「桃薫(とうくん)」(野菜情報 2012年4月号)
調査情報部
桃薫は、農研機構野菜茶業研究所と北海道農業研究センターが育成し、平成23年10月に品種登録されたいちごです。
芳香性の高いいちご品種はすでに育成されていましたが、種子が果実表面よりも深く落ち込んでツヤが劣るなどの欠点があることや、収量性が低いことから一般の店頭で販売されることはほとんどなく、専ら家庭園芸用として栽培されていました。「この香り高い果実を多くの消費者へ届けたい」という思いが、桃薫の育成に取り組むきっかけとなり、果実の外観と収量性の改良に繋がったのです。
桃のような甘く芳醇な香りが隅々まで漂う(薫る)様子をイメージし、各地に広く普及していくことを願って命名されたという桃薫。いつも食べているいちごとは全く違った味わいで、一口食べると衝撃を受けます。
一番のインパクトは、何といってもその香りです。桃薫には、桃やココナツ、カラメルのような香り成分が多く含まれているため、今までのいちごとは違った風味が楽しめます。淡い色合いも目を引き、果実はやわらかく切り口は白色。まさに桃のような味わいです。
また、生育が旺盛で花数が多く、厳冬期でもあまり株が小さくなりません。収穫開始時期は遅めですが、春までの全期間の収量は多く、収量性に優れています。
桃薫は現在、長崎県や茨城県などで生産されています。今回は、生産者のひとりであるむつみ農園(茨城県つくば市)の酒井成人代表にお話を伺いました。
むつみ農園の2代目である成人さんは、運送業を経て平成20年に就農しました。就農して3年目にあたる平成22年、新しい品種の栽培を考えはじめていた頃、農研機構が桃薫の栽培農家を募集していることを知りました。担当者から桃薫の特徴などを聞いて興味を持ち、また、試食した際のインパクトの強さに惹かれ、栽培に取り組むことを決意。桃薫の栽培は、平成23年度で2年目となります。
むつみ農園では、とちおとめ、紅ほっぺ、桃薫を主体に10種類ほどのいちごを栽培しており、平成23年度は全体で1万5千本の苗を定植。そのうち桃薫は1千本でした。桃薫の栽培はまだ少ないですが、需要が多いため、来年度は苗数を増やす予定です。
栽培は5~8月に育苗し、8~9月下旬に定植。12月後半からポツポツと実がなり始め、本格的な収穫は1月以降となります。栽培方法は他のいちごと同様ですが、桃薫は葉が旺盛な点や実がやわらかい点から、他のいちごに比べて手間がかかるそうです。
収穫時はつるを長めに残してハサミで切りとり、出荷作業中は実に触れないよう、つるを持って作業します。一粒ずつ発泡ポリエチレンシートで包んでパック詰めするなど、配送の衝撃には十分配慮しています。
現在は注文販売がほとんどで、少量を地元の農産物直売所へ出荷しています。
成人さんは最後に、「一人でも多くの方に桃薫を味わっていただけるよう、今後ますます広まっていって欲しいです」と話してくれました。
実に触れないよう、丁寧に包みます
いちごハウス内(左側の花が旺盛な畝が桃薫)
桃やココナツの風味をもつ桃薫は、そのまま食べてももちろんおいしいですが、サラダに加えて食べると爽やかな味わいを楽しめますし、彩りもきれいな一皿になります。また、生ハムとの相性も抜群なので、「生ハムメロン」ならぬ「生ハム桃薫」もおすすめです。
上の写真の桃薫を甘い順に並びかえると、どういう順番になるでしょうか?
正解は、③→①→②です。②の桃薫はほのかに香り、酸味が強めですっきりした味わいです。①は香りも甘みも強く、ほどよいやわらかさです。③は完熟し、香りも甘みもより一層強まり、実もやわらかくクリーミーです。
~それぞれの好みに合わせてご賞味ください~
桃薫を2~4等分に切って、ベビーリーフの上に散らし、塩・黒胡椒・オリーブオイルをかければ出来上がり。相性の良い生ハムやチーズを加えてもおいしいです。
「桃薫deいちごサラダ」&「生春巻き」
お問い合わせ先:農研機構 野菜茶業研究所 企画管理部 情報広報課(TEL:050-3533-3863)
むつみ農園(TEL:029-857-2774)
写真提供:むつみ農園