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野菜販売へのトレーサビリティの導入のための実証試験事例について

社団法人 日本施設園芸協会  技術部長 高 澤 良 夫


 JAそお鹿児島およびJAさつま鹿児島で行った野菜の販売にトレーサビリティを導入するための実証試験について、JA鹿児島県経済連において取材したので、その概要を紹介する。

はじめに

 青果物は、販売単位が小さいこと、多数の生産者が複数の圃場で別々の管理で生産していること、生産履歴データのタイムリーな入力とデータの一元管理体制の整備が遅れていること、生産者別・圃場別出荷物の自動仕分け・識別システムが構築途上で整備されていないこと、生産から流通の各段階にシステム端末機器の整備が必要なことなど多くの要因から、トレーサビリティシステムを導入するためには、いくつものハードルを越える必要がある。その中で、消費地側の産地側に対する取組要請は日に日に高まっている。

 このような状況を踏まえ、JA鹿児島県経済連では、鹿児島県版青果物トレーサビリティシステム構築を目的に、トレースナビシステムを導入して実証試験に取組み、現地での普及の可能性について検討を重ねている。

1.平成15年度の実証試験の概要

 1)実証試験の内容

 以下3点の実証を目的に、JAそお鹿児島のなすとピーマンの生産者各2戸の出荷物について実施した。

 (1)生産履歴をリアルタイムで記録し、営農指導員などの技術者がデータの管理ができること

 (2)ロット単位での生産管理情報を公開できること

 (3)生産履歴と流通履歴を小売店舗において情報開示できること

 具体的内容は、次のとおりである。

  (1)出荷段階

   実証生産者は、生産履歴を毎日パソコンに入力し、データベース化されたデータを営農指導員が随時内容をチェックする。また、収穫日を伝票に記入して選果場に持ち込む。

  (2)選果段階

   選果場では、生産者から持ち込まれた入荷時間と数量をチェックし、生産者ごとに選別をして収穫日、入荷日時、等階級別数量、出荷日時をICカードに出荷データとして記録をして出荷を行う。

  (3)流通段階

   運送会社は、青果物とデータの入力されたICカードを青果会社に配送し、青果会社ではICカードの出荷情報を読み取り、その後到着の確認と検品が行われ、そのICカードに到着時間や検品データなどの流通履歴情報を付加する。

   その後も仲卸段階、小売店段階でさらに流通履歴情報が付加され、店頭においてICカードに入っている全てのデータが公開される。

   なお、今回の試験では出荷先および販売先は、すでにシステム機器が設置されている、横浜丸中青果、東急ストア(店頭端末設置店舗5店舗)において、仲卸の「栽培ネット」を通じて平成15年11月11日から16年3月31日出荷分のものについて行った。

 2)成果と課題

   実証試験は、全体を通して大きなトラブルはなく順調に推移した。

 (1)成果

  (1)生産者による生産履歴データをリアルタイムでパソコンに入力することが容易にできた。

  (2)ロット単位での共販青果物を対象にしたシステムが構築できた。

  (3)店頭での公開情報内容を検討し、消費者へのアピール度の高い公開内容に改善できた。

  (4)市場から遠距離の鹿児島県でも生産・流通トータルのトレーサビリティができることが実証できた。

  (5)販売先の東急ストアでの品質評価は高く、次年度以降販売拡大の可能性が高まった。しかし、販売数量が少なく、単価については試作的な単価での販売となった。

 (2)システム普及のための課題

   全生産者にこのシステムを普及するためには、以下のような課題が残った。

  (1)全生産者を対象にする場合、生産履歴データの入力方法の確立が必要である、パソコン、携帯電話、OCR、代行入力のどの方法にするかの検討が必要である。

  (2)営農指導員による生産履歴データをリアルタイムに近いチェック体制を確立する必要がある。

  (3)公開情報を産地・生産者・商品・栽培基準・残留農薬分析結果などの照会にとどめ、生産者個々の生産履歴は、公開要請の段階で開示するなど公開内容を吟味する必要がある。

  (4)インフラ整備のための経費負担をどうするのか検討する必要がある。

  (5)店頭タッチパネルを必要としない低コストシステムの開発と普及体制を構築するとともに、二次元バーコードの活用によるインターネットホームページでの情報公開を行う必要がある。

  (6)消費者への認知向上対策により販売成果へ反映させ、生産者にシステム導入のメリットを示す必要がある。

2.16年度のトレーサビリティ拡大実証試験の概要

 15年度の試験結果を踏まえてJAさつま鹿児島では30戸のトマト生産者の出荷物について共同選果場から流通、小売店段階までのトレーサビリティについての実証試験を実施した。

 16年度は選果場でのシステムだけでなく地産地消の考え方も考慮し、流通、小売店までを通したシステムを構築した。JAとしては、今後他のJAへの展開や導入後の更なる展開が容易になるように配慮し、運用コストや労力がかからないシステムを構築した。

 1)選果場での実証試験

  (1)導入のポイント

   本システムでは、選果場にトマトを持参する生産者30人全員に参加してもらった。また、通常の栽培などにできるだけ支障が無く、労力やコストのかからない方法を考慮した。

  (2)実証場所とスケジュール

   実証試験は2月下旬から3月上旬にかけて機器の設置から実証までを実施した。実証は、まず運用試験を行い、試験終了後に運用上の問題点を修正し、情報公開まで含めた実証試験をJA鹿児島経済連およびJAさつま鹿児島で行った。

  (3)実証内容

   生産履歴の記録とデータベース化を以下の具体的方法で実証した。

  ア 生産履歴用の帳票を印刷し、生産者30人に生産履歴を記帳用紙に記録してもらう

  イ 記録用紙を選果場に適宜持参してもらい、選果場のOCRスキャナーに記帳用紙を読み込ませる。

  ウ 読み込ませた結果のエラーチェックを行し、チェック後に生産情報サーバへアップロードする。

  エ サーバ内でチェックを自動的に行い、結果をデータベース化する。

  (4)実証結果

   (3)の実証を行い、以下のシステムの作動を確認できた。

  ア 生産履歴の登録とデータベース化

  イ 計数機との接続、選果ロットの形成、データの入力

  ウ 園芸情報システムとの接続、出荷情報の閲覧、データの登録、出荷処理

 2)卸売市場での実証試験

  (1)導入のポイント

   卸売市場では入荷と分荷の管理を行う。今回はタッチパネルを使用して読込みの容易化を図った。

  (2)実証場所とスケジュール

   実証試験は2月下旬から3月上旬にかけて機器の設置から実証までを実施した。実証は、まず運用試験を行い、試験終了後に運用上の問題点を修正し、情報公開まで含めた実証試験を鹿児島中央青果で行った。

  (3)実証内容

   入荷、検品、分荷するまでの流れを以下の具体的方法で実証した。

  ア 選果場からのトマトの入荷に際して、商品の検品とICカードの情報をICカードリーダで読み込む。

  イ トマトの分荷作業を行い、ICカードリーダで分荷された荷ごとに取りつけたICカードに情報を書き込む。

図1 帳票のサンプル


図2 選果場のシステム構成

  (4)実証結果

  (1)(3)の実証を行い、以下のとおりシステムの作動を確認できた。

  ア 入荷、検品作業、分荷作業を確認できた。

  イ 卸売市場の要員の中で対応できたことを確認できた。

  (2)卸売市場からの評価

  ア トレーサビリティシステムの必要性は理解できるが、作業負荷が大きい。特に分荷作業が必要なため市場内の販売システムとの連携が必要である。

  イ 市場に直接青果物を持参する生産者の情報も取り込むシステムとしたい。

  以上、アについてはシステム開発上今後の課題となるが、イについては既に開発されている。

 3)小売店における実証

  (1)実証のポイント

   本システムは14年度で既に実施しているので、小売店において負荷のかからない方法と、消費者の評価をポイントとして対応した。

  (2)実証場所とスケジュール

   実証試験は2月下旬から3月上旬にかけて機器の設置から実証までを実施した。実証は、まず運用試験を行い、試験終了後に運用上の問題点を修正し、情報公開まで含めた実証試験を株式会社山形屋ストアショッピングプラザ皇徳寺店で行った。


 

ショッピングプラザ皇徳寺店

入荷処理用サーバPCパソコン


  (3)実証内容

   入荷検品から履歴情報を閲覧するまでの流れを以下の具体的方法で実証した。

  ア 店内の入荷処理システムで入荷検品を行う。

  イ 店頭に商品を陳列する。

  ウ 消費者は、店頭情報端末からタッチパネルで「今日お野菜のボタン」をタッチし生産者の情報、流通履歴情報を閲覧する。


 

店頭情報端末

店頭でのコーナー展示


  (4)実証結果

   (3)の実証を行い、入荷処理、検品、店頭端末での情報閲覧ができることを確認できた。

   また、以下のとおり消費者および小売店担当者の意見を得ることができた。

  (1)消費者

  ア 小売店を信頼しているので、店頭端末を常に見ることはない

  イ 産地の商品であることで安心した

  ウ 安全のマークがあればそれでよいと感じる

  (2)小売店担当者

  ア トレーサビリティシステムに対する理解はできるし、必要性を感じている。

  イ 作業負荷やコストがかかるが、入荷情報から看板などを作成し、店頭に表示することで端末が無くても消費者への情報公開が容易にできる。

  ウ 地産地消として地元の生産者が持ち込んだ商品に対応し、情報公開できる仕組みが必要である。などの意見があり、今後対応する予定である。

 4)考察

   選果から流通、小売までのシステムの開発を行い実証試験を行った。

   今回の目的は選果場での評価が主であり、如何に現状のシステムで運用できるかにあった。結果としては、以下のとおり満足のいく評価が得られたと考える。

   選果場でのリスク管理が求められる中で、生産から出荷までの管理が可能となり、今後、卸売市場および小売店、消費者からのクレームに対してロットおよび生産者の特定ができ、迅速に対応できる体制ができあがった。

   また、計数機、出荷管理システムとの接続により通常の作業を大幅に追加・変更することなく対応できたことから、本システムを基本として考え、選果場だけでなく米などの集出荷、精米システム、お茶などのFAシステムとの連携も同様の方式で対応できるのではないかと考える。

   さらに、コスト面では選果場の実証費用は、既存の設備を利用しているので540万円で収まった。また、ランニングコストはロット番号をケースに等階級の印と一緒に押すだけなので、費用は殆どかからない(通信費、システムの電気代、サーバの運用費等は含まない)。従って導入コストとしては、本システムを5年間使用すると仮定すると、1日当たり7,200円となり、1日の売上げが約120万円とすると1個100円のトマトに対して60銭程度であることから、コスト面でも問題ないことが確認できた。

   今後、総合的な観点からコスト面、導入メリットなどを考察する必要がある。

 5)今後の課題

   今後の課題としては以下の通りである。

  (1)選果機システムによりトレーサビリティの識別単位(ロット単位、個別単位)が形成されるため、選果機システムにおいて識別の容易性を組込むことがさらに有効な手段と考える。

  (2)今後は、既設の情報システムなどとの接続が必要となってくることから、接続するためのコストを抑えるため、接続の標準化の検討が必要である。特に選果機との接続は不可欠のため選果機メーカーなどと連携を図る必要がある。また、園芸システムなどとは接続のための手順を明確にしておくとコストがかからないシステムとなると考える。

  (3)卸売市場において販売システムとの連携ができないため、情報入力作業に負担が多く、販売システムとの連携を検討する必要がある。これは選果場と同じ仕組みであることから、コストを下げることが可能と考える。

  (4)本システムは、既設である生産履歴システムを利用した。他の産地に導入する場合には、それぞれの生産履歴システムとの連携が発生し、接続の標準化が必要と考える。

  (5)ロットコードの標準化

   本実証ではロット識別は品目(商品名)、日付、時間帯コードを利用した。しかし大きな集荷場や産地としての商品名が共有する場合は今回のコードでは対応できない。従って、コード内に集荷場の識別や商品名に付加情報を与えることが必要と考える。

  (6)ICカード情報の増大

   本実証では流通情報をICカードに記録した。しかしながら、一つの商品で多くの等階級、荷姿が発生するため、すべての情報をICカードに書き込むことは困難になると予想される(今回の実証では4KバイトのICカードを3枚以上使用した)。従ってICカードと他の媒体で連携する仕組みが必要であり、今回の実証では既に実績のあるインターネットメールと併用する仕組みを検討することで解決するものと考える。

おわりに

 JAそお鹿児島およびJAさつま鹿児島で実施されたトレーサビリティの実証試験では、消費者の野菜に対する安全・安心に応えることが明らかになったが、実施に要するコストをどう負担するかが最大の課題という。

 また、企業は自社が製造した製品の社会的責任(CSR)を負うと同様に、「農産物についても生産者自身が生産したものの責任は自分が負うという自覚を持ってもらいたい。」とJA鹿児島県経済連の担当者が言っている。

 なお、トレーサビリティシステムを開発する企業は、自社のシステムの導入に対しては生産、流通、販売の関係者と充分な連携を取り、ニーズに合うべくカスタマイズを徹底的に図り普及促進に尽力して欲しいものである。



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