「出雲おろち大根」(野菜情報 2011年12月号)
調査情報部
幾方向にも広がったひげ根が何とも勇ましい「出雲おろち大根」は、島根大学で品種改良された辛味大根です。
同大学生物資源科学部の小林伸雄教授は2003年11月の着任当初、この地域ならではの農産物を生み出せないかと考えていました。そんな折、昔から出雲地域の斐伊川流域では土手に自生するハマダイコンを手打ちそばの薬味として利用し、自ら栽培している愛好家もいるという情報を得て、このハマダイコンに目を付けたそうです。根部の形状や強い辛みの追及などを育種目標として2004年より品種改良を開始し、2008年には同大学の育成品種として種苗登録申請を行い、2011年7月に「スサノオ」の名称で農林水産省の登録品種となりました。ブランド名の「出雲おろち大根」は、太めのひげ根が広がる外観が出雲地域の神話「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」を連想させることや、「オロシ(チ)」て食べると強烈な刺激があることに由来しています。
その名の由来にもなったように、まず目を引くのはその形状と刺激的な辛みです。栽培上の特徴としては、葉が地面に貼りつくように広がって生育するため、株間を30~40センチ(青首大根は20センチほど)と広めにとる必要があります。また、ひげ根が張っているため、収穫時にはスコップなどを用いて掘り起こす必要があります。栽培は、一般地では9月上旬から中旬には種を行い、11月下旬から2月下旬まで長期間にわたって収穫可能です。
島根大学では試験栽培とともに試食会や公開講座などのイベントを開催したり、地域の料理店などの協力を得ながらメニューの考案を行うなど、「出雲おろち大根」の普及推進を行ってきました。地域の方々の要望を受け、大学の農場で生産した種子の販売を2008年より開始し、生産物を一般販売する場合の登録生産者用と個人栽培用の2種類に分けて販売しています。今のところ、登録生産者用の販売は島根県内の生産者に限定しており、現在の登録生産者数は16名、作付面積は延べ70アール以上で、地元の料理店をはじめ県外の料理店や高級スーパーへ出荷されています。
栽培方法や流通に関しての意見交換の場として、1ヵ月に1回の頻度で大学と生産者による「生産者情報交換会」を開催しています。以前、この交換会で夏の需要に対応できないかという課題が挙げられ、夏季栽培やすりおろしたものを冷凍保存し出荷することができないか、現在研究中です。また、イベントなどにも積極的に参加し、「出雲おろち大根」のPR活動にも取り組んでいます。
今後も大学や生産者、地元地域が共に手をとり「出雲おろち大根」のさらなる普及に努め、いずれは地域に根付く地方伝統野菜として地域の活性化につながっていくことが目標です。
葉を広げる「出雲おろち大根」
生産者情報交換会の様子
「出雲おろち大根」は、独特の風味と強い辛みが魅力です。これはイソチオシアネートという辛味成分によるもので、この成分は皮に多く含まれているため、よく洗って皮ごとおろすと辛みを存分に楽しめます。そばや肉、魚料理の薬味に最適なほか、ひげ根は天ぷらにするのがおすすめです。また、おろち大根をピーラーで薄くスライスし、牛肉と一緒にすき鍋にさっとくぐらせれば、シャキシャキとした食感が楽しめます。
「出雲おろち大根」のロゴマークには「出雲“味の縁結び”」の文字があります。「出雲おろち大根」によって結ばれた食材たちを味わうと、何かご利益がありそうですね。
「出雲おろち大根」のロゴマーク
「出雲おろち大根」のすき鍋
お問い合わせ先:島根大学生物資源科学部附属生物資源教育研究センター本庄総合農場(TEL:0852-34-0311)
写真提供:島根大学生物資源科学部