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  野菜ってなーに?

            農畜産業振興機構 
                総括調整役 戸谷 亨


 読者の皆さんは、いちごは果実か野菜か、えだまめは豆か野菜かなどについて疑問に思われたことはありますか。昨年12月に農畜産業振興機構が開催した「消費者代表との意見交換会」の席で、消費者の方から(行政などでの)野菜と果物の区分は消費者の常識と違うのではないかとのご指摘がありました。(「消費者代表との意見交換会」の概要については、「機構から」を参照して下さい。)。
 一般消費者の皆さんにとっては、野菜は、日常的には、例えば、

 ① 木に成るものは果物、そうでないものは野菜
 ② 甘くて、生で食べるものは果物、火にかけたり、ドレッシングなどで食べるものは野菜
 ③ 食後のデザートとして食べるものは果物、副食として食べるものは野菜
 
  等のように認識されている場合が多いと思います。ちなみに、広辞苑では、野菜は「食用とする草本の総称。あおもの。」、果実は「草木の果実の食用となるもの」と定義されています。従って、キャベツやほうれんそう、きゅうり、トマト等は誰でも野菜と思われるでしょうが、いちご、メロン、すいかは果実と考える人が多いと思いますし、えだまめ、きのこ、じゃがいも等は野菜かどうか迷われる人も多いと思います。
 一方、野菜行政では、いちご、メロン、すいか、えだまめは野菜として扱っています。日常生活では、いちごはいちごであり、えだまめはえだまねで別に困ることはないと思いますが、野菜の生産、流通や食生活改善指導等に携わる方にとって、また、野菜に関する統計の作成や野菜に関する施策を推進する際には、「野菜」といった場合、具体的に何を指すかは重要です。
 野菜の定義や分類の考え方については、定義・分類の利用目的などによりいろいろあり、また、例えば、さつまいもを調理して副食に利用する場合は野菜として取り扱われますが、でんぷん原料等に利用する際は野菜とは言わない等利用形態によっても分類が変わることがあるので、単に植物の種類で決めることが困難で、生産、流通、消費等の場面に共通して統一的に定義されたものはありません。
 そこで、現在一般に行われている野菜の定義や分類について、調べてみました。筆者の勝手な解釈もあるかも知れませんので、誤り等があればご指摘いただければ幸いです。

1. 学問的な定義・分類

 「野菜」という言葉は、園芸学では、「副食物として利用する草本類の総称」として用いられています(野菜園芸ハンドブック)。西貞夫氏は1972年にそれまでの分類学等の研究を基礎に、「野菜的利用」の行われている草本植物を可能な限り取り上げて植物学的な分類を行っており、それらを基に野菜園芸大辞典では、75科、455種類を野菜としてあげています。この分類によれば、きゅうりなどと同じウリ科のメロン、すいか、ナス科のばれいしょは、野菜に分類されています。また、さといも(サトイモ科)、さつまいも(ヒルガオ科)、えだまめ等の豆類(マメ科)、各種キノコ類(マツタケ科)も野菜に分類されています。
 また、園芸的視点から種々の分類が行われていますが、この中では代表的な「利用部分を基礎とする分類」では、例えば次ぎのようなものが野菜として分類されています。(喜田茂一郎氏、1911年)(野菜園芸大辞典)。
 ① 根菜類:直根類(だいこん、にんじん等)、
         塊茎類(ながいも、さつまいも等)
 ② 茎菜類:球茎類(さといも等)、
         塊茎類(ばれいしょ等)
         根茎類(れんこん等)
         鱗茎類(ねぎ、たまねぎ等)
         嫩(どん)茎類(たけのこ、アスパラガス等)
 ③ 葉菜類:キャベツ類、ほうれんそう、しゅんぎく、セルリー、みつば等
 ④ 花菜類:はなやさい類
 ⑤ 果菜類:ウリ類(きゅうり、かぼちゃ、すいか等)、
         なす類(なす、トマト等)
         莢菜類(えんどう、そらまめ、えだまめ等)
 ⑥ 雑類:いちご、とうもろこし、マッシュルーム等

 2. 統計での定義・分類

 統計では、それぞれの統計を利用する分野の考え方に基づき、定義・分類が行われています。
 農林水産統計用語辞典では、「一般に、野菜とは、食用に供し得る草本性の植物で、加工の程度の低いまま副食物として利用されるもの」と定義されており、野菜の生産量等の統計である野菜生産出荷統計(農林水産省)では,次ぎのような分類により調査対象品目を整理しています。その際、すいか、メロン、いちごについては、「果実的野菜」の分類で野菜として扱っています。これは、すいか、メロン、いちごは、栽培方法が苗を植えて1年で収穫する点で一般的な野菜と同じなため、このように扱われていると考えられます。また、ばれいしょも野菜としています。ただし、さつまいもはでんぷん原料としても利用され、エネルギー源でもあることから米などと同じ普通作物に、きのこは特用林産物に分類されます。
 ① 根菜類(だいこん、にんじん、れんこん、ばれいしょ、さといも等)
 ② 葉茎菜類(はくさい、キャベツ、ほうれんそう、レタス、ブロッコリー、ねぎ、たまねぎ等)
 ③ 果菜類(きゅうり、なす、トマト、ピーマン、スイートコーン、さやえんどう、えだまめ等)
 ④ 果実的野菜(いちご、メロン、すいか)
 ⑤ 香辛野菜(しょうが)
 一方、青果物卸売市場調査報告の統計(農林水産省)では、野菜生産出荷統計とは異なり、卸売市場での取扱いの実態に応じて、さつまいも、ばれいしょ、たまねぎ等は「土物類」として野菜に分類され、いちご、メロン、すいかは、以前はその出荷先は主に果物屋である等昔からの商習慣により卸売市場では果実に分類されています。
 この他、農林水産省意外の政府の統計では、家計調査(総務省)で、しいたけは「生鮮野菜」に、いちご、メロン、すいかは「生鮮果実」に分類されています。
 なお、国際的に統一的な分類に基づき作成されている防疫統計(財務省)では、ばれいしょ等のいも類、きのこ類は野菜と同じ区分の第7類に、いちご、メロン、すいかは果実と同じ第8類に分類されています。

 3. 法律・制度上の定義・分類

 野菜生産出荷安定法に基づき、野菜の安定的な生産を確保するため、野菜の価格が著しく低下した場合に野菜の生産者に補給金を交付する制度である野菜価格安定対策事業では、対象となる野菜として、農林水産省により、全国的に栽培されている重要な野菜である「指定野菜」(14品目)及び地域の重要な野菜である「特定野菜」(31品目)が指定されています。
 ここでは、指定野菜にばいれいしょが、特定野菜にいちご、メロン、すいか、しいたけが含まれていますが、これは、それぞれ食生活上重要な作物であり、全国的又は地域的に重要なものとして安定性産を図る必要があるとともに、草本性であり、単年作のもので栽培の面からみて野菜として扱われることが適当なためです。また、しいたけについては、ほだ木による栽培では作柄変動が大きい特性があることに加え、卸売市場の流通、家庭での消費等において野菜と同様に扱われているためです。

 4. 「健康日本21」の野菜の定義

 我が国の野菜の消費量は近年減少を続け、成人1日あたりの摂取量は、国民栄養調査(厚生労働省)によれば、296g(平成13年)で、厚生労働省の「健康日本21」で目標とされ得ている350gを大きく下回っています。ところで、この野菜の摂取の目標の「野菜」には、いちご、メロン、すか、ばれいしょ、さつまいも、しいたけ等は含まれていません。
 350gの基礎になっている国民栄養調査における食品の分類は、に本食品標準成分表(文部科学省)の分類を基礎としており、食物の摂取状況を把握するに当たって、食品の調理や摂取の形態に着目して、「穀類」、「いも類」(ばれいしょ、さつまいも、さといもを含む。いか同じ。)、「豆類(大豆及びその他の豆の加工品)、「野菜類」(さやいんげん、さやえんどう、えだまめ等を含む。以下同じ。)、「果実類」、「きのこ類」、「魚介類」、「肉類」等に大分類して実施されています。国民栄養調査では、「野菜類」は「緑黄色野菜」、「その他の野菜」、「漬け物」、「野菜ジュース」に中分類されていますが、「いも類」、「果実類」、「きのこ類」は「野菜類」とは別の大分類となっています。その際、いちご、メロン、すかは「果実類」に分類され、「野菜類」には含まれていません。
 このような分類を前提として、「健康日本21」では、生活習慣病の予防等に効果的に働くと考えられる栄養素(カリウム、食物繊維、抗酸化ビタミン等)を通常の食事で摂取する場合、それらを多く含む食品である「野菜」について、国民栄養調査の大分類「野菜類」の摂取量データを基に、「成人1日あたり野菜350g以上」の目標を掲げていると考えられます。このため、「健康日本21」に掲げられた「成人1日あたり350g以上」の「野菜」の摂取目標は、「いも類」、「果実類」(いちご、メロン、すいかを含む。)、「きのこ類」は含まれていないことになります。

 以上を総合すると、野菜の分類・定義はそれぞれの分野の必要性に応じて行われており、共通的・統一的なものはありません。ただし、定義や分類に当たっての基本的な考え方として、生産の場を対象にした学問である園芸学での分類及び生産関係の定義・分類では、主として植物としての特性と栽培の観点から定義・分類が行われ、川下に近づくにつれて、食べ方や消費形態等日常の生活感覚を基に定義・分類が行われているように考えられます。
 従って、園芸学や生産関係では、一般的に一年生の草本で栽培方法が類似しているいちご、すいか、いも類、豆類は野菜に含まれていますが、市場関係では消費地向けの流通の実態に対応して、いちご、メロン、すいかは果物に分類され、国民の食品の摂取量についての統計である国民栄養調査では、食卓での消費形態等からいちご、メロン、すいかは野菜に分類されていないものと考えられます。
 なお、上述の各分野での野菜の定義や分類をもとに、主な野菜(指定野菜及び特定野菜)について、調査や統計等の別に、それぞれの定義・分類の違いを別表のとおり一覧表に整理しましたので参考にして下さい。

 



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