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農業組合法人和郷園の適正農業規範(GAP)の 導入事例について

前 社団法人 日本施設園芸協会  技術部長 高澤 良夫


 農業組合法人和郷園(以下、「和郷園」という。)が、野菜などの作物生産に導入している適正農業規範(GAP)ついて取材したので、その概要を紹介する。

はじめに

 和郷園は、ヨーロッパの農作物の生産現場における衛生管理規範(ユーレップギャップ:EUREPGAP)の認証をわが国の野菜生産では初めて取得している。取得した農場は、千葉県小見川にあるサンチュ(掻きちしゃ)を栽培する606m2のプラスチックハウスと、これに付属する作業棟である。さらに、生鮮農産物流通業者の株式会社ケーアイ・フレシュアクセス(KIFA)と協同し、地域の事情にあった日本版適正農業規範(J-GAP)の作成に着手している。

 ユーレップギャップは、EUでの農産物の安全性と環境保全型農業を目指し、2000年に農産物流通業界が開発した認証制度である。法的拘束力はないが、食品の安全性に関する関心の高まりを受けて、EUでの導入が本格化している。農業生産者と小売企業で構成され、生産者が栽培記録を正確に記録し、それを第三者の認証機関が客観的に基準に従って認証するシステムを採用している。ユーレップギャップの対象が食品の原産国まで遡ることから、国際的に通用する共通基準としての役割を果たすことも特徴的である。EUに農産物を輸出するEU以外の業者にとっても無視できない存在となっており、日本からEUへの農産物の輸出には、この認証が必須となる。

 和郷園の木内代表理事は、「ユーレップギャップの認証は、実需者との連携を強化し、プロのビジネスとして責任を持つため」という。

1.和郷園の紹介

 和郷園は、平成3(1991)年に農業者の自立を理念に掲げ、有志数名により野菜の生産・販売を開始し、平成10(1998)年に農業組合法人となった。現在の会員数は、90戸で、約40品目の野菜、花、鶏卵の集出荷を行い、生協、スーパー、外食産業関連など約50社に販売している。平成16年度の販売額は、約13億円が見込まれている。

 野菜の生産だけでなく、加工分野にも事業を拡大し、野菜の包装、冷凍加工も行っている。現在、野菜のカットセンターも建設中であり、近く稼働の予定である。

 さらに、環境問題にも積極的に取り組み、リサイクル事業として産業廃棄物および野菜残渣の堆肥化を行っている。また、今春にはメタン発酵製造を含めたバイオマスプラントが稼働の予定で、さらなる未利用資源の有効活用に挑戦している。

写真-1 野菜残渣の堆肥化装置

2.野菜の衛生管理導入の背景

 木内代表理事によれば、野菜の生産過程の情報整理にいち早く取り組み、生産した野菜は生産者自らの責任をもつとの認識で、遡及可能な体制づくりを進めてきた。しかし、取引先の数も増え、要望も日に日に複雑化し、生産者からの情報を、正確かつ迅速に収集、整理、確認する方法が必要になり、生産者に近い立場で最適な方法を構築する必要性が生じた。特に、ユーレップギャップにみられるように原産地の食品安全性を世界共通基準で保障することが、消費者の信頼を勝ち取る手段となると認識した。

 和郷園の木内代表理事は、「やらされるのではなく、生産者自らが積極的にGAPに取り組むことによって取引先の信用を得て、最終的には消費者の信頼を取り戻すことになる」と話している。

3.適正農業規範導入による野菜衛生管理の取り組みの現状

 和郷園では、生産者からの情報提供は、農業日誌ソフトを使用したメール送信および紙ファイル、ファックスで行われ、生産管理課の職員がその情報整理を行っている。農薬、肥料などの生産資材が国および取引先独自の基準に適合しているかのチェックは、管理課職員が行い、営業担当者に連絡するシステムになっている。取引先が増えるにつれ、より多様な情報の提供が求められ、その対応のためのコストが問題になっている。

 また和郷園では、昨年から、適正農業規範(GAP)の取り組みを開始している。先ず、世界の先進例を参考にユーレップギャップ(EUREPGAP)の審査を、サンチュを栽培している施設において受け、認証された。認証取得に当たっては、ユーレップギャップの内容の検討と、農場の生産から出荷までのリスク分析を行い、解決策の検討を行い、監査制度を作った。また、ユーレップギャップ遵守基準に必要なドキュメントフォームを作成し、内部監査を実施して、不適合箇所の是正処置を講じた。

 適正農業規範に関しては、本質的にEUと日本のものとは異なるものではない。基本的には、農産物生産のリスクを意識し、科学的・合理的な対策を確立し、実施して記録することである。

 また、和郷園では農林水産省の「生鮮農産物安全性確保対策事業」の補助事業を活用して日本版農業適正規範「J-GAP」の策定に着手した。特に、世界共通基準を目指しており、木内代表理事は日本で「取得すれば、世界に向けて輸出できるものにしたい」という。

 先ず、J-GAPの取得に向けて、推進協議会を結成し、関係者および有識者をオブザーバーに加えて検討を行い、地域の実態、気象条件などに適応した実効性あるGAPを確立するとともに、GAP導入・運営のための管理ツールを構築し、導入、実証、その普及を図ることである。さらに、推進協議会は全国の先進的な生産者および生産者組織に呼びかけ、農業生産者による自主的グループ「GAI(GAP生産者)協会」を結成する。その目的は、青果物の安全確保と安定供給で、消費者の信頼を獲得する。生産―流通―販売の共同化で、商品ロスと流通コストを削減することである。

写真-2 UREPGAPの認証施設


写真-3 UREPGAPの認証施設内部

おわりに

 適正農業規範(GAP)は、生産段階における農産物の安全性確保の具体的な衛生管理手法であるが、農産物の安全性は生産から流通までを含むフードチェーン全体での安全管理が確立され、初めて安全性が確保できる。流通・消費段階では、適正製造規範(GMP)、市場・小売店などの流通や消費者等では適正衛生規範(GHP)等の規範が適用されなければならない。さらに、生産から消費までの経路および所在などを各規範に基づいて記録した情報をトレーサビリティというツールを用いて管理することによって消費者に安全な農産物を届けることが可能となる。ユーレップギャップでは、世界に先駆け生産から流通までを含めたフードチェーン全体での安全管理の実現を目指している。

 なお、自由貿易協定(FTA)の進展によりますます活発化する世界経済のグローバル化が進む中、わが国の農産物、特に青果物の輸出促進に木内氏などが取り組んでいる日本版農業適正規範(J-GAP)が起爆剤になることを望んでやまない。



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