前(財)食生活情報サービスセンター
専務理事 窪 田 富
1 野菜消費改善活動が必要となった背景
野菜は、ビタミン、ミネラル、食物繊維等の重要な供給源であるばかりでなく、近年ではがんを始めとする各種の生活習慣病の予防にも効果があるとされており、国民が健康的な生活をおくる上できわめて重要な食品である。
かつて日本人は野菜喰い国民であったが、いまや野菜の摂取はどの年代をとっても不足の状況にあり、とくに若年層における野菜離れが顕著となっている。もっとも摂取量の多い60歳代でも健康上必要とされている目標量(1日あたり350g以上)に達していない。(図1)
しかも、野菜の消費量は、近年減少傾向にあり、この15年間で約1割も減少していて、健康のため野菜消費拡大キャンペーンに力を入れてきたアメリカに一人あたり消費量で逆転されるまでに至っている。(図2)
図1 1人1日あたり年代別野菜摂取量
資料:厚生労働省「平成14年度国民栄養調査結果の概要」より
図2 日米の野菜消費量(1人1年当たり)の比較
資料:農林水産省「食料需給表」、FAO「Food balance Sheet」(供給純食料ベースの比較)
注:米国の値は供給粗食料に当該年の日本の歩留まりを乗じて算出
2 野菜消費改善事業の開始
こういう状況のなか、農林水産省は、13年度補正予算を皮切りに、野菜の消費改善事業に全面的に取り組むこととなり、推進体制作りに着手した。
食生活情報サービスセンターは、近年、野菜の消費奨励も含む「食生活指針」を国民の間に広く普及定着させることを主たる業務としているが、13年度に野菜消費改善のためのフォーラムを主催していた実績から、この補正予算による消費改善事業の実施主体として指定され、全国紙による一面広告、主要6都市での街頭ビジョン広告(新宿、渋谷等の若者の集まる盛り場での野菜摂取の大切さの訴求)、テレビ番組制作(フォーラム内容の要旨映像のNHKによる放映)、学童向けと指導者向けのビデオ(「野菜のチカラ」、「がんと野菜」)の制作配布を実施した。
農林水産省は、14年度には、予算規模を拡充(2.5倍の規模)すると同時に、さらに実施体制を強化するため、医学界、栄養学界、教育学界、生産者団体、流通業界等を糾合した組織作りを目指した。
たまたま、民間では、野菜消費拡大運動を、個別企業や団体としてではなく、全国的組織を作って推進しようとの動きがあり、諸般の経過を経て、2つの全国団体が14年7月に発足した。これが青果物健康推進委員会とファイブ・ア・デイ協会で、いずれも任意団体である。ともに、流通業界、生産者団体が主たる構成員となっている。
両団体はいずれも業界中心の組織であって、学者を中心メンバーとするにはなじまない面もあり、また、13年度来の野菜消費改善事業の経緯もあって、新たに、食生活情報サービスセンターを事務局として、野菜摂取の健康上の重要性を学術的裏付けをもって訴求していく組織を立ち上げることとなり、14年10月に国立がんセンター総長の垣添氏(今上天皇の手術執刀者)を会長として誕生したのが「野菜等健康食生活協議会」である。
協議会の構成員は、医学、栄養学、農学、教育界、青果物業界団体、野菜基金、中央果実基金等からなり、野菜・果実摂取の健康への寄与の研究情報の収集、摂取目安の開発、摂取増加の実践手法検討、効果的な普及啓発方法検討、啓発事業効果の評価分析等を行うことが合意された。これらのタスクを機動的に実施するため、野菜等健康機能小委員会(小委員長 池上大妻女子大学教授)、野菜等摂取目安開発小委員会(小委員長 吉池国立健康・栄養研究所研究企画主幹)、野菜等消費啓発効果検証小委員会(小委員長 村山新潟医療福祉大学助教授)が設置された。
3 14年度以降の野菜消費改善事業の内容
協議会の事業として、14年度においては、①野菜等についての内外の健康機能研究論文の調査とその要旨のウェブサイト原稿化、②野菜摂取目標量一日350グラムの実践を助けるための目安の開発(国民栄養調査結果の分析に基づき野菜料理1単位がおおむね70gであることに着目し、摂取の目安として「一日、野菜料理5皿分」を提言)、③野菜等の消費改善キャンペーンの事業効果測定のための初年度調査の実施、④ 「野菜・果物と健康」をテーマとしたフォーラムの開催(15年1月)、⑤上記フォーラムの結果の全国紙2紙を用いた一面広告(キャッチフレーズ「毎日、5皿の野菜料理と2個の果物を」)、⑥野菜等の健康機能を栄養士や学生等に判りやすく説明する専門ウェブサイト(www.v350f200.com)の立ち上げ、⑦
①②③の事業実施のための3小委員会の随時開催、⑧青果物健康推進委員会、ファイブ・ア・デイ協会のキャンペーン計画との情報交換・すり合わせ等を実施した。
青果物健康推進委員会とファイブ・ア・デイ協会は、それぞれ、大会の開催、小売り店頭での消費キャンペーンの実施、消費の必要性を消費者に訴える印刷物の制作配布等を実施した。
協議会は、15年度においては、①前回調査後の内外の健康機能研究論文の補完調査とその要旨のウェブサイト掲載およびウェブの使い勝手の改善、②野菜等の消費改善キャンペーンの事業効果測定のための2年度目調査の実施、③野菜フォーラム「毎日、野菜5皿分(350g)と果物200gを」の開催(15年12月)、④このフォーラム結果の全国紙2紙を用いた7段広告(キャッチフレーズ「毎日、野菜5皿分(350g)と、果物200gを。」)(15年12月)、⑤雑誌「栄養と料理」(16年4月号)に野菜摂取目安の普及広告の掲載、⑥
⑤の抜き刷りのイベント配布用チラシとしての制作、⑦青果物健康推進委員会、ファイブ・ア・デイ協会のキャンペーン計画との情報交換・すり合わせ等を実施した。
なお、協議会の会長は、15年度からは、垣添氏が公務の関係で協議会委員を退任されたため、後任に田中平三氏(独立行政法人 国立健康・栄養研究所理事長)に就任頂いている。
前記両民間団体も、15年度はさらに内容を強化して、イベントの開催、野菜・果物キャンペーンソングの制作等青果物の消費拡大キャンペーンを推進している。
以上のように、(財)食生活情報サービスセンターを事務局とする野菜等健康食生活協議会は、活動を開始してからまだ2年目であるが、両民間団体の活動とあいまって、野菜・果物の消費改善につきかなり広汎な活動をしてきたといえよう。しかし、アメリカのファイブアデイ運動が10年以上の活発な活動を経てようやく大きな効果を挙げ始めた事例でも判るように、国民の消費パターンを変えることは相当長期の持続的キャンペーンの継続と関係者すべての協力が必要であることを強調しておきたい。