社団法人 日本施設園芸協会 技術部長 高澤 良夫
地域農業の振興にトレーサビリティシステムの導入に取組んでいるJA静岡経済連を取材したので、その概要を紹介する。
はじめに
JA静岡経済連では、平成14年9月から取り組んでいる食の安全・安心対策により、生産者の生産履歴記帳が軌道に乗ったことを受け、生産履歴情報の生産基準とチェック作業の効率化を図っている。また、データ化された情報を開示し、消費者に情報発信を行い、登録された各種データを営農指導に生かし、生産者の生産安定および経営安定化を図り、地域農業の振興に繋げることを目指している。
1.トレーサビリティシステム導入の背景
トレーサビリティシステムの導入は、BSE問題、食品の偽装表示、無登録農薬問題などにより、食品の安全性や品質に対する関心が高まっていることから、安全・安心な農産物の生産のためにも極めて重要となっている。また、地産地消の拡大を図り、消費者と次世代との連携を強化することも重要である。更に、消費者に対する農産物の安全性の回復は勿論であるが、トレーサビリティシステムの導入によって蓄積されるデータを最大限活用し、生産や経営支援に役立て、地域農業の振興に生かすと言い切れる。
将来的には図―2に示されるように、指定分析機関による農産物の品質や農薬の残留分析を行い、第三者による審査・認証を見据えている。
2. 平成16年度の実施状況
本年度は、モデル的な実証として、エコ農産物に認証されている作物部会を主体に選定し、システムの課題抽出と改善を図った。本年度現地実証に取り組んだJAおよび部会は、表のとおりである。図ー1に年次別のトレーサビリティシステム構築に向けた概念図を示した。
3. 実証内容
1)情報のデータベース化
生産者が行う記帳作業をスムーズにシステムに対応させるために、記帳方式はOCR(光学式文字読取装置)帳簿を活用した手書き方式を採用した。なお、本作業は、表の全JAで実施した。
2)米の集出荷・流通・製造工程の情報一元化
JA掛川市においては、米の流通情報および経済連精米工場内の製造工程管理にかかわるシステムとの連携を図ることで、生産履歴情報とのリンクを行い、生産から販売までの情報の一元化が可能であることを実証した。
3)野菜集出荷システムの導入開発
JA三島函南、JAハイナンでは、生産者が出荷時に記入する出荷伝票をOCR帳票に切り替えることで、出荷時のデータ集計、検品作業の効率化を進め、既存の出荷システムとの連携を図った。
4)情報の開示
経済連農業情報のホームページ上で、2JA2部会の情報開示を行った。
JA掛川市こだわり米研究会では、生産情報と精米工場内製造工程の情報をリンクさせ情報公開を行った。
また、JA三島函南にんじん部会では、部会および栽培品に関する情報開示を行った。ここでのキャッチフレーズは、「無駄な「肥料」、「農薬」を省くことにより、葉も食べられるほど安全で安心な甘いヘルシーにんじんができました。」であり、肥料や農薬の適正使用をPRしている。
4.平成17年度の取り組み
平成16年度はモデル実証を行ったが、17年度は導入JAの拡大を推進するとともに、既導入JAについてはシステム利用部会数を増やし、システムの稼働率の向上を図る。
具体的な検討課題としては、トマトやいちごなどの施設果菜類の生産履歴記帳様式の検討、野菜、米の集出荷にかかわる既存システムとの連携強化、生産履歴および集出荷情報の営農指導向け活用の検討ならびに消費者へ広く発信できる情報伝達方法の検討を挙げている。最終的には、経済連取扱品目全般への普及拡大を図る計画である。
5. 結果及び課題
1) OCR帳票をスキャナーで読み込む時の文字認識率は98%を越え、高い認識率を示した。しかしながら、生産者個々の記入の仕方などにより認識率に差がでたことから、事前の記帳指導を徹底し、生産者全体の記帳に対する意識を高める必要があるという。
2)農薬などの使用状況の栽培基準との確認作業は、システム側で自動的に行われるため、より確実に、かつ、効率化が図られた。
3)今回導入したトレーサビリティシステムは、現地実証を進めるなかで問題などが判明した場合には、その都度修正を行い、より現場に即したシステムへの改良が図られた。今後も状況に応じてシステムの改良を行い、より使い易いシステムにする必要がある。
4)既存の各システムとの連携において、現状ではフロッピーデスクやMOなどの記憶媒体を介してデータのやりとりを行っているが、今後はシステムの相互連携を進め、作業の効率化を図る必要がある。
おわりに
JA静岡経済連では、図―1に示されるように、一つのサーバーを設置し、複数のJAが活用できるようにしている。また、ソフトには、トレースナビを導入しているが、開発企業が現場のニーズに即応してカスタマイズしていることから、非常に使い易くなっており評価が高い。
無登録農薬の使用など一部の心ない生産者によって、消費者が野菜などの農産物に対する不信感を抱き、多くの農業生産者が大変迷惑を被っている。これを払拭し、消費者の信頼を取り戻すためには、トレーサビリティなど安全性システムの導入は避けて通れないのが現状である。
今後、食の安全・安心が益々求められる中で、安全性システムを導入するならば、JA静岡経済連のように安全性以外の安定的な農業生産や経営に活用し、地域農業の振興に繋げるのも得策であると考える。