2杯、主菜1つ(SV)=目玉焼き、副菜1つ(SV)=ひじきの煮物、果物1つ(SV)=みかん1個、(味噌汁、緑茶)
昼食:主食2つ(SV)=ごはん軽く2杯、主菜1.5つ(SV)=ハンバーグ1/2個、牛乳・乳製品1つ(SV)=チーズ、副菜1つ(SV)=野菜スープ、副菜1つ(SV)=野菜サラダ、牛乳・乳製品1つ(SV)=ミルクコーヒー(牛乳1/2杯使用)
夕食:主食2つ(SV)=ごはん軽く2杯、主菜1つ(SV)=サンマ塩焼き1/2切、主菜1つ(SV)=冷奴、副菜2つ(SV)=筑前煮、副菜1つ(SV)=ほうれん草のお浸し、果物1つ(SV)=りんご1/2個、(緑茶)
図2
ターゲットを絞った展開
国民栄養調査結果によると、30~60歳代男性の約3割に肥満がみられ、10年前、20年前に比べると全ての年齢階級において肥満が増えているという深刻な状態にあります。肥満は糖尿病、高血圧症、高脂血症等、生活習慣病の主要な危険因子であり、その原因には、過食、摂食パターンの異常、運動不足などが考えられています。従って、「食事バランスガイド」を重点的に活用するべき対象として肥満者が挙げられます。また、食事のバランスを失いがちな単身者、子どもに適切な食習慣を教育していく子育てを担う世代にも特別の配慮を行う必要があると考えられます。
このようなことから、以下のとおり、ターゲットを絞って「食事バランスガイド」の活用を働きかけていくこととしました。
野菜の摂取について
野菜の摂取については、平成12年3月に定められた「健康日本21」では「栄養・食生活」の項目の中で「カリウム、食物繊維、抗酸化ビタミンなどの摂取は、循環器疾患やがんの予防に効果的に働くと考えられているが、特定の成分を強化した食品に依存するのではなく、基本的には通常の食事として摂取することが望ましい。これらの摂取量と食品摂取量との関連を分析すると、野菜の摂取が寄与する割合が高く、平成9年で成人の野菜の1日あたりの平均摂取量は292gであるが、前述の栄養素の適量摂取には、野菜350~400gの摂取が必要と推定されることから、平均350g以上を目標とする。」とされています。
一方で、平成15年国民健康・栄養調査結果によれば、野菜の摂取は、一人1日あたり277.5gとなっており、むしろ減少傾向にあります。また、男女ともに年齢が若いほど、外食の利用頻度が高い人ほど野菜の摂取量が少ないというデータ結果もあり、「子育てを担う世代」「単身者」「30~60歳代の男性の肥満者」といった「食事バランスガイド」のターゲットの方々は野菜の摂取が少ないようです。
日常の食生活の中では、どうしても主菜に偏り、副菜が不足しがちになるので、主菜の倍程度(毎食1~2つ(SV))を目安に、意識的に十分な摂取を心がける必要があります。
今後の普及活用
普及活用に向けては、テレビ放送、雑誌広告などマスメディアを通じて全国に情報発信を行う他、インターネット上のホームページ、政府広報、シンポジウム等の各種イベントの活用の他、パンフレット、ポスター、食事の自己チェックシート、携帯ストラップなど、子どもや一般の方々に親しみやすいグッズを作成し、人の多く集まる場所で配布するといった取組を実施しているところです。
一方、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、外食といった店舗は、幅広い年齢の人々が日常的に利用していることから、「食事バランスガイド」の活用について、様々な情報提供や普及活動が行われることが期待されます。農林水産省では、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、外食それぞれでの活用マニュアルを今年中に作成すべく検討中です。8月からは、厚生労働省及び農林水産省の職員食堂の一部メニューに「食事バランスガイド」の表示がスタートしています。(図3参照)また、スーパーマーケットなどでも売り場に「食事バランスガイド」を使った掲示等を始めています。(図4参照)こうした取組の反応もマニュアルに反映することとしています。
「食事バランスガイド」は、一定のルールの下でコマの中の料理を差し替えることが可能です。例えば季節に合わせて“衣替え”をしたり、地域でとれた野菜などを使った郷土料理を副菜の部分に置き換えることで、地域色豊かな「食事バランスガイド」ができます。
このように「食事バランスガイド」が様々な実践者のツールとなって使われることにより、「バランスのとれた食生活の実現」が図られ、国民の健康づくり、生活習慣病の予防、食料自給率の向上に寄与することが期待されています。皆さんも、まずは、自分の食事バランスをチェックしてみませんか。